毎年恒例の「新書大賞」にお誘いいただき、参加いたしました。「新書大賞2022」が、先週金曜日2月10日発売の「中央公論」2022年3月号で発表となっています。私の投票は以下の通りでした。
1位:東浩紀『ゲンロン戦記』中公新書ラクレ
2位:堤未果『デジタル・ファシズム』NHK出版新書
3位:岡本裕一朗『ポスト・ヒューマニズム』NHK出版新書
4位:新渡戸稲造『対訳 武士道』朝日新書
5位:大塚英志監修『まんが訳 稲生物怪録』ちくま新書
選評については本誌をご覧いただけたら幸いです。「目利き49人が選ぶ2021年私のオススメ新書」に掲載されています。「新書通105人が厳選した年間ベスト20」と比べると、4位が『デジタル・ファシズム』で5位が『ゲンロン戦記』でした。5点がベストをまったく重複しないこともある私の毎年の投票に比べれば、今回は2点もランクインしており、珍しいとも言えますけれど、東さんと堤さんの本は当然の評価だとも思います。
ちなみに今号では投票者別ランキングというコーナーがあって、105名が「有識者49名」「編集者・記者27名」「書店員29名」と分類されてそれぞれのベスト10が掲出されているのですが、『ゲンロン戦記』が有識者2位、編集者記者4位、書店員ではランク外と、興味深い結果に。『デジタル・ファシズム』は書店員2位で有識者および編集者記者ではランク外。こちらも興味深いです。『ゲンロン戦記』は、語られているところの株式会社ゲンロンが出版社であることもあり、出版人にとっては様々なヒントを得られる必読書と言えます。ゲンロンは一方でゲンロン・カフェも運営しているので、書店人にとっても学ぶ点は多いはずです。
私の考えでは出版社と書店は現在のような別々の組織ではなく、業界のエコシステム全体に関わるような大きな連合体にならざるをえなくなるだろうと思っています。製販同盟という以上に、製造と販売の一体化。そうしない限り、利益分配がうまくいかないからです。製造(出版社)、物流決済(取次)、小売(書店)がそれぞれの分け前増額を主張しても、限界があります。書店は本を作る苦労を知らねばならないし、出版社は本を売る苦労を知らねばならない。現時点でも、出版業と書店業を行っている会社は、紀伊國屋書店、丸善、三省堂書店、等々あるわけですが、「一体化」とまでその相乗効果があるようには見えない。長年やってきて、なぜこうなのか。問い直す必要があると思います。
話を戻すと、今年は5点以外にも例年以上に面白い新書新刊が多く、選出しきれなかったというのが本音です。次点に挙げていたのは20点強にのぼります。写真を掲出します。
ちょっと見えにくいでしょうか。このうち、酒井隆史『ブルシット・ジョブの謎』講談社現代新書、は12月刊なので、来年の2023年大賞の選考対象です。また、今回ぜひ選出したかったものの、今後の持続性を見ようと思ったのが、文化科学高等研究院出版局の「知の新書」です。去年の注目既刊書には例えば、5月に浅利誠『ジャック・デリダとの交歓』、6月にリュック・ボルタンスキー『道徳判断のしかた――告発/正義/苦しみと資本主義の精神』があります。いずれも他の大手レーベルにはない個性的な企画で、価格帯は他社の倍近くありますが、啓発的な出版を続けておられます。なおボルタンスキー『道徳判断のしかた』は巻頭特記によれば、『偉大さのエコノミーと愛』(三浦直希訳、文化科学高等研究院出版局、2011年)を「新書用に再アレンジし、タイトル、表題、小見出しなどを変え、読みやすくし、部分的に改変し、問いも理解を助けるべく導入的に書き替えした」とのことです。
1位:東浩紀『ゲンロン戦記』中公新書ラクレ
2位:堤未果『デジタル・ファシズム』NHK出版新書
3位:岡本裕一朗『ポスト・ヒューマニズム』NHK出版新書
4位:新渡戸稲造『対訳 武士道』朝日新書
5位:大塚英志監修『まんが訳 稲生物怪録』ちくま新書
選評については本誌をご覧いただけたら幸いです。「目利き49人が選ぶ2021年私のオススメ新書」に掲載されています。「新書通105人が厳選した年間ベスト20」と比べると、4位が『デジタル・ファシズム』で5位が『ゲンロン戦記』でした。5点がベストをまったく重複しないこともある私の毎年の投票に比べれば、今回は2点もランクインしており、珍しいとも言えますけれど、東さんと堤さんの本は当然の評価だとも思います。
ちなみに今号では投票者別ランキングというコーナーがあって、105名が「有識者49名」「編集者・記者27名」「書店員29名」と分類されてそれぞれのベスト10が掲出されているのですが、『ゲンロン戦記』が有識者2位、編集者記者4位、書店員ではランク外と、興味深い結果に。『デジタル・ファシズム』は書店員2位で有識者および編集者記者ではランク外。こちらも興味深いです。『ゲンロン戦記』は、語られているところの株式会社ゲンロンが出版社であることもあり、出版人にとっては様々なヒントを得られる必読書と言えます。ゲンロンは一方でゲンロン・カフェも運営しているので、書店人にとっても学ぶ点は多いはずです。
私の考えでは出版社と書店は現在のような別々の組織ではなく、業界のエコシステム全体に関わるような大きな連合体にならざるをえなくなるだろうと思っています。製販同盟という以上に、製造と販売の一体化。そうしない限り、利益分配がうまくいかないからです。製造(出版社)、物流決済(取次)、小売(書店)がそれぞれの分け前増額を主張しても、限界があります。書店は本を作る苦労を知らねばならないし、出版社は本を売る苦労を知らねばならない。現時点でも、出版業と書店業を行っている会社は、紀伊國屋書店、丸善、三省堂書店、等々あるわけですが、「一体化」とまでその相乗効果があるようには見えない。長年やってきて、なぜこうなのか。問い直す必要があると思います。
話を戻すと、今年は5点以外にも例年以上に面白い新書新刊が多く、選出しきれなかったというのが本音です。次点に挙げていたのは20点強にのぼります。写真を掲出します。
ちょっと見えにくいでしょうか。このうち、酒井隆史『ブルシット・ジョブの謎』講談社現代新書、は12月刊なので、来年の2023年大賞の選考対象です。また、今回ぜひ選出したかったものの、今後の持続性を見ようと思ったのが、文化科学高等研究院出版局の「知の新書」です。去年の注目既刊書には例えば、5月に浅利誠『ジャック・デリダとの交歓』、6月にリュック・ボルタンスキー『道徳判断のしかた――告発/正義/苦しみと資本主義の精神』があります。いずれも他の大手レーベルにはない個性的な企画で、価格帯は他社の倍近くありますが、啓発的な出版を続けておられます。なおボルタンスキー『道徳判断のしかた』は巻頭特記によれば、『偉大さのエコノミーと愛』(三浦直希訳、文化科学高等研究院出版局、2011年)を「新書用に再アレンジし、タイトル、表題、小見出しなどを変え、読みやすくし、部分的に改変し、問いも理解を助けるべく導入的に書き替えした」とのことです。