★まず弊社ゆかりの著者、アガンベンさんやナンシーさん関連の新刊です。
『王国と楽園』ジョルジョ・アガンベン著、岡田温司/多賀健太郎訳、平凡社、2021年11月、本体2,700円、4-6判上製200頁、ISBN978-4-582-70348-1
『花裂ける、廃絵逆めぐり――福山知佐子画集』福山知佐子著、水声社、2021年12月、本体3,500円、 B5判上製189頁、ISBN978-4-8010-0598-3
『思想 2021年12月号:追悼 ジャン=リュック・ナンシー』岩波書店、2021年11月、本体1,800円、A5判並製176頁、ISSN0386-2755
★『王国と楽園』は、イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベン(Giorgio Agamben, 1942-)の近著『Il regno e il giardino』(Neri Pozza, 2019)の全訳。「悦楽の園」「自然の罪」「人間はいまだかつて楽園にいたことはなかった」「楽園と人間本性」「王国と楽園」の全6章。巻末には岡田温司さんによる「異端者としてのアガンベン――訳者あとがきに代えて」が添えられています。岡田さんは本書についてこう説明しておられます。「本書は、いってみれば異端の書である。ペラギウス派やドナトゥス派、さらにマルキオンといった歴代の異端者たちの名前が随所に登場し、結末あたりで、ローマ教会から破門されたフランスの神学者アルフレッド・ロワジが呼びだされる。時が時なら、おそらく発禁や焚書を免れなかったことであろう」。なお、岡田さんによるアガンベン論『アガンベン読解』(平凡社、2011年)の増補版(『[増補]アガンベン読解』)が今月、平凡社ライブラリーから発売されています。
★『花裂ける、廃絵逆めぐり』は、絵画論『反絵、触れる、けだもののフラボン――見ることと絵画をめぐる断片』(水声社、2012年11月)に続く、画家の福山知佐子(ふくやま・ちさこ)さんによる画集。花と植物を鉛筆、水彩、膠彩で描いておられます。特に枯れゆく花の絵が多く、48頁におよぶカラー作品には容易に言葉にはできない迫力を感じます。ジョルジョ・アガンベンさんが巻頭文「花――福山知佐子の絵画のために」(高桑和巳訳)を寄せておられ、こう書いています。「我を忘れるやりかた、美しくあるありかたは数限りない〔…〕花が何度でも咲き、萎れ、再生して倦むことがないのはただ、我を忘れることをやめないからである」(10頁)。このほか、神奈川県立近代美術館館長の水沢勉さんによる「砂粒の時間――福山知佐子画集に寄せて」、さらに2つの論考、鵜飼哲「もうひとつのリミット」、鈴木創士「裂け目」が併載されています。
★『思想 2021年12月号』は、アガンベンより2歳年上の1940年生まれのフランス哲学者ジャン=リュック・ナンシーが今夏8月23日に逝去したのを悼んで編まれた特集号。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。ナンシー自身のテクストの翻訳は2本。「「哲学の終焉と思考の課題」」は、オンライン・ジャーナル「Philosophy World Democracy」に今年7月15日付で発表された「La fin de la philosophie et la tâche de la pensée」(リンク先は別媒体掲載の原文)の柿並良佑さんによる翻訳。もう1本「無主物」は、2015年9月にイタリアで行われたナンシーの講演「Beni vacanti」の西山達也さんによる翻訳。ジャコブ・ロゴザンスキーやジャン-クレ・マルタンの追悼文や訳されているほか、ナンシーの子息オーギュスタンによる葬儀時の挨拶も訳出されていて、貴重です。
★続いて、注目の新書新刊および既刊を列記します。
『検証 コロナと五輪――変われぬ日本の失敗連鎖』吉見俊哉編著、河出新書、2021年12月、本体880円、新書判並製256頁、ISBN978-4-309-63143-1
『ブルシット・ジョブの謎――クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』酒井隆史著、講談社現代新書、2021年12月、本体920円、新書判256頁、ISBN978-4-06-526659-5
『詩とは何か』吉増剛造著、講談社現代新書、2021年11月、本体1,100円、新書判320頁、ISBN978-4-06-518827-9
『グローバリゼーション――移動から現代を読みとく』伊豫谷登士翁著、ちくま新書、2021年12月、本体920円、新書判304頁、ISBN978-4-480-07448-5
『近代の終わり――秩序なき世界の現実』大野和基インタビュー・編、PHP新書、2021年12月、本体930円、新書判208頁、ISBN978-4-569-85115-0
『人類が進化する未来――世界の科学者が考えていること』大野和基インタビュー・編、PHP新書、2021年11月、本体920円、新書判192頁、ISBN978-4-569-85073-3
『5000日後の世界――すべてがAIと接続された「ミラーワールド」が訪れる』ケヴィン・ケリー著、大野和基インタビュー・編、服部桂訳、PHP新書、2021年10月、本体950円、新書判216頁、ISBN978-4-569-85050-4
『老人支配国家 日本の危機』エマニュエル・トッド著、文春新書、2021年11月、本体850円、新書判256頁、ISBN978-4-16-661339-7
『言語が消滅する前に』國分功一郎/千葉雅也著、幻冬舎新書、2021年11月、本体860円、新書判216頁、ISBN978-4-344-98636-7
★『検証 コロナと五輪』は、本年開催された東京五輪をめぐる論集。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。序章「問いとしての「コロナと五輪」」、第1章「五輪神話と日本人」、第2章「落剝する五輪神話」は編者の吉見さんの執筆。第3章「コロナ来襲」は、有賀ゆうアニース、稲葉あや香、加藤聡の3氏が担当。第4章「止まらぬ五輪を前に」は、中川雄大、林凌、宮地俊介の3氏が担当。第5章「海外はどう見たか」は、安ウンビョル、潘夢斐、サム・ホールデンの3氏が担当。終章には記名はありません。あとがきで吉見さんは「戦後日本の政治と経済、中央と地方、成長神話への私たちの固執を貫いてきた」「お祭りドクトリン」との決別を読者に問うています。
★講談社現代新書では、酒井隆史『ブルシット・ジョブの謎』と、吉増剛造『詩とは何か』に注目。ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)は今月再放送中の、斎藤幸平さんによる「100分de名著」の『カール・マルクス『資本論』』でもキーワードとなっており、再刊されたNHKテキストと同書の併読をお薦めします。言うまでもなく酒井さんはこのキーワードの出典であるデヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店、2020年)の共訳者。酒井さんによる新書は今回の本が初めてです。
★吉増剛造『詩とは何か』は、『我が詩的自伝――素手で焔をつかみとれ!』(講談社現代新書、2016年)以来の新書。序にこんな言葉があります。「わたくしは哲学書を読むのが好きで〔…〕中でも特に〔…〕マルティン・ハイデガーをしばしば読み返しております。詩の本源についての哲学的な考察としては、やはりハイデガーが言っていることが、わたくしの考えておりますことに一番近いように思うのです」(12~13頁)。
★ちくま新書では、伊豫谷登士翁『グローバリゼーション』に注目。伊豫谷さんはこれまでに新書では、『グローバリゼーションとは何か――液状化する世界を読み解く』(平凡社新書、2002年)を上梓されたことがあります。今回の新刊は「まえがき」によれば、「『グローバリゼーションと移民』(有信堂高文社、2001年)と『グローバリゼーションとは何か』(2002年)以降に、いろいろなところで書いたものから、広く読まれることを意識して選択し、いまという時代から大幅に書き改めたもの」とのことです。
★PHP新書では、「世界の知性シリーズ」の大野和基インタビューによる3点『近代の終わり』(ブライアン・レヴィン/カート・アンダーセン/イワン・クラステフ/ジョージ・フリードマン/アダム・トゥーズ/ヴァレリー・ハンセン/ジョージ・エストライク/デイビッド・ファリアー)、『人類が進化する未来』(ジェニファー・ダウドナ/デビッド・A・シンクレア/リサ・ランドール/ジョセフ・ヘンリック/ジョナサン・シルバータウン/チャールズ・コケル/マーティン・リース/ジョナサン・B・ロソス)、『5000日後の世界』(ケヴィン・ケリー)に注目。特に丸々1冊がケリー一人へのインタビューに当てられた『5000日後の世界』は、『テクニウム』(みすず書房、2014年)、『〈インターネット〉の次に来るもの』(NHK出版、2016年)といった大きめの著書を敬遠してきた読者にとってはとっつきやすい手頃な本ではないかと思います。
★文春新書では、トッド『老人支配国家 日本の危機』に注目。帯文に曰く「核武装から皇室までを語り尽くすトッドの日本論! 磯田道史氏、本郷和人氏とも対談」と。賛否はともかくとして、トッドのリアリズムは、日本人の家族観や皇室観、対米観をめぐる過剰な拘泥に対して異なる視点を得るための、数々のヒントを提示しているように思えます。
★幻冬舎新書では、國分功一郎/千葉雅也『言語が消滅する前に』に注目。2017年、2018年、2021年に行われた5つの対談をまとめたもの。「意志は存在するのか――『中動態の世界』から考える」「何のために勉強するのか――『勉強の哲学』から考える」「「権威主義なき権威」の可能性」「情動の時代のポピュリズム」「エビデンス主義を超えて」の5章立てです。最後の「エビデンス主義を超えて」が唯一2021年に行われた対談(7月)です。コロナ禍をふまえた内容で20頁強の短さながら、ここを起点に本書を読んでもいいと思える現在性が表白されているように感じました。