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注目新刊:『広告 Vol.416(特集:虚実)』、ほか

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『広告 Vol.416(特集:虚実)』博報堂、2022年3月、税込1,600円、B4変型判320頁、雑誌89619-05


★『広告 Vol.416(特集:虚実)』は、2019年のリニューアル創刊から4号目。特集は、価値(413号)、著作(414号)、流通(415号)と来て、今回は虚実。編集長の小野直紀さんの巻頭言によれば「虚と実を二項対立で考えるのではなく、混ざり合い作用し合う“化合物”と捉えながら、不確かで多様な現実やもののあり方についての様々な視点を投げかけます」と。毎回驚かせてくれる造本ですが、今回は表紙と背はあるものの、裏表紙はなしで最終頁の奥付がむき出しです。三方は真っ黒に塗られています。どうしても綺麗に保存したい、という方は、読む用とは別に保存用をもう一冊買う必要がありそうです。小野さんと哲学者の清水高志さんとの対談「虚実と世界」(構成は斎藤哲也さん)を始め、興味深い内容が満載です。収録内容は誌名のリンク先でご確認いただけます。次号の特集は「文化」とのことです。アクチュアリティをぶち抜くような直球特集が続きます。


★次に、10日(木)に発売された、ちくま学芸文庫の3月新刊6点を列記します。


『新版 魔女狩りの社会史』ノーマン・コーン著、山本通訳、ちくま学芸文庫、2022年3月、本体1,700円、文庫判608頁、ISBN978-4-480-51068-6
『新・建築入門――思想と歴史』隈研吾著、ちくま学芸文庫、2022年3月、本体1,100円、文庫判240頁、ISBN978-4-480-51092-1
『学習の生態学――リスク・実験・高信頼性』福島真人著、ちくま学芸文庫、2022年3月、本体1,500円、文庫判496頁、ISBN978-4-480-51098-3
『モンテーニュ入門講義』山上浩嗣著、ちくま学芸文庫、2022年3月、本体1,500円、文庫判448頁、ISBN978-4-480-51110-2
『じゅうぶん豊かで、貧しい社会――理念なき資本主義の末路』ロバート・スキデルスキー/エドワード・スキデルスキー著、村井章子訳、ちくま学芸文庫、2022年3月、本体1,400円、文庫判416頁、ISBN978-4-480-51111-9
『アインシュタイン回顧録』アルベルト・アインシュタイン著、渡辺正訳、ちくま学芸文庫、2022年3月、本体1,000円、文庫判176頁、ISBN978-4-480-51112-6


★『新版 魔女狩りの社会史』は、英国の歴史学者コーン(Norman Rufus Colin Cohn, 1915-2007)の著書『魔女狩りの社会史』(岩波書店、1983年;再刊1999年)の文庫化。原著『Europe's Inner Demons: The Demonization of Christians in Medieval Christendom』(Basic Books, 1975)の訳書である岩波版を、1993年の原著改訂版を元にして改訳したのが今回の文庫版です。文庫化に際し、「訳者あとがき」が書き直され、黒川正剛さんが文庫版解説「学際的な魔女狩り研究を切り拓いた先駆者」をお寄せになっています。訳者あとがきによれば「改訂は、かなり大規模なものである。〔…〕改訂版は旧版とは全く別の作品になっている」とのことです。訳書では旧版の明らかな誤訳も訂正してあると記されています。帯文に曰く「排除と迫害と虐殺のメカニズム。「魔女の社会」はいかに捏造されたか」。


★『新・建築入門』は、建築家の隈研吾(くま・けんご, 1954-)さんの同名書き下ろし作(ちくま新書、1994年)の文庫化。著者による文庫版あとがき「歴史を乗り越えた」が加えられています。そこにはこう書かれています。「僕が一番書きたかったことは、モダニズムもポストモダニズムも共に、自己中心的な破壊行為だということである。構築という概念を使い、人間の考え方の歴史を遡りながら、その破壊行為の本質に迫りたいと思った。そして同時に、脱構築という概念を駆使して、自己の建築スタイルを正当化しようとする、90年代のスター建築家――アイゼンマンや磯崎新――の方法も、同じまな板の上にのせて批判したいと考えた」(221頁)。


★『学習の生態学』は、科学技術社会がご専門の東大大学院教授、福島真人(ふくしま・まさと, 1958-)さんの著書(東京大学出版会、2010年)の文庫化。著者による「文庫版のための序」「文庫版のための解題」「文庫版へのあとがき」、そして熊谷晋一郎さんによる解説「周縁者が参加できる組織の条件」が加えられています。帯文はこうです。「医療現場、原子力発電所……失敗が許されない組織で学習はいかにして可能か」。


★『モンテーニュ入門講義』は、文庫オリジナル。大阪大学大学院教授の山上浩嗣(やまがみ・ひろつぐ, 1966-)さんによる、モンテーニュの主著『エセー』の読解です。第1章「「今日は何もしなかった」――『エセー』に見るモンテーニュの脱力的生きかた」から、第7章「身体の経験――老、病、性」まで全7章立て。巻末には「モンテーニュ入門のための文献案内」が収められています。まえがきにこう書かれています。「私は本書を、モンテーニュの『エセー』に触れたことのない人、あるいは一度は読みかけたけれど途中でやめてしまった人に向けて書きました。そのような方々にぜひ『エセー』の魅力を伝えたいと思っています」。


★『じゅうぶん豊かで、貧しい社会』は、経済史家ロバート・スキデルスキー(Robert Jacob Alexander, Baron Skidelsky、1939-)とその子息で哲学者のエドワード・スキデルスキーによる共著『How Much Is Enough? Money and the Good Life』(Allen Lane, 2012)の訳書(筑摩書房、2014年)の文庫化。巻末解説「「善き人生」を支える資本主義のあり方を考える」をお寄せになった諸富徹さんの言葉が帯に推薦文として載っています。曰く「根源的な資本主義批判の書」と。


★『アインシュタイン回顧録』は、文庫オリジナル。「Math&Science」シリーズの最新刊です。帯文に曰く「唯一の自伝、新訳」と。原著は1949年刊の『Albert Einstein: Philosopher-Scientist』に収められたドイツ語の「Autobiographisches〔自伝のようなもの〕」です。出だしはこうです。「67才になったいま〔1946年〕、机に向かい、自分の葬儀に使う弔辞を用意するような気分で、これを書き始めています〔逝去は1955年。享年76〕」。既訳には、中村誠太郎・五十嵐正敬訳『自伝ノート』(東京図書、1978年)がありますが、今回の新訳訳者によれば、原著でドイツ語原文の対訳として収められていた、ポール・シルプによる英訳からの訳出と思しい、とのことです。


★このほか最近では以下の新刊、既刊との出会いがありました。


『ジェネレーター ――学びと活動の生成』市川力/井庭崇著、学事出版、2022年3月、本体2,600円、四六判並製256頁、ISBN978-4-7619-2834-6
『日本仏教史入門――釈迦の教えから新宗教まで』松尾剛次著、平凡社新書、2022年2月、本体860円、新書判256頁、ISBN978-4-582-85997-3



★『ジェネレーター ――学びと活動の生成』は、一般社団法人みつかる+わかる代表理事の市川力(いちかわ・ちから, 1963-)さんと慶應義塾大学総合政策学部教授の井庭崇(いば・たかし, 1974-)さんの共著。版元紹介文に曰く「ジェネレート=生成するとはどういうことか。「指導」や「ファシリテート」とは違う、新しいものを生み出す存在になるための1冊」と。巻頭の「はじめに」にもう少し柔らかい表現でジェネレーターの説明があります。「「なんとなく変だなぁ」「気になる」「面白そう!」、そういう感覚で、モノ・コト・ヒトを追いかけて探索し続けていく――そんな生き方が「ジェネレーターのあり方です」(5頁)。本文は「ジェネレーターの誕生」「ジェネレーターの役割」「ジェネレーターの成長」の3部構成。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


★「「ジェネレーター」はいろいろな「雑」を集めて、記録しようとする「雑」のアーカイバーと呼べる存在です。さらに集まった「雑」を「仲間」と共有することを楽しむ「雑」のコラボレーターでもあります。雑を集め、雑談し、雑記し続けることを愚直に積み重ねるのです。こうして培われた知のネットワークが「ジェネレーター」の礎となり、偶発的に出「遇〔あ〕」う事象を見逃さない芽が育ち、こうしたら面白くなるのではという反応力を高めるのです」(7頁)。「この本は、ジェネレーターが生きている「森」であり、ジェネレーターが集めた「雑」の集積物と「知」のネットワークをあらわにするものです」(8頁)。


★『日本仏教史入門』は、山形大学名誉教授で日本中世史や宗教社会学がご専門の松尾剛次(まつお・けんじ, 1954-)さんが「日本仏教の1500年を俯瞰」(帯文より)的に「いわば通史的に、わかりやすく述べ」「大づかみな概念図を描」(はじめにより)いた入門書です。「仏教とは何だろう」「なぜ仏教を受け入れたのか――飛鳥・奈良・平安時代」「中世仏教の新しさとは何か――鎌倉時代」「どのように広がり、定着したのか――室町・戦国時代」「江戸時代の仏教は堕落していたのか」「明治維新はどんな意味を持つのか――明治から平成へ」の全6章立て。参考文献、関連年表、索引が付されています。

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