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注目新刊:モンザン『イメージは殺すことができるか』法政大学出版局、ほか

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★まず、まもなく発売となるちくま学芸文庫の1月新刊5点と、関連する文庫新刊1点を列記します。


『英霊――世界大戦の記憶の再構築』ジョージ・L・モッセ著、宮武実知子訳、ちくま学芸文庫、2022年1月、本体1,400円、文庫判416頁、ISBN978-4-480-51078-5
『陶淵明全詩文集』陶淵明著、林田愼之助訳注、ちくま学芸文庫、2022年1月、本体1,700円、文庫判592頁、ISBN978-4-480-51093-8
『荘園の人々』工藤敬一著、ちくま学芸文庫、2022年1月、本体1,000円、文庫判240頁、ISBN978-4-480-51094-5
『評伝 岡潔――花の章』高瀬正仁著、ちくま学芸文庫、2022年1月、本体1,700円、文庫判592頁、ISBN978-4-480-51095-2
『科学と仮説』アンリ・ポアンカレ著、南條郁子訳、ちくま学芸文庫、2022年1月、本体1,100円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-51091-4
『科学と仮説』ポアンカレ著、伊藤邦武訳、岩波文庫、2021年12月、本体1,200円、文庫判494頁、ISBN978-4-00-339029-0


★『英霊』は、2002年に柏書房より刊行された単行本の文庫化。ドイツ生まれの歴史家モッセ(George Lachmann Mosse, 1918-1999)の著書『Fallen Soldiers: Reshaping the Memory of the World Wars』(Oxford University Press, 1990)の翻訳で、文庫化にあたり全面的に改稿したとのことです。副題は「創られた世界大戦の記憶」から「世界大戦の記憶の再構築」に改められ、今井宏昌さんによる解説「『英霊』の遺したもの」が加えられています。


★『陶淵明全詩文集』は、ちくま学芸文庫のオリジナル新訳。凡例によれば「本書は陶淵明の全詩文に訳注をほどこしたもの」で、「詩文の配列は、清の陶澍の『靖節先生集』にもとづくものであるが、そのなかにある「聯句」「扇上畫贊」と題する詩篇は、従来から陶淵明の詩ではあるまいとみなされてきたので本書ではこれを省くことにした」とのことです。「家は逆旅の舎なれば、我は当に去るべき客の如し」(323頁)というような詩句は老いを迎えるといよいよ胸に沁みます。なお岩波文庫の『陶淵明全集』全2巻(松枝茂夫/和田武司訳注、1990年)は現在品切。


★『荘園の人々』は1978年に教育者歴史新書の1冊として刊行されたものの文庫化。再刊にあたり、「文庫版あとがき」と、高橋典幸さんによる解説「人物を通じて荘園を理解する」が加えられています。「古代の律令制官僚支配を受けつぐ都市貴族支配の国家体制や土地制度を存立させる社会体制の総体、これこそ荘園制であろう。その意味で、中世全体が荘園制の時代といえよう」(228頁)。著者の工藤敬一(くどう・けいいち, 1934-)さんは荘園史研究の重鎮。著書に『荘園制社会の基本構造』(校倉書房、2002年)などがあります。


★『評伝 岡潔――花の章』は全2巻完結。「第3巻は絶頂期から、第一エッセイ集『春宵十話』の結実、文化勲章受章、逝去に至るまでの人生行路を鮮明に描写する」(カバー表4紹介文より)。対を成す「星の章」は11月に発売済。


★『科学と仮説』はフランスの数学者で物理学者のポアンカレ(Henri Poincaré, 1854-1912)の高名な著書『La Science et l'Hypothèse』(Flammarion, 1902)の新訳。日本語訳としてもっとも版を重ねてきたのは、おそらく河野伊三郎訳(岩波文庫、1938年;改版1959年)でしょうが、この12月に岩波文庫では伊藤邦武さんによる新訳が刊行されたばかりで、2か月連続で今度はちくま学芸文庫で南條郁子さんによる新訳が発売されることになります。巻頭の「序文/はじめに」を試しに読み比べてみましょう。


伊藤訳:科学について表面的な見方しかしていない人にとては、科学的真理はまったく疑いをいれないもののように見えるだろう。科学の論理は不可謬であり、確かに学者たちがときどき誤ることはあるとしても、それは彼らがいくつかの規則を誤解したために生じるのである。


南條訳:物事のうわべしか見ない人にとっては、科学的真理は疑う余地がない。科学の論理に謝りはなく、科学者がときどき間違えるのは、その規則をおろそかにしたからだ。


★ほぼ同時期に刊行されるわけなので、両方の訳書を読み比べてみるのも良いと思います。運が良ければ、河野訳岩波文庫が返品直前で店頭に残っている場合もありますから、ちくま学芸文庫の発売日1月6日以降に3冊を買えることもあるかもしれません。そうした幸運に恵まれた時はどうか迷わず3種類すべてをお買い求め下さい。


★なお、筑摩書房さんでは年明けに、ジョン・ロールズ『政治的リベラリズム 増補版』(神島裕子/福間聡訳、川本隆史解説、筑摩書房、2022年1月、本体6,300円、A5判704頁、ISBN9784480867377)が刊行とのこと。待ちに待った翻訳の完成で、驚くばかりです。


★ここ最近では以下の新刊との出会いがありました。


『吉本隆明全集27[1992-1994]』吉本隆明著、晶文社、2021年12月、本体6,700円、A5判変型上製662頁、ISBN978-4-7949-7127-2
『イメージは殺すことができるか』マリ=ジョゼ・モンザン著、澤田直/黒木秀房訳、法政大学出版局、2021年12月、本体2,200円、四六判上製146頁、ISBN978-4-588-01139-9

『攻殻機動隊論』藤田直哉著、作品社、2021年12月、本体2,700円、46判並製368頁、ISBN978-4-86182-881-2

『極東ナチス人物列伝――日本・中国・「満洲国」に蠢いた異端のドイツ人たち』田嶋信雄/田野大輔編、大木毅/工藤章/熊野直樹/清水雅大著、作品社、2021年12月、本体2,700円、46判上製336頁、ISBN978-4-86182-882-9



★『吉本隆明全集27[1992-1994]』は、第28回配本。最後の詩「わたしの本はすぐに終る」(初出「新潮」誌93年3月号)や、同じく「新潮」誌で92年から94年にかけてほぼ隔月で発表された連載「イメージ論」を単行本化した「現在はどこにあるか」などを収録。付属の「月報28」では末次弘「出会いと別れ」、前田英樹「吉本隆明の描いた小林秀雄」、ハルノ宵子「非道な娘」が掲載。以下では読書や書物をめぐるいくつかのエッセイから、感銘を受けた文章を二つ抜き出してみます。


★「本には直ぐには役には立たない本と、直ぐに役に立つ本と二種類ある。直ぐに役に立つ本は書いてある通りに役立ってくれる。直ぐには役に立たない本は、ちょっぴりだが、いつも無限のむこうから手を振って、あなたの喜怒哀楽に応えてくれる。本は言葉で織りあげられていて、すぐに本の表情を知ることはできないかもしれない。そんな時には、すこし本と遊んでいると、昼間の星のようにかすかでも、珠玉のような表情が浮かんでくるものだ。それは愉しい体験ですよ」(「読むことの愉しみ」、462~463頁)。初出は八重洲ブックセンターが発行していた「八重洲Letter」93年9月の第12号、開店15周年記念特別寄稿のひとつだったとのこと。


★「ある本の生命がながいということと、その本が愛されることとは、微妙に似ていて微妙にちがっている。生命のながい本はきっとある時期一度は合い冴えたことがあるにちがいない。だが本だって老醜も老残も避けがたくやってくる。また生命がながいことは、すくなくとも病気の要素がすくないといえそうだが、愛されることには、病気の共鳴があるような気もする。わたしの挙げた十冊のなかには、生命のながいことと愛されることが合致している本もあるようにおもうが、存外わたしの病気と本の病気が共鳴しているだけの本もあるのではないか」(人にも読んでもらいたい、オーソドックスな十冊」、338頁)。初出は『リテレール』誌92年9月の第2号。ちなみに先の引用とこの引用の全文は『読書の方法――なにをどう読むか』(光文社文庫、2007年)でも読むことができます。


★『イメージは殺すことができるか』は、フランスの哲学者マリ=ジョゼ・モンザン(Marie-José Mondzain, 1942-)の初の邦訳書で、『L'image peut-elle tuer ?』(Bayard, 2015)の全訳。原書はもともと2002年に、アメリカ同時多発テロを契機として出版されたもの。2015年にはシャルリー・エブド襲撃事件を受けて増補版が刊行されました。「イメージがなぜ力をもちうるのか、どのようにしてイメージは私たちに作用しうるのか、という問い〔…〕を立て、さまざまな芸術に言及しながら、イメージの問題を論じている」(解説、119頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


★モンザンは巻頭言でこう書いています。「本書の考察は三つの段階からなる。受肉、一体化、化身である。それぞれ、見えるものとの関係におけるイメージの分析、画面上での特殊な現出における見えるものの分析、観客に対してつくられた場との関係のなかで画面上に現れる身体の分析である。たしかに9・11で世界貿易センタービルは破壊されたが、この出来事によって戦争のコミュニケーションの新たな体制が始まった。戦争そのもの、そして戦争にともなう各人の死が、一つのパフォーマンスとなったのだ。三つの段階を経る本書の行程によって、暴力に関する問いが論じつくされるわけではないが、見えるものの暴力について、内容からではなくその仕組みから捉えることを試みたい」(8~9頁)。


★『攻殻機動隊論』は、評論家の藤田直哉(ふじた・なおや, 1983-)さんが2011年から今日に至るまでのあいだ各媒体で発表してきたテクストに、大幅加筆修正し再構成し、大部分を新たに書き下ろしたもの。「20世紀の行き詰まりを超えるべく、被爆や科学技術立国化に積極的な意義を見つけ、過去の神話や宗教も引き受けて、これまでにない存在へと「進化」しようとした作品。そして日本社会や文化をも「進化」させようとした作品。『攻殻機動隊』は、そのような「創造的進化」を体現したシリーズであると見做せる。その意義と価値を、本書は掘り起こし、改めて現在に提示する」(15頁)。なお藤田さんは半年前に河出新書で『シン・エヴァンゲリオン論』を上梓されたばかりです。


★『極東ナチス人物列伝』は、帯文に曰く「防共協定締結の立役者であり終戦工作にも携わったフリードリヒ・ハック、蒋介石に協力したハンス・クライン、「満洲国」のアヘンに関わったヘルムート・ヴォールタート、ゾルゲ事件の渦中にいたヨーゼフ・マイジンガー等々、「第三帝国」と東アジアのはざまで浮かび上がる奇天烈な人物たち」をめぐるユニークな論集。「本書は、日独の複雑な関係のなかで様々な形で暗躍したこれらの人物たちの足取りを追い、日本・中国・ドイツの行く末を左右した彼らとその周辺の一軍の関係者たちの動向を浮かび上がらせることで、矛盾と対立に満ちたドイツ=東アジア関係の実装に迫ろうとするものである。ナチス・ドイツの東アジア政策を担ったエージェントたちの軌跡を列伝形式で叙述し、日本はもとよりドイツでもほとんど知られていない日独関係の裏面史に光を当てることが狙いである」(はじめに、2頁)。興味の尽きない1冊です。


★さらに以下の新刊との出会いもありました。


『一目散――豊島重之評論集』豊島重之著、書肆子午線、2021年12月、本体3,500円、四六判スリーブ函入428頁、ISBN978-4-908568-30-5
『法華衆の芸術』高橋伸城著、第三文明社、2021年12月、本体1,700円、A5判上製192頁、ISBN978-4-476-03402-8

『黯(くら)らかな静寂(しじま)、すべて一滴の光』奥間埜乃著、書肆山田、2021年12月、本体2,600円、A5変型判上製118頁、ISBN978-4-86725-022-8

『夢みるインドネシア映画の挑戦』西芳実著、英明企画編集、2021年12月、本体2,500円、A5判並製368頁、ISBN978-4-909151-22-3

『季刊 農業と経済 2021年秋号』英明企画編集、2021年11月、本体1,700円、A5判並製288頁、ISBN978-4-909151-51-3



★『一目散』は、演出家で精神科医の豊島重之(としま・しげゆき,1946-2019)さんの自選評論集。巻末の跋文を書かれた倉石信乃さんによれば「テクストの選定などの編集をほぼ了えたところで」豊島さんは逝去されたとのことです。〈いま・ここ〉からの脱出を志向する「絶対演劇」をめぐる諸宣言をはじめ、25篇が収められています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。山口信博、玉井一平、の2氏による装丁と、イニュイックによる印刷製本の美しさが際立っています。


★『法華衆の芸術』は、美術史家の高橋伸城(たかはし・のぶしろ, 1982-)さんの初めての単独著。「聖教新聞」での連載を書籍化したもので、本阿弥光悦、長谷川等伯、尾形光琳、葛飾北斎、狩野派、樂家などの共通項「法華衆」の信仰と造形のかかわりをめぐる論考です。「聖像を描いているわけでもない。統一されたスタイルがあるわけでもない。そんな「法華衆の芸術」とはいったい何なのか。本書ではそれぞれの作家の作品を一つ、あるいは複数取り上げながら、信仰と造形造詣の関係について考えていきます」(2頁)。現代美術家の宮島達男氏との対談や、美術史家の河野元昭氏へのインタヴューを併載。


★『黯(くら)らかな静寂(しじま)、すべて一滴の光』は、奥間埜乃(おくま・のの, 1975-)さんの『さよなら、ほう、アウルわたしの水』(書誌山田、2019年)に続く、第二詩集。「ユリイカ」「現代詩手帖」「文學界」などに発表された作品を含んでいます。「暗い部屋、蒼色の空間|時間がみえる/そのために宙を見ている/夜、眩暈、そして耳鳴り」(13頁)。


★『夢みるインドネシア映画の挑戦』は、シリーズ「混成アジア映画の海」の第2弾。序論に曰く「本書では、1998年政変から20年余りの間に人々が新生インドネシアをどのように構想して何を創り出してきたのかを、この時期に制作・公開された映画の内容およびその語られ方をともに探ってみたい」(26頁)と。


★『季刊 農業と経済 2021年秋号』は、特集が「地域圏フードシステム──フランスを手がかりに、都市の食を構築しなおす」。今号での責任編集は、新山陽子、古沢広祐、工藤春代、大住あづさ、上田遥、の5氏。巻頭言に曰く「地域フードシステムの構築と強化にむけて、具体的な手法を掘り下げて示し、自治体や関係者が行動に取り掛かれる情報を提供することをめざしている。世界の先進事例のなかでもフランスの「地域圏食料プロジェクト」を重点的に取り上げ、日本において事態を正面から見据え、分析・評価し、改善のための課題を抽出し、目標と具体策を見出す行動を生み出すための考え方や具体的手法を紹介する」(3頁)。目次詳細はこちらからご確認いただけます。

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