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注目新刊:ライフサイエンス出版より新シリーズ「叢書クロニック」が創刊、ほか

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『イル・コミュニケーション――余命5年のラッパーが病気を哲学する』ダースレイダー(著)、叢書クロニック:ライフサイエンス出版、2023年11月、四六判並製256頁、ISBN978-4-89775-471-0
『山のメディスン――弱さをゆるし、生きる力をつむぐ』稲葉俊郎(著)、叢書クロニック:ライフサイエンス出版、2023年11月、本体2,000円、四六判並製298頁、ISBN978-4-89775-472-7

『痛風の文化史』ロイ・ポーター/G・S・ルソー(著)、石塚久郎(監訳)、青柳伸子(訳)、作品社、2023年12月、本体4,800円、四六判並製472頁、ISBN978-4-86793-008-3

『反資本主義――新自由主義の危機から〈真の自由〉へ』デヴィッド・ハーヴェイ(著)、大屋定晴(監訳)、中村好孝/新井田智幸/三崎和志(訳)、作品社、2023年11月、本体3,200円、四六判並製352頁、ISBN978-4-86182-839-3

『現代思想2024年1月臨時増刊号 総特集=カフカ――没後一〇〇年』青土社、2023年11月、本体2,800円、A5判並製448頁、ISBN978-4-7917-1457-5



★ダースレイダー『イル・コミュニケーション』と、稲葉俊郎『山のメディスン』は、ライフサイエンス出版さんの新しいシリーズ「叢書クロニック」の第1回配本。版元ウェブサイトに掲出された同シリーズの宣伝文は「様々な領域の著者の語りを通して病とは、健康とは何かを考えるシリーズ創刊」。巻末掲載の「創刊のことば」では「本シリーズでは医学はもちろんのこと人文、アート、医学など様々な領域の著者の「語り」を通して、慢性疾患を中心とした病いの意味と健康の多様性をとらえ直すことを目的に創刊しました。シリーズ名の「クロニック」は、英語で「慢性疾患」を指しますが、「病みつき」「長く続く」というポジティブな意味も持っています」とのこと。


★『イル・コミュニケーション』は帯文に曰く「余命5年のラッパーがHIPHOPと古今東西の思想をつなぎ、「病気とは、生きるとは何か?」を問う」。両目失明の危機にあったダースレイダーさんは、目の手術の直前に行った「座頭市ライブ」を回想するくだりでこう書いておられます。「HIPHOPには同じビートを感じることで、同じ世界に入っていけるという哲学がある。人種も年齢も性別も違っても、そして病人でも、同じビートを感じてひとつになれる。そういう思いを込めてラップをした」(114~115頁)。


★『山のメディスン』は帯文に曰く「学生時代から山岳医療に携わり、山に魅了され続ける著者が辿り着いた山の思索の到達点」。身体が喜ぶと登山を表現する稲葉俊郎さんは、こう説明されています。「山をはじめとする自然は、人間の身体全体が共鳴する場です。〔…〕わたしにとって、登山で身体がつくられる感覚とは、個人の現在の身体の状況に応じて、未知の感覚が新たに開かれるとともに、これまでの身体の回路が新しく結合し直し、組み変わるというようなイメージです」(230~231頁)。


★叢書クロニックは、医学書院さんのシリーズ「ケアをひらく」と同様に、医学書以外の売場でも展開される注目シリーズになる予感がします。続刊予定の著者名には、写真家のインベカヲリ★さん、歌人の穂村弘さん、大阪公立大学客員研究員の小松原織香さん、社会起業家の田中美咲さんが挙がっています。


★作品社さんの最新刊より2点。『痛風の文化史』は、『Gout: The Patrician Malady』(Yale University Press, 1998)の全訳。ただし原註と参考文献一覧については膨大な量のため紙版には収録されず、出版社ウェブサイトにPDF(全111頁!)が掲出されています。帯文に曰く「医学史と文学研究の第一人者が手を組み、この誉れ高くかつ滑稽な病の文化的・医学的・芸術的歴史を、古代ギリシアから近現代まで包括的に記した名著」。著者のロイ・ポーター(Roy Porter, 1946-2002)は英国の医学史家。近年再刊された『イングランド18世紀の社会』(目羅公和訳、法政大学出版局、1996年;新装版2016年)など、訳書が多数あります。共著者のG・S・ルソー(George Sebastian Rousseau, 1941-)は、米国出身で英国で活躍された文化史家。ユルスナールの伝記を上梓するなど、文学研究者としても知られています。本書が初めての訳書です。


★「本書の目標のひとつは、人々が、どのようにある病気になり、その病気でいることを「選択する」のか、どの病気を選択し、どうやってそれを売り込んだかを掘り下げることにあった。この調査において、我々は、医学文献、文学作品、日誌や日記といった言語による証言に加え、イメージ形成の有益な重要性の観点から視覚的証拠も探し求めた」(エピローグ、438頁)。「『隠喩としての病い』と『エイズとその隠喩』において、ソンタグは、疾病の神秘性を取り除くことの望ましさを情熱的かつ思いやりを持って主張した。疾病は、科学の範疇にあるべきであって、文化的・道徳的なしるし・烙印とすべきではないと。これに対し、本書は、歴史的証拠がこの姿勢――おそらく科学主義のプロパガンダを鵜呑みにするという過ち犯しているのだが、まぎれもなく高尚な姿勢――に大きく〈反する〉ことを示してきた」(同、438~439頁)。


★もう1点、『反資本主義』は『Anti-Capitalist Chronicles』(Pluto Press, 2020)の全訳。帯文に曰く「グローバル経済は、崩壊の危機を乗り越えられるのか? マルクス理論からの分析と大胆な代替案。著者自身による広範な著述活動全体に対する手頃な入門書、かつベストセラー『新自由主義』の「続編」」と。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。監訳者の大屋定晴さんによる日本語版解説「資本主義の克服に資する民衆教育をめざして」によれば本書は、もともと2018年に開始されコロナ流行下で継続され、現在も継続中のポッドキャスト「David Harvey’s anti-capitalist chronicles」の放送原稿をもとに執筆され、ジョーダン・T・キャンプとクリス・カルーソによって1冊にまとめられたもの。日本語版では付録として、ロシアによるウクライナ侵攻直後の2022年2月25日にハーヴェイがブログにアップした「ロシアのウクライナ侵攻をどう見るか――暫定的な声明」(Remarks on Recent Events in the Ukraine: A Provisional Statement)の翻訳を収録しています。


★『現代思想2024年1月臨時増刊号』は、総特集「カフカ――没後一〇〇年」。版元紹介文に曰く「没後100年を機に、いまだ汲み尽くされないカフカの文学的想像力と思想的意義を解き明かす」と。頭木弘樹さんと川島隆さんによる討議「不安と孤独のディアスポラ――〈幸福な人間〉が前提の世界で」、川島さんの編纂による資料「プラハでカフカの足跡を訪ねる」、森泉岳土さんによるコミカライズ「カフカの「掟の門前」」のほか、40本の論考とエッセイが収められた厚めの1冊となっています。

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