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注目近刊および既刊:『吉本隆明全集28[1994-1997]』晶文社、ほか

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★まもなく発売となる注目近刊3点を掲出します。

『吉本隆明全集28[1994-1997]』吉本隆明著、晶文社、2022年4月、本体6,800円、A5判変型上製664頁、ISBN978-4-7949-7128-9
『満洲からシベリア抑留へ――女性たちの日ソ戦争』生田美智子著、人文書院、2022年4月、本体4,200円、4-6判上製410頁、ISBN978-4-409-52086-4
『親密なる帝国――朝鮮と日本の協力、そして植民地近代性〔コロニアル・モダニティ〕』ナヨン・エィミー・クォン著、永岡崇監訳、人文書院、2022年4月、本体4,500円、4-6判上製400頁、ISBN978-4-409-04119-2

★『吉本隆明全集28[1994-1997]』は、第29回配本。単行本未収録53篇を収録。既刊中、最多の未収録数ではないかと思います。1996年8月に西伊豆の海水浴場で溺れた事故について書いた、「溺体始末記」や「内省記――溺体事故始末」をはじめ、谷川雁や埴谷雄高ら旧知の人々への追悼文、さらに阪神大震災やオウム事件など現代人にとっても忘れ難い出来事に対して論じた文章も収録。今なお吉本さんが生きているかのような錯覚を覚えさせます。目次詳細は書名のリンク先で確認できます。

★また、予想以上に長文の野茂英雄論、ざっくばらんな荒木経惟論、そして村上春樹、ドゥルーズ/ガタリ、ビートたけし、宮崎駿、松本人志らの著書に対する書評など、同時代と旺盛に向き合ってきた足跡を確認できます。伊丹十三/岸田秀『哺育器の中の大人』(朝日出版社、1978年;青土社、1992年;文春文庫、1995年;ちくま文庫、2011年)に対する解説文(文春文庫版に初出)を読むと、岸田さんへの賛辞やその思想のまとめ方に吉本さんの共感がにじみ出ていて、吉本さんの『心的現象論』と岸田さんの『唯幻論大全』を併読することの意義を予感させます。

★投げ込みの「月報29」は、辺見庸「単独者の貌」、道浦母都子「最後の贈り物」、ハルノ宵子「ハルノ宵子への良い質問・悪い質問」を収録。次回配本となる第29巻は8月刊行予定。

★今年百周年を迎えた人文書院さんの4月新刊より2点。『満洲からシベリア抑留へ』は、4月20日取次搬入予定。2016年から2020年に掛けて各媒体に発表してきた論考を大幅に加筆し書き直して1冊にまとめたもの。女性たちのシベリア抑留の凄惨な実態を「満州やソ連での現地調査と最近発見したソ連の公式文書とを交錯させることで、その生の軌跡をたどっ」(はじめに、12頁)たもの。著者の生田美智子(いくた・みちこ, 1946-)さんは大阪大学名誉教授。ご専門は日露日ソ交流史で、単独著に『大黒屋光太夫の接吻――異文化コミュニケーションと身体』(平凡社選書、1997年)や『外交儀礼から見た幕末日露文化交流史――描かれた相互イメージ・表象』(ミネルヴァ書房、2008年)などがあります。

★『親密なる帝国』は、4月26日取次搬入予定。デューク大学アジア中東研究学部准教授で、同大アジア系アメリカ人とディアスポラ研究プログラムディレクターを務めるナヨン・エィミー・クォン(Nayoung Aimee Kwon)さんの著書、『Intimate Empire: Collaboration and Colonial Modernity in Korea and Japan』(Duke University Press, 2015)の全訳。「日本語版への序文」が加えられています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。帯文に曰く「「協力vs抵抗」では捉えきれない朝鮮人作家たちの微細な情動に目を凝らす。日本と朝鮮半島に共有された植民地近代という複雑な体験がもたらす難問に挑」む、と。

★なお、人文書院さんは非売品で「人文書院100周年記念冊子(人文書院1000年のあゆみ/人文書院全刊行書目一覧)」(B6判48頁)を作製されました。この冊子は今月から岩手、東京、京都、奈良、大阪などで順次開催されている「人文書院100周年フェア」で配布中とのことです。

★続いて注目既刊書について列記します。

『新装版 法哲学講義』G・W・F・ヘーゲル著、長谷川宏訳、作品社、2022年3月、本体7,800円、A5判上製712頁、ISBN978-4-86182-884-3
『諜報の技術――CIA長官回顧録』アレン・ダレス著、鹿島守之助訳、中公文庫、2022年3月、本体1,300円、文庫判464頁、ISBN978-4-12-207195-7
『全文現代語訳 維摩経・勝鬘経』大角修訳・解説、角川ソフィア文庫、2022年3月、本体1,160円、文庫判416頁、ISBN978-4-04-400699-0
『三酔人経綸問答』中江兆民著、先崎彰容訳・解説、角川ソフィア文庫、2021年12月、本体1,000円、文庫判272頁、ISBN978-4-04-400669-3
『吾妻鏡』西田友広編、角川ソフィア文庫、2021年11月、本体1,580円、文庫判784頁、ISBN978-4-04-400407-1
『風土記』橋本雅之編、角川ソフィア文庫、2021年11月、本体920円、文庫判272頁、ISBN978-4-04-400623-5
『鬼むかし――昔話の世界』五来重著、角川ソフィア文庫、2021年10月、本体1,120円、文庫判304頁、ISBN978-4-04-400675-4

★『新装版 法哲学講義』は、2000年4月に初版が刊行されその後も版を重ねてきたロングセラーの新装版。1820年に上梓した『法哲学要綱』に基づいて1824~5年にヘーゲルがベルリン大学で行なった講義の記録です。講義だけでなく、要綱の訳も講義の後に併録されています。巻末には訳者の長谷川さんによる「新装版あとがき」が加えられています。訳文改訂については特筆されていないので、大きな変更はなかったということかと思います。長谷川さんは「法をめぐってこれほど広く粘り強く思考を重ねた書物はめったにあるものではない。200年も前の講義だが、社会と国家の本質にせまろうとする人がいまなお対決すべき重要な書物だ」と記しておられます。

★中公文庫3月新刊から1点、『諜報の技術』は、1965年に鹿島研究所出版会(のちの鹿島出版会)より刊行された単行本の文庫化。原著は訳書刊行の2年前にハーパー&ロウより刊行された『The Craft of Intelligence』で、著者のアレン・ダレス(Allen Welsh Dulles, 1893-1969)の回顧録です。ダレスはアイゼンハワーとケネディ政権時に第5代CIA長官を務め、兄の国務長官ジョン・ダレスとともに「冷戦外交を主導」(カバー表4紹介文より)した人物で、対日終戦工作を画策したのも彼だと言います。巻末解説は早稲田大学教授の有馬哲夫さん。訳者の鹿島守之助(かじま・もりのすけ, 1896-1975)さんは鹿島建設中興の祖であり、第1次岸内閣では国務大臣を務めました。彼の遺志を継いで死後に設立されたのがかの八重洲ブックセンターであることは周知の通りです。

★ダレスは本書をこう締めくくっています。「核ミサイル時代の軍事的挑戦はよく理解されており、それに立ち向かうために数十億ドルを費やすのは正しい。同時にわれわれは見えざる戦争のあらゆる面、クレムリン製の解放戦争、いろいろの看板や出先を有し、スパイ行為によって支持され、ソ連共産党に指導される、破壊活動の脅威にも対処しなければならない。今日、絶対にしてはならぬこと、それは、わが国の情報活動を鎖につなぐことである。情報活動が国防と情報収集とにおいて果たす役割は、無類の危険が絶えず存在する時代においては、不可欠なのである」(438~439頁)。

★角川ソフィア文庫の昨年10月から今年3月までの既刊書より5点。「ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」からは、鎌倉幕府の百年誌『吾妻鏡』と、日本各地の動植物や地名の由来、伝承などを集めた『風土記』。「ビギナーズ 日本の思想」からは中江兆民による政治論『三酔人経綸問答』。シリーズ名はないものの一連の現代語訳仏典の最新作として『全文現代語訳 維摩経・勝鬘経』。カバー表4紹介文に曰く「二経典の全文および〔聖徳太子による注釈書〕「三経義流」の抜粋を読み下し文とわかりやすい口語訳で収録。また経典が与えた影響を多彩なコラムで紹介。文庫オリジナルの本格入門」。最後に無印(シリーズ外)では、民俗学者の五来重さんの『鬼むかし』。これは91年に角川選書の1冊として刊行されたものの文庫化で、巻末解説は小松和彦さんが寄せておられます。

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