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注目新刊:ベルクソン、ユング、ホッブズなど

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『笑い』アンリ・ベルクソン著、合田正人・平賀裕貴訳、ちくま学芸文庫、2016年9月、本体950円、文庫判240頁、ISBN978-4-480-09747-7
『イメージが位置をとるとき――歴史の眼1』ジョルジュ・ディディ=ユベルマン著、宮下志朗・伊藤博明訳、ありな書房、2016年9月、本体6,000円、A5判上製304頁、ISBN978-4-7566-1647-0
『法の原理――自然法と政治的な法の原理』トマス・ホッブズ著、高野清弘訳、行路社、2016年8月、本体3,600円、A5判上製349頁、ISBN978-4-87534-384-4
『ユング 夢分析論』カール・グスタフ・ユング著、横山博監訳、大塚紳一郎訳、みすず書房、2016年8月、本体3,400円、四六判上製296頁、ISBN978-4-622-08517-1
『物質と意識――脳科学・人工知能と心の哲学(原書第3版)』ポール・チャーチランド著、信原幸弘・西堤優訳、森北出版、2016年8月、本体2,800円、四六判上製336頁、ISBN978-4-627-81753-1

★ベルクソン『笑い』は発売済。ちくま学芸文庫でのベルクソンの翻訳はこれで5点目。『笑い』は6月に光文社古典新訳文庫から増田靖彦さんによる新訳が出たばかりですし、さらに遡れば、1月に平凡社ライブラリーで原章二訳が出ています(『笑い/不気味なもの: 付:ジリボン「不気味な笑い」』)。ついこのあいだまでは文庫では岩波文庫の林達夫訳(1938年;改版1976年)しかなかったのですから、今年3点もの新訳が出ている状況というのは驚異的です。

★今月のちくま学芸文庫では、ジャック・アタリ『アタリ文明論講義――未来は予測できるか』(林昌宏訳、ちくま学芸文庫、2016年9月)や、『エジプト神話集成』(杉勇・屋形禎亮訳、ちくま学芸文庫、2016年9月)なども発売されています。アタリの本は文庫オリジナルで、Peut-on prévoir l'avenir ? (Fayard, 2015)の翻訳です。訳者の林さんは本書を「これまでの彼の仕事を集大成したもの」と評価されています。『エジプト神話集成』は「筑摩世界文学大系(1)古代オリエント衆」(1978年)からエジプトの章を文庫化したもの。


★なお、来月のちくま学芸文庫は、ダニエル・C・デネット『心はどこにあるのか』土屋俊訳、ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』大浦康介訳、ダンカン・ワッツ『スモールワールド・ネットワーク――世界をつなぐ「6次」の科学〔増補改訂版〕』辻竜平・友知政樹訳、竹内信夫『空海入門――弘仁のモダニスト』が10月6日発売予定とのことです。デネットは数多くの訳書がありますが、文庫化は初めてですね。

★ディディ=ユベルマン『イメージが位置をとるとき』は発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ブレヒトの『作業日誌』や『戦争案内』の分析を通じたイメージ/モンタージュ論です。著者の連作「歴史の眼〔L'Œil de l'histoire〕」の第1巻で、第3巻『アトラス、あるいは不安な悦ばしき知』は昨年11月に 伊藤博明さんの訳で同じくありな書房から刊行されています。「歴史の眼」は原書ではすべてミニュイ〔Minuit〕から今までに第6巻まで出版されています。今回の新刊の訳者あとがきによれば、訳書の続刊は第2巻『受苦の時間の再構築』となるようです。

2009: 1. Quand les images prennent position〔『イメージが位置をとるとき』2016年〕
2010: 2. Remontages du temps subi〔『受苦の時間の再構築』〕
2011: 3. Atlas ou le gai savoir inquiet〔『アトラス、あるいは不安な悦ばしき知』2015年〕
2012: 4. Peuples exposés, peuples figurants〔『さらされる民衆、端役としての民衆』〕
2015: 5. Passés cités par JLG〔『ジャン=リュック・ゴダールによって引用された過去』〕
2016: 6. Peuples en larmes, peuples en armes〔『涙にくれる民衆、武器をとる民衆』〕

★高野清弘訳『法の原理』は発売済。岩波文庫から4月に田中浩・重森臣広・新井明訳でホッブズの同書が刊行されていたため(『法の原理――人間の本性と政治体』)、同じ年に2つの訳書が出るのは古典としては異例です(とはいえ、先述した通り、ベルクソン『笑い』の新訳が今年は3種出もているわけですが、これは「現代の」古典なので、ホッブズと一緒にするわけにはいきません)。出版の経緯について高野訳の「訳者あとがき」を確認してみると、岩波文庫版との意外な関係が。岩波文庫版のあとがきには「作業としては田中が全訳し、新井・重森が検討するという形式で進めた」とあるのですが、行路社版では高野さんが、田中さんの依頼のもと、最初の下訳を高野さんと故・藤原保信さんとの共訳で行ったと証言されています。詳しい説明は行路社版をご覧下さい。9月8日現在、アマゾンでもホントでも行路社版が購入できないままになっているのは単純に書店サイドが仕入れていないだけなのだろうと思われますが、残念なことです。リアル書店の店頭では大型店を中心にもちろん販売されています。

★『ユング 夢分析論』は発売済。夢に関するユングの主要な論文6篇を1冊にまとめたもので、「夢分析の臨床使用の可能性」Die praktische Verwendbarkeit der Traumanalyse (1931)、「夢心理学概論」Allgemeine Gesichtspunkte zur Psychologie des Traumes (1916/28/48)、 「夢の本質について」Vom Wesen der Traume (1945/48)、「夢の分析」L'analyse des reves (1909)、「数の夢に関する考察」Ein Beitrag zur Kenntnis des Zahlentraumes (1910/11)、「象徴と夢解釈」Symbols and the interpretation of dreams (1961/77)を収録。本書と同時に、『心理療法論』林道義編訳、『個性化とマンダラ』林道義訳、『転移の心理学』林道義・磯上恵子訳、の3点の新装版も発売されています。

★チャーチランド『物質と意識』は発売済。原書は、Matter and Consciousness, Third edition (MIT Press, 2013)です。目次の確認や立ち読みは書名のリンク先をご利用ください。同書は1984年に初版が刊行され、1988年に改訂版が刊行されましたが、日本語に訳されるのは第3版が初めてです。先月は本書のほか、カプラン『人間さまお断り――人工知能時代の経済と労働の手引き』三省堂、櫻井豊『人工知能が金融を支配する日』東洋経済新報社、三宅陽一郎『人工知能のための哲学塾』BNN出版、と人工知能を書名に冠した新刊が目白押しでしたし、スタンバーグ『〈わたし〉は脳に操られているのか』インターシフト、のように脳科学や神経科学の先端を倫理学的観点から批判的に考察する本も出ています。ブックフェアを開催するには良いタイミングかもしれません。


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