弊社出版物でお世話になっている著者の最新の刊行物をご紹介します。
★ジャン・ジュネさん(著書『公然たる敵』)
自伝的小説『Miracle de la rose』(1946年)の待望の新訳が刊行されました。裏表紙側の帯文にこうあります。「同性愛者で泥棒であった作家ジュネ。「サルトルのジュネ論(中略)によって、ジュネはあたかも〈実存主義的な聖人〉であるかのように聖化されてしまった」(解説)。だが、精密な読みに基づくこの新訳により、まったく新しいジュネ像が見えてくる!」と。底本はガリマールの1951年版。ということは、全集第2巻ということで、既訳である堀口大學訳『薔薇の奇蹟』(新潮文庫、1970年)と同じ底本です。巻末には宇野さんによる詳細な解説があり、日本におけるジュネ受容史についても懇切に教えて下さいます。
新潮文庫版は村上芳正さんによる美しい挿画がカバーを飾っていましたが(下段に掲出した書影をご参照ください)、残念ながら品切。新潮文庫ではこのほかに『泥棒日記』(朝吹三吉訳、1968年)、『花のノートルダム』(堀口大學訳、1969年)、『黒んぼたち・女中たち』(白井浩司/一羽昌子訳、1972年)がありますが、現在も在庫があるのは『泥棒日記』のみです。ちなみに先の引用文中でのサルトルのジュネ論というのは『聖ジュネ』のこと。新潮文庫や人文書院からかつて上下巻で訳書が出ていましたが、現在は品切。
薔薇の奇跡
ジュネ著 宇野邦一訳
光文社古典新訳文庫 2016年11月 本体1,280円 文庫判並製584頁 ISBN:978-4-334-75344-3
帯文より:文学史上もっともスキャンダラスな作家の自伝的作品。60年ぶりの新訳、新しいジュネ像の誕生!
以下では本書冒頭の数行について、宇野さんによる新訳と、堀口さんによる既訳を並べてみたいと思います。
宇野訳(7頁):
フランスにあるすべての刑務所の中で、フォンロヴロー中央刑務所ほど僕の心をかき乱すところはない。ここは僕の心に強い悲惨と荒廃の印象を残した場所なのだ。そして僕は、この刑務所にいた他の囚人たちの中にも、その名を耳にするだけで、僕と同じような感動と戦慄を味わう者がいたことを知っている。/この名前が僕たちに及ぼした影響力の正体を、いちいち解明しようとは思わない。
堀口訳(5頁):
フランス全国にいくつもある中央刑務所のうち、わけて哀れの深いのがフォントブローのそれです。ほかのどこより深いわびしさをわたしが感じたのが、この刑務所内でした。わたしはまた知っています、ほかの刑務所のこともよく知っている囚徒でさえが、たんにこの刑務所の名を聞くだけで、わたし同様のやるせない深い思いをしたはずですと。わたしたち囚徒にとって、この刑務所が持つ、特異性をなす要素の分析を試みる気持ちは、いまのわたしにはありません、〔以下略〕。
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注目新刊:ジュネ『薔薇の奇跡』新訳、光文社古典新訳文庫
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