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注目新刊:マルクス『資本論 第一部草稿』光文社古典新訳文庫、ほか

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『資本論 第一部草稿――直接的生産過程の諸結果』マルクス著、森田成也訳、光文社古典新訳文庫、2016年7月、本体1,240円、463頁、ISBN:978-4-334-75335-1
『英米哲学史講義』一ノ瀬正樹著、ちくま学芸文庫、2016年7月、本体1,200円、384頁、ISBN978-4-480-09739-2
『論理学――考える技術の初歩』エティエンヌ・ボノ・ド・コンディヤック著、山口裕之訳、講談社学術文庫、2016年7月、本体860円、240頁、ISBN978-4-06-292369-9
『杜甫全詩訳注(二)』下定雅弘・松原朗編、講談社学術文庫、2016年7月、本体2,300円、960頁、ISBN978-4-06-292334-7
『利休聞き書き「南方録 覚書」全訳注』筒井紘一訳、講談社学術文庫、2016年7月、本体740円、192頁、ISBN978-4-06-292375-0

★マルクス『資本論 第一部草稿』は発売済。光文社古典新訳文庫でのマルクス新訳は本書で4点目。森田さんの訳では2014年の『賃労働と資本/賃金・価格・利潤』に続く『資本論』入門シリーズ第2弾です。同草稿の既訳書である岡崎次郎訳『直接的生産過程の諸結果』(国民文庫、1970年)や向坂逸郎訳『資本論綱要他四篇』(岩波文庫、1953年)はすでに品切となっているため、新訳はありがたいです。カヴァー紹介文はこうです。「マルクスは当初、『資本論』を「商品」から始まり「商品」で終わらせる予定だった。資本主義的生産過程の結果としての「商品」は単なる商品ではなく、剰余価値を含み資本関係をも再生産する。ここから見えてくる資本主義の全貌。『資本論』に入らなかった幻の草稿、全訳!」。帯文は次の通り。「『資本論』第一部の全体を簡潔に要約しつつも、「生産物が生産者を支配する」という転倒した姿を克明に描き出す。『資本論』では十分に語りつくせなかった独自の論点が躍動的に展開される必読の書。『資本論』の"もうひとつの結末"がここに」。

★「本書を構成しているのはいずれも『資本論』第一部の原稿断片」(訳者まえがき)であり、三部構成のうち中核をなすのは、もっともまとまった原稿である『資本論』第一部第六章「直接的生産過程の諸結果」で、第II部として収められています。この第六章は『資本論』第一部と第二部を橋渡する章であったものの割愛された原稿です。第I部「第六章以前の諸原稿」は『資本論』第一部の印刷原稿を執筆する際に使われなかったり、第六章に統合するつもりで原稿に挟み込まれた部分などで、第III部「その他の諸断片」は「『資本論』第一部の蓄積論の印刷用原稿を執筆する過程で採用されなかったいくつかの注」(訳者まえがき)とのことです。巻末には訳者による長編解説「中期マルクスから後期マルクスへ――過渡としての第一部草稿」(340~440頁)とマルクス年譜、訳者あとがきが配されています。

★なお、光文社古典新訳文庫の続刊として、C・S・ルイス『ナルニア国物語』(土屋京子訳、全7巻)が予告されているのに驚きました。同作品は岩波少年文庫の瀬田貞二訳『ナルニア国ものがたり』全7巻がロングセラーとなっています。学術書以上に文学作品の新訳は既訳と厳しく比較されますし、岩波少年文庫の価格帯(700~800円台)と張り合わなければならないわけで、なかなか挑戦できるものではありません。新訳第1巻が『魔術師のおい』であると予告されているということは、著者がかつて読者に教えた、年代順の読み方を踏襲するのでしょう。

★一ノ瀬正樹『英米哲学史講義』は発売済。奥付前の特記によれば本書は、放送大学教材『功利主義と分析哲学――経験論哲学入門』(放送大学教育振興会、2010年)に増補改訂を施したもの。文庫化にあたって加えられたのは全16章のうち第12章「プラグマティズムから現代正義論へ」で、巻頭の「まえがき」も新たに加えられたものです。章立ては書名のリンク先に掲出されています。巻末には人名と事項を一緒にした索引が付されています。まえがきに書かれているように「本書は「功利主義」と「分析哲学」という二つの哲学・倫理学の潮流について、両潮流の源流に当たる「経験論哲学」に沿いながら論じ、なおかつ「計量化への志向性」という見地から功利主義と分析哲学が融合していく様子を追跡していくことを主題として」います。一ノ瀬さんの著書が文庫化されるのは意外にも今回が初めてです。

★講談社学術文庫3点はいずれも発売済。今月も「古典へ! 創刊40周年」と大書された帯がまぶしいです。コンディヤック『論理学』は文庫オリジナルで、1780年に出版されたLa logique, ou les premiers développements de l'art de penser の初訳です。底本には、ジョルジュ・ルロワ校訂によるPUF版コンディヤック哲学全集第2巻(1948年)が使用されています。「本書は、コンディヤックがポーランド国民教育委員会の要請を受けて執筆した論理学の初等教科書」(訳者解説221頁)であり、「数世代にわたってポーランドの教育に影響を与えただけでなく、フランスでも標準的な教科書として使用されることになった」(同222頁)もの。そして「こうした教育を受けてコンディヤックの学説を受け継いだ人々は「観念学派(イデオローグ)」と呼ばれ、フランス大革命前後の学界で中心的な位置を占めることになる」(同頁)とも説明されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。二部構成のうち、第一部は「人間が持つすべての知識は感覚に由来するという経験論哲学の思想が簡潔に述べられ」ます(同223頁)。第二部では「人間が思考するためには言語が不可欠であること、それゆえ正しく思考するためには言語をよく作ることが必要である」と主張されています(同頁)。

★『杜甫全詩訳注(二)』は全4巻のうちの第2回配本。カヴァー紹介文にはこうあります。「戦禍による社会秩序の崩壊や政治の堕落は、ついには杜甫の運命をも巻き込み、生涯にわたる漂泊の旅がここに始まる。〔・・・〕本巻は、生活の場としていた大唐のまほろば洛陽、長安を去り、蜀道の難所を越えて、成都の草堂で安らかな生活を手にする時期の作品を収載する」。

★『利休聞き書き「南方録 覚書」全訳注』は、『すらすら読める南方録』(講談社、2003年)が親本。文庫化にあたり、新たにまえがきとあとがきが付されています。帯文に曰く「利休が大成した茶法、茶禅一味の「わびの思想」を伝える基本の書」と。「南方録」は筑前福岡藩、黒田家家老の立花実山が、大阪・堺の南宗寺の南坊宗啓による利休からの聞き書きである秘伝書を「発見した」としていたもので、実際は実山の創作ではあるのですが、広く文献を渉猟研究したものとしてこんにちでも高く評価されている古典です。全7巻のうち「利休のわび茶を理解するうえでの入門」(学術文庫版まえがき)となる巻一「覚書」を現代語訳し懇切な解説を添えたのが本書です。底本は実山自筆書写本。巻七「滅後」の解説もできればよい、と筒井さんはまえがきに書かれており、これはぜひ実現を待ちたいところです。ちなみに筒井さんは「滅後」については現代語訳を『南方録(覚書・滅後)』(淡交社、2012年)で実現されています。なお「南方録」の現代語訳には、戸田勝久訳(『南方録』教育社新書、1981年、絶版)や、熊倉功夫訳(『現代語訳 南方録』中央公論新社、2009年)などがあります。

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★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。

『路上のジャズ』中上健次著、中公文庫、2016年7月、本体900円、304頁、ISBN978-4-12-206270-2
『最強の社会調査入門――これから質的調査をはじめる人のために』前田拓也・秋谷直矩・朴沙羅・木下衆編、ナカニシヤ出版、2016年7月、本体2,300円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7795-10793
『家族システムの起源Ⅰ ユーラシア(上・下)』エマニュエル・トッド著、石崎晴己監訳、片桐友紀子・中野茂・東松秀雄・北垣潔訳、藤原書店、2016年6月、本体4,200円/4,800円、A5上製416頁/536頁、ISBN978-486578-072-7/ISBN978-4-86578-077-2

★中上健次『路上のジャズ』はまもなく発売。奥付前の編集付記によれば「本書は、著者のジャズと青春の日々をめぐるエッセイを独自に編集し、詩「JAZZ」、短篇小説「灰色のコカコーラ」、小野好恵によるインタビューおよび集英社文庫版『破壊せよ、とアイラーは言った』解説を合わせて収録したものである。中公文庫オリジナル」。ちなみに『破壊せよ、とアイラーは言った』(集英社文庫、1983年)はすでに絶版。中上のジャズ関連のエッセイや作品をまとめて読みたい読者には今回の新刊はうってつけの一冊かと思います。巻頭のエッセイ「野生の青春――「リラックスィン」」はマイルス・デイヴィスの1956年のアルバム「Relaxin'」をめぐる思い出。「野生の青春のすべてがここにある」(帯文より)という本書はデイヴィスやアイラーを聴きながら読みたい一冊です。18歳の時に執筆したという若さ溢れる処女小説「赤い儀式」は「アイラーの残したもの」というエッセイの中に挿入された「初出」のままのかたちで読めます。

★なお今月の中公文庫では上記新刊のほか、会田弘継『増補改訂版 追跡・アメリカの思想家たち』、水木しげる『水木しげるの戦場――従軍短篇集』、大岡昇平『ミンドロ島ふたたび』などが発売予定です。

★『最強の社会調査入門』はまもなく発売。本書のテーマは「面白くて、マネしたくなる」(まえがき)とのことで、社会調査の「極意を、失敗体験も含めて、16人の社会学者がお教え」(帯文より)するとのこと。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。社会調査のリアルな体験談が満載で、調査対象は様々でなおかつ特異ですが、それぞれに体当たりで挑んでいる様が分かります(本書に出てくる一例として、30歳前後で暴走族のパシリになるなど、なかなかできることではないように思います)。社会調査はジャーナリストや新聞記者などによる「取材」や「裏取り」に通じるものがあります。やや極端な話をすると、本書はユーチューバーになりたい人にとっても有益なはずです。ただし本書が教えるように「好きなものを研究対象にすることで、趣味の活動に差し障りが出たり、対象を嫌いになってしまうこともある」(東園子「好きなものの研究の方法」137頁)という言葉は「研究」を「仕事」に置き換えても真実であると感じます。なお、本書に関する「特設サイト」が開設されていますので、ご参照ください。

★トッド『家族システムの起源Ⅰ ユーラシア(上・下)』は発売済。L'Origine des systèmes familiaux, tome I : L'Eurasie (Gallimard, 2011)の翻訳です。上巻では中国とその周縁部/日本/インド/東南アジアを扱い、下巻ではヨーロッパ/中東(古代・近年)を扱っています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。上巻巻頭の「日本語版への序文」で、トッドは以下のように述べています。「本書は、全く通常とは異なる、ほとんど逆の、とさえ言えそうな、人類の歴史の姿を提示するものである。ユーラシアの周縁部に位置する、現在最も先進的である国々、とりわけ西欧圏が、家族構造としては最も古代的〔アルカイック〕なものを持っているということを、示しているからである。発展の最終局面におけるヨーロッパ人の成功の一部は、そうした古代的な家族構造はかえって変化や進歩を促進し助長する体のものであり、彼らヨーロッパ人はそうした家族構造を保持してきた、ということに由来するのである。このような逆説は、日本と中国の関係の中にも見出される」(3頁)。

★そしてこうも述べています、「今後は家族システムの歴史のこうした新たな見方を踏まえた人類の社会・政治・宗教史の解釈を書くことが必要となるのだ」(同)と。また、下巻末尾の「第II巻に向けて――差し当たりの結論」にはこう書かれています。「本書第二巻は、その完成の暁には、人類の再統一〔再単一化〕を促進することになるだろう。監訳者の石崎さんは「訳者解説」で次のように評価されています。「「世界のすべての民族を単一の歴史の中に統合」しようとする試みは、発見と創見に満ちたダイナミックな知的冒険として展開しつつある。第二巻の完成が待たれるとともに、「家族システムの歴史のこうした新たな見方を踏まえた人類の社会・政治・宗教史の解釈」(序文)が掛かれることも、大いに期待したいものである」(838頁)。来たるべき第二巻は「L'Afrique, l'Amérique et l'Océanie」を扱うようです。


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