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注目新刊:晢書房版『フィヒテ全集』完結、ほか

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フィヒテ全集 第14巻 一八〇五―〇七年の知識学
鈴木伸国/浜田郷史/伊勢俊介/長町裕司/高木駿/辻麻衣子/大橋容一郎訳
晢書房 2016年10月 本体8,500円 A5判上製570頁 ISBN4-915922-43-X

目次
一八〇五年の知識学――エルランゲン夏学期講義〔鈴木伸国訳〕
エルランゲン論理学講義(一八〇五年)〔浜田郷史/伊勢俊介訳〕
エルランゲン形而上学講義(一八〇五年)〔長町裕司訳〕
知識学の概念とその運命(一八〇六年)〔鈴木伸国/辻麻衣子訳〕
ケーニヒスベルク知識学(一八〇七年)〔高木駿訳〕

★発売済。本14巻の発売をもって、晢書房版『フィヒテ全集』全23巻、別巻1は完結したものと思われます。帯がなく、本巻には解説やあとがきも付されていませんので、奥付裏の全巻構成と、実際の書店店頭での現物を見る限り、本巻で完結したことは間違いなさそうです。カバーにはバーコードもなく、ISBNは10桁表記。表紙は黒のクロス装で背には橙色の地に金文字の箔が輝きます。その佇まいはどこまでもシンプルなクラシック・スタイルに貫かれ、新刊の中では異彩を放っています。晢書房さんはウェブサイトを開設されておらず、図書目録を出されたことがあったかどうかも、私自身思い出せません。本『フィヒテ全集』は1995年1月に第6巻「自然法論」と第19巻「ベルリン大学哲学講義1」の刊行でスタート。爾来20余年をかけてついに完結したことになります。その歩みは出版不況の20年間の最中にあっただけに、たいへんな挑戦であったことは確かです。編集委員を務められている5名のうち、 ラインハルト・ラウト(Reinhard Lauth, 1919-2007)さんと坂部恵(さかべ・めぐみ:1936-2009)さん、藤澤賢一郎(ふじさわ・けんいちろう:1948-1998)さんはすでに逝去されています。あとのお二方は、加藤尚武(かとう・ひさたけ:1937-)さん、隈元忠敬(くまもと・ただたか:1925-)さんです。そもそも『フィヒテ全集』全巻を陳列している書店さんの数はさほど多くはないものと思われますが、完結記念で何かしらの工夫をされている書店さんがおられましたらぜひお知らせください。宣伝させていただきます。【追記:地方・小出版流通センターさんがツイッターで11月1日に「【フィヒテ全集】が今回の〈第14巻 1805-07年の知識学〉で完結いたしました」と呟いておられることを確認しました。やはり完結で間違いないようです。】


身体諸部分の用途について1
ガレノス著 坂井建雄/池田黎太郎/澤井直訳
京都大学学術出版会 2016年11月 本体2,800円 四六変上製211頁 ISBN 978-4-8140-0033-3

★発売済。全4巻の第1回配本となる第1巻です。ローマ帝国期の医師ガレノス(後129-216)の主著『De usu partium corpolis humani』全17巻の訳書で、帯文に曰く「前身の解剖所見に基づき、あらゆる器官に無駄なものは何もないことを論じた医学書。本邦初訳」。凡例によれば、底本はヘルムライヒ版(ed. G. Helmreich, 2 vol., Lipsiae, 1907-09)で「底本は二分冊からなるが、本書邦訳は1-4の四分冊とし、第一~三巻を1、第四~七巻を2、第八~十一巻を3、第十二~十七巻を4とする」とのことです。今回発売となった第1巻では「理性的動物に特徴的な器官(上肢)と、直立二足歩行に適した器官(下肢)が取り扱われる」(帯文表4より)。巻末の「第一分冊解題」にはこんな言葉があります。「人体と疾患を分析する西洋医学の特徴は、ガレノスの解剖学と生理学説を乗り越える努力を通して、形作られていった。古代において完成度のきわめて高い解剖学と生理学説を作り上げたガレノスこそ、現代の医学をもたらした最大の功労者ではないだろうか」(201頁)。投げ込みの「月報124」には、土屋睦廣さんによる「ガレノスとアクスレピオス」や、連載「西洋古典名言集」第40回「ノモスとピュシス」(國方栄二=文)などが掲載されています。西洋古典叢書におけるガレノスの訳書は、種山恭子訳『自然の機能について』1998年、内山 勝利/木原志乃訳『ヒッポクラテスとプラトンの学説1』2005年、坂井建雄/池田黎太郎/澤井直訳『解剖学論集』2012年、に続く4点目。西洋古典叢書の次回配本はクインティリアヌス『弁論家の教育4』とのことです。全5分冊の第4回配本。


有閑階級の理論[新版]
ソースタイン・ヴェブレン著 村井章子訳
ちくま学芸文庫 2016年11月 本体1,200円 文庫判並製416頁 ISBN978-4-480-09750-7

★発売済。旧版『有閑階級の理論』(ソースティン・ヴェブレン著、高哲男訳、ちくま学芸文庫、1998年)は、2015年7月に増補新訂版が講談社学術文庫から刊行されています。今回の新訳の訳者でいらっしゃる村井章子さんは先月ハイエクの『隷従への道』の新訳を日経BPクラシックスの1冊として上梓されたばかりです。ヴェブレンのデビュー作にして代表作である『有閑階級の理論』(1899年)は、かつて小原敬士訳が岩波文庫より1961年に刊行されていましたが、現在は品切。高哲男訳の旧版と増補新訂版を併せて、文庫で読める同書の2番目の翻訳と考えると、3番目の訳が今回の新訳本ということになります。巻頭にはガルブレイスの序文「ソースタイン・ヴェブレンと『有閑階級の理論』」が1973年版より訳出されています(5-39頁)。ガルブレイスはこの序文で「『有閑階級の理論』を一度も読んだことのないという人は、読書家とは言えない。最低限の教育しか受けていない人でも、出典は知らないままに「衒示的消費」「衒示的浪費」「金銭的競争」といった言葉を耳にしたことが一度ならずあるだろう」(8頁)と書いています。あれから40年(綾小路きみまろ)、ヴェブレンを読んだことがなくても読書家ではないと経済学者から責められることはありませんけれども、格差社会を形成するメンタリティの本質的側面を今なおヴェブレンに学ぶことができるのは事実ではないかと思われます。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

『過酷なるニーチェ』中島義道著、河出文庫、2016年11月、本体720円、文庫判並製224頁、ISBN978-4-309-41490-4
『曲がりくねった一本道――戦後七十年を生きて』徳永徹著、作品社、2016年11月、本体1,600円、46判並製238頁、ISBN978-4-86182-603-0
『ニワトリ 人類を変えた大いなる鳥』アンドリュー・ロウラー著、熊井ひろ美訳、インターシフト発行、合同出版発売、2016年11月、本体2,400円、四六判上製368頁、ISBN978-4-7726-9553-4
『世界植物記 アジア・オセアニア編』木原浩著、平凡社、2016年11月、本体6,800円、A4変判上製288頁、ISBN978-4-582-54254-7

★中島義道『過酷なるニーチェ』は発売済。2013年に河出ブックスの一冊として刊行された『ニーチェ ニヒリズムを生きる』の改訂版で、目次等に変更はありませんが、巻末に香山リカさんによる解説が付されています。「ニーチェがもともと持っていた心理学的、生物学的な発狂の要素がその哲学を生んだのではなく、哲学の結果が発狂なのだ」(215頁)という刺激的なご指摘があります。中島さんは巻頭の「はじめに」でこう述べておられます。「不思議なことに、現代日本でニーチェはブームであり、まさにニーチェから「人生の教訓を学ぶ」ためのニーチェ入門書、解説書、研究書が氾濫している。彼らはニーチェが口を酸っぱくして罵倒していること、吐き気がするほど嫌悪し軽蔑していることを真っ向から受け止めようとしない。/そして、皮肉なことに、とくにわが国においてこれからもニーチェは、まさにこのようにしてのみ読まれ続けるであろう」(11頁)。「こうした実情において、一冊くらいは、「過酷なニーチェ」すなわち、誰の役にも立たず、ほとんどの人を絶望させ、苛立たせ、途方に暮れさせ、そればかりか、平等・基本的人権・平和主義・最大多数の最大幸福など、なかんずく弱者や苦しんでいる者への「同情」を峻拒する……というように、近・現代のあらゆる「価値あるもの」をなぎ倒し、近・現代人とまさに正反対の価値観を高らかに歌い上げるニーチェを語り出す善があってもいいのではないかと思う」(12頁)。

★徳永徹『曲がりくねった一本道』はまもなく発売(16日水曜日取次搬入予定)。帯文はこうです、「長崎の原爆体験から福島の原発事故まで。一人の基礎医学徒が体験した激動の同時代史」。著者の徳永徹(とくなが・とおる:1927-)さんは国立予防衛生研究所に長く奉職された医学者で、現在は福岡女学院名誉院長でいらっしゃいます。著書に『マクロファージ』(講談社、1986年)のほか、近年では『凛として花一輪――福岡女学院ものがたり』(梓書院、2012年)、『逆境の恩寵――祈りに生きた家族の物語』(新教出版社、2015年1月)、『少年たちの戦争』(岩波書店、2015年2月)など、味わい深い回想録を中心に執筆されておられます。実弟はアドルノ研究で高名な徳永恂(とくなが・まこと:1929-)さんです。徹さんは本書の序章でこうお書きになっておられます。「戦後七十年、日本は世界でも珍しい平和な国だった。戦争で死ぬ者は一人もいなかったし、また銃で他国の人を撃つ者もいなかった。そう言い切れる国がいったい今の世界にどれだけあるだろう。被爆国日本は、「戦後百年」「戦後二百年」と言い続けることができるように、と切に願った。/そして書き出したのが本書である。前著『少年たちの戦争』は、原爆と終戦という時点で稿を閉じているので、次は戦後七十年という時代の体験について書きたいと思った」(10~11頁)。最後に主要目次を列記しておきます。序章、第一章「戦後のはじまり(1945年8月~46年)」、第二章「冷戦の狭間で(1946年~1955年)、第三章「さまざまな国と時代の点描(1959年~1993年)、第四章「女子教育の現場で(1994年~2012年)」、第五章「いま、思うこと」、あとがき。

★ロウラー『ニワトリ 人類を変えた大いなる鳥』はまもなく発売(17日頃)。原書は『 Why Did the Chicken Cross the World?: The Epic Saga of the Bird that Powers Civilization』(Atria Books, 2014)です。帯文は以下の通り。「ニワトリ無くして、人類無し! 神の使い・健康と医療・癒し・娯楽・食料・都市生活・・・恐竜の小さな末裔たちが物語る、大いなる文明論」。書名のリンク先で、目次、はじめに、解説の立ち読みができます。著者のアンドリュー・ロウラー(Andrew Lawler, 1961-)はライター/通信員/作家で、『サイエンス』『ナショナル・ジオグラフィック』『ニューヨーク・タイムズ』などの雑誌や新聞で活躍しておられ、本書は彼の第一作になります。巻頭の「はじめに ニワトリを見れば、世界が見える」にはこうあります。「ニワトリは昔もいまも、いわば羽の生えたスイス・アーミー・ナイフで、与えられた時間と場所に応じて必要なものを提供してくれる万能動物なのだ。この可塑性のおかげでニワトリは最も有益な家畜となったわけだが、その点は私たち自身の歴史をたどる上でも役に立っている。ニワトリは鳥の「カメレオンマン」のようなもので、私たちの変わりゆく欲望や目標や意図――立派な品物、真実の語り手、奇跡を起こす万能薬、悪魔の道具、悪魔祓いの祈祷師、途方もない富を生む財源――を映し出す無気味な鏡であり、人類の探検、発展、娯楽、信仰を示す標識なのだ」(11頁)。

★木原浩『世界植物記 アジア・オセアニア編』はまもなく発売(18日頃)。昨春刊行された『世界植物記 アフリカ・南アメリカ編』の姉妹編です。帯文は以下の通り。「まったく、とんでもない植物たちだった! ここ20年あまり、世界中に散らばる、不思議、巨大、世界一な植物を探して辺境を歩き回った。実際目にすると、その巨大さや異形ぶり、生活形態は、想像をはるかに超えていた。この本はその全記録の一端である」。取材地を列記しておくと、西表島/日本、四姑娘/中国四川省、ブータン王国、ヒマラヤ/ネパール、キナバル山/マレーシア、スマトラ島/インドネシア、西オーストラリア、ミルフォード・トラック/ニュージーランド、イスラエル。いずれも素晴らしい場所ばかりですが、特にミルフォード・トラックにはただならぬ気配を感じます。

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