『黒人音楽史――奇想の宇宙』後藤護著、中央公論新社、2022年10月、本体2,500円、四六判並製368頁、ISBN978-4-12-005585-0
『人種契約』チャールズ・W・ミルズ著、杉村昌昭/松田正貴訳、法政大学出版局、2022年10月、本体2,700円、四六判上製256頁、ISBN978-4-588-01150-4
『映画をめぐるディアローグ――ゴダール/オフュルス全対話』ジャン=リュック・ゴダール/マルセル・オフュルス著、福島勲訳、読書人、2022年9月、本体2,200円、四六判並製168頁、ISBN978-4-924671-54-6
『人間の精神医学のための闘い――発達障害の専門家は語る』ピエール・ドゥリオン著、池田真典/永野仁美/野崎夏生/三脇康生訳、晃洋書房、2022年9月、本体3,500円、A5判並製258頁、ISBN978-4-7710-3665-9
『岬 附・東京災難画信』竹久夢二著、作品社、本体2,200円、A5判上製216頁、ISBN978-4-86182-933-8
『文藝 2022年冬季号』河出書房新社、2022年10月、本体1,400円、A5判並製568頁、雑誌07821-11
『農業と経済 2022年夏号』英明企画編集、2022年8月、本体1,700円、A5判並製232頁、ISBN978-4-909151-54-4
★『黒人音楽史』はまもなく発売。暗黒批評家の後藤護(ごとう・まもる, 1988-)さんの単独著第二弾です。まえがきに曰く「本書は太陽の光も届かない月の裏側に思いを馳せるものである」。「奇想、隠喩、超絶技巧を音楽にもちこんだ結果、万人に理解されることなく終わった「もうひとつの黒人音楽史」が存在する。往々にしてリズムやグルーブにフォーカスされ、非理性的でソウルフルなものとして黒人音楽は受容されてきたが、本書では知性と言語が過剰にあふれた、怪物的で驚異的な黒人音楽を浮かび上がらせる。驚異と奇想――。これが本書最大のキーワードであり、「アフロ・マニエリスム」という概念の中核となる要素である」(4頁)。目次は以下の通りです。
まえがき――ワンダーランドへの入り口
第1章 黒人霊歌という暗号
第2章 「鳥獣戯画」ブルース
第3章 ジャズとアウトサイダー ――アルバート・アイラーの霊性
第4章 詩人ジャズマン――土星人サン・ラーの「無」
第5章 Pファンクの宇宙――道化としてのジョージ・クリントン
第6章 ホラーコアの解剖学――フランケンシュタインの黒い怪物たち
第7章 テクノロジーとしてのヒップホップ
注記一覧
あとがき
参考文献一覧
人名索引
★あとがきによれば「書き下ろしデビュー作『ゴシック・カルチャー入門』(Pヴァイン、2019年)が5カ月という半ば突貫工事で、初期衝動に貫かれて書かれたのに対し、『黒人音楽史』は2年という長い歳月をかけ、比較的穏やかな心持ちで書かれた」とのことです。「個人的には「音楽書」というのはあくまでも体裁で、実質上そこを起点に、いかにより広大な黒人精神史を記述するかを志向した一冊である。いわば思想書の一種として書かれたものであり、近代合理主義を分析する知よりも、魔術的な総合する知を黒人音楽に見出したとも言える(アナロジーが実は裏テーマ)」(341頁)。
★『人種契約』は発売済。米国の哲学者チャールズ・W・ミルズ(Charles Wade Mills, 1951-2021)の代表作『The Racial Contract』(Cornell University Press, 1997)を、2022年の刊行25周年記念版から訳出したもの。帯文に曰く「人種契約とは人間を白人とそれ以外に分類する合意あるいはメタ合意である」。「現代リベラリズムの基本構造に潜むレイシズムを剔抉」と。ミルズの訳書は本書が初めてのものです。
★『映画をめぐるディアローグ』は発売済。先月逝去したフランスの映画監督ジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard, 1930-2022)と、独仏で活躍するドキュメンタリー映画作家のマルセル・オフュルス(Marcel Ophüls, 1927-)の対談集『Dialogues sur le Cinéma』(Le Bord de L'eau, 2011)の訳書。ヴァンサン・ロヴィによる「序文」、アンドレ・ガズュによる「わが友マルセル」、ダニエル・コーン=ベンディットによる「わが友ゴダール」が併載されています。訳者あとがきによれば「原書にはない写真資料を数多く加えている」とのことです。
★『人間の精神医学のための闘い』は発売済。フランスの精神科医ピエール・ドゥリオン(Pierre Delion, 1950-)への聞き書きをまとめた『Mon combat pour une psychiatrie humaine』(Albin Michel, 2016)の全訳。巻頭にドゥリオンによる「日本語版への序文」、巻末に2017年11月に行われたインタヴュー「人間の精神医学とは何か――パッキング問題を超えて」を併録。本書はドゥリオンの初めての訳書となります。
★『岬 附・東京災難画信』は発売済。帯文に曰く「天才と呼ばれた美術学校生と、そのモデルを務めた少女の悲恋。大正ロマンの旗手による長編小説を、表題作の連載中断期に綴った関東大震災の貴重な記録とあわせ、初単行本化。挿絵97枚収録」。「大正文化の模範都市と見えた銀座街が、今日は一望数里の焦土と化した。/自分の頭が首の上に着いていることさえ、まだはっきりとは感じられない」(「東京災難画信」160頁より)。
★『文藝 2022年冬季号』は発売済。特集「魔女・陰謀・エンパワメント」では、木澤佐登志さんの論考「魔女、ダンス、抵抗――現代魔女とクラブカルチャーの交差点」や、円香さんと谷崎榴美さんによるキーワード集「現代魔女の基礎知識2022」などが掲載。創作では岸政彦さんの新連載小説「クアトロ」がスタート。山本貴光さんの連載「文芸的事象クロニクル」は2022年6月~8月を扱っています。
★『農業と経済 2022年夏号』は発売済。「本号の特集では、人口が減少し高齢化が深刻になっている農山村に移住者が入ることで起こりうるイノベーションの可能性について検討しています。〔…〕移住者の行動によって実際に農山村社会が変わりつつある萌芽的事例も紹介しています」(編集後記より)。藤原辰史さんの注目連載「農の美学」は、第5回「「はたらく」と「はたらき」」が掲載。