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注目新刊:ベンサム『道徳および立法の諸原理序説』全訳(ちくま学芸文庫)、ほか

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6月26日に、注目新刊はしばらく書名のみの掲出で、と書き、7月3日には「時間的余裕が出た場合は今回のように一部の書目に一言加えることもできるかと」と書きました。本当は一言では済ませたくない、済ませられない、という思いもあって、どうにもはっきり方向転換できません。【生活と仕事のバランスを得るための日常と環境の再構築は簡単には進まず、答えは遠く、荷物も心身も軽くならず、繰り返しから離れること、立ち止まることの難しさを感じます。無か全てか、に振り切るのではない場所、その中間のどこか正解なのか、歳を重ねてみても分からない、はっきりできない、判然としようがない自由さと窮屈さ。この霧の中の宙ぶらりんこそが人生の実相かもしれないとは思います。しかし宙ぶらりんからいずれ落下するという自然法則には抗わねばなりません。すべてが過去となり、すべてが死へと向かうとしても、まだもうしばらくは生きるならば。】

★ちくま学芸文庫の8月新刊5点6冊を列記します。

『道徳および立法の諸原理序説』上下巻、ジェレミー・ベンサム著、中山元訳、ちくま学芸文庫、2022年8月、本体1,300円/1,400円、文庫判400頁/464頁、ISBN978-4-480-51105-8/978-4-480-51107-2
『兵士の革命――1918年ドイツ』木村靖二著、ちくま学芸文庫、2022年8月、本体1,500円、文庫判464頁、ISBN978-4-480-51131-7
『王朝奇談集』須永朝彦編訳、ちくま学芸文庫、2022年8月、本体1,000円、文庫判 240頁 刊行 08/08 ISBN 9784480511331 JANコード 9784480511331
『京の社――神と仏の千三百年』岡田精司著、ちくま学芸文庫、2022年8月、本体1,100円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-51135-5
『紋章学入門』森護著、ちくま学芸文庫、2022年8月、本体1,500円、文庫判448頁、ISBN 978-4-480-51136-2

★『道徳および立法の諸原理序説』は、英国の哲学者で法学者のジェレミー・ベンサム(Jeremy Bentham, 1748-1832)の代表作『An Introduction to the Principles of morals and Legislation』(1789年)の全訳。底本は、Clarendon Press版(1907年)で、同版元より1996年に刊行された、バーンズ=ハート編のベンサム選集を適宜参照しているとのことです。同書には前世紀の抄訳に、田制佐重訳「功利論」(春秋社版『世界大思想全集(24)』所収、1928年)、堀秀彦訳「道徳の原理」(銀座出版社、1948年;「道徳および立法の原理序論抄」、河出書房版『世界大思想全集 社会・宗教・科学思想篇(7)』所収、1955年)、山下重一訳「道徳および立法の諸原理序説」(中央公論社版『世界の名著(38)』所収、1967年)などがあります。全訳は快挙です。

★『兵士の革命』は、東京大学名誉教授の木村靖二(きむら・せいじ, 1943-)さんが東京大学出版会より1988年に上梓された単行本の文庫化。巻末に文庫版著者解説「「兵士の革命」から「ドイツ革命」へ」が加えられています。

★『王朝奇談集』は、作家の須永朝彦(すなが・あさひこ, 1946-2021)さんによる平安鎌倉期の古典17作から選ばれた82編の現代語訳を、国書刊行会から刊行された「日本古典文学幻想コレクション」や「書物の王国」シリーズより文庫独自編集で選んだ一冊。出版までの経緯は、金沢英之さんによる巻末解説に詳しいです。遠い過去の、うつつとまぼろしが渾然一体となった場所へと読者を連れ去ります。

★『京の社』は、元・三重大教授の岡田精司(おかだ・せいし, 1929-2019)さんが2000年に塙書房より上梓された単行本の文庫化。巻末解説に、宮内庁正倉院事務所保存課調査室長の佐々田悠さんによる「変わりゆく社と生きる」が加えられています。

★『紋章学入門』は、著述家の森護(もり・まもる, 1923-2000)さんが1979年に三省堂より上梓した単行本『ヨーロッパの紋章――紋章学入門』(改訂版、河出書房新社、1996年)を改題文庫化したもの。冒頭30頁はカラー図版となっています。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

『ロシア的人間 新版』井筒俊彦著、中公文庫、2022年7月、本体1,100円、文庫判344頁、ISBN978-4-12-207225-1
『メタル'94』ヤーニス・ヨニェヴス著、黒沢歩訳、作品社、2022年8月、本体2,900円、四六判並製352頁、ISBN978-4-86182-924-6
『動物のペニスから学ぶ人生の教訓』エミリー・ウィリンガム著、的場知之訳、作品社、2022年8月、本体2,700円、四六判並製344頁、ISBN978-4-86182-925-3
『現代小説の方法【増補改訂版】』中上健次著、髙澤秀次編・解説、作品社、2022年7月、本体2600円、46判上製288頁、ISBN978-4-86182-929-1

★『ロシア的人間 新版』は、井筒俊彦(いづつ・としひこ, 1914-1993)さんによる19世紀ロシア文学論『ロシア的人間』(弘文堂、1953年;北洋社、1978年)の文庫版(中公文庫、1989年)の新版です。中央公論社版『井筒俊彦著作集(3)』(1992年)を底本とし、北洋社版「後記」と、巻末エッセイとして江藤淳さんの「井筒先生の言語学概論」を新たに加えています。旧版にあった袴田茂樹さんの解説「『ロシア文学的人間』と読み替えて」は、今回の新版では佐藤優さんの解説(無題)に替わっています。

★作品社さんのここ1ヶ月の新刊より3点。1点目『メタル'94』は、ラトヴィアの小説家ヤーニス・ヨニェヴス(Jānis Joņevs, 1980-)のデビュー小説『Jelgava 94』(Mansards, 2013)の全訳。帯文に曰く「1994年、ライフスタイルがデジタル化される前の最後の時代。ソ連からの独立後間もないラトヴィアで、ヘヴィメタルを聴き、アイデンティティを探し求めた少年たちの日々を描く半自伝的小説」。すでに翻訳が10か国語以上あり、舞台化や映画化など、話題を呼んでいるとのことです。巻末解説「ヘヴィメタルという反復運動」は武田砂鉄さんがお書きになっています。

★2点目『動物のペニスから学ぶ人生の教訓』は、米国のジャーナリストであり科学ライターのエミリー・ウィリンガム(Emily Jane Willingham, 1968-)の著書『Phallacy: Life Lessons from the Animal Penis』(Avery Publishing, 2022)の全訳。 原題のPhallacyとは、Phallus(男根)とFallacy(誤謬)を組み合わせた造語で、オス中心バイアスや男性優位社会の影響を受けた男根観を表しています。様々な生物の生殖器や交尾行動の事例を紹介し、生殖器をめぐる生物学と文化との癒着を解きほぐそうと試みています。

★3点目『現代小説の方法【増補改訂版】』は、作家の中上健次(なかがみ・けんじ, 1946-1992)さんの連続講演「現代小説の方法」(東京堂書店神田本店、1984年5~6月;『熊野誌』第50号別冊、2004年)を中心に編まれた講演録(作品社、2007年)を、没後30年を記念し、増補改訂したもの。作家の肉声に触れることのできる貴重な一冊です。

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