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注目新刊:バタイユ『内的体験』河出文庫、ほか

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『内的体験――無神学大全』ジョルジュ・バタイユ著、江澤健一郎訳、河出文庫、2022年9月、本体1500円、文庫判600頁、ISBN978-4-309-46762-7
『狂気・言語・文学』ミシェル・フーコー著、阿部崇/福田美雪訳、法政大学出版局、2022年9月、本体3,800円、四六判上製432頁、ISBN978-4-588-01148-1

『カウンターセックス宣言』ポール・B・プレシアド著、藤本一勇訳、法政大学出版局、2022年9月、本体2,800円、四六判上製320頁、ISBN978-4-588-01149-8

『ジャック・デリダ講義録 生死』ジャック・デリダ著、吉松覚/亀井大輔/小川歩人/松田智裕/佐藤朋子訳、白水社、2022年8月、本体7,500円、A5判上製400頁、ISBN978-4-560-09805-9

『吉本隆明全集29[1993-1997]』吉本隆明著、晶文社、2022年8月、本体6,800円、A5判変型上製620頁、ISBN978-4-7949-7129-6



★『内的体験』は、江澤健一郎さんによる河出文庫版バタイユ新訳第3弾。2014年『ドキュマン』、2017年『有罪者』に続くもので、『有罪者』と同様の「無神学大全」シリーズである『内的体験』の半世紀以上ぶりの新訳です。既訳には出口裕弘訳(現代思潮社、1970年;平凡社ライブラリー、1998年)があります。今回の新訳の底本は出口訳と同様で、1954年に刊行された増補改訂版(初版は1943年)です。新訳と旧訳でもっとも顕著な違いは、新訳では166頁に及ぶ訳注が配されていることです(旧訳の訳注は12頁)。以下、新訳本文より引きます。


★「戦争の果てしない恐怖のなかで、人間は、自分をおびえさせる極点に大挙して到達する。しかし人間は、恐怖(そして極限)を望むどころではない。人間の運命は、一部分では、不可避なことを避けようとすることにある。彼の眼は、光に飢えながらも執拗に太陽を避けていて、その眼差しの優しさは、すぐに訪れる眠りの暗闇をあらかじめ曝露しているのだ。つまり、不可解な一貫性をもつ人間集団を考察するなら、この集団は、まるですでに眠り込み、逃げてばかりいて、麻痺状態へと引きこもっているようだ。それでも避けがたい盲目的な衝動が、人間集団を極限へ投げ込むのであり、この集団は、いつかはその極限へ大急ぎで到達するのである」(104頁)。


★「結局のところ、私は次のような見解に到達する。つまり、内的体験は行動とは正反対である。それ以上のなにものでもない」(106頁)。「内的体験は休息に対する告発であり、猶予なき存在なのだ。/内的体験の原理とは、企てによって企ての領域から抜け出すことである。/内的体験は、推論的理性によって導かれる。ただ理性だけが、自分の作品を解体して、自分が築き上げたものを破壊できるのである。狂気は残滓を残して、理性だけでなく伝達能力を混乱させてしまうので有効ではない(おそらく狂気は、なによりも内的交流の断絶である)。自然な熱狂や陶酔には、つかの間に燃え上がる情熱の力がある。われわれは理性の支えがなければ「暗い熱狂」に達することはない」(107~108頁)。


★『狂気・言語・文学』は、『Folie, langage, literature』(Vrin, 2019)の全訳。編者による巻頭の「緒言」によれば「ミシェル・フーコーが狂気、言語と文学を扱った、その大部分は未刊行であった一連の講演とテクストを紹介するもの」で、「1950年代のものと考えられる「現象学的経験――バタイユにおける経験」を除いて、それらは1960年代半ばから1970年代初頭のあいだに位置し」ているとのこと。編者はアンリ=ポール・フリュショー(Henri-Paul Fruchaud)、ダニエレ・ロレンツィーニ(Daniele Lorenzini)、ジュディット・ルヴェル(Judith Revel, 1966-)の3氏。ルヴェルは単独で「序言」も書いています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。


★『カウンターセックス宣言』は、スペイン出身で米国で活躍するトランスジェンダーの思想家でキュレーターのポール・B・プレシアド(Paul B. Preciado, 1970-;出生時の名前はベアトリス)の代表的著作のケヴィン・ゲリー・ダンによる英訳版『Countersexual Manifesto』(Columbia University Press, 2018)からの全訳。前書き「私たちは革命だ! あるいは補綴の力」は、米国のクィア理論家ジャック・ハルバースタム(Jack Halberstam, 1961-)が寄せたもの。著者による巻頭の「新しい序論」は、フランス語版出版から20周年となるスペイン語訳版から訳出されています。プレシアドは院生時代、デリダやアグネス・ヘラーに師事していたといいます。


★「『カウンターセックス宣言』は、しばしばマッチョで同性愛差別的だった近代の芸術的全英が正典~規範〔カノン〕に立ち向かうために用いた仰々しい切断のスタイルを、セクシュアリティに投影するという創造的なプロトコルとして書かれたものである。それは身体の使用法の対抗マニュアルであり、後に――そのときはわからなかったが――別の人間になる、いやむしろ複数の他のものになるプロセスを私に切り拓いてくれたのであり、このプロセスは今の別の手段で続いている」(「新しい序論」15頁)。「別の主体性を発明すること。この叛逆するセクシュアリティと反体制の欲望から、この無許可の身体から、ディルドとポスト構造主義哲学とのこの近さから、この『宣言』は生まれたのである」(同19頁)。


★『ジャック・デリダ講義録 生死』は、スイユ社から刊行されているデリダ講義録のうち、2019年に刊行された『La vir la mort (Séminaire 1975-1976)』の訳書。原著編者は、パスカル=アンヌ・ブロー(Pascale-Anne Brault)とペギー・カムフ(Peggy Kamuf, 1947-)。1975年秋から1976年初夏にかけて高等師範学校で行われた全14回の講義の記録。フランソワ・ジャコブ『生命の倫理』(みすず書房、1977年)、ハイデガー『ニーチェ』(全3巻、白水社、1976~77年;新装版1986/2007年)、フロイト『快原理の彼岸』(『フロイト全集17』所収、岩波書店、2006年)などの批判的読解が展開されています。訳者あとがきに曰く「差延、性的差異、自伝、二重結束、補綴、隠喩、そして生死等々のデリダ的なテーマを展開していくさまは圧巻であり、驚嘆すべき講義録である」。


★『吉本隆明全集29[1993-1997]』は、晶文社版全集の第30回配本。『超資本主義』(徳間書店、1995年;徳間文庫、1998年)、『大震災・オウム後 思想の原像』(徳間書店、1997年)、『ぼくならこう考える――こころを癒す5つのヒント』(青春出版社、1997年;青春文庫、2000年)が収められています。月報30は、阿木津英「「わからなさ」と「しなやかさ」」、綿野恵太「21世紀の大衆」、ハルノ宵子「悪いことしか似ていない」の3篇を掲載。ハルノさんは「自分のオヤジについてなんて、まったく興味は無い」し、月報への寄稿が「今や、キッツイノルマとなっている」とボヤきつつ、癖が強い父上のエピソードを披露されています。「父の原動力は、案外“嫉妬”にあったのかもしれない」という分析は鋭いと感じます。次回配本は12月下旬刊行予定、第30巻とのことです。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『日本の中のマネ――出会い、120年のイメージ』小野寛子企画監修、平凡社、2022年9月、本体2800円、B5判並製224頁、ISBN9784582207279
『谷内こうた 風のゆくえ』谷内こうた著、ちひろ美術館監修、平凡社、2022年9月、本体2,200円、B5変型判並製128頁、ISBN978-4-582-20728-6



★平凡社さんから刊行された、展覧会公式図録が2点。『日本の中のマネ――出会い、120年のイメージ』は練馬区立美術館で11月3日まで開催中の同名展覧会の公式図録。『谷内こうた 風のゆくえ』は安曇野ちひろ美術館で12月4日まで開催中の同名企画展の公式図録。同店は来夏には東京のちひろ美術館でも開催予定。

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