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注目既刊書、雑誌、文庫:ありな書房がプラーツ『碩学の旅』シリーズを開始、ほか

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★まず注目既刊書と注目雑誌を列記します。


『碩学の旅(I)パリの二つの相貌――建築と美術と文学と』マリオ・プラーツ(著)、伊藤博明/金山弘昌/新保淳乃(訳)、ありな書房、2023年5月、本体2,400円、A5判並製192頁、ISBN978-4-7566-2385-0
『アートの力――美的実在論』マルクス・ガブリエル(著)、大池惣太郎(訳)、柿並良佑(翻訳協力)、堀之内出版、2023年4月、本体2,200円、四六変型判並製248頁、ISBN978-4-909237-79-8

『広告 Vol.417 特集:文化』博報堂、2023年3月、本体909円、A6判並製1100頁、雑誌89619-06

『近代出版研究 第2号 特集:雑著・雑本・ミセレイニアス』近代出版研究所(発行)、皓星社(発売)、2023年4月、本体2,000円、A5判並製288頁、ISBN978-4-7744-0786-9

『近代出版研究 創刊号』近代出版研究所(発行)、皓星社(発売)、2022年4月、本体2,000円、A5判並製288頁、ISBN978-4-7744-0762-3



★「碩学の旅」は「官能の庭」に続く、ありな書房のプラーツ再編成シリーズ。以下の4巻が予告されています。続刊予定の第II巻から第IV巻は仮題です。


第I巻:パリの二つの相貌
第II巻:オリエントへの旅
第III巻:ギリシアへの序曲
第IV巻:古都ウィーンの黄昏


★『パリの二つの相貌』は「パリの光景」と「イタリアの印象」の二部構成で、前者には5篇、後者には7篇が収録されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭に掲げられた伊藤博明さんによるプロローグ「旅するマリオ・プラーツ」によれば、「本シリーズ「碩学の旅」の諸巻は、プラーツの残した数多くの紀行文的エッセイのなかから、地域別に、独自に編纂したものである」。


★『アートの力』は、ガブリエルが英語で書いた原稿をパスカル-マリ・デシャンが仏訳した『Le pouvoir de l'art』(Saint-Simon, 2018)を底本としつつ、著者ガブリエル自身が英語原稿に加筆した新版『The Power of Art』(Polity, 2020)を適宜参照して加筆部分を反映させたもの。補論として2009年に著者が書いた英語論文「懐疑のアート、アートの懐疑」が併録されています。


★『広告 Vol.417 特集:文化』は、小野直紀編集長体制での最終号。赤い表紙は1冊ごとに異なるグラデーションを持っているとのことで、興味深い試みです。人文系のコンテンツでは、吉見俊哉×小野直紀「文化とculture」、千葉雅也×レジー「現代における「教養」の危機と行方」、東浩紀インタビュー「開かれた時代の「閉じた文化の意義」」などが収められています。同誌は品切になると厄介な古書価になるので、どうかお早めにお買い求めください。


★『近代出版研究』は第2号に横山茂雄さんのロングインタビューが掲載されており、ようやく創刊号と一緒に購入することができました。版元紹介文に曰く「ベストセラー『調べる技術』の小林昌樹が編集長を務める日本近代書誌学、近代出版史成立を志す年刊研究誌」と。第2号の編集後記によれば、創刊号に原稿が多数寄せられたことに驚き、さらには売れたことにも驚いた、とのことです。すごいことだと思います。


★続いて文庫の新刊と既刊より注文書目を列記します。岩波文庫や講談社学術文庫、等々の注目既刊書については後日まとめます。


『戦前のこわい話〈増補版〉――怪奇実話集』志村有弘(編)、河出文庫、2023年6月、本体720円、文庫判224頁、ISBN978-4-309-41971-8
『日本怪談実話〈全〉』田中貢太郎(著)、河出文庫、2023年6月、本体900円、文庫判448頁、ISBN978-4-309-41969-5

『マッカラーズ短篇集』カーソン・マッカラーズ(著)、ハーン小路恭子(編訳)、西田実(訳)、ちくま文庫、2023年5月、本体1,000円、文庫判272頁、ISBN978-4-480-43871-3

『暗闇のなかの希望――語られない歴史、手つかずの可能性 増補改訂版』レベッカ・ソルニット(著)、井上利男/東辻賢治郎(訳)、ちくま文庫、2023年4月、本体1,000円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-43827-0

『ヴェーロチカ/六号室――チェーホフ傑作選』チェーホフ(著)、浦雅春(訳)、光文社古典新訳文庫、2023年5月、本体1,220円、文庫判424頁、ISBN978-4-334-75479-2

『国富論――国の豊かさの本質と原因についての研究(上)』アダム・スミス(著)、山岡洋一(訳)、日経ビジネス人文庫、2023年4月、本体1,400円、A6判552頁、ISBN978-4-296-11754-3

『国富論――国の豊かさの本質と原因についての研究(中)』アダム・スミス(著)、山岡洋一(訳)、日経ビジネス人文庫、2023年4月、本体1,300円、A6判472頁、ISBN978-4-296-11755-0

『国富論――国の豊かさの本質と原因についての研究(下)』アダム・スミス(著)、山岡洋一(訳)、日経ビジネス人文庫、2023年4月、本体1,300円、A6判456頁、

ISBN978-4-296-11756-7
『円──劉慈欣短篇集』劉慈欣(著)、大森望/泊功/齊藤正高(訳)、ハヤカワSF文庫、2023年3月、本体1,100円、文庫判560頁、ISBN978-4-15-012401-4



★特記したいのは河出文庫。『戦前のこわい話〈増補版〉――怪奇実話集』は、同文庫で2009年に刊行され、品切となっていた『戦前のこわい話――近代怪奇実話集』(7篇を収録)に、山之口貘「無銭宿」(1950年)を追加し再刊したもの。『日本怪談実話〈全〉』(全234話を収録)は2017年に同社より刊行された単行本の文庫化。巻末には作家の川奈まり子さんによる解説「貢太郎怪談実話〈推〉」が加えられています。夏本番に先駆けて怖い話を新刊でまとめていくという意図でしょうか。怪異譚とは違いますが、チェーホフ傑作選やマッカラーズ短篇集も、戦慄を覚えさせる作品を収録しています。


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【雑記15】


取次の本業赤字はすでに危険水域に達しているかもしれない。業界三者(出版社、取次、書店)のうち、取次は売上高がもっとも大きいが、純利益はもっとも少なくなりつつある。簡単に言うと、働いても働いても利益が出ない状況である。こうなると俄然心配になるのは、帳合書店や傘下の書店チェーンである。すでに出版社への通知もしくは新聞報道が出ているように、今月末に名古屋の名店「正文館書店本店」が閉店し、来月末には「ちくさ正文館書店本店」も閉店となる。いずれもトーハン帳合である。同じくトーハン帳合では、「ジュンク堂書店大分店」が来月末に閉店する。閉店返品の波が出版社を襲い続けることになる。


冷静に見て、今後もトーハン帳合の大型書店や老舗書店の閉店は続くだろう。一部の全国チェーンのように日販からトーハンに帳合変更するまではいいが、トーハンとてすべての帳合書店を抱え続けるのは困難だろう。有名書店の場合、ブランドそのものは存続させることがあるとしても、たとえ長年営業してきた支店といえども不採算が続くなら支援は難しくなると思われる。書籍売場を縮小し、それ以外の商材を扱うスペースを増やすか、他業種を併設させる。それでも集客できない時はチェーン本部としても支店撤退を決断するほかないし、正文館やちくさ正文館のように本店を失うこともある。多店舗展開している地域では常識的に考えて、支店を統廃合するだろう。取次自体も、よりコンパクトな規模に縮小することを余儀なくされる。出版社も減るだろう。


出版社がどれくらい減るのかは見通しづらい部分もあるが、取次や書店が減るならば、その販路に依存している出版社は当然、規模縮小を前提として社内を見直すことになる。自力で本を売る努力をするにしても、個々の出版社は書店のような多品目が集まる場所を提供できているわけではない。書店業も展開する小出版社は存在するが、その苦労を耳にすることはあっても、好調とまでは聞かない。


(マスコミは話題性を求めて挑戦者の必死の試みを持ち上げるが、彼らはそもそも創業時や開業時には取材をしても、何年も伴走するような観察は行わない。他方で、老舗の閉店や廃業の際には思い出したように取り上げたりする。その都度、その場限りで継続性のない報道に終始するのが大方のマスメディアの現実のようである。)


2023年度は取次にとって、とはつまり、出版社にとっても書店にとっても勝負の年である。なにせ、働き方改革関連法の施行によるいわゆる「2024年問題」がすぐそこに控えている。すでに何年も前から取次や運送会社は物流危機をめぐって協議を重ね、業界内外に発信もしてきた。この危機を逃れることのできるプレイヤーはいない。物流が破綻する可能性がある地域は実在する。このままでいくと、なんとか破綻させないにしても、少なくとも物流の速度が大幅に減速し、規模も小さくなるリスクがある。可能な範囲での全国均一を前提とした諸々のサービスはおそらく終わってしまうのではないだろうか。地域格差が如実になるかもしれない。


業界三者はいま、どこをどう直すべきか、共有すべき具体的な絵が見えていない気がする。実際のところ、糸口はどこでも良い。どこから始めても良い。具体的な日常業務を、ひとつひとつ確認してみることがなぜ困難なのだろうか。立ち止まることが許されないほどに、私たちは流されているのではないだろうか。私たちは誰しもがノイラートの船である。寄港することもままならず、航海を続けながら船の修理をしなければならない。修理をしなければ、沈むほかはない。だが、寄港できないというのは果たして本当だろうか。洋上にはどこにも係留する場所がないのだろうか。立ち止まることは死を意味するのだろうか。


そうした思い込みから解き放たれる必要がある。ゼロから考え直す想像力と勇気が、私たちには欠けている。現実の諸条件を指折り数えるうちに、すべての可能な選択肢を私たちは見失ってしまう。今あって然るべきなのはおそらく、想像力の翼をへし折ることのない思考実験である。すべての前提をとっぱらい、ゼロから考え直すこと。たいていの場合、ゼロから考え直すことの強度が足りないと、現実をなぞるだけの現状追認に陥る。ゼロから考え直すことは、原点を作り直すことだ。できるかできないかが問題なのではない。失敗するか成功するか、すらも問題ではない。まずは想像力の翼を取り戻さねばならない。さて、そこで自らに問うてみよう。出版人にとって具体的な「原点」とは何か。


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