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注目新刊:ちくま学芸文庫12月新刊5点、ほか

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★まず最初に、まもなく発売となる、ちくま学芸文庫の12月新刊5点から。

『カリスマ』チャールズ・リンドホルム著、森下伸也訳、ちくま学芸文庫、2021年12月、本体1700円、文庫判544頁、ISBN978-4-480-51059-4
『ワインバーグ量子力学講義 上』スティーヴン・ワインバーグ著、岡村浩訳、ちくま学芸文庫、2021年12月、本体1,400円、文庫判416頁、ISBN978-4-480-51081-5
『ワインバーグ量子力学講義 下』スティーヴン・ワインバーグ著、岡村浩訳、ちくま学芸文庫、2021年12月、本体1,300円、文庫判384頁、ISBN978-4-480-51082-2
『装飾と犯罪――建築・文化論集』アドルフ・ロース著、伊藤哲夫訳、ちくま学芸文庫、2021年12月、本体1,300円、文庫判368頁、ISBN978-4-480-51089-1
『絵画の政治学』リンダ・ノックリン著、坂上桂子訳、ちくま学芸文庫、2021年12月、本体1,500円、文庫判432頁、ISBN978-4-480-51090-7

★『カリスマ』は、1992年に新曜社より刊行された単行本の文庫化。米国の人類学者チャールズ・リンドホルム(Charles Lindholm, 1946)の著書『Charisma』(Blackwell, 1990)の全訳です。単行本版では「出会いのエロティシズム」という副題が付いていましたが、文庫版では原書に準じて副題なし。理論編と実例編に分かれ、理論編では、哲学、社会学、精神医学を参照し、カリスマをめぐる総合理論が目指されます。実例編では、その総合理論を踏まえ、ナチズム、マンゾン・ファミリー、人民寺院、シャーマニズムなどが分析されます。文庫化にあたり、「文庫版訳者あとがき」と、大田俊寛さんによる解説「リンドホルムのカリスマ論とオウム真理教事件」が加えられています。前者によれば、難解な事項に「訳注を補足したほか、〔…〕表現が生硬すぎる箇所は訳文を変えた」とのことです。

★『ワインバーグ量子力学講義』は、「Math &Science」シリーズの最新刊。米国の素粒子物理学者でノーベル物理学賞受賞者のスティーヴン・ワインバーグ(Steven Weinberg, 1933-2021)の講義録『Lectures on Quantum Mechanics』(Cambridge University Press, 2013)を、2015年の第2版から訳出したもの。本邦初訳かつ文庫オリジナルです。「自然界に潜む「対称性」の原理に重きを置きつつ、多くの書籍では触れられることのない話題にまで踏み込んで量子力学を一望する」(下巻カバー表4紹介文より)とのこと。

★『装飾と犯罪』は、中央公論美術出版社より1987年に『装飾と罪悪』というタイトルで刊行されたのち、2005年に『装飾と犯罪』と改題されて増補版が刊行され、2011年に新装普及版として再刊された単行本の文庫化。オーストリアの建築家アドルフ・ロース(Adolf Loos, 1870-1933)の著書『虚空に向かって語る』『ポチョムキン都市』『にもかかわらず』の3冊から26点の論考を抜き出して1冊としたもの。文庫化にあたり、訳者が新装普及版刊行時に寄せた「再版に際して」の末尾に「校正の労をとってくれた妻・千衣子に感謝します」という1文のみが追加されています。ロースの著書の文庫化はこれが初めてです。

★『絵画の政治学』は、1996年に彩樹社より刊行された単行本の文庫化。米国のフェミニスト美術史家リンダ・ノックリン(Linda Nochlin, 1931-2017)の論文集『The Politics of Vision: Essays on Nineteenth Century Art and Society』(Harper & Row, 1989)の全訳。訳者曰く「20年にわたって著者がさまざまな機会に執筆した論文9編を集めたもの」。文庫化に際し図版が増え、親本の「訳者あとがき」に代わって「文庫版訳者あとがき」が加えられています。

★続いて、まもなく発売の注目新刊を2点列記します。

『サステナブル・フード革命――食の未来を変えるイノベーション』アマンダ・リトル著、加藤万里子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2021年12月、本体2,200円、四六判並製400頁、ISBN978-4-7726-9574-9
『父ガルシア=マルケスの思い出――さようなら、ガボとメルセデス』ロドリゴ・ガルシア著、旦敬介訳、中央公論新社、2021年12月、本体2,000円、四六判上製224頁、ISBN978-4-12-005483-9

★『サステナブル・フード革命』は、米国のジャーナリストでヴァンダービルト大学教授のアマンダ・リトル(Amanda Little)の著書『The Fate of Food: What We'll Eat in a Bigger, Hotter, Smarter World』(Harmony, 2019)の訳書で、底本は追補されて今年2月に刊行されたペーパーバック版とのこと。帯文に曰く「食と農業の未来を変える世界各地のイノベーターたちを取材」し、「その活動とビジョンを通して」、「最先端テクノロジーと環境エコロジーをともに活かす「第3の方法」」を示す、とのこと。目次、はじめに、解説は書名のリンク先で立ち読み可能です。

★『父ガルシア=マルケスの思い出』は、ガルシア=マルケスの息子で映画監督のロドリゴ・ガルシア(Rodrigo García Barcha, 1959-)が、父母の思い出を綴った『 A Farewell to Gabo and Mercedes: A Son's Memoir of Gabriel García Márquez and Mercedes Barcha』(HarperVia, 2021)の訳書。「彼〔父〕はある種の熟慮をもって話すので、その明晰な一瞬の歓喜の中で、誰しも彼がもう何年も前から深い認知症に陥っていることを忘れがちになる。われわれが話しかけている相手が実はそこにはほとんどいないのだということ、聞いていることをほとんど理解できていないということ、ほどんと彼自身ではなくなっているということを」(31~32頁)。帯文に曰く「20世紀の文学を代表する巨大な作家〔…〕末期の風景」。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

『地中海と人間――原始・古代から現代まで(1)原始・古代から14世紀』デイヴィド・アブラフィア著、高山博監訳、佐藤昇/藤崎衛/田瀬望訳、藤原書店、2021年12月、本体4,400円、A5判上製536頁+カラー口絵20頁、ISBN978-4-86578-329-2
『地中海と人間――原始・古代から現代まで(2)14世紀から現代』デイヴィド・アブラフィア著、高山博監訳、佐藤昇/藤崎衛/田瀬望訳、藤原書店、2021年12月、本体4,400円、A5判上製512頁+カラー口絵12頁、ISBN978-4-86578-330-8
『全体主義の誘惑――オーウェル評論選』ジョージ・オーウェル著、照屋佳男訳、中央公論新社、2021年11月、本体2,000円、四六判上製224頁、ISBN978-4-12-005480-8
『今日のアニミズム』奥野克巳/清水高志著、以文社、2021年11月、本体3,200円、四六判上製カバー装352頁、ISBN978-4-7531-0366-9​
『機関精神史 第四号 特集*東アジア・マニエリスムの迷宮』後藤護編集、高山えい子発行、2021年11月、文フリ価格2,500円
『ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?』公益財団法人ポーラ美術振興財団ポーラ美術館編、平凡社、2021年11月、本体3,200円、A4変型判並製216頁、ISBN978-4-582-20723-1

★『地中海と人間』は、英国の歴史家でケンブリッジ大学名誉教授デイヴィド・アブラフィア(David Abulafia, 1949-)の大著『The Great Sea: A Human History of the Mediterranean』(Allen Lane, 2011)の訳書で、底本は2014年のupdated edition(改訂版)です。帯文に曰く「ブローデル『地中海』以後の「地中海史」を塗り替えた最重要書、ついに完訳」と。アブラフィアの初訳本でもあります。藤原書店にとって代表作ともいえる『地中海』を引き合いに出すほどの力作であるのは、近年の他の書目に比べてかなり安く設定されている定価を見ても想像できます。

★『全体主義の誘惑』は、英国の作家ジョージ・オーウェル(George Orwell, 1903-1950; 本名Eric Arthur Blair)の評論9編を独自に編んだ1冊。収録作は以下の通り。「書評:ヒットラー著『我が闘争』」「聖職者特権――サルバドール・ダリについての覚書」「ナショナリズムについての覚書」「文学を阻むもの」「政治と英語」「なぜ書くか」「作家とリヴァイアサン」「書評:ジャン=ポール・サルトル著『反ユダヤ主義者の肖像』」「ガンジーについて思うこと」。出典(底本)はピーター・デイヴィソン編『Orwell and Politics』(Penguin, 2001)。

★『今日のアニミズム』は、人類学者の奥野克巳(おくの・かつみ, 1962-)さんと哲学者の清水高志(しみず・たかし, 1967-)さんの論考各2本と対談2本を1冊にまとめたもの。清水さんによる「まえがき」に曰く「本書は、人類に普遍的に見られるアニミズムと呼ばれる思考と、そこで見いだされる自然を徹底して考察し、思想としてそれがどれほどの深度を持ちうるものなのか、その限界まで探究しようとしたものである」(2頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。現代思想と文化人類学を架橋し近づけたい書店員さんにとっては、もっとも魅力的な新刊ではないでしょうか。

★『機関精神史』誌は、年2回の文学フリマ東京での直販売でのみ入手可能な同人誌。同人誌とは言ってもすでに少なくない読者に認知されている批評誌です。毎号ごとの充実ぶりには目をみはるばかりで、なんとか仕入れることができないか、と希望する書店員さんはあちこちにおられることでしょう。第4号の特集は「東アジア・マニエリスムの迷宮」。後藤さん曰く、東アジア・マニエリスムとは「中野美代子、武田雅哉、井波律子、大室幹雄といった異端の中国学者、そして種村季弘や高山宏、タイモン・スクリーチとかのマニエリスティックな日本文化研究をベースにしつつ、そこから漏れてる韓国や台湾エリアを付け加えて東アジア全土にマニエリスム闘争領域を拡大したもの」(8頁)とのこと。

★後藤さんはこう続けます。「アジアと西洋の接触によって極度に人工的な混淆文化が生まれたり、あるいはもっと遡ってアジアの土着アートそれ自体にマニエリスムと呼ばざるをえない超絶技巧が眠っていたりもする。それを芋づる式に引っこ抜くような特集」(同頁)。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。「あくまでも美と政治は戦わせ続けなければならない」という後藤さんの断言に共感を覚えます。

★『ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?』は、米国の現代美術作家ロニ・ホーン(Roni Horn, 1955-)の、国内の美術館における初個展(書名と同名)の公式カタログ。展覧会は箱根のポーラ美術館で、来春(2022年3月30日)まで会期中無休で開催されています。カバーにも採用されているガラス作品「鳥葬(箱根)」はもはや箱根の林の一部となって、神々しい、枯れざる泉のように佇んでいます。旅情をそそる1冊。
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