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人間社文庫での古部族研究会編『日本原初考』三部作の文庫化、ほか

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『諏訪信仰の発生と展開』古部族研究会編、人間社文庫、2017年12月、本体900円、文庫判並製496頁、ISBN978-4-908627-17-0
『ロバート・キャパ写真集』ICP ロバート・キャパ・アーカイブ編、岩波文庫、2017年12月、本体1,400円、文庫判並製320頁、ISBN978-4-00-335801-6
『リュシス 恋がたき』プラトン著、田中伸司/三嶋輝夫訳、講談社学術文庫、2017年12月、本体700円、A6判並製168頁、ISBN978-4-06-292459-7
『水滸伝(四)』井波律子訳、講談社学術文庫、2017年12月、本体1,850円、A6判並製776頁、ISBN978-4-06-292454-2



★先月発売された文庫新刊からいくつか。名古屋の本屋さん「書物の森」のことは知っていましたが、人間社さんのことは詳しく知りませんでした。その人間社さんが人間社文庫という文庫レーベルを持っていて、その中に「日本の古層」という樹林舎さんが制作しているシリーズがあることをようやく先月、某書店の人文書売場の新刊台で知りました。『諏訪信仰の発生と展開』は「日本の古層」の第4弾。もともとは1978年に刊行された単行本の文庫化です。中沢新一さんが推薦文を寄せておられます。曰く「今日の諏訪信仰研究の隆盛は、すべてこの古部族研究会の活動によって礎が築かれたものである。古代・中世史の研究に前人未到の突破口を開いた名著がここに蘇る」と。本書の中核になっているのは9本の論考と『諏訪祭禮之次第記』の翻刻。守矢早苗さんによる「祖父真幸の日記に見る神長家の神事祭祀」が目を惹きます。本書は古部族研究会が70年代に刊行した『日本原初考』三部作の第3弾。人間社文庫では2017年9月に先行する『古代諏訪とミシャグジ祭政体の研究』と『古諏訪の祭祀と氏族』が復刊されています。それぞれ山本ひろ子さんと山田宗睦さんの推薦文が帯に記されています。


★『ロバート・キャパ写真集』は帯文によれば「ロバート・キャパが撮影した約7万点のネガから、236点を精選して収録。岩波文庫初の写真集」と。文庫オリジナル編集の写真集のようです。巻頭にICP館長マーク・ルベル氏による序言、巻末に同学芸員シンシア・ヤング氏の解説とロバート・キャパ略年譜が付されています。次にはセバスチャン・サルガドの写真集を文庫化してくれたら嬉しいです。


★講談社学術文庫の『リュシス 恋がたき』は文庫オリジナルの新訳。書名の通り二篇の対話篇を収録しています。翻訳の底本はバーネット版プラトン全集。凡例に寄れば「バーネットとは異なる読みを採る場合には、訳註で説明を加えた」とのことです。訳文の上段にはステパノス版プラトン全集の頁数と段落が銘記されていて、親切です。「リュシス」は友愛を論じ、「恋がたき」は知を愛することすなわち哲学について問います。小さな本ですが、重要です。一方『水滸伝(四)』は全五巻の第四巻。第61回から第82回までを収録。まもなく(1月12日)に第五巻が発売となって新訳完結です。


★次に先月発売の単行本の中から何点か。


『アーレントの二人の師』ハンナ・アーレント著、仲正昌樹訳、明月堂書店、2017年12月、本体1,600円、四六判上製158頁、ISBN978-4-903145-59-4
『フロイト症例論集2――ラットマンとウルフマン』藤山直樹編訳、岩崎学術出版社、2017年11月、本体4,000円、A5判上製264頁、ISBN978-4-7533-1130-9
『批評について――芸術批評の哲学』ノエル・キャロル著、森功次訳、勁草書房、2017年11月、本体3,500円、四六判上製296頁、ISBN978-4-326-85193-5



★『アーレントの二人の師』は巻頭の編集部注記によれば、『暗い時代の人間性について』(情況出版、2002年)と「80歳になったハイデッガー」(『ハンナ・アーレントを読む』情況出版、2001年)を一冊にまとめたもの。再録にあたり、誤字脱字の訂正と表記上の若干の変更(ハイデッガーをハイデガーに、など)を施したとのことです。巻末には仲正さんによる訳者解説「アーレントの二人の師」が収められています。


★『フロイト症例論集2』は2014年の『フロイト技法論集』と同じ監訳者によるフロイトの新訳論集。「強迫神経症の一症例についての覚書(1909)」と「ある幼児神経症の病歴より(1918[1914])を収録。前者がラットマン(鼠男)、後者がウルフマン(狼男)と呼び慣らわされている症例を扱っており、英語標準版を底本として新訳されています。刊行が前後していますが、いずれ『フロイト症例論集1――ドラとハンス』も刊行されるようです。監訳者あとがきによればさらに、「一、二冊、メタサイコロジー論集を刊行し、技法、症例、理論という、フロイト論文のなかで臨床に直接結びつくものについてカバーしたいと思っている」とのことです。ちなみに今月の講談社学術文庫ではフロイトの『メタサイコロジー論』が十川幸司さんの新訳でまもなく発売予定です。



★昨年は2月に注目の芸術論が一気に刊行されました。デイヴィッド・ホックニー/マーティン・ゲイフォード『絵画の歴史――洞窟壁画からiPadまで』青幻舎、アーサー・C・ダントー『芸術の終焉のあと――現代芸術と歴史の境界』三元社、ボリス・グロイス『アート・パワー』現代企画室、ネルソン・グッドマン『芸術の言語』慶應義塾大学出版会。後回しにしているうちに10月には、もう一冊ダントーの『ありふれたものの変容――芸術の哲学』慶應義塾大学出版会が出て、さらに11月には『美術手帖2017年12月号:これからの美術がわかるキーワード100』、そして12月冒頭にはキャロル『批評について――芸術批評の哲学』勁草書房。とてもすべてを追いかけきれるものではないのですが、ひとまずこの中からキャロルを真っ先に選びました。原著は『On Criticism』(Routledge, 2009)です。ノエル・キャロル(Noël Carroll, 1947-)はニューヨーク市立大学大学院センターの哲学プログラム卓越教授で、元アメリカ美学会会長。分析美学を牽引してきた哲学者でそのキャリアの割にはなんと本書が初訳本なのですね。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


★このほか最近では以下の書目との出会いがありました。


『イブン・タイミーヤ政治論集』イブン・タイミーヤ著、中田考編訳解説、作品社、2017年12月、本体3,800円、四六判上製338頁、ISBN978-4-86182-674-0
『ビガイルド――欲望のめざめ』トーマス・カリナン著、青柳伸子訳、作品社、2017年12月、本体2,800円、四六判並製432頁、ISBN978-4-86182-676-4
『来者の群像――大江満雄とハンセン病療養所の詩人たち』木村哲也著、編集室水平線、2017年8月、本体1,600円、四六判並製256頁、ISBN978-4-909291-01-1
『遠い声がする――渋谷直人評論集』渋谷直人著、編集室水平線、2017年9月、本体2,000円、四六判並製232頁、ISBN978-4-909291-02-8



★『イブン・タイミーヤ政治論集』は帯文に曰く「イスラーム国法学と政治の一般理論、現代原理主義反体制武装闘争派の革命論に理論的基礎を与えたファトワ―(教義回答)など、現代中東政治を読み解くための最良の古典」と。「シャリーアに基づく政治」「ファトワー:タタール(モンゴル)軍との戦いは義務か?」「イスラームにおける行政監督(ヒスバ)」の翻訳に、訳者解説「何故、今、イブン・タイミーヤなのか?」が付されています。後書によれば、「シャリーアに基づく政治」「ファトワー:タタール(モンゴル)軍との戦いは義務か?」は『イスラーム政治論――イブンタイミーヤ シャリーアによる統治』として1991年に日本サウディアラビア協会から非売品として刊行されていたもので、今回全面的な改訳を施し、「イスラームにおける行政監督」を新たに訳出して加えたもの、とのことです。イブン・タイミーヤ(1263-1328)はシリア生まれ。伝統主義的なハンバリー学派の法学者にして神学者です。本書は中田さんのライフワークともいうべき一書だそうです。


★『ビガイルド――欲望のめざめ』はアメリカの小説家であり脚本家のトーマス・カリナン(Thomas P. Cullinan, 1919-1995)が1966年に上梓した『The Beguiled(惑わされた者たち)』の全訳。南北戦争末期に傷ついた敵兵をかくまうことになった女学園が舞台の物語で、1971年に映画化されたのち、今年にはソフィア・コッポラ監督、ニコール・キッドマン主演、コリン・ファレルほか出演で再映画化され、カンヌ国際映画祭監督賞を受賞しています。同映画は来月、2月23日より日本でも全国公開となるそうです。2段組で400頁を超える長篇。


★木村哲也『来者の群像』と、渋谷直人『遠い声がする』は新刊ではありませんが、昨年の晩夏に創業した「編集室水平線」の新刊2点です。同社は某人文書版元の編集者氏が長崎市で起こした出版社で、今のところ出版物は上記2点。実直な氏らしい、素晴らしい本です。詳細については同社のウェブサイトをご覧ください。現時点では書店での取り扱いはなく、ウェブサイトからの直接注文のみ受け付けているとのことです。


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注目文庫新刊:ドゥルーズ、バタイユ、フロムの名著、続々と新訳刊行

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『ザッヘル=マゾッホ紹介――冷淡なものと残酷なもの』ジル・ドゥルーズ著、堀千晶訳、河出文庫、2018年1月、本体1,000円、文庫判並製280頁、ISBN978-4-309-46461-9
『呪われた部分――全般経済学試論・蕩尽』ジョルジュ・バタイユ著、酒井健訳、ちくま学芸文庫、2018年1月、本体1,300円、文庫判並製384頁、ISBN978-4-480-09840-5
『悪について』エーリッヒ・フロム著、渡会圭子訳、ちくま学芸文庫、2018年1月、本体1,000円、文庫判並製240頁、ISBN978-4-480-09841-2
『歓待について――パリ講義の記録』ジャック・デリダ著、アンヌ・デュフールマンテル著、廣瀬浩司訳、ちくま学芸文庫、2018年1月、本体1,000円、文庫判並製208頁、ISBN978-4-480-09836-8
『ニーチェ入門』清水真木著、ちくま学芸文庫、2018年1月、本体1,100円、文庫判並製272頁、ISBN978-4-480-09830-6
『花鳥・山水画を読み解く――中国絵画の意味』宮崎法子著、ちくま学芸文庫、2018年1月、本体1,200円、文庫判並製304頁、ISBN978-4-480-09838-2


★ドゥルーズ『ザッヘル=マゾッホ紹介』は発売済。原書は『Présentation de Sacher-Masoch: Le froid et le cruel』(Minuit, 1967)で、附録であるマゾッホ『毛皮を着たヴィーナス』のオード・ウィルムによる仏訳は訳出されていません。今回の新訳にあたり、改めて版権が取得されていますので、既訳である蓮實重彦訳『マゾッホとサド』(晶文社、1973年;新装版1998年)は再刊されないということになるかと思われます。蓮實訳がドゥルーズの著書の初訳であったことは周知の通りです。原著刊行から51年目、既訳の出版から数えて45年ぶりの新訳となる今回の文庫版の目次は以下の通りです。



サド、マゾッホ、ふたりの言語
描写の役割
サドとマゾッホの相補性はどこまで及ぶのか
マゾッホと三人の女性
父と母
マゾッホの小説的要素
法、ユーモア、アイロニー
契約から儀式へ
精神分析
死の本能とはなにか
サディズムの超自我とマゾヒズムの自我
補遺
 Ⅰ 幼年期の記憶と小説についての考察
 Ⅱ マゾッホの普通の契約書
 Ⅲ ルートヴィヒ二世との情事(ワンダの語るところによる)
原注
訳注
訳者あとがき


★ちくま学芸文庫の今月新刊5点はまもなく発売(10日頃)。バタイユ『呪われた部分』は同文庫では2003年の中山元訳『呪われた部分――有用性の限界』に続く新訳。より正確に言えば、中山訳の底本はガリマール版全集第7巻『有用性の限界――「呪われた部分」の破棄された版の断章』(1976年)であり、「バタイユがほぼ15年間にわたって書き残した『呪われた部分』の草稿、アフォリズム、ノート、構想をまとめたもの」(中山版訳者あとがきより)。今回の酒井訳は1949年にミニュイから刊行された初版本にもとづき、補遺として1933年1月に『社会批評』誌に発表された論考「消費の概念」を併載しています。つまり中山訳と酒井訳は草稿と刊本の関係にあり、酒井訳は生田耕作訳(二見書房版「ジョルジュ・バタイユ著作集」1973年)以来の45年ぶりの刊本版の新訳となります。(より詳しく言うと、生田訳では三種類のテクスト(初版本に加え、バタイユの死後に刊行された1967年の再販本と1971年のプワン叢書版)を「たえず照合して万全を期した。各版にわたって本文の字句の異同はないが、とくに引用文の組み方、行間空白のとりかた等に、かなり違いが見出される」と訳者あとがきで特記されています。)


★フロム『悪について』は文庫オリジナルの新訳。原著は1964年に刊行された『The Heart of Man: Its Genius for Good and Evil』です。既訳には鈴木重吉訳(紀伊國屋書店、1965年)があり、日本でも長く読み継がれてきた名著です。今回の53年ぶりの新訳にあたり、出口剛司さんによる「エーリッヒ・フロム『悪について』の新訳に寄せて」が巻末に付されており、本書を「『自由からの逃走』の続編であると同時に、『愛するということ』と一対をなす書物とフロム自身は位置付けている」と紹介され、「まもなく死語40年を経過しようとしているが、フロムの人気は依然として高く、そのアクチュアリティはいまだ汲み尽くされてはいない」と評価されています。


★デリダ『歓待について』は産業図書より1999年に刊行された単行本(原著は1997年刊)の文庫化。巻末特記によれば「訳文を前面に再検討し、副題を〔「パリのゼミナールの記録」から「パリ講義の記録」に〕改めた」とのことです。文庫版のためのあとがきによれば、訳者の廣瀬さんが文庫化の相談を受けたのは「たまたま『歓待の終焉』と題された書籍を手に取っていたときであった」と言います。『歓待の終焉』はギョーム・ル・ブラン(Guillaume Le Blanc, 1966-)とファビエンヌ・ブルジェール(Fabienne Brugère, 1964-)の共著としてフラマリオンから2017年に刊行された書籍で、ヨーロッパにおける難民問題を論じたもの。二人揃って2015年に来日講演を果たしているほか、それぞれ著書の訳書も出ています。ル・ブランは『働くってどんなこと? 人はなぜ仕事をするの? 』(岩崎書店、2017年)、ブルジェールは『ケアの倫理』(文庫クセジュ、2014年)や『ケアの社会――個人を支える政治』(風間書房、2016年)。廣瀬さんが「異邦人=外国人=よそ者」の問いを提起することさえ困難になっていることを実感している、と述懐されておられるのに共感を覚えます。


★清水真木『ニーチェ入門』は講談社選書メチエの一冊として2003年に刊行された『知の教科書 ニーチェ』の改題文庫化です。ちくま学芸文庫版のためのあとがきによれば「見出しと本文について若干の軸の修正が施され、読書案内が増補されたけれども」内容に相違はないとのことです。「最近のニーチェ研究者は、知的公衆に対する「贈与」への意欲に乏しいように見える。ヨーロッパとアメリカの最新の研究成果を追いかける「ジャーナリスティック」な態度が支配的になり、哲学界が全体として同時代の文化的生産の平面から退却して自己完結へと向かいつつあるからなのであろう。これは、日本文化の不幸であり、私は、この点についてひそかに懸念を抱いている」ともお書きになっており、出版人としては清水さんのご姿勢が励みになります。


★宮崎法子『花鳥・山水画を読み解く』は角川叢書の一冊として2003年に刊行されたものの文庫化。文庫版あとがきによれば「文庫化にあたっては、年月の差によって訂正する必要のある「近年」「最近」などの表記を改め、他にわずかな訂正や補足を行うにとどめた」とのことです。山水画と花鳥画の二部構成で、刊行当時、サントリー学芸賞を受賞された力作です。


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2月初旬店頭発売予定新刊:メニングハウス『生のなかば――ヘルダーリン詩学にまつわる試論』

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2017年1月31日取次搬入予定 *独文・批評



生のなかば――ヘルダーリン詩学にまつわる試論
ヴィンフリート・メニングハウス著 竹峰義和訳
月曜社 2018年1月 本体:2,500円 46判並製224頁 ISBN: 978-4-86503-054-9


アマゾン・ジャパンにて予約受付中



狂気に陥るまえのヘルダーリンがみずから公刊した最後の詩のひとつである『生のなかば』――抒情詩の傑作として愛誦されてきたこの短詩のうちに密かに埋め込まれた神話論的な寓意(アレゴリー)を、緻密な韻律分析と丹念な文献考証をつうじて鮮やかに解き明かす。ひとつのテクストを徹底的に精読することではじめて開かれる、無限の解釈の地平。【叢書・エクリチュールの冒険:第10回配本】


ヴィンフリート・メニングハウス(Winfried Menninghaus, 1952-)ベルリン自由大学一般文芸学・比較文学科ペータ・ソンディ研究所教授を経て、現在は2013年にフランクフルトに創設されたマックス・プランク経験美学研究所で「言語と文学」部門のディレクターをつとめる。著書に、『敷居学――ベンヤミンの神話のパサージュ』(1986年、邦訳:伊藤秀一訳、現代思潮新社、2000年)、『無限の二重化――ロマン主義・ベンヤミン・デリダにおける絶対的自己反省理論』(1987年、邦訳:伊藤秀一訳、法政大学出版局、1992年、新装版2017年、『吐き気――ある強烈な感覚の理論と歴史』(竹峰義和/知野ゆり/由比俊行訳、法政大学出版局、2010年)、『美の約束』(2003年、邦訳:伊藤秀一訳、現代思潮新社、2013年)など。


竹峰義和(たけみね・よしかず:1974-)東京大学大学院総合文化研究科准教授。専門はドイツ思想史・映像文化論。近年の著訳書に『〈救済〉のメーディウム――ベンヤミン、アドルノ、クルーゲ』(東京大学出版会、2016年)、ベルント・シュティーグラー『写真の映像』(共訳、月曜社、2015年)、ミリアム・ブラトゥ・ハンセン『映画と経験――クラカウアー、ベンヤミン、アドルノ』(共訳、法政大学出版局、2017年)、テオドール・W・アドルノ『模範像なしに――美学小論集』(みすず書房、2017年)など。


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明日発売:ガブリエル『なぜ世界は存在しないのか』清水一浩訳、講談社メチエ

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★清水一浩さん(共訳:ガルシア・デュットマン『友愛と敵対』)



人文業界の特殊翻訳家として知られる清水さんの初めての単独訳単行本、マルクス・ガブリエル『なぜ世界は存在しないのか』がいよいよ明日、1月12日より店頭発売開始となります。ドイツの新進気鋭の哲学者で「新しい実在論」を牽引するガブリエル(Markus Gabriel, 1980-)の著書の翻訳は、ジジェクとの共著『神話・狂気・哄笑』(堀之内出版、2015年)に続いて2冊目で、ガブリエルの単独著としては初訳です。講談社メチエの「666」番。目次詳細や内容紹介は書名のリンク先をご覧ください。原著は『Warum es die Welt nicht gibt』(Ullstein, 2013)です。


なぜ世界は存在しないのか

マルクス・ガブリエル著 清水一浩訳
講談社メチエ 2018年1月 本体1,850円 四六判並製334頁 ISBN978-4-06-258670-2


千葉雅也さん推薦文:ポストモダンの思想は、現実を捉えることを不可能にしたのだろうか? 人それぞれに異なる現実しかないのでも、唯一の真なる現実しかないのでもなく――ポストモダンとその批判者の対立を超える「新しい実在論」へ!


本文(79頁)より:世界のなかにある対象を、世界のなかにあるほかの対象から区別しているのは、それぞれの対象に備わる性質です。ここからただちに、少なくとも二つの哲学的な問いが生じてきます。いずれの問いも、わたしの考察の中心をなすものです。/1 およそ存在するいっさいの性質を備えた対象は、存在しうるのか。/2 どの対象も、ほかのすべての対象から区別されるのか。/この二つの問いにたいする、わたしの答えは「否」です。ここから導き出されることになるのが、世界は存在しないという結論です。第一に、世界とは、いっさいの性質を備えた対象であるはずだからです。第二に、世界のなかでは、どの対象も、ほかのすべての対象から区別されるはずだからです。


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注目新刊:『ゲンロン7:ロシア現代思想II』、ほか

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『ゲンロン7 特集:ロシア現代思想Ⅱ』東浩紀編集、乗松亨平特集監修、ゲンロン、2017年12月、本体2,400円、A5判並製372頁、ISBN:978-4-907188-24-5
『あたらしい狂気の歴史――精神病理の哲学』小泉義之著、青土社、2018年1月、本体2,600円、四六判並製288頁、ISBN978-4-7917-7036-6
『こころは内臓である――スキゾフレニアを腑分けする』計見一雄著、講談社選書メチエ、2018年1月、本体1,650円、四六判並製256頁、ISBN978-4-06-258669-6
『メタサイコロジー論』ジークムント・フロイト著、十川幸司訳、講談社学術文庫、2018年1月、本体880円、A6判並製232頁、ISBN978-4-06-292460-3
『水滸伝(五)』井波律子訳、講談社学術文庫、2018年1月、本体1,860円、A6判並製664頁、ISBN978-4-06-292455-9
『幸福について』ショーペンハウアー著、鈴木芳子訳、光文社古典新訳文庫、2018年1月、本体1,000円、文庫判並製428頁、ISBN978-4-334-75369-6
『精神の政治学』ポール・ヴァレリー著、吉田健一訳、中公文庫、2017年12月、本体860円、文庫判並製256頁、ISBN978-4-12-206505-5



★『ゲンロン7 特集:ロシア現代思想Ⅱ』は書店での一般発売が開始となっています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。メイン特集は「ロシア現代思想」の第二弾で乗松亨平さんが監修されています。東さんの巻頭言「距離の回復」によれば、前号の第一弾が「思想編だとすれば」、今回の第二弾は「社会・文化編とでも呼べるかもしれない」と。「今号の目次はより具体的駆るジャーナリズムに近く、冷戦崩壊後のロシア社会の変化を細かく追う共同討議や年表、反プーチンデモの背景を分析する論文などを収録している。読者によっては、むしろこちらから読み始めたほうがよいかもしれない」と。特集への乗松さんによる導入文「並行的他者との出会いのために」ではこう書かれています。「ロシアと日本の並行関係については前号からくりかえし言及してきたが、ヨーロッパ内部を含めた世界各地における「近代の超克」の試みとその余波を、並行的に捉える視野を拓くことが本特集の大きな狙いである。〔・・・〕西欧近代が生み落とした鬼子はひとりではない。われわれは、父という大文字の他者とひとりきり向かいあうのではなく、隣にいるきょうだいと出会うべきなのだ」。


★小特集は「哲学の再起動」です。東さんの巻頭言によれば「ぼくはこちらの特集には、2017年の「人文書ブーム」の立役者となったふたりの哲学者、國分功一郎と千葉雅也両氏を招いた鼎談と、サイバーパンクを主題にした座談会、そして香港出身でベルリン在集の若い哲学者、許煜(ホイユク)の初邦訳を収めた」。この三本の意義について東さんは三つの意図を示されており、これはぜひ現物をお読みいただく方がいいと思います。また東さんはこうも書かれています。「本誌はポピュリズムに抗うため、「いまここ」から距離を取る。だから政治的な態度を明確にしない。支持政党も明らかにしないし、運動にも参加しない。本誌はむしろ、そのような距離のない反応だけが「政治」「現実」に向き合ったことになるという、その思い込みそのものを疑い、乗り越えることを目指している」。東さん、國分さん、千葉さんの鼎談「接続、切断、誤配」では政治の再定義をめぐる議論もあり、國分さんの近著(例えば山崎亮さんとの対談書『僕らの社会主義』)や、千葉さんが目下準備しておられるという哲学書とそれをめぐるツイッターでのご発言と繋がっていく論点が提出されており、非常に興味深いです。


★距離を取ることの重要性を再確認された東さんのスタンスに共感を覚えます。距離を取るとは言ってもそれはどこか象牙の塔に逃げ込み超然としていることではないのは明らかです。むしろ東さんには歴史への目線だけでなく同時代性へのコミットメントもあり、その絶妙なバランス感覚が「ゲンロン」誌に表れ、読者をひきつけていると感じます。同時代性や現在性というのは否応ない磁場であり、その磁場が系譜学的にどのように見えるか、各世代によって視角が異なるとはいえ、そこから完全に逃れることはできません。書き手も編集者もその嵐の中にいるわけです。


★小泉義之『あたらしい狂気の歴史』は小泉さんが2013年から2016年に「現代思想」誌をはじめとする各媒体に発表されてきた論文9本に、「若干の修正・補足を行」い、書き下ろしの二篇「はじめに」「第9章 精神病理をめぐる現代思想運動史」を加えた一冊です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「精神-心理の知=権力に対する批判」(11頁)の試みである本書において、小泉さんは狂気を次のように理解しておられます。「狂気は、不可避的に破断している人間の本質に根ざしている潜在性であり、この世で生きている限り誰もが大なり小なり逃れることのできない運命である。〔・・・〕いかに受動的で隷属的に見えようとも、狂っていくことは人間の根源的な自由の発露である。人間は自由にまともになるのと同じ訳合いでもって、自由に狂っていくのであり、それこそが自由の限界経験である。しかも、狂気は、人間の存在の可能性の限界を露わにする経験でもある。その先の存在可能性としては、人間性の消滅(廃疾化)、人間の死(自死)だけが控えているとしか考えられないような経験である。その意味で、狂気は、人間の可能性と不可能性の条件である。〔・・・〕人間を知りたければ、人間の限界と可能性を知りたければ、何よりも狂気に学ばなければならない」(215~216頁)。


★後段にはこんな言葉もあります。「いつか遠い未来に、狂気の解放とともに、人間の存在の真理がその限界まで解き放たれる日が来るであろう。その来たるべき日には、個人の精神の疎外=狂気(アリエナシオン)と、狂気を含め人間精神を歪める社会の疎外が同時に解消され、終に狂人の解放が例えば労働者の解放や被抑圧者の解放と連携して、類としての人間の解放が実現するであろう。そのとき人間の前史は終焉し、新たな人間の歴史が始まるであろう」(216頁)。


★計見一雄『こころは内臓である』は講談社選書メチエの667番です。目次は書名のリンク先をご確認ください。「はじめに」で計見さんはこう説明されています。「スキゾフレニアという病気の根底には、実は好意的な機能の低下、不自由さが関わっているようだというのが、本論の主題になるだろう。それの関連の深い減少として、「考えること」への禁止的メカニズムが働いているようだという示唆も述べてある。/さらに進んでは、自らの裡にある壮年の源である感情の禁止、喜怒哀楽特に「怒り」とその源泉にある衝動的なものへの否認、それが思考の自由を奪ってしまうという帰結についても記した。またこの否認というメカニズムは病人の専売ではないことにも注意を促した。衝動的なものの否認は、結局のところ生きるエネルギーの否認につながる」(5頁)。「疾患の解説書ではあるが、冒頭にも記した世界を覆っているかのような時代の転換期に陥りがちな、ヒトの心的傾向を理解する一助にもなれば望外である」(6頁)。


★本書の最終章末尾で計見さんは「この本でも前の本でも、この病気は治る、というのが私の言わんとするところである」(237頁)とお書きになり、三人の実例を挙げておられます。三人に共通していたのは仕事ぶりが「きわめて集中的で、きちんとしている」(239頁)こと、そして「三人とも、さぼるということが全く念頭にないのである。一心不乱に職務に専念する。そういう働き方しかできないのである」(240頁)。「もうすこし、さぼりさぼりやるのを身につけさせたいが、これは案外難しいかもしれない」(241頁)。本書ではほかにも生真面目な勉強家の少年たちの症例も出てきて、興味深いです。


★フロイト『メタサイコロジー論』は文庫オリジナルの新訳。凡例によれば「フロイトが1915年に執筆し、『メタサイコロジー序説』の表題で一冊の書物にまとめることを意図していた論考のうち、現存する五篇および草稿として残された一篇を収録し」たもの。収録作は「欲動と欲動の運命」「抑圧」「無意識」「夢理論へのメタサイコロジー的補足」「喪とメランコリー」「転移神経症概要[草稿]」で、底本はフィッシャー版全集です。フロイトの計画では全部で12篇のはずだったものの、7篇は未発表のままフロイト自身によって破棄されたようです。そのうち1篇だけ草稿が1980年代に見つかったと。訳者解説で十川さんは「この未完の書物は、建築物の素材が基礎の部分から順に組み上げられていくかのように、相互の論文は緊密な内的関係を持ち、全体が論理手駅で美しい構成をなしている」(191頁)と評され、さらに「現代の最も先鋭的な精神分析がたどりついた地点から見るなら、フロイトの可能性とは、初期フロイトでも後期フロイトでもなく、この『メタサイコロジー論』の時期のフロイトにある、と訳者は考えている」(226頁)ともお書きになっておられます。


★井波律子訳『水滸伝(五)』はこれで全巻完結。第83回から第101回までを収録。あとがきで井波さんはこう述懐しておられます。「訳しだすと、無類に面白く、たちまち夢中になった。〔・・・〕訳している間は、愛すべき梁山泊百八人の好漢とすっかり共生し、〔・・・〕高揚したり落胆したり、好漢たちと共生する訳者の揺れ動く思いや感情が、訳文のリズムとなってあらわれ、読んでくださる方々に伝われば、こえに勝る喜びはない」。


★ショーペンハウアー『幸福について』は2013年の『読書について』に続く鈴木芳子さんによるショーペンハウアー新訳第二弾。目次は以下の通り。はじめに/第一章 根本規定/第二章「その人は何者であるか」について/第三章「その人は何を持っているか」について/第四章「その人はいかなるイメージ、表象・印象を与えるか」について/第五章「訓話と金言」/第六章「年齢による違いについて」。解説によれば、ズーアカンプ版全集の『余録と補遺』から"Aphorismen zur Lebensweisheit"(処世術箴言集)を訳出したもので、「原注はすべてではなく本文の理解の助けになるものを選んで」訳したとのことです。ショーペンハウアーの「処世術箴言集」は新潮文庫から1958年に発売された橋本文夫訳『幸福について――人生論』がロングセラーとして著名で、現在も入手可能です。


★ヴァレリー『精神の政治学』(吉田健一訳)は、創元選書版単行本(1939年)に訳者の関連エッセイ二篇を併せて文庫化したものとのこと。すなわちヴァレリーの「精神の政治学」「知性に就て」「地中海の感興」「レオナルドと哲学者達」の全四篇のほか、巻末に吉田健一の単行本未収録エッセイ「ヴァレリー頌」「ヴァレリーのこと」を併録。解説「吉田健一とヴァレリー」は四方田犬彦さんがお書きになっています。ちなみに中公文庫の精選シリーズ「古典名訳再発見」として、アラン『わが思索のあと』(森有正訳)が近刊となるようです。また、同シリーズとは別かと思いますが、中公文庫では今月下旬、小林公さんの訳でダンテの『帝政論』が発売予定です。これはたいへん久しぶりの新訳で画期的です。


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注目新刊:ダンテ『帝政論』中公文庫、ほか

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『帝政論』ダンテ著、小林公訳、中公文庫、2018年1月、本体1,300円、424頁、ISBN978-4-12-206528-4
『昼も夜も彷徨え――マイモニデス物語』中村小夜著、中公文庫、2018年1月、本体1,000円、496頁、ISBN978-4-12-206525-3
『世界イディッシュ短篇選』西成彦編訳、岩波文庫、2018年1月、本体920円、352頁、ISBN978-4-00-377004-7
『後期資本主義における正統化の問題』ハーバーマス著、山田正行/金慧訳、岩波文庫、2018年1月、本体970円、320頁、ISBN978-4-00-386014-4
『文選 詩篇(一)』川合康三/富永一登/釜谷武志/和田英信/浅見洋二/緑川英樹訳注、岩波文庫、2018年1月、本体1,020円、416頁、ISBN978-4-00-320451-1
『三国志名言集』井波律子著、岩波現代文庫、2018年1月、本体1,340円、480頁、ISBN978-4-00-602296-9
『中国飛翔文学誌――空を飛びたかった綺態な人たちにまつわる十五の夜噺』武田雅哉著、人文書院、2017年12月、本体6,200円、A5判上製568頁、ISBN978-4-409-51076-6
『現代オリンピックの発展と危機1940-2020――二度目の東京が目指すもの』石坂友司著、人文書院、2018年1月、本体2,500円、4-6判並製276頁、ISBN978-4-409-24120-2
『人新世の哲学――思弁的実在論以後の「人間の条件」』篠原雅武著、人文書院、2018年1月、本体2,300円、4-6判上製260頁、ISBN978-4-409-03096-7
『共感のレッスン――超情報化社会を生きる』植島啓司/伊藤俊治著、集英社、2017年12月、本体1,500円、四六判並製200頁、ISBN978-4-08-771127-1
『歩行熱――ヒトはひたすら歩いて進化した』松田行正著、牛若丸発行、星雲社発売、2017年12月、本体2,400円、四六変型136頁、ISBN978-4-434-23997-7
『落としもの』横田創著、書肆汽水域、2018年1月、本体1,800円、四六判上製275頁、ISBN978-4-9908899-1-3



★ダンテ『帝政論』は文庫オリジナルの新訳。既訳には、新生堂版『ダンテ全集』第8巻所収の中山昌樹訳「帝政論」(1925年;復刻版、日本図書センター、1995年)と、河出書房版『世界大思想全集』第1期「哲学・文芸思想篇」第4巻所収の黒田正利訳「帝政論」(1961年)があります。今回の新訳の底本は、プルー・ショーによるイタリア・ダンテ協会最新校訂版(Casa Editrice Le Lettere, 2009)とのことです。訳者による130頁近い詳細な註解と、90頁を超える訳者あとがきは力作という以上の労作です。


★中村小夜『昼も夜も彷徨え』は副題にある通り、中世のユダヤ思想家マイモニデス( 1138-1204)を主人公にしたユニークな書き下ろし小説です。目次を列記しておくと、序章|第一章 背教者|第二章 書状の決闘|第三章 ミルトスの庭|第四章 フスタート炎上|第五章 死者の町|第六章 王者と賢者|終章。書名はマイニモデス自身に記せられている言葉です。なお、マイモニデスについて日本語で読める研究書は、A・J・ヘッシェルの『マイモニデス伝』(森泉弘次訳、​​教​文​館、2006年)のみです。


★『世界イディッシュ短篇選』は13篇を収録した、訳者ならではの一冊。目次を列記しておきます。
つがい|ショレム・アレイヘム
みっつの贈り物|イツホク・レイブシュ・ペレツ
天までは届かずとも|イツホク・レイブシュ・ペレツ
ブレイネ嬢の話|ザルメン・シュニオル
ギターの男|ズスマン・セガローヴィチ
逃亡者|ドヴィド・ベルゲルソン
塀のそばで(レヴュー)|デル・ニステル
シーダとクジーバ|イツホク・バシェヴィス・ジンゲル
カフェテリア|イツホク・バシェヴィス・ジンゲル
兄と弟|イツホク・ブルシュテイン=フィネール
マルドナードの岸辺|ナフメン・ミジェリツキ
泥人形メフル|ロゼ・パラトニク
ヤンとピート|ラフミール・フェルドマン
イデッシュ文学の〈世界性〉について|西成彦


★『後期資本主義における正統化の問題』は、細谷貞雄訳『晩期資本主義における正統化の諸問題』(岩波現代選書、1979年)以来の新訳。原著は『Legitimationsprobleme im Spätkapitalismus』(Suhrkamp, 1973)で、『コミュニケーション的行為の理論』に先立つ重要書です。岩波書店では『近代 未完のプロジェクト』(三島憲一編訳、岩波現代文庫、2000年)に続く、久しぶりのハーバーマスの文庫本第二弾。岩波文庫としては初めてです。20世紀後半のドイツ現代思想を代表する哲学者でありながら、日本では極端に文庫本が少ない気がします。


★『文選(もんぜん)詩篇』は全6冊予定。意外にも文庫での訳注書がなかったことに驚きを覚えます。凡例によればこの全6冊は、胡刻本(李善の注を付した60巻本を胡克家が1809年に刊行したもの)の「詩篇」の部(巻19~巻31)に収められた全作品の原文・訓読・訳・語注であり、今回発売された第一冊には巻19から巻21の「詠史」の途中までを収録し、巻末に「文献解説」を配しています。


★井波律子『三国志名言集』は2005年に岩波書店から刊行された単行本の文庫化。「『三国志演義』から160項目の名言・名セリフを選び出し、各項目ごとに、原文、書き下し文、日本語訳を記し、コメントを付したもの」(「名言・名セリフでたどる『三国志演義』――岩波現代文庫版あとがき」)です。同あとがきによれば、大きな手直しはないようです。ちなみに2010年に同版元から刊行された著者の『中国名詩集』が3月に岩波現代文庫として再刊されるとのことです。


★武田雅哉『中国飛翔文学誌』は帯文に曰く「堯・舜の神話伝説時代から、漢魏六朝の古譚、唐宋の伝奇、明清の小説戯曲、〔・・・〕清朝末期の新聞雑誌、20世紀中葉の中国でささやかれた都市伝説まで。神仙、凧、パラシュート、飛車、気球、飛行船、UFOと、空を飛ぶことに思いを馳せた中国人の言動のあれこれを鮮やかに描き出す」と。図版多数収録。稲生平太郎さんの名著『何かが空を飛んでいる』(新人物往来社、1992年;定本版、国書刊行会、2013年)が思い出されますが、本書の第十四話も「なにかが空を飛んでいる」と題されています。さすが中国4000年の奥深さと言うべきか、武田先生の長年にわたる博捜により、すでに年初にして2018年の収穫のひとつとして記憶されることが間違いないであろう素晴らしい一書となっています。


★石坂友司『現代オリンピックの発展と危機1940-2020』は「オリンピック研究の第一人者による刮目の分析」(帯文より)。第一章は、近代オリンピックの創設者クーベルタンが1896年の第一回アテネ大会の報告書に記した赤裸々な批評から始まるのですが、そもそも日本人はクーベルタンの本音やその晩年の悔恨についてどれほど知っているでしょうか。著者は「オリンピックはクーベルタンが創り出したそのときから、政治的であり、商業主義的であったことはつねに念頭に置いておく必要がある」(257頁)と書いています。本書はオリンピックを冷笑するための本なのではなく、その歴史的変遷を跡づけ、日本の読者にその光と影を提示するものです。


★篠原雅武『人新世の哲学』は帯文に曰く「一万年に及んだ完新世が終わり、新たな時代が始まっている。環境、物質、人間ならざるものたちとの共存とは何か。メイヤスー、ハーマン、デランダ、モートン、チャクラバルティ、アーレントなどを手掛かりに探る壮大な試み」と。著者は序論でこう述べています。「本書では、ハンナ・アーレントが『人間の条件』で試みた考察を、現代の新しい思想潮流(思弁的実在論、オブジェクト指向存在論)との関連で検討し直すことを試みる」(11頁)。そうした検討によって「アーレントは十分に述べることができていなかったが言外で曖昧なままに言われていたことをつかみ取り、そのうえで現代的に展開させていくことができるようになる」(13頁)と。


★またこうも書いておられます。「人新世をめぐる議論において問われているのは、人間が人間だけで自己完結的に生きるのではなく、地球において生息している様々な人間ならざるものとの連関のなかで生きているという現実をどう考えるのか、という問題である」(16頁)。「本書は、科学研究で提示されようとしている人新世という現実像をまともに受け止めたとき、人間にかんする知は根底的にひっくり返るだろうという見通しのもとで、人間の条件についての哲学的な考察を試みる。そこでは、人間と自然のかかわりをどう考えたらいいのか(一章)、人間世界が地球・自然世界から離脱してしまうことをどう考えたらいいのか(二章)、人間世界の条件の脆さをどう考えたらいいのか(三章)、人間世界の外に広がるエコロジカルな世界のリアリティをどう考えたらいいのか(四章)、事物の世界との相互的交渉における詩的言語の可能性をどう考えたらいいのか(五章)、エコロジカルな共存とは何か(六章)が問われることになる」(17頁)。


★植島啓司/伊藤俊治『共感のレッスン』は伝説的名著『ディスコミュニケーション』(リブロポート、1988年)以来となるお二人の対談をまとめた一冊。初出は「すばる」誌2016年7月号~2017年6月号に掲載された「超越する身体――「あなた」と「わたし」をつなぐもの」。大学生の時分に『ディスコミュニケーション』に大きな知的刺激を与えられた世代にとっては当然の必読新刊です。前作の攻撃的なまでの造本や内容に比べると成熟感が否めないものの――書籍を製本から解き放ったのはほかならない『ディスコミュニケーション』の附録でした――、30年越しでお二人のやりとりが読めるというのはやはりノスタルジー以上の贈物だと言うべきです。


★松田行正『歩行熱』は手に取ったが最後、造本の美しさとややこしさに釘付けになります。なんだこれ。しばらくは戸惑います。アンカットなのですが、ペーパーナイフで切開すればいいというわけではないページが最初から最後まで続く不思議な本で、かがり糸までオレンジなのです。21世紀の造本設計史に残る一冊と言うべきで、インクの匂いがオレンジ色の開かないページから零れ落ちてくるこの官能性は、モノとしての書物の可能性を改めて教えてくれます。牛若丸の本はハズレなしのマストバイばかりですが、またその輝かしい出版目録に新たな伝説が刻まれたのではないでしょうか。自分で買っても、誰かにあげても嬉しい本です。


★横田創『落としもの』は「すばる」「新潮」「群像」「ユリイカ」に2007年から2009年にかけて発表されてきた、単行本未収録の短編6作品をまとめたもの。収録作品と初出については書名のリンク先をご覧下さい。北田博充さんの『これからの本屋』(2016年)に続く、書肆汽水域の書籍第二弾です。周知の通り、書肆汽水域は北田さんが設立した出版社。カヴァー表4には6人の書店員さんの推薦文が記載されており、さらに投げ込みの冊子「『落としもの』の補助線」では、小国貴司さんや有地和毅さんとともに北田さん自身も一筆書かれています。書店人とともに書店人によって送り出された幸福な一冊です。北田さんによれば「書店員として、自分が売りたい本を自らの手でつくる取り組みの記念すべき一回目」の本なのだとか。製造小売業の試みとしても非常に興味深いです。


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ブックツリー「哲学読書室」に早尾貴紀さんと洪貴義さんによる選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、ダバシ『ポスト・オリエンタリズム』(作品社、2017年12月)の共訳者でいらっしゃる早尾貴紀さんと洪貴義さんによるコメント付き選書リスト「反時代的〈人文学〉のススメ」が追加されました。リンク先にてご覧いただけます。
◎哲学読書室星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」


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取次搬入日確定&書影公開:メニングハウス『生のなかば』

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「叢書・エクリチュールの冒険」第10回配本となる、ヴィンフリート・メニングハウス『生のなかば』(竹峰義和訳、月曜社、2018年1月、本体2,500円、46判並製224頁、ISBN978-4-86503-054-9)の取次搬入日が決定しました。日販および大阪屋栗田には1月30日(火)に搬入いたします。トーハンは1月31日(水)です。どうぞよろしくお願いいたします。書店さんの店頭に並び始めるのは、2月になってから順次となりそうです。書影を以下に公開いたします。
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注目新刊:『敗走と捕虜のサルトル』藤原書店、ほか

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★ここ最近で出会った新刊を列記いたします。インフルエンザに罹患中でして皆様もどうぞご自愛ください。


『敗走と捕虜のサルトル――戯曲『バリオナ』「敗走・捕虜日記」「マチューの日記」』ジャン=ポール・サルトル著、石崎晴己編訳解説、藤原書店、2018年1月、本体3,600円、四六判上製360頁、ISBN978-4-86578-160-1
『知の総合をめざして――歴史学者シャルチエとの対話』ピエール・ブルデュー著、加藤晴久/倉方健作編訳解説、藤原書店、2018年1月、本体3,600円、四六判上製246頁、ISBN978-4-86578-157-1
『金時鐘コレクション(Ⅱ)幻の詩集、復元にむけて:詩集『日本風土記』『日本風土記 Ⅱ』金時鐘著、宇野田尚哉/浅見洋子解説、浅見洋子解題、藤原書店、2018年1月、本体2,800円、四六変判上製400頁、ISBN978-4-86578-148-9
『室伏鴻集成』室伏鴻著、河出書房新社、2018年1月、本体6,000円、46変形判上製456頁、ISBN978-4-309-27913-8
『周作人読書雑記1』周作人著、中島長文訳注、東洋文庫(平凡社)、2018年1月、本体3,300円、B6変判上製函入448頁、ISBN978-4-582-80886-5
『収容所のプルースト』ジョゼフ・チャプスキ著、岩津航訳、共和国、2018年1月、本体2,500円、四六変型判上製228頁、ISBN978-4-907986-42-1
『デカルトの憂鬱――マイナスの感情を確実に乗り越える方法』津崎良典著、扶桑社、2018年1月、本体1,600円、四六判並製373+iv頁、ISBN978-4-594-07894-2
『現代思想2018年2月号 特集=保守とリベラル:ねじれる対立軸』青土社、2018年1月、本体1,400円、A5判並製232頁、ISBN978-4-7917-1358-5



★藤原書店さんの今月新刊より3点。まず『敗走と捕虜のサルトル』は、帯文の文言を借りると、捕虜収容所内で執筆され上演されたという実質的処女戯曲『バリオナ――苦しみと希望の劇』と、敗走・捕虜生活を日記の体裁で記述した「敗走・捕虜日記」「マチューの日記」の、いずれも初訳となる3編を収録した日本語版オリジナル編集の1冊。石崎さんは長篇解説「『バリオナ』論」で「その基本的コンセプトからして、その二年半後に上演された、職業的劇作家としての処女戯曲『蠅』にそのままつながる重要な作品である。ということは、サルトルの劇作活動の全体をある程度定義する作品ということにもなろう」(149頁)と記しておられます。


★『知の総合をめざして』も日本語版オリジナル編集本で、第Ⅰ部「社会学者と歴史学者」がブルデューとシャルチエの対談(原著2010年刊)の全訳で、第Ⅱ部「社会学のための弁明」に収められているのが、ブルデューの「講義についての講義」(コレージュ・ド・フランス就任講義、1982年4月)、「社会学の擁護」(CNRS:国立科学研究センター・ゴールドメダル受賞講演、1993年12月)、「参与的客観化」(英王立人類学研究所・ハクスレー記念メダル受賞講演、2000年12月)の3編。今月藤原書店さんから刊行されているブルデューの新刊にはもう一冊あります。ブルデュー/パスロン/ド=サン=マルタン『教師と学生のコミュニケーション 〈新版〉』(安田尚訳)で、新版にあたり大幅改訳が施され、苅谷剛彦さんが序文をお書きになっておられるとのことです。
 
★『金時鐘コレクション』は全12巻予定。金時鐘(きむ・しじょん:1929-)さんの初めての著作集ではないでしょうか。第1回配本が詩集2点を収録した第2巻です。『日本風土記』は1957年刊の第二詩集。『日本風土記Ⅱ』は第三詩集として刊行されるはずだった幻の散逸詩集を復元したもの。巻末には金さんによる「立ち消えになった『日本風土記Ⅱ』のいきさつについて――あとがきにかえて」と、インタビュー「至純な歳月を生きて――『日本風土記』から『日本風土記Ⅱ』のころ」が収められています。月報あり。


★このほか藤原書店さんの1月新刊には、チャールズ・A・ビーアド『「戦争責任」はどこにあるのか――アメリカ外交政策の検証 1924-40』(開米潤/丸茂恭子訳)があります。帯文に曰く「大好評を博した『ルーズベルトの責任』(全2巻)の姉妹版」で、初訳とのことです。



★『室伏鴻集成』は、舞踏家の室伏鴻(むろぶし・こう:1847-2015)さんのテクストを集成したもの。巻頭に土方巽(ひじかた・たつみ:1928-1986)さんによる「木乃伊の舞踏――室伏鴻」が置かれ、続いて室伏さんによる1970年代、80年代、90年代、00年代、10年代の諸テクストと、2014年と2015年の日記、細川周平さんによるインタヴューと山崎広太さんによるインタヴューが各1篇収められています。編者は中原蒼二さん、鈴木創士さん、渡辺喜美子さんの三氏。付属する栞では、麿赤兒さん、笠井叡さん、石井達朗さん、鴻英良さん、宇野邦一さん、丹生谷貴志さん、細川周平さん、安藤礼二さんが寄稿されています。


★『周作人読書雑記1』は全5巻予定の第1巻。周作人(Zhou Zuoren, 1885-1967)は魯迅の弟。帯文に曰く「古代から現代まで、中国、日本、ヨーロッパの書物を縦横に読み抜いた記録を集成。中国で最重要の知日家の書斎を読む」と。第1巻では、わたしの雑学、読書論、禁書、書誌、科挙、歴史・地理、神話伝説・宗教、の7部門に合計107篇を収録。1951年に、字典編纂について「営業本位の書店のやれる事ではない」(186頁)ときっぱり書いていることにある種の感慨を覚えます。東洋文庫次回配本は2月、柳本芸『漢京識略――近世末ソウルの街案内』と、エドゥアール・シャヴァンヌ『古代中国の社――土地神信仰成立史』が予告されています。


★『収容所のプルースト』は共和国さんのシリーズ「境界の文学」の一冊。著者のジョゼフ・チャプスキ(Józef Czapski, 1896-1993)はポーランドの画家。ソ連の捕虜収容所に連行された彼は、零下40度の極寒と厳しい監視下で、1940年から1941年にかけての冬にプルースト『失われた時を求めて』をめぐる連続講義を行ったといいます。その口述筆記をもとに、解放後の1944年にフランス語で作成したタイプ原稿が本書の元になっています。1943年に日刊紙に一部が掲載され、全文のポーランド語訳が1948年に「クルトゥーラ」誌に掲載。フランス語の全文が単行本『Proust contre la déchéance〔堕落に抗するプルースト〕』として刊行されたのは1987年で、今回の日本語初訳本では2012年に再刊された版を使用しているとのことです。収容所での講義の折の苛烈な記憶については1944年に書かれた著者による序文に書かれており、胸打たれます。


★『デカルトの憂鬱』は筑波大学人文社会系准教授の津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さんの初めての単独著。帯文には「外山滋比古氏激賞」とあり、「いわば“外交的なコミュ障”だったデカルトは「初志貫徹」と「臨機応変」を両立せよ! と説く――本書は、私たちに降りかかる様々なマイナスの状況といかに対峙すべきか、「デカルトは〇〇する」という身近な切り口から解き明かしていく。〔・・・〕毎日の生活で困ったこと、立ち止まって考えてみたいことがあったら、本書の出番!」とも謳われています。帯文だけでなく著者略歴に至るまで編集者の強力な「推し」が溢れており、それに負けることなく著者の工夫が随所に光っています。広く読まれていく予感がします。


★『現代思想2018年2月号 特集=保守とリベラル:ねじれる対立軸』は、二つの討議、宇野重規×大澤真幸「転倒する保守とリベラル――その空虚さをいかに超えるか」、荻上チキ×立岩真也×岸政彦「事実への信仰――ディティールで現実に介入する」を始め、論壇への鋭い眼差しを感じさせる特集号。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。3月号の特集は「ロジスティクスの思想」とのこと。これも期待大です。


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月曜社2018年2月下旬発売予定:佐藤真理恵『仮象のオリュンポス』

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◆2017年2月26日取次搬入予定【人文・表象文化論】


仮象のオリュンポスーー古代ギリシアにおけるプロソポンの概念とイメージ変奏
佐藤真理恵著
月曜社 2018年2月 本体3,400円 A5判上製250頁 ISBN: 978-4-86503-057-0


アマゾン・ジャパンにて予約受付中


古代ギリシアにおいて「顔」であると同時に「仮面」を意味する特異な言葉「プロソポン」をめぐり、その概念系とイメージの諸相を、古典文献や陶器画などの綿密な比較分析を通じてアナクロニックに横断し博捜する、新鋭によるたぐいまれなる成果。【シリーズ・古典転生:第17回配本・本巻第16巻】


プロソポンという主題は、古来よりきわめて多彩な変奏を伴って扱われてきた。そのなかでも、本書での考察がとりわけ光を当てたプロソポンの基調をなす「主旋律」とは、〈あらわれ〉の問題、あるいはより正確を期すならば、「〈あらわれ〉方」の問題である。表面がその「裏」や「内奥」を仄めかすものであることはいうまでもないし、いずれを語るにも表面から出発せざるをえない。プロソポンもまたそのような「表面」ではあるが、プロソポンをめぐる古代ギリシアの表象における真髄は、表層の深淵や彼岸を自覚しながらも、その〈あらわれ〉に目を凝らし、そこに積極的な価値を見出しえていたという点ではないだろうか。すなわち、〈あらわれ〉に、半透明のメディウムに、視覚の薄皮に、邂逅に、出来事に「あえて踏みとどまる」という身振りこそが、問われるべきものなのである。(本書より)


目次
序章
第一章 プロソポンの基本概念と隣接概念
 第一節 プロスとオープス
  語の成り立ちと語義
  基本概念――プロスの側から
  基本概念――オープスの側から
 第二節 プロソポンとプロソペイオン
  プロソポン――顔/仮面
  プロソペイオン
  プロソポン/プロソペイオン
 第三節 「プロソポンの下/背後」をめぐる言説――モルモリュケイオン、カルディア、ヒュポクリテス
  モルモリュケイオン――「裏返してそれをよく調べてみるがいい」
  カルディア――「うわべ」と「心」
  ヒュポクリテス――「返答する者」から「偽善者」へ
第二章 プロソポン――〈あらわれ〉の方へ
 第一節 饒舌なる表面
  半透明のメディウム
  「顔の言語」
  パイドラーのヴェール
 第二節 皺・痕跡・面影
  エトスとエートス
  古代ギリシア演劇における仮面

 第三節 視覚の表皮、事物の皮膜――デモクリトスにおけるエイドラ
  エイドラ
  デモクリトスの視覚論におけるエイドラ
  砂上の尻跡
  半物質的薄皮
第三章 対‐面 としてのプロソポン
 第一節 古代ギリシア陶器画における正面観図像
  カノン=プロフィール図像
  カノンからの逸脱=正面観図像
  先行研究における正面観図像の分類
  正面性・顔面性・他者性
  アポストロフェー
  (補遺)盲目の仮面、あるいは仮面の盲目性――正面観図像をめぐる疑問点と課題
 第二節 プロソポンは「鏡」か?――カタ・プロソポン
  カタ・プロソポン
  鏡、あるいは瞳=人見
  疑似眼球としての杯――古代ギリシア陶器における瞳=人見
  到来する「顔」
第四章 アプロソポス――別様の「顔」の形象のために
 第一節 美少年カルミデスの謎
  アプロソポスの基本的な語義
  「顔のない」美少年
  アプロソポス――美-醜のカテゴリー
 第二節 テオプラストスの「鉄面皮」
  問われる「破廉恥さ」
  「カメレオン的人間」
 第三節 非人称
  パッレーシア
  プロソポンと属性
  ウーティス――名無しの仮面
結び
あとがき
関連略年表
用語集
参考文献
索引


佐藤真理恵(さとう・まりえ)1981年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。シエナ大学古典世界・人類学研究所(イタリア政府給費)およびクレタ大学大学院古典文献学科(ギリシャ政府給費)留学。京都大学博士(人間・環境学)。京都教育大学、京都造形芸術大学非常勤講師。共著書に『芸術理論古典文献アンソロジー西洋篇』(幻冬舎、2014年)、共訳書にロベルト・エスポジト『三人称の哲学―生の政治と非人称の思想』(講談社、2011年)など。


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注目新刊:長田真作『すてきなロウソク』共和国、ほか

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『すてきなロウソク』長田真作著、共和国、2018年1月、本体1,700円、B5変型判上製64頁、ISBN978-4-907986-44-5
『ハンス・ヨナスを読む』戸谷洋志著、堀之内出版、2018年1月、本体1,800円、四六判並製232頁、ISBN 978-4-909237-34-7
『国民票決と国民発案――ワイマール憲法の解釈および直接民主制論に関する一考察』カール・シュミット著、仲正昌樹監訳・解説、松島裕一訳、作品社、2018年1月、本体2,000円、46判上製128頁、ISBN978-4-86182-679-5
『公共的なるもの――アーレントと戦後日本』権安理著、作品社、2018年1月、本体2,800円、46判上製336頁、ISBN978-4-86182-671-9



★『すてきなロウソク』は長田真作(ながた・しんさく:1989-)さんの10作目となる絵本。デビューは一昨年の2016年で、昨年は7冊も上梓されており、たいへんなスピードです。今回の『すてきなロウソク』は黒インクとニスのみで繊細な表現を試みたもので、その内容は極めて寓話的です。主人公やロウソクを何の象徴と見るか、またラッパの音の意味をどうとるかで解釈が変わってきそうです。版元さんのプレスリリースによれば「作者はこの作品のモティーフとして、自身の出生地である広島県呉市の現代史を重ね合わせている」とのことです。児童書というよりかは大人もゆっくりひもといてみたい作品。絵本はもはや絵本売場に留めておくべきではなく、他の各売場でも併売して大人との出会いを作った方がいいと感じます。ジャンルの壁を乗り越えて自身の作りたい本を作っておられる共和国さんの「自由」さが素敵です。


★『ハンス・ヨナスを読む』は戸谷洋志(とや・ひろし:1988-)さんによる『Jポップで考える哲学――自分を問い直すための15曲』(講談社文庫、2016年9月)に続く単独著第二弾です。ハンス・ヨナス(Hans Jonas, 1903-1993)はドイツ出身の哲学者。『責任という原理――科学技術文明のための倫理学の試み』(加藤尚武監訳、東信堂、2000年;新装版2010年)や『グノーシスと古代末期の精神』(二分冊、大貫隆訳、ぷねうま舎、2015年)、『生命の哲学――有機体と自由』(細見和之ほか訳、法政大学出版局、2008年;新装版2014年)、『ハンス・ヨナス「回想記」』(盛永審一郎ほか訳、東信堂、2010年)等々ありますが、入門書は本書が初めて。目次詳細は書名のリンク先をご覧下さい。年々注目が高まりつつある哲学者であるだけに、時宜を得た出版ではないでしょうか。「複雑に錯綜したヨナスのテクストを読み解きながら、これから彼を知ろうとする読者に一つの明瞭な手引きを提供すること、それによって、ヨナスの眼を借りながら、留まることのない科学技術文明の激動を、未来への責任を、世界を、新しい光のもとで眺める可能性を開くこと、それがこの本の目的です」(8頁)と戸谷さんはお書きになっています。


★『国民票決と国民発案』は『Volksentscheid und Volksbegehren: Ein Beitrag zur Auslegung der Weimarer Verfassung und zur Lehre von der unmittelbaren Demokratie』(Gruyter, 1927)の初訳。1926年12月11日にシュミットがベルリン法律家協会で行った講演が元になっており、「直接民主制の問題を扱った〔本書の〕最終部分は、講演のときよりも詳細に論じている」(「はじめに」より)と。帯文に曰く「ナチスの桂冠法学者が、ヒトラー政権樹立前、「世界で最も民主的」といわれたワイマール憲法を素材に、民主主義、議会と立憲主義などを論じる」。目次詳細は書名のリンク先をご覧下さい。監訳者解説「シュミット理論の魔(魅)力」で仲正さんはこう書いておられます。「九十年前のドイツで書かれたシュミットのテクストを、現代の日本の政治状況に直接的に重ね合わせることには慎重にならねばならないが、少なくとも、民衆の圧倒的な情熱に過度の期待を寄せる「直接民主主義」が、予想外の危険を秘めていることは読み取れるだろう。このテクストを通して読めば分かるように、魔性の法学者カール・シュミットは、少なくとも本人の理解では、“立憲民主主義者”だったのである」(125頁)。


★『公共的なるもの』は、権安理(ごん・あんり:1971-)さんの博士論文(早稲田大学大学院社会科学研究科)に大幅な加筆修正を程と越したもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書は「戦後日本という具体的な歴史の内に、〈公共的なるもの〉の概念を再構成する」こと(7頁)を目的としており、「はじめに」で著者はこう述べておられます。「アーレントは〔『人間の条件』で〕次のようにいっているが、この「世界」を「間もしくは空間」と読み替えてもよいだろう。「『public』という用語は、世界それ自体を意味する。世界が我われ全員に共通するものとなり、我われが私的に所有する場所と区別される限りにおいて」。〔・・・家とも職場・学校とも異なる〕第三のものが場所として考えられるとき、あるいは場所として顕在化するとき、それは公共空間や公共的領域、公共圏として見出されることになる。またあるいは私的で個別的な見方とは異なる視座から何らかの事象や物事が考えられ、その結果として何かが作られるとき、それは公共的な性質、つまりは公共性を持つということになる」(6頁)。


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「みすず」読書アンケート、紀伊國屋じんぶん大賞、和辻哲郎文化賞、新書大賞、ほか

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月刊誌「みすず」667号(2018年1/2月号)の読書アンケート特集で、弊社より昨夏に刊行したジャコブ・ロゴザンスキー『我と肉――自我分析への序論』を、廣瀬浩司さんと十川幸司さんが取り上げて下さいました。廣瀬さん曰く「多かれ少なかれハイデガーからの近さと遠さで規定されてきた、フランス現象学の総括の書」(44頁)、十川さん曰く「今年最もインパクトを受けた本」(97頁)と。


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また、今月19日(月)に贈賞式が行なわれる「紀伊國屋じんぶん大賞2018」の記念小冊子ができあがり、紀伊國屋書店さんの店頭で配布開始となっています。「キノベス!2018」とのカップリングの豪華なフルカラー冊子です。一年前に刊行した、星野太さんの『崇高の修辞学』が12位にランクインしており、未來社社長で詩人・批評家の西谷能英さんのコメントが掲載されています。同コメントは紀伊國屋書店さんのウェブサイトでも読むことができます。


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弊社より先月末、W・メニングハウスの訳書『生のなかば――ヘルダーリン詩学にまつわる試論』を上梓された竹峰義和(たけみね・よしかず:1974-:東京大学大学院総合文化研究科准教授)さんが、一昨年のご高著『〈救済〉のメーディウム――ベンヤミン、アドルノ、クルーゲ』(東京大学出版会、2016年)により、第30回「和辻哲郎文化賞」学術部門を受賞されました。竹峰さんの「受賞の言葉」や、選考委員の野家啓一さん、関根清三さん、黒住真さんの選評はこちらで読めます。


なお、先の「みすず」誌では杉橋陽一さんが竹峰さんの共訳書、ミリアム・ブラトゥ・ハンセン『映画と経験――クラカウアー、ベンヤミン、アドルノ』(法政大学出版局、2017年)や、昨年末の訳書であるテオドール・W・アドルノ『模範像なしに――美学小論集』(みすず書房、2017年)などを挙げて「ハンセンの訳書といい、アドルノの訳書といい、エネルギッシュかつ緻密な竹峰義和の仕事ぶりに感嘆する」と絶賛されています。弊社よりまもなく発売となる「多様体」第1号でも竹峰さんの翻訳によるハンス・カイザー『アクロアシス――世界の調和学についての教え 第一章~第四章』をお読みいただけます。


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弊社よりジュディス・バトラーの訳書『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』を上梓された佐藤嘉幸さんと清水知子さんがバトラーの近著『Notes toward a performative theory of assembly』(Harvard University Press, 2015)の訳書『アセンブリ――行為遂行性・複数性・政治』を青土社さんから先月刊行されました。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。佐藤さんによる巻末解説「アセンブリ、不安定性(プレカリティ)、行為遂行性(パフォーマティヴィティ)」によれば、本書は「2010年のチュニジア・ジャスミン革命、2011年のエジプト革命に始まる「アラブの春」、同じく2011年に始まるオキュパイ運動の影響下で、アクティヴィストらとの対話を背景として書かれたもの」とのことです。



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青土社さんの「現代思想」2月臨時増刊号は総特集「ハイデガー――黒ノート・存在と時間・技術への問い」と銘打たれており、M・ハイデガーの未訳論考「エルンスト・ユンガーへ」(山本與志隆訳)のほか、弊社でお世話になっている著訳者三氏の論考を読むことができます。初期ハイデガー論である『存在とロゴス』を上梓された阿部将伸さんによる論考「「様態的存在論」をめぐって――初期ハイデガーにおけるナトルプ批判とアリストテレス解釈」、ジョン・サリス『翻訳について』の訳者・西山達也さんによる「翻訳不可能なリズムをめぐって――ハイデガーによるアリストテレス読解の一側面」、ポール・ド・マン『盲目と洞察』の共訳者・宮﨑裕助さんにとよる「プロト脱構築について――ルター、ハイデガー、デリダ」などです。目次詳細は誌名のリンク先でご確認ください。



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「新書大賞2018」に今年も投票させていただきました。ベスト20は、まもなく発売となる「中央公論」2018年3月号に掲載されています。毎度のことですが、ベスト20と重複する私の選書はありませんでした。私は以下の書目を選んでコメントしています。141頁掲載。


『アナキズム入門』森元斎著、ちくま新書
『僕らの社会主義』國分功一郎/山崎亮著、ちくま新書
『フリーメイソン』橋爪大三郎著、小学館新書
『人類の未来』チョムスキーほか著、NHK出版新書
『バルカン』マーク・マゾワー著、中公新書

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注目文庫新刊、新書、既刊書、近刊書など:ちくま学芸文庫、ほか

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『グローバル・シティ――ニューヨーク・ロンドン・東京から世界を読む』サスキア・サッセン著、伊豫谷登士翁監訳、大井由紀/髙橋華生子訳、ちくま学芸文庫、2018年2月、本体1,900円、768頁、ISBN978-4-480-09842-9
『専制国家史論――中国史から世界史へ』足立啓二著、ちくま学芸文庫、2018年2月、本体1,200円、320頁、ISBN978-4-480-09843-6
『紀貫之』大岡信著、ちくま学芸文庫、2018年2月、本体1,100円、288頁、ISBN978-4-480-09845-0
『草莽論――その精神史的自己検証』村上一郎著、ちくま学芸文庫、2018年2月、本体1,200円、336頁、ISBN978-4-480-09846-7
『リヴァイアサン2』ホッブズ著、角田安正訳、光文社古典新訳文庫、2018年2月、本体1,160円、392頁、ISBN978-4-334-75731-9
『闘争領域の拡大』ミシェル・ウエルベック著、中村佳子訳、河出文庫、2018年2月、本体880円、216頁、ISBN978-4-309-46462-6
『世界の未来――ギャンブル化する民主主義、帝国化する資本』エマニュエル・トッド/ ピエール・ロザンヴァロン/ヴォルフガング・シュトレーク/ジェームズ・ホリフィールド著、朝日新書、2018年2月、本体778円、200頁、ISBN978-4-02-273752-6
『マルクス 資本論の哲学』熊野純彦著、岩波新書、2018年1月、本体880円、288頁、ISBN978-4-00-431696-1
『メイキング・オブ・勉強の哲学』千葉雅也著、文藝春秋、2018年1月、本体1,200円、四六判上製208頁、ISBN978-4-16-390787-1
『古代文芸論集』ロンギノス/ディオニュシオス著、戸高和弘/木曽明子訳、京都大学学術出版会、2018年1月、本体4,600円、四六変上製580頁、ISBN978-4-8140-0097-5
『赤の書[図版版]』C・G・ユング著、創元社、2018年1月、本体5,000円、A5判並製224頁、ISBN978-4-422-11675-4



★まずちくま学芸文庫の2月新刊から4点。『グローバル・シティ』はサッセンの初の文庫化。原書は2001年の第二版で訳書親本は2008年刊。文庫化にあたり、監訳者と訳者の大井さんの連名による新たな訳者あとがきが付されています。足立啓二『専制国家史論』の親本は1998年に柏書房より刊行。「文庫版あとがき」によれば、「再版に際しての修正は、文字の誤りなど表記の訂正にとどめた。ただし参照の便宜を考え、雑誌類に掲載された論文が著書に収録されている場合は、注に書名を併記するよう努めた」とのことです。大岡信『紀貫之』は、ちくま文庫(1989年)からのスイッチ。巻末には堀江敏幸さんによる解説「水底という「鏡」に映す自画像」が収められています。村上一郎『草莽論』は大和書房より1972年に刊行された単行本の文庫化で、国文社版『村上一郎著作集(3)思想論Ⅰ』(1977年)を適宜参照したとのことです。巻末に桶谷秀昭さんによる「村上一郎『草莽論』解説」が付されています。昨秋文庫化された『幕末――非命の維新者』(中公文庫)とともにひもとくのが良いかと思います。


★ホッブズ『リヴァイアサン2』は第二部「国家について」の新訳。同書には第三部、第四部までありますが、今回の新訳は第二部までで完結。『闘争領域の拡大』はウエルベックの処女小説(1994年)であり、訳本は2004年に角川書店より刊行。文庫化にあたり加筆修正され「文庫版訳者あとがき」が付されています。


★『世界の未来』の未来は、朝日新聞が昨年行った識者4名へのインタヴューを1冊にまとめたもの。エマニュエル・トッド「世界の未来――私たちはどこに行くのか」、ピエール・ロザンヴァロン「民主主義の希望――ポピュリズムと21世紀の民主主義」、ヴォルフガング・シュトレーク「資本主義の限界――グローバリゼーションと国際国家システムの危機」、ジェームズ・ホリフィールド「分断の克服――移民政策に失敗した国は、21世紀の負け組になる」を収録。


★熊野純彦『マルクス 資本論の哲学』は、2013年の大著『マルクス資本論の思考』に続くマルクス読解書。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。リンク先では本書の「まえがき――世界革命と世界革命とのあいだで」を立ち読みすることができます。


★千葉雅也『メイキング・オブ・勉強の哲学』は売上6万部を突破したという『勉強の哲学』の続編。メイキングが1冊になるというのは人文書では異例のことかと思いますが、本書の発売によって『勉強の哲学』の売れ行きがさらに伸びているとも耳にしています。『メイキング』第四章「欠如のページをめくること」において、「頭のなかで考えがこんがらがっている状態というのは、考えに対して距離がなくなり、近づきすぎている状態ではないでしょうか。とすればその解消とは、考えに対して距離をとることです」(143頁)と千葉さんは書きます。「不安の時代に対処するセルフヘルプのひとつの方法」を提示する本書は学生だけでなくビジネスマンにも訴求するのではないでしょうか。


★『古代文芸論集』は、ロンギノス「崇高について」(戸高和弘訳)と、ディオニュシオスの6篇の修辞学論をまとめたもの。6篇というのは「模倣論」木曽明子訳、「トゥキュディデス論」木曽明子訳、「デイナルコス論」木曽明子訳、「アンマイオスへの第一書簡」戸高和弘訳、「ポンペイオス・ゲミノスへの書簡」戸高和弘訳、「アンマイオスへの第二書簡」戸高和弘訳。「崇高について」の末尾で論じられる当時の社会情勢はどこか現代世界が抱える問題群と似ている気がします。


★ユング『赤の書[図版版]』は、テキスト版(2014年)と対になるものです。2010年に刊行された大判の元版は4万円を超える本ですが、テキスト版と図版版は両方買っても1万円ちょっとです。図版版はそれ自体が魔術的な物質性を備えており、たとえ文字が読めなくても、立ち昇ってくる息吹が見る者にインスピレーションを与えると思います。オールカラーでとても美しいです。


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★最近では以下の新刊との出会いがありました。


『資本主義リアリズム』マーク・フィッシャー著、セバスチャン・ブロイ/河南瑠莉訳、堀之内出版、2018年2月、本体2,000円、四六判並製212頁、ISBN978-4-909237-35-4
『私はすでに死んでいる――ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』アニル・アナンサスワーミー著、藤井留美訳、紀伊國屋書店、2018年2月、本体2,200円、46判上製352頁、ISBN978-4-314-01156-3
『お隣りのイスラーム――日本に暮らすムスリムに会いにいく』森まゆみ著、紀伊國屋書店、2018年2月、本体1,700円、46判並製292頁、ISBN978-4-314-01155-6
『ゲームの規則Ⅲ 縫糸』ミシェル・レリス著、千葉文夫訳、平凡社、2018年2月、本体3,600円、4-6判上製384頁、ISBN978-4-582-33325-1
『古代中国の社――土地神信仰成立史』エドゥアール・シャヴァンヌ著、菊地章太訳注、東洋文庫(平凡社)、2018年2月、本体3,100円、B6変判上製函入294頁、ISBN978-4-582-80887-2
『裁判の原点――社会を動かす法学入門』大屋雄裕著、河出ブックス(河出書房新社)、2018年1月、本体1,500円、B6判並製248頁、ISBN978-4-309-62509-6



★フィッシャー『資本主義リアリズム』は発売済。『Capitalist Realism: Is there no alternative?』(Zero Books, 2009)の完訳にしてフィッシャーの初訳本です。訳者によれば「マークの考える「資本主義リアリズム」は端的にいえば、ネオリベラル資本主義が唯一の持続可能な政治経済システムであると了解し、その地平の彼方を求める、いや想像することさえもが不可能になってしまった、つまるところは「この道しかない」ということが謎の常識と化してしまった世界を指し示している。こうした「現実主義」に疑問符をつけることが本書の出発点である」。帯にはジジェクの言葉が載っています。「「はっきり言わせてもらおう。たまらなく読みやすいこのフィッシャーの著書ほど、われわれの苦境を的確に捉えた分析はない」。フィッシャーは1年ほど前に逝去。「どんな希望も、どんな前向きな状態でさえも危険な錯覚だと信じてしまう」(19頁)リアリズムなるものに抗するための、燃え上がる紙つぶてです。


★アナンサスワーミー『私はすでに死んでいる』はまもなく発売。『The Man Who Wasn't There: Investigations into the Strange New Science of the Self』(Dutton, 2015)の翻訳。帯文に曰く「あっけなく崩壊する自己とは何なのか。「自分は死んでいる」と思いこむコタール症候群、自分の身体の一部を切断したくてたまらなくなる身体完全同一性障害、何ごとにも感情がわかず現実感を持てない離人症――当事者や研究者へのインタビューをはじめドッペルゲンガー実験や違法手術の現場も取材し、不思議な病の実相と自己意識の謎に、神経科学の視点から迫る」。著者はインド系アメリカ人の科学ジャーナリストで。英『ニューサイエンティスト』誌の編集コンサルタントを務めておられます。『宇宙を解く壮大な10の実験』(松浦俊輔訳、河出書房新社、2010年)に続く2冊目の訳書です。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。解説は昨夏に『私家版 精神医学事典』(河出書房新社、2017年8月)を上梓された精神科医の春日武彦さんがお書きになっておられます。


★森まゆみ『お隣りのイスラーム』はまもなく発売。副題にある通り、様々な国から日本に来て活躍しているイスラム教徒13人に取材し、その肉声から豊かなイスラム文化をかいま見せる好著。インドネシア人の舞踏家、バングラデシュ人のハラルフード店店主、シリア人のアレッポ石鹸販売会社代表、ウイグル料理店オーナー、等々、登場する人物のお名前と出身国は書名のリンク先でご覧になれます。日々の報道によって陰惨な事件の側面ばかりが目に入ってくる昨今、こうした人肌の温かみを感じさせる本が生まれたことを喜びたいです。


★レリス『ゲームの規則Ⅲ 縫糸』はまもなく発売。『La Règle du jeu, III. Fibrilles』(Gallimard, 1966)の翻訳。訳者あとがきに曰く「執筆期間は1955年11月から1965年9月までの10年間に及び、完成までにかなり長い年月を要しているのは『ゲームの規則』のほかの巻にも共通する点だが、とくにこの第Ⅲ巻の場合は、執筆を始めて一年半後に著者自身が自殺未遂事件を引き起こしたこともあって、その前後の紆余曲折をそのまま反映したものになっている」と。レリスはこう書いています。「バルビツール睡眠薬の壜の中身を嚥み込んだ瞬間ははっきり覚えていたが、そのあとの展開についての記憶はなんとも頼りない。わかっていたのは、この行為に及んだあとカンヌ行きの列車に飛び乗って、ピカソとその伴侶ジャクリーヌに会いにゆこうとしたのは、二人に別れを告げるためであり、また自分の胸のうちを明かして」云々(136頁)と。最終巻である第Ⅳ巻『囁音』(谷昌親訳)も今月末に発売予定とのことです。


★シャヴァンヌ『古代中国の社』は発売済。東洋文庫第887番。1900年にパリで開催された第一回国際宗教史会議で発表された「古代中国の宗教における土地神」を大幅増補し改題した1910年の決定稿「Le dieu du sol dans la Chine antique」を訳出したもの。原書では『泰山』の補遺として納められていますが、同じ訳者によるその抄訳(菊地章太訳、アシアーナ叢書:勉誠出版、2001年)では訳出されていませんでした。訳者解説によれば「土地神としての社の崇拝は、先祖をまつる宗廟の崇拝とならんで、古代における国家祭祀の中心的位置を占めてきた。その実態を解明した本論文は中国宗教史の黎明期に照明をあてたものとして評判が高い」と。東洋文庫の次回配本は月内にもう一点、柳本芸『漢京識略――近世末ソウルの街案内』(吉田光男訳註)が発売されるようです。



★大屋雄裕『裁判の原点』は発売済。序文「裁判は正義の実現手段ではない」に曰く「本書では、裁判という制度をその現実の姿において描き出すこと、立法・行政のような他の国家機能との関係でそれがどのような特徴と権限を与えられており、どのような制約の下にあるかを位置付けることによって、たとえば社会を動かすためにあり得る選択肢の一つとして何をそこに期待すべきなのかという議論を試みたい。それは同時に、裁判が本来そのようなものであることを予定されている姿、いわば裁判の原点を確認することにもなるだろう」(4~5頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。章題はすべて「~ではない」もしくは「~はない」と畳みかけており、一般的な幻想や期待、印象といったものが再審されています。「自分が正しいと考える意見に賛同する人を獲得し、その実現を図るという機能的な意味での政治を考えたとき、その中心的な舞台はやはり制度的な政治なのだ、立法活動と議会であって裁判と裁判所ではないのだということを、あらためて正面から考えるべきではないでしょうか」(205頁)という著者の指摘は至極真っ当だと感じます。


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注目新刊:スピノザ新訳『知性改善論/神、人間とそのさいわいについての短論文』みすず書房、ほか

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『知性改善論/神、人間とそのさいわいについての短論文』スピノザ著、佐藤一郎訳、みすず書房、2018年2月、本体7,800円、A5判上製584頁、ISBN978-4-622-08348-1
『音楽言語の技法』オリヴィエ・メシアン著、細野孝興訳、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス出版部、2018年1月、本体7,000円、A4判並製128頁、ISBN
978-4-636-95138-7
『『青色本』を掘り崩す――ウィトゲンシュタインの誤診』永井均著、講談社学術文庫、2018年2月、本体1,130円、A6判並製320頁、ISBN978-4-06-292449-8
『国家の神話』エルンスト・カッシーラー著、宮田光雄訳、講談社学術文庫、2018年2月、本体1,830円、A6判並製624頁、ISBN978-4-06-292461-0
『顔氏家訓』顔之推著、林田愼之助訳、講談社学術文庫、2018年2月、本体930円、A6判並製256頁、ISBN978-4-06-292477-1



★『知性改善論/神、人間とそのさいわいについての短論文』は『スピノザ エチカ抄』(みすず書房、2007年)につづく、佐藤一郎さんによるスピノザ新訳第二弾。カヴァー表4紹介文に曰く「後年の主著『エチカ』へと至る哲学の根本動機と独自の方法論が記述される二篇を、ラテン語刊本およびオランダ語写本から半世紀ぶりに新訳。最新の研究を踏まえた精細な訳注と解題を付した待望の一巻」。目次詳細は書名のリンク先でご確認ください。近年では吉田量彦さんによる『神学・政治論』(上下巻、光文社古典新訳文庫、2014年)も刊行されており、スピノザの新訳が増えつつあります。さらに國分功一郎さんの『中動態の世界』が広く読まれることによってデビュー作『スピノザの方法』が再び注目される機運も高まっています。なお『知性改善論』と『短論文』はともに畠中尚志訳が岩波文庫から出ており、後者は品切中ですが、前者は今なお手頃な値段で入手できます。みすず書房版は高額ではありますけれども、この値段でも版元や訳者が「儲かる」とまではいかないだろうと思われます。売れないという意味ではなくて、みすず書房のように多数の専門書を毎月何点も出版している会社で経営が維持できているというのは、本当にたいへんなことなのです。


★メシアン『音楽言語の技法』は『Technique de mon langage musical』(Leduc, 1944;『わが音楽語法』平尾貴四男訳、教育出版、1954年)の新訳です。旧訳は半世紀以上前のもののため、猛烈に高額な古書となっている様子。今回の新訳も早速版元品切になっているようですが、書店店頭にはまだありますし、このまま品切というわけではないと思われます。とはいえ早めに購入しておくのが良いでしょうね。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。平尾はるな〔平尾貴四男氏の四女〕さん、藤井一興さん、小鍛冶邦隆さんらによる「日本語版への序文」3本が巻頭に掲載されています。メシアンは序論で本書について、「私の音楽言語の技法、つまり音楽言語の3つの観点、リズム、旋律、和声を考察するものであり、作曲法概論ではない」(6頁)と明記しています。「この著書の目的は、〔・・・〕私が暗闇の中で希求した一条の光へと彼ら〔生徒たち〕をゆっくり導いていくことである」(同)とも。


★講談社学術文庫の今月新刊より3点を挙げると、まず、永井均『『青色本』を掘り崩す』はナカニシヤ出版から2012年に刊行された単行本の文庫化。文庫化にあたり、正副題が入れ替わっています。巻頭の「はじめに」に曰く、本書はウィトゲンシュタイン『青色本』後半部を「解読し論評したもの」。すなわち『青色本』の永井さん自身による新訳と論評で構成されています。『青色本』には「すでに大森正蔵氏〔『ウィトゲンシュタイン全集6』所収、大修館書店、1975年;ちくま学芸文庫、2010年〕と黒崎宏氏〔『『論考』『青色本』読解』所収、産業図書、2001年〕の二種類の邦訳があるが、この翻訳によって著者の意図がより明確になるように努めたつもりである」(6頁)と。永井さんはウィトゲンシュタインのことを「画期的な病人」と評するのですが、その真意はぜひ本書を手に取ってご堪能下さい。


★カッシーラー『国家の神話』の親本は創文社より1960年に刊行されたもの。帯文に曰く「古代ギリシアからナチズムまで――〈闘争〉の三千年史を描く不滅の金字塔! 全面改訂を施した決定版」と。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。原書は『The Myth of the State』(Yale University Press, 1946)で、底本は1950年の第3版です。創文社さんは2020年で解散予定。名著の数々はいったいどうなってしまうのでしょう。今回のように文庫化や再刊が進むことを念願せずにはいられません。



★『顔氏家訓』は文庫版オリジナルの新訳。同作を扱った複数の既刊書では抄訳や語釈はあるものの全篇の現代語訳は初めてのようです。まえがきによれば同作は、六世紀末に表わされた家訓書であり、宋の晁公武の『群斎読書志』では「立身、治家の法を述べ、時俗のあやまりを正して、これをもって子孫に教う」と説明されています。訳者は顔之推と本書について、こう述べています。「祖国の滅亡という悲劇を目の当たりにした後、北方異民族に拉致され、その王朝に漢民族官僚として仕えて生涯を閉じている。〔・・・今日読んでみても〕不思議とそんな遠い時代の文章とは思えないリアリティがある。〔・・・〕内容の鮮度は抜群に高い。これが古典の魅力というものであろう」(3~4頁)。


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★また、ここ最近では以下の新刊との出会いがありました。


『利己的な遺伝子 40周年記念版』リチャード・ドーキンス著、日髙敏隆/岸由二/羽田節子/垂水雄二訳、紀伊國屋書店、2018年2月、本体2,700円、A5判上製584頁、ISBN978-4-314-01153-2
『外の世界』ホルヘ・フランコ著、田村さと子訳、作品社、2018年2月、本体2,800円、四六判上製358頁、ISBN978-4-86182-678-8



★『利己的な遺伝子 40周年記念版』は、ドーキンスによる「40周年記念版へのあとがき」を付して2016年に出版された『The Selfish Gene』(Oxford University Press)の翻訳です。これまで紀伊國屋書店さんでは1976年初版本を1980年に『生物=生存機械論』として出版し、89年の第二版を91年に『利己的な遺伝子』として、2006年の30周年記念版を同年に同書増補新装版として刊行されてきました。凡例によれば、30周年記念版と40周年記念版の違いは、原書においては著者による「40周年記念版へのあとがき」が付されたことのみであり原文に改訂はない、と。訳書においてはこの新たなあとがきを訳出するとともに、岸由二さんによる「40周年記念版への訳者あとがき」を付し、訳文においては「時代的に古くなった本文中の表現・表記を修正した」とのことです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。紀伊國屋書店さんでは本書の刊行記念リーフレットを作成されており、佐倉統さんによる書評「世界を変えた一冊」と、橘玲さんと吉川浩満さんによる対談「『利己的な遺伝子』をめぐる10冊」が掲載されています。この豪華なリーフレットの書評と対談とはそれぞれのリンク先でご覧いただけます。


★『外の世界』はコロンビアの小説家ホルヘ・フランコ(Jorge Franco Ramos, 1962-)の小説『El mundo de afuera』(Alfaguara, 2014)の翻訳。フランコの既訳書はいずれも今回の訳者である田村さと子さんにより、2003年に『ロサリオの鋏』、2012年の『パライソ・トラベル』がともに河出書房新社から刊行されています。3冊目となる本書の訳者あとがきで田村さんは「本書は、構成の巧妙さという点で、これまでのフランコ作品の中で抜きんでている」とお書きになっておられます。「ストーリーの進行とともに、次第に増していく緊張感とリズム。だが、流動的で自然な中で交わされる軽妙な会話は象徴的な豊かさ、ユーモアに満ちている。その物語性は総合的に完成されており、アンティミズムや夢想、詩情あふれるニュアンスに満ちた文体で70年代初めのメデジン〔コロンビア西部の県都〕を見事に描き出している、と言えよう」。


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『多様体 第1号 特集:人民/群衆』特典およびイベント情報

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『多様体 第1号 特集:人民/群衆』は2月16日(金)に取次搬入いたしました。書店さんの店頭に並び始めているようです。全国のおよそ100店ほどで販売されておりますが、どの書店さんで扱われているかは、地域をご指定のうえ、メール、電話、FAX、当ブログコメント欄、ツイッターなどでお気軽にお問い合わせください。


ツイッターでは、東京堂書店神田神保町本店さんやMARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店さんなどで入荷情報が発信されています。また、リブロ営業本部さんにもツイートしていただきました。さらに、青山ブックセンター本店さん、ジュンク堂書店ロフト名古屋店さんにも。皆様ありがとうございます。


同書には2種類の購入特典があります。


1)限定小冊子「多様体 第零号:死なない蛸」文庫判61頁・・・八重洲ブックセンター本店で『多様体 第1号』をお買い上げのお客様に。同冊子は萩原朔太郎の詩と散文詩71篇をリミックスし、月曜社・小林浩による跋文「シグマの崩壊」を掲載したものです。もともとは2016年夏に八重洲ブックセンター本店人文書売場で行われた「月曜社フェア」の購入特典として配布されました。


2)限定小冊子「『多様体』(月曜社)創刊記念 編集人・小林浩さんインタビュー」A5判2段組8頁・・・代官山蔦屋書店または同店ウェブサイトで『多様体 第1号』をお買い上げか、下記イベントにご参加のお客様に。同冊子は創刊にあたり、代官山蔦屋書店人文担当・宮台由美子さんからの質問に月曜社・小林浩が答えたものです。第1号の「編集後記」と一緒にお読みいただければ幸いです。


また、同誌の関連イベントは以下の通りです。


◎『多様体』(月曜社) 創刊記念編集人 小林浩によるエディターズ・ビジット


日時:2018年02月28日(水) 18:00~18:30
場所:蔦屋書店1号館 1階 ブックフロア
定員:10名


参加条件:代官山 蔦屋書店にて、以下のいずれかをご予約、ご購入の先着10名様がご参加いただけます。
1.『多様体』(月曜社刊 2,700円/税込)
2.事前にご参加ご予約をいただいた上、当店にて(1,000円/税込)以上の書籍または雑誌のご購入
※ご購入のレシートを確認の上、参加券をお渡しいたします。こちらは代官山 蔦屋書店 店頭とお電話での受付のみ(03-3770-2525 代官山 蔦屋書店 人文フロア)です。


内容:新たに創刊された思想雑誌『多様体』(月曜社)の刊行を記念し、編集人・小林浩さんと棚をめぐりながら本のお話を聞くイベントです。当日は関連ブックフェアの棚を中心に、人文書の目利きによる棚の見方、本のお話、版元営業マンのノウハウをご披露頂きます。イベントにお申し込みまたは当店で『多様体』(月曜社)をお買い上げのお客様には、代官山蔦屋書店限定小冊子「『多様体』(月曜社)創刊記念 編集人小林浩インタビュー」をプレゼントいたします。


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ブックツリー「哲学読書室」に権安理さんの選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『公共的なるもの――アーレントと戦後日本』(作品社、2018年1月)の著者でいらっしゃる権安理さんによるコメント付き選書リスト「そしてもう一度、公共(性)を考える!」が追加されました。リンク先にてご覧いただけます。
◎哲学読書室星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」


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注目新刊:『ヘテロトピアからのまなざし』『21世紀のソシュール』ほか

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★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、編訳書:パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
未來社さんの「ポイエーシス叢書」第72弾として、上村さんの5冊目の批評集『ヘテロトピアからのまなざし』がまもなく発売されます。


ヘテロトピアからのまなざし

上村忠男著
未來社:ポイエーシス叢書72 2018年2月 本体4,800円 四六判上製450頁 ISBN978-4-624-93282-4
カバー紹介文より:思想史を中心に欧米の最新の学問的成果を精力的に紹介しつつ自身も〈ヘテロトピア〉をキーワードに新しい歴史学的方法論を構想してきた著者の最新評論集。

★廣瀬純さん(著書:『絶望論』、共著:『闘争のアサンブレア』、訳書:ヴィルノ『マルチチュードの文法』、共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
★郷原佳以さん(共訳:『ブランショ政治論集』)
青土社さんの月刊誌「現代思想 2018年3月臨時増刊号 総特集=現代を生きるための映像ガイド51」に寄稿されています。廣瀬さんによる「新たなロングショットの時代のために」では、木村文洋監督による長編フィクション作品『息衝く』(2017年)が論じられています。郷原さんによる「「僕がメモリだ」――メモリをめぐる「除籍者」たちの闘い」」では、クリストファー・マッカリー監督による『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年)が論じられています。ちなみに現物は見ていませんが、映画関連書では先月末に森話社さんから刊行された論集『ストローブ=ユイレ──シネマの絶対に向けて』において、竹峰義和さんが「イメージから抵抗へ──アドルノ美学とストローブ=ユイレ」というご論考を寄せておられます。竹峰さんは弊社よりメニングハウス『生のなかばで』の訳書や、シュティーグラー『写真の映像』の共訳書を上梓されています。


なお、廣瀬さんが2009年に洛北出版から刊行した『シネキャピタル』の仏語版『Le Ciné-capital : D’Hitchcock à Ozu』が3月に発売となるようです。廣瀬さんのツイートによれば「日本語版(09)とは異なる第3章を収めた西語版(14)を元に『シネマの大義』所収の小津論「ドゥルーズと日本人」政治映画論「地理映画の地下水脈」の加筆修正版、ペーター・サンディによる序文を付したもの」とのこと。





★金澤忠信さん(著書:『ソシュールの政治的言説』、訳書:ソシュール『伝説・神話研究』)
★宮﨑裕助さん(共訳:ド・マン『盲目と洞察』)
水声社さんから先月刊行された論文集『21世紀のソシュール』に寄稿されています。金澤さんは「ソシュールの伝説・神話研究」と題した論考を、宮﨑さんは「差延、あるいは差異の亡霊――ジャック・デリダによるソシュール再論」と題した論考を寄せておられます。なお宮崎さんは今月、法政大学出版局さんから刊行された『新・カント読本』(牧野英二編、法政大学出版局、2018年)にも「フランス語圏のカント受容──「人間」以後の超越論哲学の行方」という論考を寄せておられます。内容についてはご本人がツイートされています。


21世紀のソシュール
松澤和宏編
水声社 2018年1月 本体5,000円 A5判上製340頁 ISBN978-4-8010-00323-1
帯文より:ソシュールの〈ためらい〉。ラング/パロール、シニフィアン/シニフィエ、〈言語論的転回〉……フランス現代思想の潮流とともに喧伝された「ソシュールの思想」とは、膨大な草稿を残した言語学者の企図にかなっていたのだろうか。『講義』成立の背景とその功罪、理論的虚構としての〈ラング〉の限界と〈パロール〉の可能性、神話・伝説研究にみられる歴史観、アウグスティヌスからデリダまでの言語思想史上のメルクマール、認知言語学との類縁性、日本語学との邂逅……言語によって世界を整理区分するのではなく、むしろどこまでも曖昧になってしまうことに遅疑逡巡するソシュールが浮かび上がってくる。


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注目新刊:『Lexicon 現代人類学』『キュレーションの方法』『囁音』、ほか

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『Lexicon 現代人類学』奥野克巳/石倉敏明編、以文社、2018年2月、本体2,300円、四六変形判並製224頁、ISBN978-4-7531-0344-7
『キュレーションの方法――オブリストは語る』ハンス・ウルリッヒ・オブリスト著、中野勉訳、河出書房新社、2018年2月、本体2,700円、46判上製248頁、ISBN978-4-309-27919-0
『ゲームの規則Ⅳ 囁音』ミシェル・レリス著、谷昌親訳、平凡社、2018年2月、本体3,800円、4-6判上製480頁、ISBN978-4-582-33326-8
『漢京識略――近世末ソウルの街案内』柳本芸著、吉田光男訳註、東洋文庫:平凡社、2018年2月、本体3,400円、B6変判上製函入496頁、ISBN978-4-582-80885-8
『新装版 花の王国1 園芸植物』荒俣宏著、平凡社、2018年2月、本体3,800円、A4判上製160頁、ISBN978-4-582-54323-0
『新装版 花の王国2 薬用植物』荒俣宏著、平凡社、2018年2月、本体3,800円、A4判上製160頁、ISBN978-4-582-54324-7
『新装版 花の王国3 有用植物』荒俣宏著、平凡社、2018年2月、本体3,800円、A4判上製160頁、ISBN978-4-582-54325-4
『新装版 花の王国4 珍奇植物』荒俣宏著、平凡社、2018年2月、本体3,800円、A4判上製160頁、ISBN978-4-582-54326-1
『ブッチャーズ・クロッシング』ジョン・ウィリアムズ著、布施由紀子訳、作品社、2018年2月、本体2,600円、四六判上製340頁、ISBN978-4-86182-685-6



★『Lexicon 現代人類学』は27名の執筆者が「新たな「人文学」を構想」(帯文より)し、「今日的課題に挑む、現代人類学の思想と実践を追った50項目の「読む」キーワード集」(同)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。このところ人文書でも話題になっている「人新世」についても立項されています。コンパクトで持ち運びやすいサイズは、以文社さんが9年前に刊行された『VOL lexicon』という、読むキーワード集を思い出させます。『Lexicon 現代人類学』は項目ごとに関連するキーワードや参考文献が掲げられているので、書店さんの棚づくりやフェアに役立つと思います。水声社さんの「叢書 人類学の転回」や、青土社さんの「現代思想2017年3月臨時増刊号 総特集=人類学の時代」を扱っていらっしゃる書店にとっては必図書備ではないでしょうか。



★なお同書の刊行を祈念し、今週以下のイベントが行われるとのことです。


◎「人類学からの問いかけ:存在論×政治と経済×価値創造」奥野克巳×石倉敏明×上妻世海トークイベント
日程:2018年03月01日(木)19:00~20:30 開場:18:30~
会場:青山ブックセンター本店内(小教室)
料金:1,350円(税込)
定員:50名様
お問い合わせ先:青山ブックセンター本店 TEL:03-5485-5511 10:00~22:00


内容:前世紀末から現在まで、人文・社会科学の危機とともに「人間とは何か」という根源的な問いが再浮上する中で、人類学は大きな変貌を遂げ、隣接領域を巻き込む大きな知的運動の渦を起こしてきました。地球規模の自然環境とともに個人や集団、世界の在り方を問い直す「存在論」の問い、国境を超えて日常生活に浸透しつつある「経済と政治」の問い、モノや情報技術、技芸(アート)の実践をめぐる「価値創造」の問いなど、人類学はいま改めて「現代」を問い直し、共通世界を構想する実践的な道具となりつつあります。現代を人類学から見たとき、どんな光景が見えてくるのか、そして人類学から現代を問うということはどういうことなのか、語り合っていただきます。


★オブリスト『キュレーションの方法』は『Ways of Curating』(Penguin Books, 2014)の翻訳。帯文に曰く「英『アートレビュー』誌「現代アートの最も影響力を持つ100人」で第1位に選ばれたトップ・キュレーターが、自身の活動を振り返り、現代アートを含む芸術文化の過去と未来を語り尽くす!」。目次を列記しておきます。
プロローグ――事の次第
アリギエロ・ボエッティとともに
世界〔グローバル〕性
『do it』
キュレーション、展覧会、綜合芸術作品
クールベ、マネ、ホイッスラー
知をコレクションする
ミュージアムとアーカイヴについて
印刷された展覧会
終わりなき会話
先駆者たち
夜行列車やその他の儀式
キッチン
ローベルト・ヴァルザーとゲアハルト・リヒター
導師たち
フェリックス・フェネオンとホテル・カールトンパレス
見えない都市たち
こちらロンドン〔ロンドン・コーリング〕
建築、アーバニズム、展覧会
ビエンナーレ
ユートピア・ステーション
バレエ・リュス
時間と展覧会
パヴィリオンとマラソンについて
(カンファレンスならざる)カンファレンスをキュレーションする
『非物質的なものたち』
『ラボラトリウム』
未来をキュレーションする


★オブリストは「知をコレクションする」の冒頭でこう書いています。「コレクションをつくるとは、アイテムを購入し整理し、部屋であれ家であれ図書館であれミュージアムであれ倉庫であれ、或る場所に収蔵することである。それはまた不可避的に、世界について考えをめぐらせることでもある――コレクションを生み出す接続〔コネクション〕や原理には、想定、並置、発見、実験的な可能性や連想〔アソシエーション〕といったものが含まれる。コレクションづくりとは知を生産する一方法なのだと言ってもいい」(59頁)。また同テクストではこうも書かれています。「ルネサンス期にはすでに、キルヒャーなどの学者たちは「ミュージアム」を、学問研究に備えてアイテムをコレクションする場、またはモノのいっさい――書斎、図書館、庭園、百科全書――を指す語として用いていた。ミュージアムは過去をモノとして集成するアーカイヴということになっていた。19世紀後半にはすでに、ミュージアムの相互にコネクトされた一連の部屋を歩いていくことは、時間のなかを旅することだと理解されていた」(63頁)。日々中身が少しずつ入れ替わっていく「現在形の鏡」=「移ろうミュージアム」である書店のありようを考える時に、オブリストのキュレーション観は様々な示唆を与えてくれる気がします。


★レリス『ゲームの規則Ⅳ 囁音』は全4巻の最終回配本。原書は『Frêle bruit』(Gallimard, 1976)。これまでの三巻と異なり断章形式になっており、「拾遺集のような性格を帯び」ていると訳者の谷さんは指摘されています。また「レリスが『囁音』の執筆にかかっていた1960年代後半は、フランスにかぎらず世界各地で反体制的な運動が盛り上がりを見せた時代で、レリス自身も一種の高ぶりを感じていたに違いない」とも指摘されています。本書には例えば次のようなくだりもあります。「発言権を得るのは人食い鬼やロボットや猫をかぶった絞殺者や人の脳みそを台なしにする輩ばかりとなっていく世界で、任務放棄とならずに、非暴力の大義を支持するためには、いったいどうすればいいのだろうか」(236頁)。「ぼろぼろになった私の記憶〔メモワール〕をうまく繕ってはくれないこの覚書〔メモワール〕」(268頁)。「どんなことをしても廃絶できない悪があり、詩だけがそれに立ち向かう助けとなりうる」(同)。「かすかな物音」という原題を持つ本書は、レリスの思考の深淵を垣間見ることができる断崖のようです。



★柳本芸『漢京識略』は東洋文庫第885巻。訳注者の吉田さんによる「まえがき」に曰く「18世紀末から19世紀初頭にかけてソウルに居住していた柳本芸という一官僚知識人が、1830年に完成させたソウルの町案内」であり、「一文字のハングルのほかは、すべて当時の朝鮮知識人の共通文字言語である漢字漢文で記されている。したがって、街案内とは言え、想定される読者は庶民一般ではなく、あくまでも知識人階層に属する人々である」とのことです。現在に至るまで写本しかなく、本書は「日韓を通じて初めての刊本」(帯文より)と。東洋文庫次回配本は3月、『周作人読書雑記2』の予定。


★荒俣宏『新装版 花の王国』全4巻は、2014年に平凡社100周年を記念して刊行された『新装版 世界大博物図鑑』全5巻に続く、荒俣さんの図鑑本の新装復刊です。巻頭に掲載された「「花の王国」の読み方」によれば「各頁とも、植物名の〈見出し〉〈解説〉〈図版〉および〈図版説明〉で構成される。各巻とも、総数三十万余種もある植物のうちから、テーマにふさわしい珍奇で美しいものを選んだ。また巻末に、古今東西・現実架空の庭園を25項目ずつとりあげ、人間と植物の深い関わりを後づける〈天と地の庭園巡り〉を併載する」。古い文献から採用されたオールカラーの図譜の溜息の出るような美しさに加え、荒俣本ならではの博物学から雑学までを渉猟した情報と図版の数々が楽しませてくれます。『世界大博物図鑑』は1冊あたり税込2万円前後する高額本ですが、『花の王国』全巻買っても2万円を大きく下回ります。揃いでのご購入をお薦めします。


★ウィリアムズ『ブッチャーズ・クロッシング』は『Butcher's Crossing』(Macmillan,
1960)の翻訳。作品社さんではアメリカの作家ジョン・ウィリアムズ(John Edward Williams, 1922-1994)の小説『ストーナー』(東江一紀訳)を2014年9月に刊行されており、同書は昨年末に16刷を数えるロングセラーとなっています。今回刊行された『ブッチャーズ・クロッシング』は「19世紀後半の米国西部を舞台にしたバッファロー狩りの物語」(訳者あとがき)で、訳者の布施さんは「『ストーナー』を“静”とすれば、本書はまさに“動”。〔…〕『ストーナー』と同様、本書もやはり、人が生きることの本質を鋭く問いかける、味わい深い文学作品である」と評しておられます。


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ブックツリー「哲学読書室」に河南瑠莉さんの選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、マーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』(堀之内出版、2018年2月)の共訳者でいらっしゃる河南瑠莉さんによるコメント付き選書リスト「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」が追加されました。リンク先にてご覧いただけます。
◎哲学読書室星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」


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4月上旬刊行予定:J-L・ナンシー『ミューズたち』

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2017年4月5日取次搬入予定 *人文/芸術/現代思想


ミューズたち
ジャン=リュック・ナンシー著 荻野厚志訳
月曜社 2018年4月 本体:2,700円、46変型判[190mm×115mm×18mm]並製292頁 ISBN: 978-4-86503-060-0


美学の脱構築へ。古代から現代に至る広範な美学史や哲学史を参照しつつ、複数かつ単数の〈感覚=意味〉の問題として批判的に検討し直す、ナンシーによる芸術哲学の精華。解説=暮沢剛巳【芸術論叢書:第5回配本】


アマゾン・ジャパンで予約受付中


ミューズたちの名は、ある語根に由来している。それは熱情を、焦燥、欲望、あるいは怒りのなかに募る激しい緊張感を、知りたい、作りたいという熱意に充ちた緊張感を示している。より穏当な解釈では「精神の運動」だと言われる。ミューズは、励まし、駆り立て、搔き立て、揺さぶる。彼女は形態よりも力を見守る。あるいは、より正確には、彼女は力を込めて形態を見守る。しかし、この力は複数形でほとばしる。この力は当初から複数の形態で与えられている。存在するのはミューズたちであって、ミューズなるものではない。彼女たちの人数は、その属性と同じで、さまざまに変わるものだったが、ミューズたちはつねに多数いただろう。(本書より)


目次:
Ⅰ なぜ、ただ一つではなく、いくつもの芸術があるのだろうか?(世界の複数性についての対話)
Ⅱ ミューズたちを継ぐ乙女(諸芸術のヘーゲル的誕生)
Ⅲ 閾の上に
Ⅳ 洞窟のなかの絵画
Ⅴ 芸術の残骸
Ⅵ 諸芸術は一方と他方で為される
Ⅶ プラエセンス
日本語版解説 ジャン゠リュック・ナンシーと洞窟壁画:一つの註釈として(暮沢剛巳)
訳者あとがき

原書:Les Muses, Édition revue et augumentée, Éditions Galilée, 1994/2001.

ジャン゠リュック・ナンシー(Jean-Luc Nancy)1942年生。フランスの哲学者。芸術論系の著書に『訪問――イメージと記憶をめぐって』(西山達也訳、松籟社、2003年)、『映画の明らかさ――アッバス・キアロスタミ』(上田和彦訳、松籟社、2004年)、『肖像の眼差し』(岡田温司/長友文史訳、人文書院、2004年)、『イメージの奥底で』(西山達也/大道寺玲央訳、以文社、2006年)などがある。


荻野厚志(おぎの・あつし)1972年生。パリ第7大学DEA取得。芸術学、仏文学。既訳書にジャン゠リュック・ナンシー『私に触れるな――ノリ・メ・タンゲレ』(未來社、2006年)など。

暮沢剛巳(くれさわ・たけみ)1966年生。東京工科大学デザイン学部教授。近書に『オリンピックと万博――巨大イベントのデザイン史』(ちくま新書、2018年)など。
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