◆2016年2月8日13時現在。
「Forbes Japan」2016年2月8日付記事「謎だらけのアマゾン、リアル店舗戦略 「返却窓口にする」説も」に曰く、「米アマゾンが全米で300〜400店のリアル書店をオープンする予定であると報じられた。〔・・・〕アマゾンは昨年11月、シアトルに同社初のリアル書店をオープン。世界最大のオンライン小売業者として、各地の書店を廃業に追い込んできた当事者であるアマゾンのこの動きは世間を困惑させた。〔・・・〕アマゾンのリアル書店では、各商品に添えられたプラカードに価格表示がなく、来店客が値段を知るにはアマゾン公式アプリがインストールされたスマホでカードをスキャンしなければならない。店は来店客のアマゾンアカウントの個人情報をもとに、その人に最適化されたサービスを提供し、購買意欲を促す。〔・・・〕将来的には、個人ごとに最適化された価格を提示することも考えられる。そして、このような販売モデルこそが、リアル書店の「商品」なのではないか?」と。
アマゾン・ジャパンがこのところ版元との直取引の拡大を目指しているのは、単に「取次倒産リスク」を回避するためというよりは、いずれ日本でもリアル書店を展開するために「再販制契約を結ばずに版元から直に仕入れて価格を自由に決めて売る」ことの前哨戦なのかもしれない、という推測も成り立つかもしれません。取次外しというより、再販外しです。そうすれば、アマゾンは逆ザヤにしてでも安く売ったり、逆にプレミア価格をつけたりすることもできるわけです。リアル書店でなかなかお目にかからない本は、アマゾン・マーケット・プレイスでの例のように、新刊でも定価の数倍の値段になる可能性があるという意味です。
それにしても価格表示のない本屋というのはどうなんでしょう。再販制のない国ではそれもアリでしょうが、再販制のある国では違和感が強すぎます。
記事名にある「「返却窓口にする」説も」については後段にこうあります。「ウォール・ストリート・ジャーナルの記事では、考えられる可能性のひとつとして、リアル店舗が返品窓口になることを挙げている。GGPのマスラニ〔ショッピングモール運営会社のGeneral Growth Propertiesのサンディープ・マスラニCEO〕によると、ネットショップで購入されるグッズ(衣料品や化粧品などの消耗品)の返品の約38%が実店舗に持ち込まれているという。しかし、既にアマゾンは返品にも対応する「アマゾン・ロッカー」のサービスを都市部で始めており、返品対策としてはこちらのほうが実店舗よりも効率が良さそうだ」。たしかに客の利便性としては返品窓口が実店舗にできるならばそこを利用するかもしれません。そして返品されたものをその店舗で安売りするということもできるわけですね。
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◆2月8日13時30現在。
さて太洋社の説明会が本日15:30から汐留にて。場所的には栗田と同じなので嫌な感じがしますが、今回は自主廃業なので、民事再生よりかは出版社としては理解しやすいし、協力も取り付けやすいはずだろうと思います。弊社では客注品も新刊も納品を継続しています。栗田の時とはえらい違いです。
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◆2月8日21時現在。
ベルサール汐留は栗田の時と同様、ほぼいっぱいでした。1600~1700社あるという取引版元のうち相当数が参加したものと思われます。ポイントは帳合書店さん(300法人800店舗)からの回収がちゃんとできるかどうか、書店さんの帳合変更が無事完了するかどうか、また太洋社の資産(不動産その他)がスムースに換金できるかどうか、といったところ。質疑は24名。ほとんどの質問は、太洋社がソフトランディングできるかどうかの見極めをさぐるものでした。要は、版元が太洋社や帳合書店を信用できるかどうか。自主廃業がうまくできないと版元は売掛が回収できなくなるわけなので、先行きにある程度不透明な部分があっても、出荷停止などで廃業までの事業が止まってしまわぬよう留意しなければならないでしょう。質疑の途中で退席する版元が多かったのは、「話は分かった(あとは太洋社に頑張ってもらうしかない)」という版元が大半だったことの証左であったろうと思われます。
説明会については「新文化」2月8日付記事「太洋社「自主廃業に向けた説明会」、書店と出版社から質問相次ぐ」に報道が出ています。ツイッターでも色々と反響が出ていますが、某人文系版元営業さんの呟きについては同感の方が多いのかもしれないと推察します。
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◆2月8日21時現在。
今日は大阪屋と新栗田から「会社統合に関するご案内」(全15枚)と「「会社統合に関するご案内」についてのお問合せ先」(1枚)、大竹社長のお名前での挨拶文「再生計画ご支援への御礼と新会社発足のご報告、並びに経営統合後のお取引に関するご案内につきまして」(3枚)「新栗田発足のご挨拶」(1枚)が届きました。統合後の新社名は正式名称が「株式会社大阪屋栗田」、サブネームが「OaK(オーク)出版流通」とのことです。Osakaya and Kuritaの頭文字でOaKなんでしょうか。文書には「500年掛けて巨木となり、さらに500年生き続ける樫の木のようにしっかりと大地に根を張った云々」と。うーん。頭文字だけだと「OK出版流通」と冗語のようになってしまうのでaが入ったのでしょうか。OとKを逆にしてもマズいわけですし。ネーミングというのは難しいです。
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◆2月9日午前11時現在。
「東スポ」2月9日付記事「俊輔「U-23はOA枠不要のギラギラ集団」」での中村俊輔さんの発言。「個人としては、もっとこうしたい、もっとうまくなりたい気持ちは(若手のころと)変わらない。どのスポーツもそうだけどメンタルが大事。そこの情熱がなくなると一気に邪魔者扱いされるから」。これはスポーツに限らず、ビジネスでも同じであるように感じます。単純な精神論ではなく、実際に組織の中で足手まといになりがちなのは、仕事への気持ちが薄れてしまっている場合。邪魔者扱いになっても当面は集団の中に留まるわけですが、勢いに欠ける集団が何かを成し遂げられるとは思えません。では弱肉強食と自然淘汰と競争原理に任せればいいのかというと、多様性の観点から言えば必ずしもそうではないのですね。
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◆2月9日13時現在。
最後までご覧ください。ただ呆然と見つめるほかありません。
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◆2月9日23時現在。
建設は死闘、破壊は一瞬というべきでしょうか。出版業界は物流の多様性をどう確保しうるのでしょうか。
太洋社が廃業するということは、版元にとっては仲間卸を頼める取次が消滅するということを意味しています。また、書店にとっては使い勝手の良い店売が神田村から消滅するということを意味します。まず前者の方から書くと、仲間卸というのは具体的に言えば、取次大手の取引口座を持っていない小零細版元が太洋社を通じて取次大手の帳合書店に商品を供給できるというシステムです。たいへん便利ですが、仲間卸で太洋社が得られる手数料はけっして大きいものではなく、割に合わない作業かもしれません。次に後者について書くと、書店(特に街ナカの本屋さん)が帳合取次の取引先ではない版元に本を発注(主に客注を)する際には「太洋社店売止め」と依頼して本を仕入れる、という方法があるのです。発注先の出版社が帳合取次との取引を有している場合でも、小零細書店には売行良好書を優先的にはなかなか融通してもらえませんから、そうした場合も太洋社神田店売で買うという手段を使うことになります。
つまり、太洋社は流通の隙間を埋めてきたという役割があって、それが取引上ではより不利な立場にある小さな版元や小さな書店の助けになってきたわけです。今後生じるであろうその隙間を誰が埋めるのでしょうか。神田村界隈で何社か候補が浮かびますが、この先どれほど新規取引版元が増えるのかどうかは未知数です。とある会社の場合、そこからダイレクトに日販やトーハンへ商品が回るのではなく、現状ではさらに間に一社が挟まる可能性があります。取次大手の取引口座を持っていない小零細版元が、取次大手の帳合書店に商品を届けるためにその会社を仲間卸として選んだ場合(つまりその会社との取引を開始した場合)、太洋社廃業後は、書店発注→版元受注→仲間卸一社目(当該会社へ納品)→仲間卸二社目→取次大手→書店、というルートを選ぶことになります。当然、書店さんに届くのに通常の倍以上の時間がかかります。また、別の会社では一社が余計に挟まることなく大手に仲間卸が可能なのですが、それだけに特化した事業体ではもともとなかった、という点に留意しなければなりません。これらはあくまでも現状の話で、太洋社廃業前後には様々な変化があるものと思われます。
仲間卸二社目もしくは取次大手と契約すれば解決するではないか、という見方もあると思いますが、栗田事案以後はっきりしたのは、版元にとって取次との取引契約が絶対的価値をもはや持たなくなったかもしれないということです。取次との取引契約が、有事の際に取次にとって有利に働く「片務的」な内容であることは白日のもとにさらされたものの、しかしながら、その後に取次側から「片務的契約を双務的なものに改善する」という発言があった、などとは聞いたことがありません。さらに言えば、取引契約において版元側には連帯保証人が要求されるため、一方的な力関係はいっそう強まります。こうした従来の状況が変わらない限り、新しい出版社にとっては、契約自体にリスクがあり、さらに取引先自体の経営も先行き不透明であるような相手に対し、無理をしてまで「口座を開いてもらいたい」とは思えなくなってきているのが現状ではないかと推測できます。
それならば取次をすっ飛ばして書店と直取引にすれば解決するのではないか、とも言うことができるでしょう。しかし、直取引の帳簿および在庫の管理に人員を割くことができない書店さんが業界総体としては多いはずですし、版元にとっても売掛回収や高い運送料はしんどいです。書店さんにしてみれば、よく売れる版元の本は直取引であっても仕入れたいでしょうけれども、地味な出版を地道に続けているような細々とした版元の本は発注頻度や発注数から言って取次経由で充分なのではないでしょうか。
そんなわけで太洋社を通じて取次大手の帳合書店へ本を出荷していた版元さんにとっては実に悩ましい問題が生じています。大手の帳合を持っていない書店さんにしても同じことです。太洋社の廃業はあるいは零細版元や零細書店の一時的な機能停止、もしくは最悪の場合は道連れにする可能性を秘めており、予断を許しません。言い換えると、太洋社の消滅は大きなものと小さなものを結ぶ中間層の脱落や特定ジャンルの版元や売場への打撃を意味しています。埋めがたい業界内格差が生じることによって結果的に小さなものたちや特定のものたちの切り捨てが生じるリスクが一気に高まってきたと言えるのかもしれません。
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備忘録(19)
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