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ジャガーバックス復刊第2弾:『宇宙戦争大図鑑 復刻版』

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『宇宙戦争大図鑑 復刻版』小隅黎監修、復刊ドットコム、2016年1月、本体3,900円、B6判上製150頁、ISBN978-4-8354-5294-4
『宇宙怪物(ベム)図鑑 復刻版』小隅黎監修、復刊ドットコム、2015年8月、本体3,700円、B6判上製150 頁、ISBN978-4-8354-5233-3

★『宇宙戦争大図鑑 復刻版』は『宇宙怪物(ベム)図鑑 復刻版』に続く「ジャガーバックス」シリーズ復刊第2弾。親本は立風書房より1979年刊。いかんせん古書価が高いこのシリーズは子供向けだっただけに、愛読していた読者も大人になる前に廃棄してしまうことが多かっただろうことが推測され、また扱っている古書店の少なさもあって、再収集のしんどいシリーズではありました。復刻版の値段は2点とも4000円近くやや高額ですが、大人があの頃を思い出して買うには我慢できる価格でしょうか。

★復刊ドットコムの「最近の復刊活動」2015年8月26日付投稿によれば、同シリーズの『日本妖怪図鑑』と『世界妖怪図鑑』が《調査開始》となったようで、「本書に関する調査を開始しております。本書に関する情報(編者、執筆者、イラストレーターの連絡先など)をご存知の方は、ぜひお寄せください」と告知されています。この2点は同シリーズでももっともポピュラーな書目で古書価が1万円以下になることが少ないだけに、ぜひ復刊してもらえたらと願うばかりです。

★ちなみに個人的なことを言うと、私自身はジャガーバックスよりも学研の「ジュニアチャンピオンコース」に熱中していました。こちらも書目によっては古書価が高く、たとえばその一つ『なぞ怪奇 超科学ミステリー』は値段がなかなか下がりません。復刊ドットコムでは当然このシリーズにも票が集まっています。「ジャガーバックス」シリーズの復刊には学研プラスが協力していますが(立風書房は2004年に解散し、学研に吸収されています)、学研さんにはぜひ「ジュニアチャンピオンコース」の復刊にも力を入れていただきたいです。

★なお、復刊ドットコムでは現在「書物復権2016」を展開中。案内文によれば「専門書出版社10社で実施する共同復刊企画≪書物復権≫。各社選りすぐりの全148タイトルが、復刊候補としてエントリーされています。2月29日(月)までの応募受付期間中に寄せられたリクエストを参考に、4月中旬には復刊作品が決まります。復刊書籍は、5月下旬より復刊ドットコムで販売の予定です」と。さらに「また今回も、通常では復刊が難しい少数の要望にも応えるべく、個別の注文に対応するオン・デマンド版での復刊も実施いたします」とも。率直に言うと、復刊候補一覧は紀伊國屋書店の方が見やすいです。紀伊國屋書店の一覧では同一ページ内に詳しい書誌情報と内容紹介がある一方、復刊ドットコムの一覧は15頁に分載され、書名と版元名しかないのがほとんどで、個別商品ページに飛ばないと書誌情報詳細が見れないのが難点です。現時点では著者名に誤記が多いですが(タグないしインデクスがそのまま著者名に転用されてしまった感じ)、これはきっと改善して下さることでしょう。

★最近では上記新刊のほかに、下記の古典ものが目を惹きました。

『アリストテレス全集(9)動物誌(下)』金子善彦ほか訳、岩波書店、2015年12月、本体5,600円、A5判上製函入299/96頁、ISBN978-4-00-092779-6
『ニコマコス倫理学(下)』アリストテレス著、渡辺邦夫・立花幸司訳、光文社古典新訳文庫、2016年1月、本体1,280円、文庫判556頁、ISBN978-4-334-75324-5
『笑い/不気味なもの――付:ジリボン「不気味な笑い」』アンリ・ベルクソン/ジークムント・フロイト著、原章二訳、平凡社ライブラリー、2016年1月、本体1,500円、B6変判並製400頁、ISBN978-4-582-76836-7
『美学』アレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテン著、松尾大訳、講談社学術文庫、2016年1月、本体1,900円、文庫判864頁、ISBN978-4-06-292339-2

★『アリストテレス全集(9)動物誌(下)』は発売済。第12回配本です。版元紹介文に曰く「2002年に刊行された新校訂本による翻訳。下巻は、第7~8巻(動物の生き方と活動)、第9巻(ヒトの生殖・出産)、第10巻(ヒトの不妊)を収める」と。「月報12」は、鷲谷いづみ「研究誌としての『動物誌』とミツバチ」、高橋睦郎「アリストテレスまで」を掲載。次回配本は2月26日発売予定、第16巻「大道徳学/エウデモス倫理学」とのことです。

★古典新訳文庫の『ニコマコス倫理学(下)』も発売済。下巻では第6巻「知的な徳〔アレテー〕」から第10巻「幸福論の結論」までを収録。巻頭と巻末には訳者によるまえがきとあとがきを置き、解説は共訳者の渡辺邦夫さんが書かれています。カバー表4の紹介文に曰く「下巻では、行為と思慮深さの関係、意志の弱さにかんする哲学的難問、人生における愛と友人の意義、そして快楽の幸福への貢献について考察する。人間の感情と知性のはたらきを深く考え、完全な幸福とは何かを追究した、倫理学史上もっとも重要で、現代的な意味をもつ古典」と。

★『笑い/不気味なもの』は発売済。ベルクソンとフロイトの名著の初めてのカップリングです。比較的に入手が容易な文庫版ではベルクソンの論考は林達夫訳のロングセラー『笑い』を岩波文庫(1938年;改版1976年)で読むことができ、フロイトの論考は『ドストエフスキーと父親殺し/不気味なもの』(中山元訳、光文社古典新訳文庫、2011年)や『砂男/無気味なもの』(ホフマン/フロイト著、種村季弘訳、河出文庫、1995年)でも読めます。『笑い』の近年の新訳には、竹内信夫さんによる個人新訳全集版『新訳ベルクソン全集(3)』(白水社、2011年)所収の「笑い――喜劇的なものが指し示すものについての試論」があるものの、今回のようにハンディな廉価本で新訳が出るのは実に40年ぶりのことです。本書に併載されたジャン=リュック・ジリボン(1951-)の著書『不気味な笑い』は2010に平凡社より刊行された親本に手直ししたもの。このジリボンの訳書こそが、今回のベルクソンとフロイトの新訳カップリング本を生むきっかけとなっています。親本巻末にあった訳者解説「あそび・言語・生」は若干の修正されたうえ、新訳本の訳者あとがきの中に組み込まれています。

★バウムガルテン『美学』は1987年に玉川大学出版部から刊行された単行本の文庫化。原書はラテン語の著書でAesthetica(第1巻1750年、第2巻1758年)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文に曰く「「美学(aesthetica)」という概念を創始し、後世に決定的な影響を与えた画期の書」。カバー表4の紹介文にはこうあります、「厳密な定義に基づくバウムガルテン(1714-1762)の考察があったからこそ、カントやヘーゲルは「美学」という学問を確立することができた」と。学術文庫版訳者あとがきによれば「翻訳の改訂にあたっては、30年近くの訳者の研究の進展によって得られた洞察があるので、それに基づいて「解説」を大幅に書き直し、訳文にも細かく手を入れた。〔・・・〕あらたにいくつかの註を追加し〔・・・〕「人名・作品名索引」を加え、読者の便宜を図った」とのことです。


本日取次搬入:メイヤスー『有限性の後で』人文書院

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有限性の後で――偶然性の必然性についての試論
カンタン・メイヤスー著 千葉雅也・大橋完太郎・星野太訳
人文書院 2016年1月 本体2,200円 4-6判上製236頁 ISBN978-4-409-03090-5

帯文より:人文学を揺るがす思弁的実在論、その最重要作、待望の邦訳。この世界は、まったくの偶然で、別様の世界に変化しうる。

★本日取次搬入です。原書は、Après la finitude: Essai sur la nécessité de la contingence (Seuil, 2006)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者解説をお書きになっているのは千葉雅也さんです。人文書院さんのサイトでは第一章冒頭がPDFで公開されています。フランスの哲学者カンタン・メイヤスー(Quentin Meillassoux, 1967-)の単独著が訳されるのは今回が初めてです。思弁的実在論(Speculative realism; メイヤスー自身の言葉では思弁的唯物論)についてはwikipediaに情報がまとまっていますので、他にどういったキーパーソンがいるのかについてチェックしやすくなっています。月刊誌『現代思想』にこのところ継続的に関連論考が訳されているのは周知の通りです。また、思弁的実在論への批判を展開している新実在論(ガブリエル・マルクスなど)の訳書も刊行されていますので、このあたりは哲学・思想棚でまとめていただくと効果的かもしれません。

注目新刊:キケロの失われた著書『ホルテンシウス』を再構成

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『キケロ『ホルテンシウス』――断片訳と構成案』廣川洋一著、岩波書店、2016年1月、本体3,000円、四六判上製240頁、ISBN978-4-00-061104-6
『道化と笏杖』ウィリアム・ウィルフォード著、高山宏訳、白水社、2016年1月、本体6,400円、4-6判上製568頁、ISBN978-4-560-08306-2

『ぼくたちの倫理学教室』E・トゥーゲントハット/A・M・ビクーニャ/C・ロペス著、鈴木崇夫訳、平凡社新書、2016年1月、本体800円、新書判272頁、ISBN978-4-582-85801-3

『シャルリとは誰か?――人種差別と没落する西欧』エマニュエル・トッド著、堀茂樹訳、文春新書、2016年1月、本体920円、新書判320頁、ISBN978-4-16-661054-9

『三十歳』インゲボルク・バッハマン著、松永美穂訳、岩波書店、2016年1月、本体860円、文庫判320頁、ISBN978-4-00-324721-1



★『キケロ『ホルテンシウス』』は、キケロが晩年に「哲学へのすすめ=プロトレプティコス」のために書き、6世紀には失われたという著作『ホルテンシウス』の残存断片をもとにその全体を廣川先生が再構成した研究書です。セネカ、タキトゥス、ラクタンティウス、アウグスティヌスなどに影響を与えたという幻の名著に迫る本書は「キケロと『ホルテンシウス』」「『ホルテンシウス』断片訳」「『ホルテンシウス』構成案」の三部構成。断片訳の底本はミュラー版キケロ全集第4巻第3分冊(1890年)とのことです。103個ある断片のうち、もっとも多いのは、後4世紀の辞典編集者ノニウス・マルケルスによる『学識要覧(De compendiosa doctrina)』における引用で、65個に上ります。言うまでもなく廣川先生には『ソクラテス以前の哲学者』(講談社、1987年;講談社学術文庫、1997年)や『アリストテレス「哲学のすすめ』」(講談社学術文庫、2011年)、ヘシオドス『神統記』(岩波文庫、1984年)をはじめとする数々の古典の翻訳研究があり、いずれもロングセラーとなっています。


★『道化と笏杖』は高山宏セレクション〈異貌の人文学〉の第2シリーズの第1回配本です。原書は1969年刊、親本は晶文社より1983年に刊行されています。新版で新たに追加されたのは山口昌男さんによる「道化と幻想絵画――イコンの遊戯」(瀧口修造『幻想画家論』改訂版のために書かれたが収録されなかった論考)および「ウィリアム・ウィルフォード『道化と笏杖』書評」(『海』1983年6月号)の二篇と、高山さんによる新版へのあとがき「あらためてマサオ・ヤマグチ!」です。この末尾にはこうあります、「この『道化と笏杖』にしても同氏〔藤原義也さん〕の、細部にいたるチェックや提案なしに原書の輝きをとり戻すことはできなかったように思う」と。〈異貌の人文学〉第2シリーズの続刊予定には、ロザリー・L・コリー『シェイクスピアの生ける芸術』、エルネスト・グラッシ『形象の力』、アンガス・フレッチャー『アレゴリー』、ウィリアム・マガイアー『ボーリンゲン』が挙がっています。


★トゥーゲントハットほか『ぼくたちの倫理学教室』と、トッド『シャルリとは誰か?』は今月の新書新刊です。前者の原書はWie sollen wir handeln? (Reclam, 2000)、後者のはQui est Charlie? (Seuil, 2015)です。前者はトーゲントハットの既訳書『論理哲学入門』(ウルズラ・ヴォルフとの共著、晢書房、1993年)の印象からは良い意味でかけ離れたたいへん親しみやすい道徳入門です。少年少女たちが日常生活で出会ったニュースや事件をめぐってクラスメートたち会話を交わすという体裁を取り、容易に解きえぬ難問(殺人や窃盗など)へと読者を誘ってくれます。共著者のビクーニャとロペスは当時チリで中高生の倫理教育に携わっていたそうです。確かに中高生でも充分に読みやすい本です。


★『シャルリとは誰か?』は帯文に曰く「イスラム恐怖症が「自由」「平等」「友愛」を破壊する――仏独英で緊急出版!〈附〉パリISテロへの特別寄稿」と。カバーソデの内容紹介文は実に端的です。「2015年1月にの『シャルリ・エブド』襲撃事件を受けてフランス各地で行なわれた「私はシャルリ」デモ。「表現の自由」を掲げたこのデモは、実は自己欺瞞的で無自覚に排外主義的であった。宗教の衰退と格差拡大によって高まる排外主義がヨーロッパを内側から破壊しつつあることに警鐘を鳴らす」と。あのデモに違和感を覚えざるをえなかった読者にとって注目すべき分析が展開されています。巻頭の「日本の読者へ」においてトッドは「本書はたしかにフランスについての本ですが、私の確信するところでは、先進国のあらゆる読者に語りかけ、話を通じさせることができるはずの本です」(6頁)と書いています。この巻頭言は書名のリンク先で全文を読むことができます。


★オーストリアの作家バッハマン(Ingeborg Bachmann,1926-1973)の短篇集『三十歳』は、Das dreißigste Jahr (Piper, 1961)の翻訳で、底本は78年に同社から出た全集第三版とのことです。旧訳には白水社の「新しい世界の文学」シリーズで1965年に出版された生野幸吉訳『三十歳』があります。今回の新訳は約半世紀ぶりということになります。収録作は「オーストリアの町での子供時代」「三十歳」「すべて」「人殺しと狂人たちのなかで」「ゴモラへの一歩」「一人のヴィルダームート」「ウンディーネが行く」の7篇。「新しい言葉がなければ、新しい世界もない」という「三十歳」の主人公の日記の言葉(85頁)は、バッハマン自身の言葉でもあっただろうかと想像します。「人間らしさとは、距離を保つことができるということなのだ。/ぼくから距離をとってくれ、そうでなければぼくは死ぬ。それとも殺す、それとも自分を殺す。距離なんだ、頼むよ!/ぼくは怒っている、始めから終わりもない怒りだ」(「三十歳」42頁)。


★さらに最近では以下の新刊との出会いがありました。


『曝された生――チェルノブイリ後の生物学的市民』アドリアナ・ペトリーナ著、粥川準二監修、森本麻衣子・若松文貴訳、人文書院、2016年1月、本体5,000円、A5判上製380頁、ISBN978-4-409-53050-4
『なぜ老いるのか、なぜ死ぬのか、進化論でわかる』ジョナサン・シルバータウン著、寺町朋子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2016年1月、本体2,100円、46判上製264頁、ISBN978-4-7726-9549-7



★ペトリーナ『曝された生』は、Life Exposed: Biological Citizens after Chernobyl (Princeton University Press, 2002)の翻訳です。底本は、福島での原発事故についての言及がある新たな序文を加えた2013年版です。著者はペンシルベニア大学人類学教授。本書は著者のデビュー作で、医療人類学の分野において高い評価を得ています。リスク社会論で高名なウルリヒ・ベックは本書を「比類なきもの」として絶賛しています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻末解説「チェルノブイリとフクシマの生物学的市民権」をお書きになっておられる監修者の粥川さんは本書を「今後も起きるであろう大災害やバイオ医療技術の展開を見据え、広く深くそれらを考えるために、間違いなく必読書である」と評価されています。ここ最近盛り上がっている人類学でまた注目の新刊が出たかたちです。


★シルバータウン『なぜ老いるのか、なぜ死ぬのか、進化論でわかる』は、The Long and the Short of It: the Science of Life Span and aging (University of Chicago Press, 2013)の翻訳です。著者は原著刊行時はイギリスの国立通信教育大学「オープン・ユニヴァーシティ」の生態学教授でしたが、2014年10月からはエディンバラ大学の進化生物学研究所に移っています。著者にとって本邦初訳となる本書は、老化と寿命という人間にとって避けがたい仕組みとそれらが意味するものについて、進化生態学(Evolutionary Ecology)の見地から興味深く解説してくれます。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ヒトが進化の過程で不老不死を手に入れられなかった理由についても説明がありますが(223頁)、科学の素人でもなるほど、と納得できるものではないかと感じました。

注目新刊:アガンベン「ホモ・サケル」シリーズIV-2

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★ジョルジョ・アガンベンさん(著書:『アウシュヴィッツの残りのもの』『バートルビー』『思考の潜勢力』『涜神』『到来する共同体』)
★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
アガンベンさんのライフワークである「ホモ・サケル」シリーズ第4部第2巻が上村忠男さんによって翻訳されました。原著はL'uso dei corpi (Neri Pozza, 2014)です。「身体の使用」「存在論の考古学」「〈生の形式〉」の三部構成。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者あとがきに「ホモ・サケル」シリーズの一覧がありますので、書店さんはこの一覧でシリーズの売場の欠本をチェックされてみてください。

身体の使用――脱構成的可能態の理論のために
ジョルジョ・アガンベン著、上村忠男訳
みすず書房 2016年1月 本体5,800円 四六判上製512頁 ISBN978-4-622-07964-4
帯文:《ホモ・サケル》、極点の思考――政治呂倫理の新しい次元を可能態の観想が開く。「芸術・哲学・宗教・政治はその時代を終えてしまったが、私たちはそこに新しい生を汲むことができる」(本文より)。


★廣瀬純さん(著書:『絶望論』、共著:『闘争のアサンブレア』、訳書:ヴィルノ『マルチチュードの文法』、共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
★トニ・ネグリさん(著書:『芸術とマルチチュード』)
イタリア、スペイン、ギリシャの政治理論家8人に廣瀬さんが昨夏行ったインタヴューをまとめ、同時期に彼らが発表した論考を併載した魅力的な一冊が刊行されました。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。第Ⅰ部「ヨーロッパ」では、サンドロ・メッザードラ、マウリツィオ・ラッザラート、フランコ・ベラルディ(ビフォ)へのインタヴューを収録し、バリバールらの関連論考が訳出されています。第Ⅱ部「スペイン/ギリシャ」では、フアン=ドミンゴ・サンチェス=エストップ、ラウル・サンチェス=セディージョ、アマドール・フェルナンデス=サバテル、パンチョ・ラマス、スタヴロス・スタヴリデスへのインタヴューを収録し、ネグリらの関連論考が訳出されています。廣瀬さんによる巻末解説「現代南欧政治思想への招待」にはこんな一文があります。フランス知性のそうした嘆かわしい現況とは反対に、スペインやイタリアといった「南欧」では(ラテンアメリカにおけるとの同様に)今日もなお、情勢の下で思考する営みが精力的に続けられている」(370頁)。この前段にあるフランス哲学への鋭い言及を人文書担当の書店員さんは必ずチェックされてみてください。現代思想棚にはたいてい「米英」「ドイツ」「フランス」の分類はあると思いますが、大書店さんではさらに「イタリア」をまとめていらっしゃると思います。この「イタリア」に本書を接続し、さらに、あまり点数がありませんがスペインやギリシャの類書を繋げていくとよいと思います。

資本の専制、奴隷の叛逆――「南欧」先鋭思想家8人に訊くヨーロッパ情勢徹底分析
廣瀬純編著
航思社 2016年1月 本体2,700円 四六判並製384頁 ISBN978-4-906738-15-1
帯文より:ディストピアに身を沈め、ユートピアへ突き抜けよ。スペイン、ギリシャ、イタリアの最先端政治理論家たちがポスト産業資本時代の「絶望するヨーロッパ」をラディカルに分析する。

なお、以下の通り出版記念イベントが今週行われます。

◎廣瀬純×マニュエル・ヤン「民衆はいかに攻勢に転じるか――「シアトル」から「国会前」まで」
日時:2016年01月28日(木)19:30~
場所:ジュンク堂書店池袋本店4F喫茶コーナー
料金:税込1,000円(飲物代込)
内容:反グローバライゼイションから反戦を経てオキュパイへ。反貧困から反原発を経て反安保法制へ。90年代以後この20年のあいだ、民衆運動はどのような戦略・戦術にもとづいて展開され、何を獲得したか。日本ではどうだったか。資本がその破壊的本性を全面展開させるなか、「労働者」はどこへいったのか。アンダークラスは到来するのか。スペイン、ギリシャ、イタリアの政治理論家たちが呈示するヨーロッパ情勢分析とともに考える。

◎廣瀬純×北川眞也×上尾真道×箱田徹「「階級構成」とは何か」
日時:2016年01月29日(金)19:00~20:30
場所:地下2階 MARUZEN CAFÉにて
料金:税込1,000円(飲物代込)定員40名
内容:理論においても実践においても「階級」が語られなくなって久しい。「我々は99%である」と言われるときそこで語られているのは「階級」か。そうではあるまい。「階級」とはまさにその「99%」を二つに割るときにこそ初めて語られ得るものだからだ。安保法制反対運動がなぜあれほど多くの人々を運動へと招き得たのか。参加者にいっさいの「階級」的自覚を求めなかったからだろう。新たな人民は「空虚なシニフィアン」(ラクラウ/ムフ)の下で団結する「誰でもよい者」(ランシエール)として到来する? サンドロ・メッザードラをはじめとした「南欧」の理論家たちの議論を読み、「階級構成」分析のその今日的可能性を検討する。廣瀬純『資本の専制、奴隷の叛逆』、サンドロ・メッザードラ『逃走の権利』(人文書院)刊行記念イベント。


★佐藤嘉幸さん(共訳:バトラー『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
★立木康介さん(共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
さて、さきほど引用した廣瀬さんの文章の中に「情勢の下で思考する」という言葉がありましたが、これは下記のアンソロジー集『現代思想と政治』に廣瀬さんが寄稿された論考のタイトルでもあります。「情勢の下で思考する――アントニオ・ネグリと「六八年の哲学」」がそれです。『現代思想と政治』は京都大学人文科学研究所による共同研究成果報告書で、「政治/哲学」「資本/闘争」「主体/精神分析」の三部構成に17の論考を配置し、巻頭の序文を市田良彦さんが執筆されています。このアンソロジー集には佐藤嘉幸さんの論考「分裂分析と新たな主体性の生産――ガタリ『アンチ・オイディプス草稿』」や、立木康介さんの論考「ラカンの六八年五月――精神分析の「政治の季節」」も収録されています。

現代思想と政治――資本主義・精神分析・哲学
市田良彦・王寺賢太編
平凡社 2016年1月 A5判上製624頁 ISBN978-4-582-70340-5
帯文より:フーコー、ドゥルーズ、アルチュセール、ラカン……現代思想たちは、政治をどう指向したか? そこで政治は、どのようなものとしてとらえられたか? そのとき思想はどんな意味で現代であるか? 政治/哲学/資本主義/闘争/主体/精神分析……拡散しつつ円環を形作る、18人による根底的な論究。


★上野俊哉さん(著書:『アーバン・トライバル・スタディーズ』、共訳:ギルロイ『ブラック・アトランティック』)
★鵜飼哲さん(共訳:ジュネ『公然たる敵』)
★清水知子さん(共訳:バトラー『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
★本橋哲也さん(共訳:スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
月刊誌『現代思想』2016年1月号「ポスト現代思想」に上野俊哉さんの論考「フルッサー、知られざる群島としての」が、そして同誌の1月臨時増刊号「パリ襲撃事件――新しい<戦争>の行方」に鵜飼哲さんの論考「「みずから播いた種」――二一世紀のフランスの変貌」が掲載されています。後者に併載されているジジェクのエッセイ「キューポラの騒乱」の翻訳を清水知子さんが、そしてゼムデナ・アベベのエッセイ「なぜ世界は、パリをこれほど悼む、のか?」の翻訳を本橋哲也さんが担当されています。

備忘録(17)

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◆2016年1月27日13時現在。
1週間前から配信されている某店の「緊急事態」宣言が意味不明と話題に。引当率の低下は、取次や版元が年末年始営業してないから、という以上の特別な理由があるとは思えないのですが、なぜこんなボンヤリしたことを言い始めたのか。常に数字の理由を分析しているはずの某店にしてはやや雑なアクションです。帳合取次への当てつけなのか、直取キャンペーンへの新たな誘導なのか、色々と憶測を呼んでいます。ますます某店への版元の視線は冷やかになってきました。どんなにプレッシャーを掛けたって、取次も版元も365日24時間営業にはなりっこない。ブラックな要求なのかと思われても良いことはないはずです。

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◆1月28日17時現在。
「新文化」1月28日付記事「東京地裁、栗田出版販売の再生計画を認可」によれば「1月23日、東京地裁が認可して同25日付で確定証明書を発行」と。続けて「これにより2月1日に大阪屋の100%出資会社である㈱栗田に栗田出版販売の事業を譲渡、それと同時に社名を栗田出版販売に変更する。また、4月に栗田と大阪屋が統合することが正式に決まった」とも。返品問題の決着はいかに。

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◆1月28日18時現在。
さて、2015年のおさらい。「サイゾーpremium」12月30日~31日の記事「2015年出版流通業界10大ニュース」。「【前編】『火花』のヒットでも太刀打ちできない本屋の苦しい実態」「【後編】2016年もアマゾンからの容赦無い圧力は続くのか」。個人的な感想を言うと、3位の「新潮社が図書館の貸出猶予を検討=無料貸本屋問題」と9位の「TSUTAYA図書館問題」は逆な方が良い感じです。

まず前編から気になる部分を抜き出してみます。

書店B・・・書籍の新規出店在庫の支払いが2~3年後に始まる。その支払いを補うために、別の店を出すことがこの業界ではまかり通っている。もし、ジュンク堂書店がそうであるならば、もはや自転車操業といえるのではないだろうか。それはジュンク堂書店のような大型店のビジネスモデルが破たんしたことを意味するともいえる。だとするならば、この出店ラッシュの行きつく先は、出版界の大カタストロフィなのではないだろうか。
出版社A・・・ジュンク堂書店のような大型店が潰れてしまうと、連鎖倒産する中小出版社はかなり出るだろう。事実、新宿店が閉店したときに、かなりの在庫が返ってきて、取次からの入金が減った。大日本印刷が潰さないとは思うが、万が一にも潰れたら、相当大きなダメージを業界に与えるのは確かだ。

老舗版元営業幹部だというAさんの話は大げさなものではありません。ジュンク堂が万が一にも破綻すれば、その巨大なてのひらがなぎ払う中小版元の数は相当数にのぼるはずです。なぜなら、ジュンク堂こそが中小版元の小ロット本の受け皿になっているからです。ジュンク堂が仕入れない本は他チェーンではなおさら扱われませんから、まさに中小版元は「ジュンク堂と共に生き、ジュンク堂と共に死ぬ」運命です。ジュンク堂は一店舗ごとの規模が大きいので、閉店するだけでもAさんが言う通り入金に影響を及ぼし、場合によっては単月で赤字が出ることすらあります。

つづいて後編から。

書店B・・・アマゾンとの関係が深くなればなるほど、アマゾンに搾取されることを出版社は考えないのだろうか? 年間契約しかり、直取引しかり。いま売れるからといって、これから先もずっと売れ続けるわけはない。いずれ頭打ちが来る。それはそんなに遠くはないだろう。年間契約を止めた版元に聞いたら、アマゾンは相当な仕打ちを出版社にしたらしい。検索結果などでのお薦め商品にあえて表示しない、カート落ちもほったらかし、あげくはアマゾンの倉庫から商品を一斉に返品してくる、などなど。そうした前例をつくりながらアマゾンは、「いまうちとの年間契約を止めたら売上が10%は落ちる」と出版社に圧力をかけているとも聞いた。さすがに売上が10%も落ちると出版社も厳しい。年間契約のアマゾンへの支払い報奨が上がったとしても、10%ダウンよりはまし、と契約を更新してしまうようだ。
出版社A・・・うちは、直取引はしていないし、これからもする気はない。66%とか、他にも70%近い正味を持ちかけられている版元もあると聞く。ただ、その条件が未来永劫続くはずもない。おそらく単年度更新で、新たに低い条件を提示してくるのだろう。うちが契約しないのは、そのためだ。だが、直取引している出版社は確実に増えているのも一方で事実だろう。出版社のアマゾン依存はますます深まっていくおそれがある。出版社にとっても、売上を上げる選択肢がなくなっているのが原因だ。むしろ、アマゾンがそういうプレシャーを出版社にかけてくる会社だと割り切って、今から有利な条件でアマゾンと契約しようと考える出版社もある。実際、取次だって成績が悪ければ、歩戻し交渉してくるのだから、交渉相手が取次から手ごわいアマゾンに変わったともいえるだろう。

今日開催されたという説明会では、予想にたがわず直取引の慫慂だったそうで、今後も積極的に取次外しを進めようということでしょうけれど、相当数の版元が強い警戒心やアレルギーを持っているのも事実なので、先方の目論見は完遂しえないように思われます。いずれにせよ、2016年はいっそう激しい変動がありうるのでしょう。

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◆1月29日14時現在。
2月8日(月)?

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◆1月29日15時現在。
おさらい。「新文化」1月26日付記事「大洋図書、日販に帳合変更へ」に曰く「大洋図書は同社FC店舗188店について、日販と取引きすることを決めた。これまでは太洋社と取引きしていたが、2月1日付で帳合変更することになった」と。

おさらい。「出版状況クロニクル92(2015年12月1日~12月31日)」に曰く「ちょうど1年前の本クロニクル80で、「正念場の1年もまた出版物売上の下げ止まりはまったく見られず、出版業界全体がさらに奈落の底へと沈み始めている。15年はその解体の年として記録されることになろう」と書いた。それはこの異常な高返品率、栗田出版販売の破産に表出したことになる」と。

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新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる本屋さん

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ここ最近更新していませんでしたが、弊社本をご発注いただいた新規書店さんをご紹介します。

2015年11月9日【日販】TSUTAYA BOOK STORE ららぽーとEXPOCITY【芸術書】(約800坪:図書・文具・DVD-CDセル)大阪府 吹田市千里万博公園2-1 ららぽーとEXPOCITY 2F
2015年11月25日【日販】浦和蔦屋書店【芸術書】(??坪:図書・文具)埼玉県さいたま市浦和区高砂1-16-12 アトレ浦和1700
2015年12月1日【トーハン】こみかるはうす藤が丘店【人文書】(260坪:うち図書200坪)愛知県名古屋市名東区明が丘51 シャトー藤が丘1F
2015年12月6日【トーハン】三省堂書店池袋本店【人文書】(1000坪:図書・雑貨)東京都豊島区南池袋1-28-1 西武池袋本店書籍館・別館
2015年12月10日【日販】オリオン書房ららぽーと立川竜飛店【芸術書】(??坪:図書・文具雑貨・本棚珈琲)東京都立川市泉町935-1 ららぽーと立川竜飛1F
2016年1月10日【日販】京都岡崎蔦屋書店【芸術書】(150坪:図書およびカフェ)京都市左京区岡崎最勝寺町13 ロームシアター京都 パークプラザ1F
2016年1月22日【日販】ジュンク堂書店名古屋栄店【人文・文芸・芸術書】(610坪:図書)愛知県名古屋市中区新栄町1-1
2016年2月26日【日販】ジュンク堂書店立川高島屋店【人文・芸術・文芸書】(1,032坪:図書およびカフェ)東京都立川市曙町2-29-3 立川高島屋6F

ジュンク堂書店さんが日販帳合のお店を出店し始めたのが興味深いですね。京都岡崎蔦屋書店は、前川國男さん設計の「京都会館」をリノベーションした建物がたいへん美しいです。外国人客の来店も見込んでいるのだとか。なるほど。

このほかにもイオン系SC内で展開されている大人向けの趣味の本棚で間章著作集』全3巻のご発注を頂戴することがしばしばありました。

・未来屋書店モンテメール芦屋(2015年9月17日【日販】兵庫県芦屋市船戸町1-31 モンテメール芦屋本館1F)
・未来屋書店葛西(11月改装【日販】東京都江戸川区西葛西3-9-19 イオン葛西店4F)
・未来屋書店イオンモール常滑(2015年12月4日【日販】愛知県常滑市りんくう町2-20-3 イオンモール常滑2F)
・ニュースタイルイオンモール筑紫野(2015年12月4日改装【トーハン】福岡県筑紫野市立明寺434番地1 イオンモール筑紫野3F)※『間章~』ではなく、その他の芸術書
・未来屋書店イオンモール岡山(2015年12月5日【日販】岡山市北区下石井1-2-1 イオンモール岡山5F)※『間章~』ではなく、森山大道写真集など。
・イオンスタイル御嶽山駅前(2015年12月11日改装【日販】東京都大田区北嶺町37-13)の2~3Fの書籍コーナー

以上です。

注目新刊:不可視委員会『われわれの友へ』夜光社、ほか

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われわれの友へ
不可視委員会著 HAPAX訳
夜光社 2016年1月 本体1,500円 新書判並製256頁 ISBN978-4-906944-07-1
裏表紙紹介文より:ひとつの文明の終わりが/世界の終わりではない者たちへ/なによりもまず蜂起のうちに/組織ぐるみの嘘と混迷と愚かさの支配にうちこまれた/ひとつの裂け目をみとめる者たちへ/たちこめる「危機」の霧の背後に/作戦と術策と戦略がくりひろげられる舞台の存在を/――それゆえ反撃の可能性をみいだす者たちへ/攻撃する者たちへ/好機をうかがう者たちへ/共謀の友をもとめる者たちへ/離脱する者たちへ/試練をたえぬく者たちへ/みずからを組織化する者たちへ/革命的な力をつくり だそうとする者たちへ/革命的、なぜならそれは感覚的なものであるから/われわれの時代を解明するための/ささやかな試論をここにささげる。

目次:
蜂起はついに到来した
メリー・クライシス・アンド・ハッピー・ニュー・フィヤー
 一、危機は統治の一様態である
 二、真のカタストロフは実存と形而上学のカタストロフである
 三、アポカリプスは失望させる
やつらは統治を背負わせようとする、われわれはその挑発にはのらない
 一、現代蜂起の相貌
 二、民主主義的な蜂起など存在しない
 三、民主主義は純粋状態の統治にほかならない
 四、脱構成のセオリー
権力とはロジスティクスである。すべてを遮断せよ!
 一、権力はいまやインフラのうちに存在する
 二、組織化と自己組織化の違いについて
 三、封鎖戦術〔ブロカージュ〕について
 四、調査について
ファック・オフ・グーグル
 一、「フェイスブック革命」などない。あるのは新たな統治学としてのサイバネティクスである。
 二、「スマート」を打倒せよ
 三、サイバネティクスの悲惨
 四、技術vs.テクノロジー
あとをくらませ
 一、奇妙な敗北
 二、平和主義者とラディカル――地獄のカップル
 三、対蜂起としての統治
 四、存在論的非対称性と幸福
われわれの唯一の故郷、幼年期
 一、「社会」は存在しない、したがってその防衛も破壊もありえない
 二、淘汰を離脱へと反転させなければならない
 三、「ローカルな戦争」などない。あるのは諸世界間の戦争である
オムニア・スント・コムニア
 一、コミューンの回帰について
 二、革命派として住まう
 三、経済を打倒する
 四、共有された力能に参入する
今日のリビア、明日のウォールストリート
 一、十五年の歴史
 二、ローカルなものの引力から身をひきはなす
 三、組織化ではない力をつくりあげる
 四、力能をはぐくむ
訳者あとがき


HAPAX vol.5 特集『われわれの友へ』
夜光社 2016年1月 本体900円 四六判変形並製124頁 ISBN978-4-906944-07-1

目次:
コミューン主義とは何か?/HAPAX
革命のシャーマンたちが呼び出したものたち/李珍景
日本からの手紙――terrestritude のために/友常勉
都市を終わらせる――資本主義、文化、ミトコンドリア/反-都市連盟びわ湖支部
「われわれの友へ」、世界反革命勢力後方からの注釈/チョッケツ東アジア by 東アジア拒日非武装戦線
壁を猛り狂わせる/堀千晶
隷属への否――不可視委員会とともに/中村隆之
コミューンのテオクリトスたちによせて/入江公康
永山則夫について/鼠研究会
真の戦争/『ランディ・マタン』誌論説

★『来たるべき蜂起』(L'Insurrection qui vient, La Fabrique, 2007;『来たるべき蜂起』翻訳委員会、彩流社、2010年)に続く、不可視委員会(Comité invisible)の訳書第二弾『われわれの友へ』と、同書を特集した「HAPAX」第5号がまもなく発売となります。関連書に不可視委員会の前身であるティクーンの論考を併載した『反-装置論――新しいラッダイト的直観の到来』(『来たるべき蜂起』翻訳委員会+ティクーン著、以文社、2012年、本体2,000円、四六判並製184頁、ISBN978-4-7531-0303-4)があります。

★『われわれの友へ』の原書は、À nos amis (La Fabrique, 2014)です。「本テクストは八カ国語、四大陸で同時的に刊行される。〔・・・〕いまこそわれわれは世界的に自己組織化すべきである」(15頁)と巻頭言にあります。「自己組織化とは、同じ組織に加入することではまったくない。そうではなく、どんな水準においても共通の知覚にもとづいて行動することである。〔・・・〕われわれに欠けているもの、それは状況をめぐって共有された知覚である」(13頁)。「状況をめぐって共有される知性が生み出されるのは、唯一のテクストからではなく国際的な議論からである。議論がなされるためには賭け金がなければならない。本書はそのひとつである。われわれは革命派の伝統と態度を歴史的局面という試金石にかけ、革命というガリヴァーを地面に縛りつけている無数の理念の糸を断ち切ろうとこころみた」(14頁)。

★『われわれの友へ』の巻頭には《社会の敵》ジャック・メスリーヌ(Jacques Mesrine, 1936-1979)の言葉「別の世界は存在しない。別の生き方があるだけだ」が引用され、巻末の詩的結語には「書くことは虚栄である、それが友にむけられていなければ。たとえいまだに見知らぬ友にむけてであっても。〔・・・〕このテクストはひとつのプランのはじまりである。ではさっそく、」(246, 248頁)というふうに、ピリオドではなくカンマが置かれており、握手する時に手を開いて差し出すようにテクストを読者へと開いています。友たちと一緒に別の生き方へと踏み出すこの共同性の内実を不可視委員会は次のように鮮烈に描いています。「蜂起というものはすべて、どれほど局地的であっても、それ自体をこえて合図をおくる。いかなる蜂起にも即座に世界的な何かがふくまれている。蜂起のさなかでわれわれはともに時代の高みに達するのである」(11頁)。「われわれは散発的な諸反乱と同時代なのではない。知覚されないものとなって交流しあう、唯一にして世界的な蜂起の波と同時代なのである」(10頁)。「2008年から世界中で生じているのは、ナショナルな密閉空間のそれぞれに突拍子もなく生起するなんの脈絡もない一連の噴出ではない。それはギリシャからチリまで、時間と空間の厳密な一貫性のなかでくりひろげられる、唯一の歴史的シークエンスである」(11頁)。

★「いわばわれわれは、われわれがすでにいる場所へとドアをこじ開けなければならない。構築すべき党とは唯一、すでにそこに存在する党のことである。われわれに共通の状況、グラムシがいうところの「共通の大地性〔テレストリチュード〕」の明晰な把握をさまたげている心理上のがらくたを処分してしまわなければならない」(12頁)。このcommune terrestritude/common terrestritudeの明晰な把握へと向けて、「HAPAX」第5号は編まれています。

★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。

『イスラーム神学』松山洋平著、作品社、2016年1月、本体2,700円、46判上製528頁、ISBN978-4-86182-570-5
『アルメニア人の歴史――古代から現代まで』ジョージ・ブルヌティアン著、小牧昌平監訳、渡辺大作訳、藤原書店、2016年1月、本体8,800円、A5判上製528頁、ISBN978-4-86578-057-4

★『イスラーム神学』は発売済。帯文に曰く「日本で、唯一の「イスラーム神学」本格的入門書。最重要古典の一つ「ナサフィー信条」の全訳と詳解を収録。欧米・日本で少数派のムスリムが社会と共生するために必要となる「ムスリム・マイノリティのためのイスラーム法学と神学」を付す」とあります。「スンナ派概論」「スンナ派の信条――ナサフィー『信条』訳解」の二部構成で、附録として「ムスリム・マイノリティのためのイスラーム法学と神学」が加えられています。巻末には引用文献、略年表、イスラーム神学用語集、索引を完備。

★著者の松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さんは名古屋外国語大学の非常勤講師をおつとめのほか、日本ムスリム協会の理事でいらっしゃいます。著書に『イスラーム私法・公法概説 公法編』(日本サウディアラビア協会、2007年)があります。日本ムスリム協会前会長の樋口美作さんの推薦文にはこうあります。「本書はイスラームの90%を占めるスンナ派(スンニ派)の信条を解説するものである。〔・・・〕内容的にも、スンナ派を自称する過激集団ISの実態を知る端緒ともなりうるもので、各章の興味ある項目を拾い読みしただけでも、〔・・・〕イスラーム理解のヒントを与えてくれる」。

★ちなみにより特定的にイスラーム原理主義の思想的源流に興味がある方には、サイイド・クトゥブ(1906-1966)の二冊の既訳書『イスラーム原理主義の「道しるべ」――発禁“アルカイダの教本”全訳+解説』(第三書館、2008年)、『イスラーム原理主義のイデオロギー――サイイッド・クトゥブ三部作:アルカイダからイスラム国まで オバマ大統領が憎む思想』(ブイツーソリューション、2015年)が参考になります。

★『アルメニア人の歴史』は発売済。原書は、A Concise History of the Armemian People: From Ancient Times to the Present (6th Edition, Mazda, 2012)です。帯文に曰く「作曲家ハチャトリアン、作家サローヤン、歌手アズナヴールら優れた芸術家を輩出してきたアルメニア人。ゾロアスター、キリスト教、イスラームなどの宗教が交錯するコーカサスの地における、アラブ・スラヴ・ペルシア・トルコ・モンゴルなど諸民族・諸帝国による支配からの独立に向けた苦闘と、世界に離散した「ディアスポラ」の三千年史を一冊にまとめた、アルメニア史研究の世界的第一人者による決定版の完訳」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。カラー口絵16頁ではいずれも美しい教会や文化遺産が紹介されています。アララト山の神々しさには見とれてしまいます。

★著者のジョージ・ブルヌティアン(George A. Bournoutian, 1943-)はイラン・イスファハン生まれ、アメリカ在住のアルメニア人歴史家で、ニューヨークのアイオナ大学教授をおつとめです。著書の日本語訳は今回が初めてになります。教授は93~94年に『アルメニア人の歴史(A History of the Armenian People)』を刊行し、その後、合本のうえ大幅増補した『アルメニア人の略史』を2002年に上梓しました。今回の訳書はこの『略史』の第6版を底本としています。

★藤原書店の月刊PR冊子「機」2016年1月号に掲載された藤原良雄社長による「出版随想」には本年度の主要企画が明かされています。5月:金時鐘コレクション、秋:中村桂子コレクション、多田富雄全集、といった大型企画のほか、今春以降からアラン・コルバン編『男らしさの歴史』全3巻、エマニュエル・トッド『家族システムの起源』、アラン・バディウ『存在と出来事』、ジュール・ミシュレ『日記』など、素晴らしいラインナップです。

哲学書房出版目録の移設公開について

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株式会社哲学書房さんが2016年1月31日をもって廃業されました。同社のサイト閉鎖に伴い、同社の出版目録と社主、故・中野幹隆(1943-2007)さんによるウェブサイト開設当時の挨拶文を、中野さんのご遺族の許可を得て月曜社ウェブサイトへ移設し、公開いたします。哲学書房と中野幹隆さんのすぐれた出版活動を顕彰するよすがとなれば幸いです。

ウェブサイト移設に際しては有限会社ヌーディ取締役の松岡裕典さんのご協力を賜りました。松岡さんに厚く御礼申し上げます。

なお、哲学書房さんについては最後のお知らせがいくつかありますので、追ってご紹介する予定です。


備忘録(18)

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◆2016年2月1日15時。
栗田の返品問題についての最終解決文書(1月29日付)が週末から週明けにかけて版元に届き始めています。溜息やら怒声やらが飛び交う月曜日の午後です。先週後半からかなり騒がしくなっている別の懸案事項については、「それはない」という説と「火のないところに」という説が交錯。今までに比べてかなり条件が整いつつある詰将棋の盤上に見えがちではあります。この業界においては杞憂という言葉はなく、実際のところ、土俵に上がっている以上は天井が崩れて落ちてくる状況から逃げようもありません。

まもなく「ユリイカ」3月臨時増刊号「出版の未来――書店・取次・出版社のリアル」が発売に。発売までは小田光雄さんの「出版状況クロニクル93(2016年1月1日~月31日)」を拝読。『出版クラッシュ!?』(編書房、2000年)の「あとがき」にある13の試案については、今後もっと様々な立場の人々を交えた議論があってよいはずです。

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◆2月3日15時現在。
ツイッター上での呟きには5日ほどまえから気になる徴候(「栗田の次は×××か・・・」)が出始めていましたが、昨日からいっそう気がかりな投稿が。
「『×××から雑誌が入ってこない、明日うちは新刊の雑誌が店に並ばない』って取引先の本屋の担当がすげー嬉しそうに話してる。」
「×××.....」
「×××帳合いの書店に、本が届かなくなっているようです…。#出版」
某社が品止めをしているという以上に、出荷停止をしている版元がある、といった方が正しいのかもしれませんが、よく分かりません。

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◆2月4日午前9時j現在。
ツイッター上での情報。「店頭も本探す端末のとことレジにしかにしか張り紙がない。」との張り紙に曰く《本日、2月3日~2月7日まで、配送倉庫トラブルの影響により商品の入荷が出来ない状況になっております。》と。別の呟きでは「調べてみると△△△全店そうらしい。」と。こうした状況では「あとはお察し下さい」という展開になってしまい、負の連鎖が広がる可能性があるだけに、気がかりでなりません。

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◆2月4日午前10時現在。
同帳合の他書店チェーンでは、新刊コミックが昨日は全店に入荷あり。さらに別の書店チェーンの方の呟きにも目立った変化はなし。

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◆2月5日午前10時現在。
9日搬入新刊の部決、本日普通にできました。しかし、すでに決まっていることもあるとの噂。この二つの要素を考え合わせると、導かれる答えは・・・。話のつじつまは合ってます。

いっぽう某店の張り紙の真相らしきものについては巨大掲示板に示唆あり。

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◆2月5日13時現在。
コミックプラザの公式アカウントより「入荷の件で大変ご迷惑おかけしており申し訳ありません。再開予定は2/10頃の予定です。今しばらくお待ちいただくよう何卒お願い申し上げます。」と。2月7日までには決着がつかないということでしょうか。逆に言えば決着のメドがついたということでもあるでしょう。

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◆2月5日15時現在。
FAX文書全7枚「書籍・雑誌等の供給継続のお願い」2月5日付。代表取締役國弘晴睦さんのお名前で。2月8日(月)15時30分、説明会。

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◆2月5日16時現在。
「新文化」2月5日付記事「太洋社、自主廃業へ」に曰く、「2月5日、出版社と書店に対して、自主廃業を前提に説明会を開くことをファックスで伝えた。〔・・・〕ファックスによると、同社は出版社への買掛金の支払いに万全を期すために「同社全資産の換価」を進めながら、取引書店の売掛金回収と同業他社へ帳合変更する合意を得ていく。自主廃業する時期については触れていない。同8日は國弘晴睦社長からこれまでの経緯などが報告される見通し。〔・・・〕」と。

「文化通信」2月5日記事「太洋社、自主廃業へ 8日に説明会を開催へ」に曰く、「太洋社は2月5日、取引先の出版社や書店などに対して、今後、自主廃業に向けて、取引書店の他取次への帳合変更などを進めることを伝える文書を送った。書店の帳合変更を進めるとともに、書店の売掛金回収と不動産…」以下有料記事。

「東京商工リサーチ」2月5日速報「出版取次業の太洋社が自主廃業へ」に曰く、「ピーク時の平成17年6月期には売上高486億6721万円をあげていたが、バブル経済崩壊以降の出版業界全体の需要減少に加え、インターネット通販や電子媒体普及により得意先の中小書店への売上が落ち込み、扱い出版物は次第に減少した。このため、売上は徐々に低下し、27年6月期の売上高は171億2152万円にまで落ち込んだ。赤字を散発し、10億円以上の繰越欠損を抱え、財務立て直しのため旧本社不動産(文京区)を売却していた。しかし、売上減少に歯止めがかからず、従業員のリストラや新狭山センター閉鎖などによる再建を模索したものの奏効せず、自主廃業に向けた調整に入った」と。

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◆2月5日17時現在。
「帝国データバンク」2月5日付「大型倒産速報」欄、「中堅の出版取次業者、株式会社太洋社、自主廃業視野、説明会開催へ」に曰く、「(株)太洋社(資本金1億8000万円、千代田区外神田6-14-3、登記面=東京都中央区銀座2-2-20、代表國弘晴睦氏、従業員100名)は、自主廃業も想定し、会社の全資産の精査ならびに取引先である書店の帳合変更などを進める方針を2月5日付で明らかにした。/当社は、1946年(昭和21年)3月創業、53年(昭和28年)8月に法人改組された。国内中堅の出版取次業者として、書籍・雑誌・教科書およびステーショナリーなどの取次販売を手がけていた。特にコミックの扱いには力を入れ、「コミックの太洋社」と言われるなど業界での評価は高く、〔・・・〕。2015年6月期の年売上高は約171億2100万円に減少。同期までに10期連続減収、6期連続経常赤字を余儀なくされるなど、業況悪化に歯止めがかからない状態が続いていた。〔・・・〕2015年6月には業界4位の栗田出版販売(株)(東京都千代田区)が民事再生法の適用を申請。以降は当社に対する周囲の警戒感が高まるなか、得意先の帳合変更も相次いでいた。/負債は2015年6月期末時点で約84億7900万円だが、その後に変動している可能性がある。〔・・・〕」。

上記の速報を受けて「ITmediaニュース」でも2月5日付速報「コミックに強い取次中堅の太洋社、自主廃業も視野に」を配信しています。

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◆2月5日22時現在。
「共同通信」2月5日配信記事「太洋社が自主廃業へ――出版取り次ぎ中堅」によって全国の各紙に概要が掲載され周知されつつある状況です。

興味深いのは、「おたぽる」2月5日付、昼間たかしさんの記名記事「エロ本への影響は首の皮一枚で回避……出版取次大手・太洋社が自主廃業決定」です。曰く「とりわけ動向に注視していたのは、同社が多くのシェアを占めるアダルト系の出版社。〔・・・〕「今回ばかりは、うちも倒産するかと思いました。支払いは確保しているということなので、ホッとしていますよ」/そう話すのは、ある老舗アダルト系出版社の社長。これまでも、栗田出版販売の民事再生法の申請、協和出版販売のトーハンへの統合などさまざまな困難があったが、今回ばかりは連鎖倒産の危険が現実味を帯びていたようだ。/今回の自主廃業にあたって、太洋社側は取引先がほかの取次に移行するまで対応する旨を示している。出版社、書店での混乱は最低限になりそうな見込みだ」。

霞寿さんのツイートとアメブロ記事にも注目すべき証言と指摘あり。「エロ本取次問屋大手の太洋社が自主廃業。駅前や街の小さなエロ本屋が主要顧客だった。2月1日以降配本が停止していた。太洋社仕入れのエロ本屋はトーハン、日販への緊急口座開設制度(保証金減免)を活用するか廃業するかの選択しかないので街に根差したエロ本屋の連鎖倒産が懸念される。」「我々出版人(文屋)に急激な影響はないが、2018年の消費税増税に伴う18禁本のコンビニ販売停止は死活問題となろう。〔・・・〕問題は、約1千店の街の小さなオヤジが切り盛りしているエロ本屋と、その顧客の行き場がなくなる事だ。〔・・・〕と、考えると官能小説雑誌、文庫、コミックスの危機ともいえよう。/かつてはキヨスクでも販売していたが、キヨスクのコンビニ化が進む中で官能小説雑誌と文庫、新書は急速に棚から消えている。/歴史小説雑誌も似た客層だ…/全国約2万店ある書店のうち約1千店が今日明日、一斉に棚卸し&全品返品作業をするというのはかなりの事件なのだ。〔・・・〕ぜひトーハン、日販には保証金などの緩和を速やかにしていただき、街の小さな本屋さんが生き残ってくれる策を期待したい」。

また、帳合書店「まんが王」さんや、仲間卸で太洋社さんとの取引があった版元「ミシマ社」さんのツイートが胸を打ちます。

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取次搬入日決定:申鉉準ほか著『韓国ポップのアルケオロジー』

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申鉉準ほか著『韓国ポップのアルケオロジー――1960-70年代』(平田由紀江訳、月曜社、ISBN978-4-86503-029-7)の新刊配本の取次搬入日は、日販、トーハン、大阪屋、太洋社、いずれも2月9日(火)です。部数決定は5日(金)のため、続報があれば追記します。

2月5日午前10時追記:4社とも部決しました。予定通り9日に搬入します。日販、大阪屋、太洋社分は王子日販に。トーハン分は桶川に。

注目新刊:青土社月刊誌臨時増刊号三連弾、など

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まず最初に弊社出版物でお世話になった著訳者の皆様の最近のご活躍をご紹介します。

★ヒロ・ヒライさん(編著:『ミクロコスモス』第1号)
ヒライさんが監修をおつとめのシリーズ「BH叢書」の姉妹編とも言うべき単行本が以下の通り刊行されました。「BH叢書」は人文書売場で展開されていますが、今回の単行本は芸術書(西洋美術)売場がメインのようです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。原著は、The Choice of Lorenzo: Botticelli's Primavera Between Poetry and Philosophy (英語版は未刊、伊仏二カ国語版がFabrizio Serra Editoreより2012年に刊行)です。鮮やかなカラー図版満載の一冊。著者のポンセ(Christoph Poncet, 1963-)さんはパリの学術研究所「ヴィラ・スタンダール」所長で、日本語で読める著書は本書が初めてのものとなります。勁草書房さんの編集部ウェブサイト「けいそうビブリオフィル」では著者のメッセージを読むことができます。

ボッティチェリ《プリマヴェラ》の謎――ルネサンスの芸術と知のコスモス、そしてタロット
クリストフ・ポンセ著 ヒロ・ヒライ監修 豊岡愛美訳
勁草書房 2016年1月 本体2,600円 A5判上製144頁 ISBN978-4-326-80057-5
帯文より:女神ウェヌスの視線と右手、花に包まれた女神フローラ。クピードーの矢の向かう先。右の暗い森と左の楽園・・・幻想と神秘の世界にいざなうイタリアルネサンス芸術の代表作、そこにはいまだ解かれていない謎がある。秘密の鍵をにぎるのは一枚のタロット・カード《恋人》。愛と詩情あふれるルネサンスの「知のコスモス」を豊かに描きだす!


★近藤和敬さん(著書:『カヴァイエス研究』、訳書:カヴァイエス『論理学と学知の理論について』)
『現代思想 2016年3月臨時増刊号:人類学のゆくえ』(中沢新一監修、青土社、2016年2月、本体2,200円、ISBN978-4-7917-1316-5)に、論考「普遍的精神から、ネットワーク状のプシューケーでなく、特異的プシューケーへ――思考の脱植民地化とEndo-epistemologyへの転回のために」(266-281頁)を寄稿されているほか、パトリス・マニグリエ「形而上学的転回?――ブルーノ・ラトゥール『存在様態探求 近代の人類学』について」(98-112頁)の翻訳を担当されています。同特集号には石倉敏明さんによる人物相関チャート「今日の人類学地図――レヴィ=ストロースから「存在論の人類学」まで」が掲載されています。書店員さんの棚作りにとって非常に参考になると思います。

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月刊「みすず」の恒例の「読書アンケート特集」号が発売になりました(2016年1-2月、645号)。デザイナーの鈴木一誌さんが、弊社が昨年10月に刊行した森山大道写真集『犬と網タイツ』を取り上げてくださいました。「森山は、自身の営為を、写真都市という〈もうひとつの〉都市を無数の断片によって構築している、とする。映像をもって映像の惑星と対峙する」と評していただきました。

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手前味噌で恐縮ですが、『ユリイカ 2016年3月臨時増刊号:出版の未来――書店・取次・出版社のリアル』に、トランスビューの工藤秀之さんとの対談「構造変動期の出版流通と営業」を寄稿させていただきました。有志舎社長の永滝稔さんからさっそく「『ユリイカ』2016年3月臨時増刊号の特集「出版の未来」を読んで」(「有志舎の日々」2016年2月5日付)というコメントをいただきました。永滝さんありがとうございます。また、ツイッターでは古書通信編集部さん、おまけのコーナーさん、本屋のカガヤさん、閔永基さん、小林えみさんからご感想を寄せていただきました。たいへん光栄です。

ちなみに同号の編集人をつとめられた篠原一平さんは、同時発売された『現代思想/imago 2016年3月臨時増刊号:猫!』も手掛けられておられます。また、「出版の未来」号に「その「一つの場所」であるために――民主主義と出版、書店」と題したエッセイを寄せておられる福嶋聡さんが店長をおつとめの難波店では今月いっぱい、同号を中心としたブックフェア「出版の未来」(2016年2月1日~29日)が行われています。さらに、福嶋さんは以下の通り今月末に東京で講演されます。

◎第25回多摩デポ講座『紙の本は、滅びない』

講師:福嶋聡氏(ジュンク堂難波店店長)
日時:2月27日(土) 午後6時30分~8時30分
会場:国分寺労政会館 3階第4会議室(JR中央線国分寺駅・南口徒歩5分)
参加費:500円
主催:NPO法人共同保存図書館・多摩(調布市深大寺北町1-31-18)
※NPOの会員でない方でも、どなたでも参加できます。
※事前申込不要です。当日直接会場へお越し下さい。

内容:福嶋聡氏はジュンク堂に勤められ、書店員の誇り、楽しさ、悩み、書店の立場から見た出版状況などについて、コラムや著書などを通じ長年発信されてきました。池袋店の副店長をお勤めの後、関西に戻っておられます。演題は2014年1月に出されたご著書(ポプラ社新書)のタイトルでもあります。出版売上額の減少が続き、最近の出版・書店界は元気がないように言われます。電子書籍や電子図書館の台頭に、「紙の本」は取って代わられてしまうものなのでしょうか。『紙の本は、滅びない』という福嶋氏の確信は何に由来するのでしょう? 書店と図書館は、お互い切磋琢磨して読書人口を増やしていくことが共通の課題かと思われますが、講師はどのようにお考えでしょう?「本」のこれからについて、講師の挑発を受け広い視野で議論が出来ればと思います。

備忘録(19)

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◆2016年2月8日13時現在。
「Forbes Japan」2016年2月8日付記事「謎だらけのアマゾン、リアル店舗戦略 「返却窓口にする」説も」に曰く、「米アマゾンが全米で300〜400店のリアル書店をオープンする予定であると報じられた。〔・・・〕アマゾンは昨年11月、シアトルに同社初のリアル書店をオープン。世界最大のオンライン小売業者として、各地の書店を廃業に追い込んできた当事者であるアマゾンのこの動きは世間を困惑させた。〔・・・〕アマゾンのリアル書店では、各商品に添えられたプラカードに価格表示がなく、来店客が値段を知るにはアマゾン公式アプリがインストールされたスマホでカードをスキャンしなければならない。店は来店客のアマゾンアカウントの個人情報をもとに、その人に最適化されたサービスを提供し、購買意欲を促す。〔・・・〕将来的には、個人ごとに最適化された価格を提示することも考えられる。そして、このような販売モデルこそが、リアル書店の「商品」なのではないか?」と。

アマゾン・ジャパンがこのところ版元との直取引の拡大を目指しているのは、単に「取次倒産リスク」を回避するためというよりは、いずれ日本でもリアル書店を展開するために「再販制契約を結ばずに版元から直に仕入れて価格を自由に決めて売る」ことの前哨戦なのかもしれない、という推測も成り立つかもしれません。取次外しというより、再販外しです。そうすれば、アマゾンは逆ザヤにしてでも安く売ったり、逆にプレミア価格をつけたりすることもできるわけです。リアル書店でなかなかお目にかからない本は、アマゾン・マーケット・プレイスでの例のように、新刊でも定価の数倍の値段になる可能性があるという意味です。

それにしても価格表示のない本屋というのはどうなんでしょう。再販制のない国ではそれもアリでしょうが、再販制のある国では違和感が強すぎます。

記事名にある「「返却窓口にする」説も」については後段にこうあります。「ウォール・ストリート・ジャーナルの記事では、考えられる可能性のひとつとして、リアル店舗が返品窓口になることを挙げている。GGPのマスラニ〔ショッピングモール運営会社のGeneral Growth Propertiesのサンディープ・マスラニCEO〕によると、ネットショップで購入されるグッズ(衣料品や化粧品などの消耗品)の返品の約38%が実店舗に持ち込まれているという。しかし、既にアマゾンは返品にも対応する「アマゾン・ロッカー」のサービスを都市部で始めており、返品対策としてはこちらのほうが実店舗よりも効率が良さそうだ」。たしかに客の利便性としては返品窓口が実店舗にできるならばそこを利用するかもしれません。そして返品されたものをその店舗で安売りするということもできるわけですね。

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◆2月8日13時30現在。
さて太洋社の説明会が本日15:30から汐留にて。場所的には栗田と同じなので嫌な感じがしますが、今回は自主廃業なので、民事再生よりかは出版社としては理解しやすいし、協力も取り付けやすいはずだろうと思います。弊社では客注品も新刊も納品を継続しています。栗田の時とはえらい違いです。

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◆2月8日21時現在。
ベルサール汐留は栗田の時と同様、ほぼいっぱいでした。1600~1700社あるという取引版元のうち相当数が参加したものと思われます。ポイントは帳合書店さん(300法人800店舗)からの回収がちゃんとできるかどうか、書店さんの帳合変更が無事完了するかどうか、また太洋社の資産(不動産その他)がスムースに換金できるかどうか、といったところ。質疑は24名。ほとんどの質問は、太洋社がソフトランディングできるかどうかの見極めをさぐるものでした。要は、版元が太洋社や帳合書店を信用できるかどうか。自主廃業がうまくできないと版元は売掛が回収できなくなるわけなので、先行きにある程度不透明な部分があっても、出荷停止などで廃業までの事業が止まってしまわぬよう留意しなければならないでしょう。質疑の途中で退席する版元が多かったのは、「話は分かった(あとは太洋社に頑張ってもらうしかない)」という版元が大半だったことの証左であったろうと思われます。

説明会については「新文化」2月8日付記事「太洋社「自主廃業に向けた説明会」、書店と出版社から質問相次ぐ」に報道が出ています。ツイッターでも色々と反響が出ていますが、某人文系版元営業さんの呟きについては同感の方が多いのかもしれないと推察します。

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◆2月8日21時現在。
今日は大阪屋と新栗田から「会社統合に関するご案内」(全15枚)と「「会社統合に関するご案内」についてのお問合せ先」(1枚)、大竹社長のお名前での挨拶文「再生計画ご支援への御礼と新会社発足のご報告、並びに経営統合後のお取引に関するご案内につきまして」(3枚)「新栗田発足のご挨拶」(1枚)が届きました。統合後の新社名は正式名称が「株式会社大阪屋栗田」、サブネームが「OaK(オーク)出版流通」とのことです。Osakaya and Kuritaの頭文字でOaKなんでしょうか。文書には「500年掛けて巨木となり、さらに500年生き続ける樫の木のようにしっかりと大地に根を張った云々」と。うーん。頭文字だけだと「OK出版流通」と冗語のようになってしまうのでaが入ったのでしょうか。OとKを逆にしてもマズいわけですし。ネーミングというのは難しいです。

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◆2月9日午前11時現在。
「東スポ」2月9日付記事「俊輔「U-23はOA枠不要のギラギラ集団」」での中村俊輔さんの発言。「個人としては、もっとこうしたい、もっとうまくなりたい気持ちは(若手のころと)変わらない。どのスポーツもそうだけどメンタルが大事。そこの情熱がなくなると一気に邪魔者扱いされるから」。これはスポーツに限らず、ビジネスでも同じであるように感じます。単純な精神論ではなく、実際に組織の中で足手まといになりがちなのは、仕事への気持ちが薄れてしまっている場合。邪魔者扱いになっても当面は集団の中に留まるわけですが、勢いに欠ける集団が何かを成し遂げられるとは思えません。では弱肉強食と自然淘汰と競争原理に任せればいいのかというと、多様性の観点から言えば必ずしもそうではないのですね。

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◆2月9日13時現在。
最後までご覧ください。ただ呆然と見つめるほかありません。


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◆2月9日23時現在。
建設は死闘、破壊は一瞬というべきでしょうか。出版業界は物流の多様性をどう確保しうるのでしょうか。

太洋社が廃業するということは、版元にとっては仲間卸を頼める取次が消滅するということを意味しています。また、書店にとっては使い勝手の良い店売が神田村から消滅するということを意味します。まず前者の方から書くと、仲間卸というのは具体的に言えば、取次大手の取引口座を持っていない小零細版元が太洋社を通じて取次大手の帳合書店に商品を供給できるというシステムです。たいへん便利ですが、仲間卸で太洋社が得られる手数料はけっして大きいものではなく、割に合わない作業かもしれません。次に後者について書くと、書店(特に街ナカの本屋さん)が帳合取次の取引先ではない版元に本を発注(主に客注を)する際には「太洋社店売止め」と依頼して本を仕入れる、という方法があるのです。発注先の出版社が帳合取次との取引を有している場合でも、小零細書店には売行良好書を優先的にはなかなか融通してもらえませんから、そうした場合も太洋社神田店売で買うという手段を使うことになります。

つまり、太洋社は流通の隙間を埋めてきたという役割があって、それが取引上ではより不利な立場にある小さな版元や小さな書店の助けになってきたわけです。今後生じるであろうその隙間を誰が埋めるのでしょうか。神田村界隈で何社か候補が浮かびますが、この先どれほど新規取引版元が増えるのかどうかは未知数です。とある会社の場合、そこからダイレクトに日販やトーハンへ商品が回るのではなく、現状ではさらに間に一社が挟まる可能性があります。取次大手の取引口座を持っていない小零細版元が、取次大手の帳合書店に商品を届けるためにその会社を仲間卸として選んだ場合(つまりその会社との取引を開始した場合)、太洋社廃業後は、書店発注→版元受注→仲間卸一社目(当該会社へ納品)→仲間卸二社目→取次大手→書店、というルートを選ぶことになります。当然、書店さんに届くのに通常の倍以上の時間がかかります。また、別の会社では一社が余計に挟まることなく大手に仲間卸が可能なのですが、それだけに特化した事業体ではもともとなかった、という点に留意しなければなりません。これらはあくまでも現状の話で、太洋社廃業前後には様々な変化があるものと思われます。

仲間卸二社目もしくは取次大手と契約すれば解決するではないか、という見方もあると思いますが、栗田事案以後はっきりしたのは、版元にとって取次との取引契約が絶対的価値をもはや持たなくなったかもしれないということです。取次との取引契約が、有事の際に取次にとって有利に働く「片務的」な内容であることは白日のもとにさらされたものの、しかしながら、その後に取次側から「片務的契約を双務的なものに改善する」という発言があった、などとは聞いたことがありません。さらに言えば、取引契約において版元側には連帯保証人が要求されるため、一方的な力関係はいっそう強まります。こうした従来の状況が変わらない限り、新しい出版社にとっては、契約自体にリスクがあり、さらに取引先自体の経営も先行き不透明であるような相手に対し、無理をしてまで「口座を開いてもらいたい」とは思えなくなってきているのが現状ではないかと推測できます。

それならば取次をすっ飛ばして書店と直取引にすれば解決するのではないか、とも言うことができるでしょう。しかし、直取引の帳簿および在庫の管理に人員を割くことができない書店さんが業界総体としては多いはずですし、版元にとっても売掛回収や高い運送料はしんどいです。書店さんにしてみれば、よく売れる版元の本は直取引であっても仕入れたいでしょうけれども、地味な出版を地道に続けているような細々とした版元の本は発注頻度や発注数から言って取次経由で充分なのではないでしょうか。

そんなわけで太洋社を通じて取次大手の帳合書店へ本を出荷していた版元さんにとっては実に悩ましい問題が生じています。大手の帳合を持っていない書店さんにしても同じことです。太洋社の廃業はあるいは零細版元や零細書店の一時的な機能停止、もしくは最悪の場合は道連れにする可能性を秘めており、予断を許しません。言い換えると、太洋社の消滅は大きなものと小さなものを結ぶ中間層の脱落や特定ジャンルの版元や売場への打撃を意味しています。埋めがたい業界内格差が生じることによって結果的に小さなものたちや特定のものたちの切り捨てが生じるリスクが一気に高まってきたと言えるのかもしれません。

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備忘録(20)

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◆2016年2月12日16時現在。
TRCブックポータルの「メンテナンス・障害情報」に「運営終了のお知らせ」が上がっており、各方面で話題となっています。曰く、「TRCブックポータルは、これまで皆様のあたたかいご支援のもと事業をつづけてまいりましたが、 このたび、諸般の理由により、2016年3月をもちまして運営を終了させていただくこととなりました。〔・・・〕2016年2月5日:書評投稿受付終了、2016年3月15日:ご注文受付終了、2016年3月25日:サイトクローズ」と。日付がありませんが、2月3日頃のリリースのようです。「諸般の理由」というのを知りたいところですが・・・。猫の泉さんがこれまでの経緯をツイッターの投稿で簡略に図式化しておられます。

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◆2月12日17時現在。
太洋社帳合の友朋堂さんが小売店舗各支店を昨日と今日いっぱいで閉店し、店売部門を終了されるというニュースに驚かれている方が多いここと拝察します(私もそうです)。つくば市にお住まいの方、通勤通学の方から、惜しむ声が上がっています。太洋社の自主廃業発表(2月8日)からわずか3日の11日(木・祝)に吾妻店が閉店、そして今日12日には梅園店と桜店が閉店となります。

「新文化」2月12日付記事「友朋堂書店(茨城・つくば市)、3店を閉店」に曰く「2月8日に開かれた太洋社の説明会の後、事業を継続しようと他取次会社と帳合変更の交渉をしたが、条件面で合意できず全3店の閉店を決めた。同社の柳橋治社長は「廃業はしない。教科書販売と外商を続けていく」と話している」と。

「ITmediaニュース」2月12日付速報「つくば市の書店「友朋堂書店」、全店舗閉鎖」に曰く「書籍やコミック、雑誌、参考書などを販売し、筑波大学生や周辺住民に親しまれていたが、近年は活字離れや電子書籍との競合などから経営環境は悪化していた。主力取引先である出版取次の太洋社が自主廃業の準備に入ったことも影響し、店頭小売業からの撤退を決めたという」。

また、「日刊常陽新聞」でも2月12日付記事「つくば・友朋堂書店、突然の閉店 取次店廃業受け」やfacebookやツイッターで報じています。吾妻店店頭の張紙、同店の最終日に訪れる親子連れ、灯台のように夜空に輝く「本」のネオン、そして今日のシャッター前の写真。

友朋堂さん自身による記者クラブへのプレスリリース(2月12日付「株式会社友朋堂書店の閉店と現状のご報告」代表取締役社長・柳橋治さん記名)も店員さんのツイッターで公開されています。曰く「今回の閉店は出版取次会社太洋社の平成28年2月8日の自主廃業の発表に伴い、商品の供給が難しくなり店舗営業の継続の困難が予想されることからの苦渋の決断となりました。ここにご報告申し上げます。/閉店に伴い書店での店頭販売は終了いたしますが、株式会社友朋堂書店の業務は継続いたします。各学校への文部科学省検定教科書の供給および各種法人への外商業務は引き続き行います」と。

情報発信や問合せ受付をツイッターで続けてこられた吾妻店の徳永直良さんはご自身の公休日である10日午前中に「うーん。不調に終わったらしい」との意味深な呟きを投稿されています。そのあとついに「【友朋堂】お知らせ。友朋堂吾妻店は2/12(金)を持ちまして店頭営業を終了いたします。2/11(木)が最終の営業日となります。お客様方にはご迷惑おかけします。桜店・梅園店に関しては現時点では未定です。詳細がわかりましたらツイートいたします。永らくのご愛顧ありがとうございました」とのご投稿。これが第一報でした。読んで思わず「えっ?」と大きな声が出たのを思い出します。その後のツイートには淡々とした中にも暖かな温もりがありました。いくつかピックアップします。

「つくばには新しいブックストアも増えてます。天久保の大学ループのローソンから東大通りのセブン-イレブンの間の通りが賑やかになってます。PEOPLE BOOKSTORE の植田浩平さんです。 @mojohey」
「おはようございます。晴れのつくば。今日は朝から仕事です。」
「友朋堂吾妻店、本日は通常通り朝10時から夜10時まで営業です。お客様にはご迷惑おかけしますが、参考書売り場で作業が行われる予定です。」
「友朋堂各店は教科書取扱店です。吾妻店店頭営業終了後も学校への教科書納品、お取引いただいてる法人のお客様への外商は継続営業いたします。」
「昨夜は時間があったので返信頂いた方々になるべくお返事してたのですが、今朝は時間がなくてゆっくりひとつひとつはお返事できなくてすみません。」
「一昨日、店のエプロンのボタンが外れたので家に持ち帰って奥さんにつけてもらった。昨日は勤務休み。今日のためのボタン付け。」
「うちの奥さん「吾妻店閉店したの、ベッキー・SMAP・清原と同じ年だったね。って後から思い出すよね」と語る。」
「本日、お近くのでお時間あれば、ぜひ友朋堂吾妻店へご来店くださいませ。さて、行ってきます。」
「【友朋堂吾妻店】お知らせ。友朋堂吾妻店は本日2/11(木)22時で閉店、店頭営業を終了いたします。2/12(金)空は店頭営業せず、閉店となります。現在22時の閉店時間まで文具全品20%引きで販売しています。お近くでお時間あるかたはご来店ください。お暗い中なのでお気をつけて。」
「【友朋堂桜店・梅園店】【閉店のお知らせ】友朋堂桜店・梅園店は明日2/12(金)までの営業となります。書籍の販売は2/12(金)が最終となります。一旦閉店後に文具等の在庫販売を予定しています。2/12(金)は桜・梅園両店とも終日文具を現在の店頭価格からの20%引きで販売いたします。」
「【友朋堂吾妻店】友朋堂吾妻店、閉店いたしました。本日はたくさんのお客様にお出でいただき、お声かけていただき、シャッター前で閉店を見送ってもいただき、本当にありがとうございました。長年に渡りご愛顧頂いたお客様に感謝の気持ちと、申し訳ない気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。」

こみあげてくる涙をこらえつつ読みました。普段よりずいぶんお忙しいはずですが、徳永さんはこのあともツイートを続けておられ、取次の営業担当の方を「取次担当の方もお疲れの様子だった。ちゃんと食べてちゃんと寝てるのか気になる。」と気遣ってすらおられます。

出版人からもツイートが寄せられています。neisan2014.04さん曰く「H社で書店営業をしていた20年以上前、私は北関東担当で茨城に行くときはつくばの友朋堂吾妻店と丸善大学会館店に行くのが楽しみだった。友朋堂は郊外店なのに専門書がとても充実していて営業のし甲斐があった。さすが筑波。長い間お疲れ様でした。」。夏葉社さん曰く「友朋堂書店さんの閉店を偶然知り、お店へ。太洋社廃業のあおりを受けて、突然の閉店とのこと。なぜ今まで来ていなかったのかと悔いる、素晴らしい品揃え。お客さん、いっぱいでした。」。店内の写真が添えられていますが、こんなにも岩波文庫に棚を割いているお店は、私の住む地域には皆無です。正直、うらやましい。

先の「新文化」記事には「11日の吾妻店閉店後、宮崎篤店長は、店外で待ち受けていた来店者に感謝の意を伝え「またお店を再建できたら」と挨拶した」とも伝えられています。再びリアル店舗を再開される日を待ち望まれる方もいらっしゃることでしょう。同書店の桜店は本日23時、梅園店は本日22時で閉店とのことです。facebook上には「友朋堂にメッセージを伝えよう!」というコミュニティが立ち上がっています。

漫画家・イラストレーターの木野陽さんが昨晩投稿された短編「友朋堂書店さんのこと」もまた、涙を誘います。「・・・ああ  本屋さんって人の集まるところだったんだーー」。その通りです。本と本、本と人、人と人が出会うリアルな場所であり、そうやって次々に生まれるつながりが新たな創造性の明日へと人を導くような人生の劇場であり、そして今後も、そうあり続けるのだと思います。そう信じています。

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◆2月12日18時現在。
株式会社TSUTAYAの2月5日付ニュースリリース「「復刊プロデュース文庫」、9日より本格スタート! 全国のTSUTAYA'目利き'書店員(レコメンダー)が選ぶ、復刊プロジェクト始動」に曰く、「~書店員が選んだ「今、本当にオススメしたい文庫」恋愛部門第1位、ついに復刊~「復刊プロデュース文庫」、9日より本格スタート! 全国のTSUTAYA'目利き'書店員(レコメンダー)が選ぶ、復刊プロジェクト始動」と。

より詳しくは「全国で約835店舗の「TSUTAYA BOOKS」「蔦屋書店」を展開する株式会社TSUTAYA(本社/東京都渋谷区 代表取締役社長/増田宗昭)は、『TSUTAYAが「本との出会い」を変える。』をコンセプトに、すでに絶版となった本を全国のTSUTAYA書店員が選定し、復刊を行うプロジェクト「復刊プロデュース文庫」を開始いたしました。その第一弾として、『九月の恋と出会うまで』(双葉社)を、2016年2月9日より順次発売開始いたします」とのこと。

書店主導型の文庫復刊はほかのチェーンでも時折見かけますが、こうした試みは今後もどんどん続いていってほしいと思います。どんな品切本を復刊させるべきか、一番よくご存知なのは、版元営業マン以上に書店員さんだからです。

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ジャン・ウリの単著初訳『精神医学と制度精神療法』春秋社、ほか

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『精神医学と制度精神療法』ジャン・ウリ著、三脇康生監訳、廣瀬浩司・原和之訳、春秋社、2016年1月、本体3,800円、四六判上製416頁、ISBN978-4-393-33341-9
『『夜と霧』ビクトール・フランクルの言葉』諸富祥彦著、ワニ文庫、2016年1月、本体670円、文庫判216頁、ISBN978-4-584-39386-4

★『精神医学と制度精神療法』は発売済。版元紹介文に曰く「革新的な精神科病院、ラ・ボルド病院を創立し、ガタリらも参加した「制度精神療法」の理論と実践を深めた著者による論文・講演録を、本邦初訳。日常の実践と理論を往還し、精神医療環境の新たな地平をきりひらいた軌跡」。1955年から1975年までの主要論文を集めたウリの代表作であり、原書は、Psychiatrie et psychothérapie institutionnelle: traces et configurations précairesで、1976年にPayotから刊行された初版ではなく、Champ socialから2001年に出版された新版です。

★全24章のうち、15章が訳出されています。巻頭には新版についての短い「著者メッセージ」、ピエール・ドゥリオンによる「新版のためのまえがき」、著者の盟友で今まではトスケルと表記されることが多かったフランソワ・トスケィエスによる序文が付され、巻末には共訳者の廣瀬浩司さんによる「訳者あとがき」と、三脇康生さんによる監訳者解説「ジャン・ウリへ――粗品としてのラ・ボルド病院」が収められています。人名と事項をまとめた索引もあります。原書新版の目次(リンク先でご確認いただけます)と比べていただくために今回の抄訳書に収録された上記以外の本論部分を列記します。

序論 つかのまの痕跡と布置、精神医学と制度精神療法の領野における道標
第1章 精神科クリニックにおける脱疎外
第2章 病人を直接的に取り巻くものの制度精神療法の環境における分析
第3章 看護師の精神療法への参加
第4章 精神医学における専門的訓練への寄与
第5章 個人開業の精神分析家と病院の精神科医の合同会議のためのプロジェクト
第6章 学校環境における疲労の問題
第7章 転移と了解
第8章 エマーブル・Jの現前
第9章 制度精神療法についての覚書と変奏
第10章 ミーティングの概念について語ることは可能か?
第11章 制度精神療法のいつくかの理論的問題
第12章 制度精神療法における幻想〔ファンタスム〕・転移、そして〈行為への移行〉の弁証法
第13章 制度精神療法
第14章 制度精神療法の実践における主体の概念
第15章 制度精神療法のエクササイズ

★著者であるフランスの精神科医ジャン・ウリ(Jean Oury, 1924-2014)は今回の訳書が単著初訳となるものの、ジャック・ラカンの弟子であり、フェリックス・ガタリの友であり、ユニークな医療活動で知られるラ・ボルド病院の創立者にして医院長として、日本でも知られてきました。2005年の来日時の講演等は『Rencontre avec le japon』(Edition Marice, 2007)という本にまとめられています。ちなみにウリによるガタリへの追悼文「精神の基地としてのラボルド――フェリックスのために」を、ガタリ『精神病院と社会のはざまで――分析的実践と社会的実践の交差路』(杉村昌昭訳、水声社、2012年)で読むことができます。

★訳者あとがきでウリの仕事はこう評されています。「精神病に苦しむすべての患者たちを取り巻く「制度化された諸環境」のベクトルが、少しでも「脱疎外」の方向に向かうようにコントロールすること」(373頁)。ウリはこう書いています、「「病人」のひとりひとりは、その人格、疾病学的空間、世界との繋がり、その可能性、ローカルな治療様態などを考慮に入れながら、この機械〔私たちがその器官であり、燃料であり、労働者となっているような機械=機関=機構〕によって考慮されなければならない。時系列的な探究にあたふたするよりは、〈集合態〉における混乱した地帯に「働きかけ」、葛藤の結び目のひとつに立ち止まったほうが、効率的なこともある」(252頁)。「問題になっているゲームをよりよく検討するために、ゲームで使われているカードを検討すること」(253頁)。健常者も含めた社会全体がますます精神的に深く傷つき疲弊しきっているように見える昨今、ウリやガタリが再評価されるべき時が近づいている気がします。

★『『夜と霧』ビクトール・フランクルの言葉』は発売済。コスモス・ライブラリーから2012年に刊行された同書親本を改訂し、文庫化したものです。テーマ別にフランクルの言葉152編を集め新訳した「フランクル語録」であり「フランクル名言集」です。カバー紹介文に曰く「ナチスの強制収容所における体験を綴った名著『夜と霧』の著者であり、「生きる意味」を見出していく心理療法、実存分析(ロゴセラピー)の創始者であるビクトール・フランクルが読者に熱く語りかける「魂」を鼓舞するメッセージ」。全11章に配されたテーマは以下の通りです。「強制収容所での体験」「愛することについて」「生きることの「むなしさ」について」「人生の「苦しみ」について」「生きる意味について」「仕事について」「幸福について」「時間と老いについて」「人間について」「神について」「生きるのがつらい人へ」。

★フランクルの言葉はいずれも胸に沁みるものばかりなのですが、いくつかを抜き出してみます。丸括弧内は出典文献です。「「仕事の大きさ」は問題ではない。その人が「自分なりの使命をどれだけ果たせたか」が重要なのだ」(『医師による魂のケア』より)。「人生の意味は、他社と取って代われえないもの、一回的なもの、独自的なものである。そこで重要なのはそれをその人がいかに行うかという点にあるのであり、何を行うかという点ではないのである」(同)。「心理療法の中に倫理学を取り入れること、すなわち、責任存在であり使命を有しているという人間存在の本質を心理療法の中核に据えること、それによって患者にその特殊な責任と課題とを指し示すことが必要なのだ」(『哲学と心理療法』)。「逆説的ではあるけれども、人は誰かのため、すなわち大義のため、友人のため、神のために、自分を失う地点に達してはじめて、真の自分を発見するのである」(『心理療法と実存主義』)。

★本書の姉妹編として、諸富さんはワニ文庫で一昨年に『ビクトール・フランクル 絶望の果てに光がある』という既刊書を上梓しておられます。また、フランクル自身の著作の文庫には『生きがい喪失の悩み』(中村友太郎訳、講談社学術文庫、2014年)があります。広い層の読者を獲得している書き手であることからすれば、文庫版著作集が刊行されてもおかしくないフランクルですが、意外に少ない(少なすぎる)のが驚きです。

★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。

『情念・感情・顔――「コミュニケーション」のメタヒストリー』遠藤知巳著、以文社、2016年2月、本体7,800円、A5判上製768頁、ISBN978-4-7531-0330-0
『ミュージカル映画事典』重木昭信著、平凡社、2016年2月、本体17,000円、A5判上製函入1028頁、ISBN978-4-582-12649-5

★『情念・感情・顔』は発売済。帯文はこうです。「思考の外部に触れる――近代社会の全体を外から俯瞰する視線がリアリティを喪失しつつある現在、主体の内部作用という薄明の言説領域に足を踏み入れながら、異世界に触れようとする思考の冒険」と。全16章立て、注を含め700頁を超える大著です。しかも書き下ろし。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者の遠藤知巳(えんどう・ともみ:1965-)さんは日本女子大学人間社会学部教授をおつとめで、ご専門は社会学、特に近代社会論、言説分析、メディア論、社会理論でいらっしゃいます。単独著としては本書が初めて。既訳書にジョナサン・クレーリー『観察者の系譜』(十月社、1997年;以文社、2005年)があるほか、編著書として『フラット・カルチャー――現代日本の社会学』(せりか書房、2010年)があります。

★『ミュージカル映画事典』はまもなく発売。著者は大学人ではなく在野の研究者で、本書は『ブロードウェイ・ミュージカル事典』(芝邦夫名義、劇書房、1984年;増補版1991年)に続く労作です。帯文に曰く「アメリカを中心に、世界のミュージカル映画の全貌を知ることができる、本邦初の事典。世界初のミュージカル映画「ジャズ・シンガー」(1927)から「イントゥ・ザ・ウッズ」(2014)まで、90年間に制作された、約3400作品を紹介」。全13章を列記すると「ミュージカル映画の誕生」「1930年代:不況の時代」「1940年代:戦争の時代」「1950年代:画面の大型化」「1960年代:スタジオ・システムの崩壊」「1970年代:ロックの時代」「1980年代以降のミュージカル映画」「テレビのミュージカル」「踊りと歌の流れ」「英国の作品」「ドイツの作品」「スペインの作品」「その他の国(フランス/イタリア/ソ連)」です。さらに年度別作品一覧、[付録]主な伝記映画、参考文献、索引(邦題、原題、人名)が付されています。

★ちなみに平凡社さんでは今月19日発売で、細江英公さん写真、笠井叡さん舞踏・文で『透明迷宮』という写真集が刊行されます。笠井叡さんが被写体の写真集には『Androgyny dance』(瀧口修造序文「舞踏よ、笠井叡のために」、赤瀬川原平装幀、蘭架社、1967年)、『ダンス・ドゥーブル』(笠井爾示写真、フォトプラネット〔オシリス〕/河出書房新社、1997年)、『銀河革命』(現代思潮新社、2004年)がありますが、『銀河革命』は60~70年代の写真なので、新作写真集としては20年ぶりとなるものと思われますし、当然のことながら細江さんの新刊としても大注目です。品切にならないうちに急いで買っておくべきかと思われます。

備忘録(21)

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◆2016年2月15日正午現在。
「Business Journal」2月15日付、佐伯雄大氏記名記事「また大手取次が破綻!日販・トーハンの冷酷すぎる「首絞め」、雪崩的に取引奪われる」が配信され、太洋社が帳合戦争によって弱体化していく様が出版人の証言とともに解説されています。とてもよくまとまっていて、同業者の認識とほぼ同じ内容であると感じます。ただ、末尾のとある一文のみ、ひょっとしたら語順を変えて読んだ方がいいかもしれません。曰く「芳林堂によると、太洋社からの支払いが滞っており送品を止められたというのだ」。これはより適切な語順では「芳林堂によると、支払いが滞っており太洋社からの送品を止められたというのだ」という風に読む方が事実に妥当するだろうと思われます。つまり、太洋社から芳林堂への支払いが滞っていたのではなく、芳林堂から太洋社への支払いが滞っているわけなので、真逆な話として読めてしまうのです。むろん、芳林堂さんには芳林堂さんの言い分というものがあるでしょうけれども。

太洋社や芳林堂の真相については巨大掲示板の某スレッドでおおよそを窺うことができます。今日現在、芳林堂書店さんのウェブサイトのトップには「お客様へ」と題した次のような告知がまだ掲出されたままになっており、当初の見込みよりも交渉に時間がかかっている様が窺えます。「毎度芳林堂書店をご利用いただきありがとうございます。/現在、問屋変更にともなうトラブルの為、各店とも雑誌、書籍とも新刊・既刊の入荷が止まっており、店舗、ホームページでのご注文がお受けできない状態になっております。/手続きを急いでおりますが、復旧には今しばらく時間がかかる見込みです。受注可能になりしだいお知らせいたします。/ご不便。ご迷惑をおかけしますが宜しくお願い申し上げます」。この影響により、トークイベントが中止になったり、サイン会の会場が他店に変更になったりしているようです。こちらのツイートにある写真は投稿主さんの所在地から推察すると、同書店の所沢駅ビル店の平台でしょうか。商品はなく、張り紙だけがあります。

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◆2月15日17時現在。
前述記事(「また大手取次が破綻!日販・トーハンの冷酷すぎる「首絞め」、雪崩的に取引奪われる」)末尾の「芳林堂によると、太洋社からの支払いが滞っており送品を止められたというのだ」は無事「芳林堂によると、太洋社への支払いが滞っため、送品を止められたというのだ」に訂正されたご様子です。同記事の全文を三分割ではなくいっぺんに読むにはライブドアニュース版が便利です。

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備忘録(22)

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◆2016年2月18日19時現在。
「Jタウンネット」2月18日付記事「つくばの名物本屋が突如閉店...「友朋堂ロス」に襲われる人続出! 地方書店はこれからどうなるのか」が友朋堂さんの閉店を惜しむ皆さんの声をまとめておられます。斎藤環先生曰く「友朋堂復活ボタンが1人1万円で押せるとしたら今なら50連打くらいしてしまう自信がある」。50回! 斎藤先生はこのほかにもこんなことをつぶやいておられました。その1「なんと友朋堂吾妻店が閉店とな。最近ご無沙汰ではあったけど、つくばでは数少ない大型書店だったのに。思えばこの店で『バオー来訪者』を購入したのが荒木信者の入り口だったなあ…」。その2「これ〔「つくばの名書店『友朋堂』の閉店に、つくば民の愛とロマンティックが止まらない。 」〕読んでたら泣けてきた。期末試験が終わってまず向かったのはアンブッシュ(レンタルレコード)、そして友朋堂。自分の本を置いてもらって誇らしかったのは大学内の丸善よりも友朋堂だった」。

また、周知の通り、ひょうたん書店さんの閉店を惜しむ声も「鹿児島のコミック専門店ひょうたん書店さんの閉店の案内とお客さんたちのつぶやき」としてまとめられています。店頭の写真の数々が圧巻です。

ここまでのところ太洋社さんの自主廃業関連での帳合書店の閉店は東京商工リサーチさんによる判明分だけでも:
つくば・友朋堂書店さん・・・店売終了(3店舗)、外商を継続。
鹿児島・ひょうたん書店さん・・・店売終了(1店舗)、通販を継続。
豊橋・ブックランドあいむさん・・・店売終了(1店舗)。
熊本・ブックス書泉さん・・・店売終了(1店舗)、外商を継続。
となっています。むろん、帳合変更を済ませたと伺っている書店さんもいらっしゃって、愛知・岐阜に展開されている某チェーン店さんや、新潟の某チェーンさんについてはすでに他帳合の番線でご発注されているようです。

その一方で、こんな情報を耳にします。
小山助学館鳴門店さん、2月29日閉店予定。
祖師ヶ谷大蔵・文芸書林さん、3月31日で閉店予定。
さいたま市・愛書堂書店さん、休業準備に。

栗田のように民事再生にした方が帳合書店さんを救えたのでは、という声もあるかもしれませんが、そもそも民事再生の場合は債権者の大多数の同意が必要なので、栗田民事ですでにダメージを食らった出版界としては、太洋社さんがもし民事再生申請となったとしても支えるのは厳しかったかもしれません。だからこそ自主廃業を目指すと聞いて版元はいったんは安堵したわけですが、こうして街ナカ書店さんが消えていくのを目の当たりにして、絶句せざるをえない状況に陥っています。これが現実だとしても。これが競争原理の結末だとしても。版元とて明日は我が身なのだと気づいています。

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「新書大賞2016」発表

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2月10日発売済月刊誌『中央公論』2016年3月号で「新書大賞2016」が発表されました。今回の大賞(第1位)は井上章一さんの『京都ぎらい』(朝日新書)でした。井上さんのインタビュー記事が掲載されています。とあるプロレス会場でとあるレスラーに対して飛ばされたヤジを耳にしたことが本書誕生のきっかけだったそうです。スレスレのところを突いてくるユーモラスなコメントの数々はぜひ3月号でご確認ください。

第2位は小熊英二さんの『生きて帰ってきた男』(岩波新書)、第3位は池内恵さんの『イスラーム国の衝撃』(文春新書)でした。順位は20位まで発表されています。「目利き28人が選ぶ2015年私のオススメ新書」には例年通り私も参加させていただいたのですが、20位以内に入る書目を一つも挙げ(ることができ)なかったというのは初めてのような気がします。2015年は出版界の激動期だった印象が強かったので、私が挙げた5冊のうち3冊は業界関係の本でした。そのせいもあるのかもしれません。ほかの選者の皆さんとも推薦書がほとんど重複しておらず、唯一同じ書目を挙げられていたのはほかならぬ井上章一さんでした。佐々木敦さんの『ニッポンの音楽』(講談社現代新書)です。これは一昨年12月に刊行された本なので、昨年の新書大賞では水牛健太郎さんが挙げておられました。新書大賞は2015年版から、前年の1月~11月に刊行された新書を対象としており、12月刊は翌年の対象として持ち越されるものの、選者の裁量もあって早めに取り上げる方もいらっしゃるということなのでしょう。

恒例の総括対談は永江朗さんと荻上チキさんのお二人。昨年はこのお二人に宮崎哲弥さんを合わせて三人。その前までは宮崎さんと永江さんのお二人でした。

「紀伊国屋じんぶん大賞2016」発表

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◎「紀伊國屋じんぶん大賞2016――読者と選ぶ人文書ベスト30」連動フェア

期間:開催中~3月上旬 
場所:紀伊國屋書店新宿本店3階

毎年恒例の「紀伊國屋じんぶん大賞―─読者と選ぶ人文書ベスト30」の2016年版が発表されました。大賞は、岸政彦さんの『断片的なものの社会学』(朝日出版社)です。受賞コメントは上記リンクでお読みいただけるほか、現在同チェーンの主要店で展開中の連動ブックフェアの店頭にて無料配布中の記念小冊子でもご覧になれます。同冊子には読者推薦コメントのほか、斎藤哲也さん、山本貴光さん、吉川浩満さんの三氏による特別鼎談も収録されています。

連動フェアの概要は以下の通りです。

①「紀伊國屋じんぶん大賞2016」ベスト30フェア
「読者と選んだ人文書ベスト30作品」を展示中。記念小冊子も無料配布中です。

②「「じんぶん」のモンダイを語る――2015年の人文書を振り返って」フェア
小冊子特別鼎談を記念し、斎藤哲也さん、山本貴光さん、吉川浩満さんによる選書フェアを開催中。

③文化系トークラジオLife「文化系大新年会――2015年のオススメ本はこれだ!」フェア
TBSラジオLifeパーソナリティ陣による、「2015年のオススメ本」選書フェアを開催中。

また、同大賞2位に選出された森田真生さんの『数学する身体』(新潮社)関連のフェア「森田真生をめぐる宇宙――【じんぶんや】特別企画『みんなのミシマガジン×森田真生 0号』刊行記念」が、紀伊國屋書店新宿本店4階で3月上旬まで開催されているとのこと。このフェアでは、森田さん選書「私をつくった○冊の本」に加え、『みんなのミシマガジン×森田真生 0号』の執筆・制作に携わられた小田嶋隆さん、榎本俊二さん、池上高志さん、立川吉笑さん、山縣良和さん、矢萩多聞さん、そして、「みんなのミシマガジン」編集長・三島邦弘さんの著書と関連書も展開中だそうです。

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さらに、紀伊國屋書店新宿本店3階、グランフロント大阪店では同じく3月上旬まで、『現代思想 2016年1月号:ポスト現代思想』ならびに『現代思想 2016年3月臨時増刊号:人類学のゆくえ』の刊行を記念したブックフェア「ポスト現代思想――新しい思想のダイアグラム」が開催中です。フェア企画趣旨に曰く「「思弁的実在論(Speculative Realism)」や「新しい唯物論(New Materialism)」、「オブジェクト指向存在論(Object-Oriented Ontology)」、そして、「人類学」のあたらしい潮流――当フェアでは、現代思想の最先端の議論を紹介しながら、「新しい思想のダイアグラム」を探っていきます」とのこと。リンク先では出品書目一覧とともに、青土社営業部さんが作成されたという「ポスト現代思想相関図」が掲出されています。フェアでは和書だけでなく未訳の注目洋書も店頭販売されていて、非常に意欲的な催事となっています。

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注目新刊:ドゥルーズのベーコン論新訳、ほか

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フランシス・ベーコン 感覚の論理学
ジル・ドゥルーズ著 宇野邦一訳
河出書房新社 2016年2月 本体3,000円 46判上製256頁  ISBN978-4-309-24749-6

帯文より:「ベーコンはいつも器官なき身体を、身体の強度的現実を描いてきた」。ドゥルーズ唯一の絵画論にして最も重要な芸術論、新訳。「器官なき身体」の画家ベーコンの図像に迫りながら「ダイアグラム」と「力」においてドゥルーズの核心を開示する名著。

目次:
刊行者の序
はじめに
1 円、舞台
2 古典絵画と具象との関係についての注釈
3 闘技
4 身体、肉そして精神、動物になること
5 要約的注釈:ベーコンのそれぞれの時間と様相
6 絵画と感覚
7 ヒステリー
8 力を描くこと
9 カップルと三枚組みの絵
10 注釈:三枚組みの絵とは何か
11 絵画、描く前……
12 図表〔ダイアグラム〕
13 アナロジー
14 それぞれの画家が自分なりの方法で絵画史を要約する
15 ベーコンの横断
16 色彩についての注釈
17 目と手

訳者解説〈図像〉の哲学とは何か
ベーコン作品リスト

★まもなく発売(2月22日取次搬入)。原書は、Francis Bacon - Logique de la sensation (Seuil, 2002)です。訳者解説での説明をお借りすると、「同書は初めにÉditions de la Différenceより1981年10月に、ドゥルーズのテクストとベーコンの画集の二冊を合わせたかたちで刊行され、日本では法政大学出版局から、これを一冊におさめた訳書『感覚の論理――画家フランシス・ベーコン論』(山縣煕訳)が2004年9月に刊行された。本書『フランシス・ベーコン 感覚の論理学』は、のちに図版を簡略にし、判型も縮小して一冊にまとめたSeuil社の新版を翻訳したものだが、テクスト自体は、初版では段落ごとに入っていた空白がなくなっていること以外に移動は見あたらない」。

★さらに宇野さんは本作をこうも解説しておられます。「ベーコンの表現の中心を、ドゥルーズは〈図像〉(Figure)と命名した。そして〈図像〉は、〈表象〉ではなく〈感覚〉に統合されるという。〈感覚〉は〈神経〉でありそこを行き交う〈波動〉である。『アンチ・オイディプス』から『千のプラトー』を通じて発見し、鍛錬し、多様化してきた「器官なき身体」の概念を、ドゥルーズは、この本の6-7章で、またたくまに彼の絵画論の中核に導入している。「図像」とは、絵画における「器官なき身体」だというのである。しかし単に「器官なき身体」が絵画論に適用されたのではない。ここで「器官なき身体」はさらに多様化され、新しい次元に踏み込んでいる」(234頁)。

★ドゥルーズ自身の言葉によればこうです。「器官なき身体は、器官に対立するというより、有機体と呼ばれる諸器官のあの組織作用に対立するのだ。それは強度の内包的身体である。それはひとつの波動に貫かれ、この波動は身体の中にその振幅の変化にしたがって、もろもろの水準や閾を刻みこむのである。だから身体は器官をもたないが、閾や水準をもっている。したがって感覚は質的であったり、質を備えたりするのではなく、強度的現実をもつだけで、この現実は感覚の中の表象的与件を貴兄するのではなく、むしろ同質異形的な変化を規定するのである。感覚は波動である」。「身体はまるごと生きているが、非有機的である。だから感覚は、有機体を貫いて身体に達するときには過剰で痙攣的な様相を呈し、有機的な活動の限度を逸脱するのである。全肉体において、感覚はじかに神経の波動や生命的感動に向けられる。多くの点でベーコンにはアルトーと共通点があると思われる。〈図像〉とは、まさに器官なき身体である、器官なき身体とは肉体であり神経である。波動がそれを横断し、その中に諸水準を刻み込む。感覚とは、波動と、身体に働きかける〈諸力〉との出会いのようなものである。「情動的体操」であり、叫び-息なのだ。感覚がこのように身体と結ばれると、感覚はもはや表象的であることをやめ、現実的になる」。「ベーコンはいつも器官なき身体を、身体の強度的現実を描いてきた」(「7 ヒステリー」より、64-66頁)。

★本の中ほどにはベーコンの三枚組み作品6点と絵画1点がカラーで収録されています。やはりベーコンの絵はモノクロよりかはカラーの方が断然印象が違います。

★なお、ベーコンの全画集全5巻が今年(2016年)の4月28日にThe Estate of Francis Baconより刊行される模様です。未公開だった100枚以上の絵画を含む、ファン垂涎の決定版です。『FRANCIS BACON: CATALOGUE RAISONNÉ』(5 vols, Ed. by Mark Harrison, Contrib. by Rebecca Daniels & Krzysztof Cieszkowski, London: The Estate of Francis Bacon, 2016. 24,5 x 31 cm, a total of 1584 pages with 900 coloured illustrations, cloth cover in cloth slipcase)。財団のニュースでは値段が書かれていませんが、ケルンの名門版元Walther Königの書店部門からもらった案内では1400ユーロでした。昨今のレートでは約17万5千円でしょうか。買えそうにないです。関連ニュースはこちら。ご参考までに5巻本の概要をケーニヒ書店から以下に転記しておきます。

Volume I-III, 400 pages each - Catalogue Raisonné:
- more than 500 paintings are included indicating the title, year, technique, size, provenance, single and group exhibitions, completed by a comprehensive commentary
- each painting is reproduced in colour, often supplemented by close-ups
- the Catalogue Raisonné covers more than 100 paintings which are reproduced here for the first time
- the new work will cover 60 % more paintings than the Catalogue Raisonné by Rothenstein/Alley published in 1964
- Editor Martin Harrison, the pre-eminent expert on Francis Bacon's work alongside research assistant Rebecca Daniels will meet every requirement the reader demands of a scientific reference work

Volume IV and V with 192 pages each will cover:
- a comprehensive introduction to the edition
- an illustrated chronology, indices and a "user's guide"
- a catalogue of Bacon's sketches
- an illustrated bibliography, compiled by Krzysztof Cieszkowski

Due to the extenisve and knowledgeable commentaries to the works which are completely reproduced here for the first time and the extremely interesting material published in Volume IV and V mostly for the first time this comprehensive edition is a reference source for the reception of the work of Francis Bacon.

★また、河出書房新社さんでは3月末に『アルトー後期集成(II)』(宇野邦一・鈴木創士監修、管啓次郎・大原宣久訳、河出書房新社、2016年3月、本体4,000円、46判上製400頁、ISBN978-4-309-70532-3)がついに刊行されるようです。版元紹介文に曰く「世界にも類のない後期アルト-の集成、ついに完結。最後の著書として構想された『手先と責苦』をはじめて全訳。極限の思考と身体がうみだした至高にして残酷なる言葉」。同集成は第I巻が2007年3月刊、第III巻が同年6月刊でした。実に9年ぶりの続巻にして完結編となります。

★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。

『1493――世界を変えた大陸間の「交換」』チャールズ・C・マン著、布施由紀子訳、紀伊國屋書店、2016年2月、本体3,600円、46判上製816頁、ISBN978-4-314-01135-8
『日本の海岸線をゆく――日本人と海の文化』日本写真家協会編、平凡社、2016年2月、本体3,200円、B5変判並製204頁、ISBN978-4-582-27822-4
『ライプニッツの情報物理学――実体と現象をコードでつなぐ』内井惣七著、中公叢書、2016年2月、本体2,000円、四六判並製272頁、ISBN978-4-12-004766-4
『エドゥアール・グリッサン――〈全-世界〉のヴィジョン』中村隆之著、岩波書店、2016年2月、本体2,200円、四六判並製248頁、ISBN978-4-00-029183-5
『映画の胎動――1910年代の比較映画史』小川佐和子著、人文書院、2016年2月、本体6,800円、A5判上製366頁、ISBN978-4-409-10035-6

★『1493』はまもなく発売(25日頃)。原書は、1493: Uncovering the New World Columbus Created (Knopf, 2011)です。同著者による『1491――先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』(原著2005年;布施由紀子訳、NHK出版、2007年)の姉妹編であり、「タイム」誌の2011年度ベスト・ノンフィクション部門第1位を獲得したほか、米国主要各紙で高い評価を得たベストセラーです。帯文はこうです。「この世界のありようは欲望の帰結だ。グローバル化はここから本格的にはじまった。銀、病原菌、タバコ、じゃがいも、ミミズ、ゴムノキ、そして人間――コロンブスのアメリカ大陸到着後、これらが世界を行き交いはじめた。敏腕ジャーナリストが、膨大な文献と綿密な取材をもとに、激動の世界をいきいきと描き出した圧巻のノンフィクション」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。同じくリンク先では巻頭の「まえがき」を立ち読みできます。著者はサイエンスライターでもあり、共著書に『素粒子物理学をつくった人々』(上下巻、ハヤカワ文庫、2009年)などがあります。

★『日本の海岸線をゆく』はまもなく発売(26日頃)。公益社団法人「日本写真家協会」さんの創立65周年記念出版とのことです。帯文に曰く「海岸線からみえる日本人の文化。祭、漁、市場、舟屋、工場・・・そして震災からの復興を目指す被災地の光景。123人による197点の写真を収録した珠玉の海岸線写真集」。巻頭には椎名誠さんによるエッセイ「凍結の海、炎熱の海――いくつもの波をこえて」(2-5頁)が掲載されています。この国が東西南北を海に囲まれた島国であることを改めて自覚させてくれる作品集です。同名の記念写真展が池袋・東京芸術劇場(5階、ギャラリー1・ギャラリー2)で3月1日~13日、京都市美術館(本館2階)で6月14日~19日まで開催されます。来春(2017年4~6月)には横浜・日本新聞博物館でも予定されているとのことです。

★『ライプニッツの情報物理学』は発売済。『モナドロジー』をはじめとするライプニッツ哲学をこんにちの情報理論の記念碑的先駆けとして読み解き再評価する、非常に興味深い本です。3部19章78節構成で、まえがきでの著者自身の説明によれば、第1部「力学の基礎は情報の形而上学」ではライプニッツにおける力学と形而上学の関係を掘り下げ、著者による情報論的解釈が披露されます。第2部「空間と時間の起源」と第3部「慣性と重力、ライプニッツ的構想の一つの形」はライプニッツの時空論を再構成する試みで、第2部では著者の前著『空間の謎・時間の謎――宇宙の始まりに迫る物理学と哲学』(中公新書、2006年)で論じられた時空の問題がライプニッツの形而上学と動力学ではどうなるかを分析し、第3部ではライプニッツ力学の可能性と射程が論じられています。現代に甦るライプニッツの鮮やかな思索の数々は知的刺激に満ちたもので、本書は人文書売場だけでなく理工書売場に並べられても動きがあるのではないかと予想できます。

★『エドゥアール・グリッサン』は発売済。『フランス語圏カリブ海文学小史――ネグリチュードからクレオール性まで』(風響社、2012年)、『カリブ-世界論――植民地主義に抗う複数の場所と歴史』(人文書院、2013年)に続く、中村隆之(なかむら・たかゆき:1975-)さんの第三作です。帯文に曰く「〈魂〉の脱植民地化を目指して。収奪されたカリブ海の島・民の視点から歴史を編み直した作家の壮大な思想に迫る」と。「開かれた船の旅」「〈一〉に抗する複数の土地」「歴史物語の森へ」「消滅したアコマ、潜勢するリゾーム」「カオスの海原へ」の5章立てで、フランス領マルティニック出身の作家グリッサン(1928-2011)の作品と生きざまを年代順に跡付け、彼の世界観を読み解いています。これまでにグリッサンの訳書には『〈関係〉の詩学』『全-世界論』『レザルド川』『多様なるものの詩学序説』『フォークナー、ミシシッピ』などがあり、今後も続々と刊行されるようですが、グリッサン論の出版は日本では本書が初めてで、画期的な成果です。書名のリンク先で第一章の冒頭部分を立ち読みできます。

★『映画の胎動』は発売済。小川佐和子(おがわ・さわこ:1985-)さんは京都大学人文科学研究所の助教で、単独著の出版は本書が初めてで、博士学位論文「1910年代の比較映画史研究――初期映画から古典的映画への移行期における映画形式の形成と展開」を再構成し、大幅に加筆修正を施したもの、とのことです。目次詳細は書名のリンク先からご覧ください。帯文に曰く「映画史のベル・エポック。フランス、イタリア、ロシア、ドイツ、アメリカ、日本の膨大な数のフィルムをたどり、映画揺籃期を映し出す」と。「あとがき」には研究の苦労がこう綴られています。「10年間に時代を絞ったものの、この時代の映画史全体の様相をとらえるためには特定の国や地域にとどまらず主要な映画産業国を対象とした越境的な視点を持つ必要があった。〔・・・〕そもそもこの時期の映画作品自体の現存が少なく(日本映画に関してはほとんど残っていない)、もしくは復元が終わっておらず、DVD等で容易に観ることは困難であった。そのためヨーロッパ各国の映画アーカイヴ調査を重ね、〔・・・〕海外の映画祭へも毎年欠かさず参加するようにした」(328頁)。

本日搬入:『脱原発の哲学』人文書院さんより

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弊社出版物でお世話になっている訳者の皆様の最近のご活躍をご紹介します。

★佐藤嘉幸さん(共訳:バトラー『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
宇都宮大学国際学部准教授の田口卓臣(たぐち・たくみ:1973-)さんとの共著書『脱原発の哲学』が人文書院さんからまもなく発売となります。本日2月23日が取次搬入日です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文にある小出裕章さんと大島堅一さんの推薦文もリンク先で読むことができます。

脱原発の哲学
佐藤嘉幸・田口卓臣著
人文書院 2016年2月 本体3,900円 4-6判上製466頁 ISBN978-4-409-04108-6

帯文より:福島第一原発事故から五年、ついに脱原発への決定的理論が誕生した。科学、技術、政治、経済、歴史、環境などあらゆる角度から、かつてない深度と射程で論じる巨編。

序論より:私たちは、脱原発と核廃絶という理念を、決して「ユートピア」的理念とは見なさない。それらは私たちの未来において常に開かれた実現可能な理念であり、しかも可能な限り早く実現されるべき「切迫した」理念(ジャック・デリダ)である。脱原発と核廃絶という理念は、私たちの生きる世界の中に、権力の諸効果を内部から無化した「別の場所」、すなわち「ヘテロトピア」を構築するという試みに他ならない。(20頁)


★中井亜佐子さん(共訳:ロイル『デリダと文学』)
一橋大学言語社会研究科の大学院生と教員が中心となって共通のテーマのもと寄稿する(教員による査読付)という、英文の年刊ジャーナル「Correspondence: Hitotsubashi Journal of Arts and Literature」(ISSN2423-9100)が創刊されました。2016年2月刊行の「issue #01」は、「Reconsidering the Nation」特集。編集長・執筆者代表の橋本智弘さんによる「Introduction」に始まり、橋本さんご自身を含む6名の論考が掲載されています。その中のひとつが中井さんによる「The Future of the National University, or the Doglife of Literature」(99-112頁)です。クッツェーの『恥辱』からの引用に始まる本論考は、デリダの『条件なき大学』や「新自由主義時代における〈国立〉大学」を論じつつ、いま文学研究にできることについて問いかけておられます。

また、同号にはChristian Høgsbjergさんの論考「Beyond the Boundary of the Black Atlantic?: C.L.R. James in Imperial Britain」(113-140頁)も掲載されています。HøgsbjergさんはUCL(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)のInstitute of the Americasでカリブ史のティーチング・フェローをおつとめで、『大英帝国におけるC・L・R・ジェームズ』(デューク大学出版、2014年、未訳)などの著書があります。

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