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注目近刊と新刊:大塚英志『大東亜共栄圏のクールジャパン』集英社新書、ほか

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★まもなく発売となる注目新刊書から5点を取り上げます。


『メタレプシス――文彩からフィクションへ』ジェラール・ジュネット著、久保昭博訳、人文書院、2022年3月、本体2,800円、4-6判上製186頁、ISBN978-4-409-04118-5
『フロイトとの対話』ブレット・カー著、森茂起訳、人文書院、2022年3月、本体4,500円、4-6判並製428頁、ISBN978-4-409-34057-8

『アメリカ日系社会の音楽文化――越境者たちの百年史』早稲田みな子著、共和国、2022年3月、本体7,800円、菊変型判上製556頁、ISBN978-4-907986-71-1

『〈言語社会〉を想像する――一橋大学言語社会研究科25年の歩み』中井亜佐子/小岩信治/小泉順也編著、小鳥遊書房、2022年3月、本体2,700円、A5判並製352頁、ISBN978-4-909812-79-7



★『メタレプシス』は、フランスの文学理論家ジェラール・ジュネット(Gérard Genette, 1930-2018)の『Métalepse』(Seuil, 2004)の全訳。訳者によれば本書を「ジュネットの知的奇跡の中に位置づけるなら、一般美学への関心を反映させて書かれた「物語のディスクール」への長大な補注であると同時に、『フィクションとディクション』で中心的に展開されたフィクション理論に新たな視点を付け加えた著作」とのこと。ジュネットは本書の終わり付近でこう書いています。「フィクションはすべて、メタレプシスで織り上げられているのである。このことは現実のすべてについてもあてはまる。現実は、フィクションの中に自らを認め、また自らに固有の世界にフィクションを認めるのだから――「この男はまぎれもないドンファンだ」というように」(143頁)。


★『フロイトとの対話』は、英国の精神分析家ブレット・カー(Brett Kahr)が架空の対談形式で執筆した入門書『Coffee with Freud』(Routledge, 2017)の訳書。『ウィニコットとの対話』(人文書院、2019年)に続く「没後インタビュー」シリーズ第2弾です。「膨大な未発表資料や関係者への緻密な調査から、フロイトのウィーン時代や精神分析運動史の知られざる歴史的文脈が明らかにされる」(帯文より)。訳者はこう評しています。「かつてのオフィスでインタビューを行った前作と異なり、〔…〕ウィーン文化にかなりの対話が津親されるのも本書の面白さである」。


★『アメリカ日系社会の音楽文化』は、国立音楽大学教授の早稲田みな子(わせだ・みなこ, 1966-)さんが2000年にカリフォルニア大学サンタバーバラ校に提出した英文の博士論文をもとにご自身で書き下ろし、増補改訂したもの。序章の言葉を借りると「日本の音楽文化ともアメリカの主流音楽文化とも異なる〔…〕その生成と変遷の歴史」を「歴史資料と現地調査によって明らかにしようとする試み」。


★『〈言語社会〉を想像する』は、副題にある通り一橋大学言語社会研究科の「25年の歩み」をエッセイと座談会、対談で振り返るもの。「人文学よ、どこへ行く」「歴史を学べば」「研究室の扉をたたく」「キャンパスから飛びたつ」の4部構成。巻末には言語社会研究科の1996年開設以来の「沿革」も掲載されています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。


★続いて、最近出会いのあった新刊を並べます。


『大東亜共栄圏のクールジャパン――「協働」する文化工作』大塚英志著、集英社新書、2022年3月、本体940円、ISBN978-4-08-721207-5
『魔術師と予言者――2050年の世界像をめぐる科学者たちの闘い』チャールズ・C・マン著、布施由紀子訳、紀伊國屋書店、2022年3月、本体4,500円、46判上製849頁、ISBN978-4-314-01190-7

『南の音詩人たち――アルベニス、セヴラック、モンポウの音楽』濱田滋郎著、アルテスパブリッシング、2022年3月、本体2,400円、四六判並製280頁、ISBN978-4-86559-254-2

『DEATHか裸(ら)』福田拓也著、コトニ社、2022年3月、本体2,500円、46変型判並製152頁、ISBN978-4-910108-08-7



★『大東亜共栄圏のクールジャパン』は、批評家の大塚英志(おおつか・えいじ, 1958-)さんが2018年から2022年にかけて各媒体で発表してきた論考など4本を全面的に加筆修正し、序章を加えて再構成したもの。「戦時下、いわゆる大東亜共栄圏に向けてなされた宣伝工作、いわゆる「文化工作」の具体的な姿を追うもの」。「特に宣伝工作の中でもまんが・アニメ・映画といった大衆文化における事例を軸に紹介する」(序章より)とのことです。


★「戦時下の「文化工作」の最大の特徴は三つある。/ひとつめは多メディア展開である。/二つめは、そのプロパガンダには「内地」に向けたものと、「外地」あるいは領地や国際社会に向けたものの二種類があり、それぞれに語られ方が異なるということだ。/三つめは官民、そして何よりプロとアマチュア(戦時下は「素人」と呼ばれた)の垣根を越えた共同作業であることだ」(序章、7頁)。


★「今の日本でも文化工作の「案件」化、カジュアル化という事態が起きている。〔…〕「文化工作」がどこにでもある日常が復興しているのだ」(14頁)。「全てが戦時下に連なるというのはある意味では正しい。〔…〕そもそも戦時下に設計されたそれら文化創造や政治参加のあり方は良くも悪くも(私見ではより悪く)SNSやオンラインと整合性が高いとも考えられるのだ。/だから本書もまた、ぼくは戦時下の「協働する文化工作」をめぐる諸相を「現在」への極めてベタな批評として語ることにする」(15頁)。出版界もこの「文化工作」に関わっていることを意識する必要があります。


★『魔術師と予言者』は、米国の科学ジャーナリストのチャールズ・C・マン(Charles C. Mann, 1955-)さんの近著『The Wizard and the Prophet: Two Remarkable Scientists and Their Dueling Visions to Shape Tomorrow's World』(Knopf, 2018)の訳書。「本書は、環境保護をめぐるジレンマを精査して報告するものではない。〔…〕ふた通りの考え方、ふた通りの可能な未来図について書いていく」(24頁)。「魔術師派は「科学の力で解決せよ」と唱え、予言者派は「自然を守るべく抑制せよ」と叫ぶ。これは人類に迫る危機についての話だ」(帯文より)。


★「ボーローグもヴォートも、自分は環境問題の専門家として、地球の危機に立ち向かっているのだと思っていた。〔…〕ボーローグは、人類の創意工夫の才が問題を解決すると考えた。〔…〕ヴォートの考えはこの正反対〔…〕本書ではこうしたふたつの見解の指示者をそれぞれ、「魔術師派」「予言者派」と呼ぶことにする。魔術師派の人々は、まさに魔法のように、技術による解決策を見せてくれる。予言者派は、われわれが無頓着だったせいでこんなことになったと非難する」(18頁)。「わたしは、二つの立ち位置のあいだを行ったり来たりしている」(30頁)。


★『南の音詩人たち』は、音楽評論家の濱田滋郎(はまだ・じろう, 1935-2021)さんが90年代と、2010年代に発表したテクストを1冊にまとめたもの。「アルベニスの芸術と生涯――アンダルシアに心奪われた音楽家」「セヴラック随想――スペインへつづく南仏の香り」「カタルーニャのピアノの詩人、モンポウ」の3章立て。アルテスさんでは2年前に濱田さんのスペイン文化論『約束の地、アンダルシア――スペインの歴史・風土・芸術を旅する』を刊行されています。


★『DEATHか裸(ら)』は、東洋大学教授で詩人、文芸評論家の福田拓也(ふくだ・たくや, 1963-)さんの最新詩集。2018年に第56回歴程賞を受賞されてから最初の作品集となります。小説家の保坂和志さんが巻末解説を寄せておられます。「内面の奥の、深い、静かなところに騒音が満ちている。この騒音的な音調が私をワクワクさせる」と評しておられます。

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