★注目既刊書をまず掲出します。
『魔法の門［ポルタ・マジカ］――ローマに遺された錬金術象徴の秘密』ミーノ・ガブリエレ著、大橋喜之訳、八坂書房、2022年6月、本体4,500円、A5判上製372頁、
ISBN978-489694-330-6
★イタリアの図像学者でウディネ大学教授のMino Gabrieleさんの2015年の著書を、2021年の第2版をもとに訳出したもの。原書にはない図版を含んでいるのは訳者ならではの配慮です。ポルタ・マジカはパロンバーラ伯爵によって17世紀後半にローマに建造された門のかたちをした記念碑。廃墟の壁に建てつけてあるので通り抜けできない不思議な門です。ポルタ・アルキミカ（錬金術の門）とも、ポルタ・ヘルメティカ（ヘルメスの門）とも呼称されます。著者によれば「西欧錬金術の歴史を通して唯一の造形的建築的遺産」とのことで、門の表面には錬金術のシンボルが複数刻み込まれています。本書はその研究書です。
★八坂書房さんではここしばらく注目書が続いていました。昨年11月には、グリム兄弟（ヤーコプ・グリム／ヴィルヘルム・グリム）『グリム ドイツ伝説集』（吉田孝夫訳）を、今年3月には、ペダニウス・ディオスコリデス『ディオスコリデス薬物誌』（岸本良彦訳）を出版されています。前者については、今年3月に鳥影社さんから『グリム ドイツ伝説集 新訳版』（鍛治哲郎／桜沢正勝訳）も刊行されており、短期間で2種類の訳書を得たことは読者にとって嬉しいニュースでした。また、後者については既訳書に『ディオスコリデスの薬物誌』（全2冊：第1巻『ディオスコリデスの薬物誌』鷲谷いづみ訳；第2巻『ディオスコリデス研究』大槻真一郎著、エンタプライズ、1983年）がありますが、すでに絶版であり高額古書となっているため、新訳は喜ばしいです。
★続いて、最近では以下の新刊との出会いがありました。
『いまを生きるカント倫理学』秋元康隆著、集英社新書、2022年7月、本体940円、新書判240頁、ISBN978-4-08-721221-1
『認知行動療法の哲学――ストア派と哲学的治療の系譜』ドナルド・ロバートソン著、東畑開人／藤井翔太監訳、小川修平／木甲斐智紀／四方陽裕／船場美佐子訳、金剛出版、2022年7月、本体3,600円、A5判並製320頁、ISBN978-4-7724-1906-2
『ダイアローグ』ヴァージル・アブロー著、平岩壮悟訳、アダチプレス、2022年7月、本体1,800円、A5変型判並製200頁、ISBN978-4-908251-15-3
『燃エガラからの思考──記憶の交差路としての広島へ』柿木伸之著、インパクト出版会、2022年7月、本体2,400円、四六判並製303頁、ISBN978-4-7554-0321-7
『岡村昭彦を探して』松本直子著、紀伊國屋書店、2022年7月、本体2,500円、46判並製408頁、ISBN978-4-314-01192-1
★まずは発売済の3点。『いまを生きるカント倫理学』はドイツのトリア大学講師、秋元康隆（あきもと・やすたか, 1978-）さんの『意志の倫理学――カントに学ぶ善への勇気』（月曜社、2020年）に続く書き下ろし第2作。現代社会を覆う様々な難問にカント倫理学の立場から答えるもの。『認知行動療法の哲学』は英国の文筆家で認知行動療法家のDonald Robertsonの2020年の著書の抄訳。帯文に曰く「ストアはと哲学的治療の系譜」と。『ダイアローグ』は、米国のデザイナーで昨年11月に早逝したVirgil Abloh（1980-2021）が2019年から2021年に雑誌発表したインタビューや対談、鼎談、あわせて9本をまとめた日本オリジナルの1冊。建築家のレム・コールハースやキュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリストらとの対話など、興味深い内容です。
★続いてまもなく発売の2点。『燃エガラからの思考』は西南学院大学教授、柿木伸之（かきぎ・のぶゆき, 1970-）さんによるヒロシマ論を集成したもので、『パット剝ぎトッテシマッタ後の世界へ――ヒロシマを想起する』（インパクト出版会、2015年）の姉妹編。『岡村昭彦を探して』は、国際報道写真家の岡村昭彦（おかむら・あきひこ, 1929-1985）の姪である松本直子（まつもと・なおこ, 1952-）さんが伯父について丹念に取材した評伝。