★まもなく発売となるちくま学芸文庫11月新刊5点を列記いたします。
『魂の形について』多田智満子著、ちくま学芸文庫、2021年11月、本体1,000円、文庫判192頁、ISBN978-4-480-51083-9
『メディアの文明史――コミュニケーションの傾向性とその循環』ハロルド・A・イニス著、久保秀幹訳、ちくま学芸文庫、2021年11月、本体1,500円、文庫判448頁、ISBN 978-4-480-51084-6
『〈権利〉の選択』笹澤豊著、ちくま学芸文庫、2021年11月、本体1,200円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51085-3
『大企業の誕生――アメリカ経営史』A・D・チャンドラー著、丸山惠也訳、ちくま学芸文庫、2021年11月、本体1,100円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-51086-0
『評伝 岡潔――星の章』高瀬正仁著、ちくま学芸文庫、2021年11月、本体1,700円、文庫判576頁、ISBN978-4-480-51088-4
★『魂の形について』は、1981年に白水社から刊行され、その後、新版が1996年に白水uブックスの1冊として刊行されたものの文庫化。著者の多田智満子(ただ・ちまこ, 1930-2003)さんが逝去されているため「文庫化にあたり、明らかな誤りは適宜訂正し、ルビを増やした」と編集部により特記されています。巻末解説「風のゆくえ」は金沢百枝さんがお書きになっています。ちくま学芸文庫では多田さんの著書は93年の『鏡のテオーリア』に続く久しぶりの2冊目。帯文に曰く「古人の霊魂観に込められた真実を見つめる、詩人の代表的エッセイ」と。
★金沢さんは本書の構成を次のように的確に説明されています。「『魂の形について』は9章から成るが、あえて分類するならば、次の4部に分けられるだろう。一、魂の語源、日本や中国の神話や伝承、漢詩など(第1章から第3章)。二、古代エジプトとギリシア(第4章から第7章)。三、魂の計量について、主にキリスト教における魂について(第8章)、四、血を吸う魂、インド神話の神ブラフマンの心臓が蓮の花(第9章)」。また、本書をこう評しておられます。「多田にとって「魂の形」について語ることは、生死のあわいに思いを馳せ、森羅万象と内的宇宙の相互を冷静に見続ける行為であった。ようするに、多田の文学世界の核にある一書なのである」(179頁)。
★『メディアの文明史』は、新曜社より1987年に刊行された単行本の文庫化。カナダのメディア論者ハロルド・A・イニス(Harold Adams Innis, 1894-1952)の著書『The Bias of Communication』(University of Toronto Press, 1951)の訳書です。「メディア論の必読古典」(帯文)であり、著者のコミュニケーション史構想の「粗描」(文庫版解説)となるもの。序文はトロント大学の同僚で後輩の、マーシャル・マクルーハンが寄せています。「文庫版訳者あとがき」によれば、「文庫化に際して訳文を修正した。修正は新曜社版にあった生硬な表現をできるだけ平易にすることに主眼を置いた。〔…〕原註、訳註については239頁〔あるいは325~327頁かも〕の原註39で新しい翻訳書を引用させていただいた以外は手を加えなかった」とのことです。巻末には水越伸さんによる文庫版解説「現代メディアへの予言の書」が加えられています。
★『〈権利〉の選択』は、勁草書房より1993年に刊行された単行本の文庫化。哲学者で筑波大学名誉教授の笹澤豊(ささざわ・ゆたか, 1950-)さんの博士論文以後の「いわば私のデビュー作」(文庫版あとがき)で、「〈権利〉の思想の構造分析」(序文より)を行なったもの。巻末解説「他に類書というものが存在しない真に画期的な一冊」は永井均さんがお寄せになっています。「Rightと〔その訳語〕権利の関係にかんする著者のこの洞察は、疑う余地なく素晴らしいものだと思うが、しかし、逆説的ながら、その素晴らしさはその使い道のなさの内に示されているといえるだろう。この洞察は、もはや使い道がないほどに根源的な(という意味は表に現れないように根源へと押し込まれたという意味だが)真理を語っているからだ」(288頁)。
★『大企業の誕生』は、亜紀書房より1986年に刊行された『アメリカ経営史』の改題文庫化。「なぜ私企業が国家をしのぐ存在となりえたのか」(帯文より)という問題に迫る「チャンドラー経営史学のエッセンス」(同)。原著は1978年の論文「The United States: Evolution of Enterprises」(『ケンブリッジ西欧経済史』第7巻所収、ケンブリッジ大学出版)です。訳者による巻末の「文庫化にあたって」では「この再刊を機に、本書のアメリカ経営史は1970年代で終わっているので、その後の1980年代から現在に至るまでのアメリカ企業の基本的な特徴とその社会的課題について、私の考えで簡単に補いたい」とお書きになり、「多国籍企業の発展」「企業の社会的責任」「経営者団体のステークホルダー(利害関係者)資本主義論」の3点について論及されています。米国の経営史家アルフレッド・D・チャンドラー(Alfred DuPont Chandler, Jr., 1918-2007)の著書の文庫化は本書が初めてになります。
★『評伝 岡潔』は、天才数学者として世界的に高名な岡潔(おか・きよし, 1901-1978)の生涯を紹介するもの。海鳴社より2003年に「星の章」、2004年に「花の章」が刊行された単行本全2巻で、文庫化に際しても全2巻で刊行されます。文庫の続巻「花の章」は来年1月刊行予定。30代までの軌跡を描く「星の章」は、「文庫版あとがき」によれば、文庫化に際して「誤記誤植を正し」、構成上の理由で「同じ内容の記述〔…とならざるをえなかった箇所については…〕重複が目立たないように書き直したところもある」とのこと。著者の高瀬正仁(たかせ・まさひと, 1951-)さんは数学者、数学史家で、ちくま学芸文庫では『無限解析のはじまり』(2009年)や『ガウスの数論』(2011年)などの既刊書があります。
★最近では以下の新刊との出会いがありました。
『資本はすべての人間を嫌悪する――ファシズムか革命か』マウリツィオ・ラッツァラート著、杉村昌昭訳、法政大学出版局、2021年11月、本体3,200円、四六判上製262頁、ISBN978-4-588-01135-1
『リフレクションズ――ナラティヴと倫理・社会・スピリチュアリティ』マイケル・ホワイト著、小森康永/奥野光訳、金剛出版、2021年10月、本体3,400円、4-6判上製288頁、ISBN978-4-7724-1834-8
『マンガ版 マルチスピーシーズ人類学』奥野克巳/シンジルト編、MOSA画、以文社、2021年10月、本体2,600円、A5判並製344頁、ISBN978-4-7531-0365-2
『夕暮れの走者――渋谷直人詩文集』渋谷直人著、編集室水平線、2021年10月、本体2,400円、四六判並製208頁、ISBN978-4-909291-04-2
『現代思想2021年11月号 特集=ルッキズムを考える』青土社、2021年10月、本体1,600円、A5判並製254頁、ISBN978-4-7917-1421-6
★『資本はすべての人間を嫌悪する』はまもなく発売。イタリア出身でフランスで活躍する社会学者、哲学者のマウリツィオ・ラッツァラート(Maurizio Lazzarato, 1955-)の著書『Le Capital déteste tout le monde : Fascisme ou Révolution』(Éditions Amsterdam, 2019)の全訳。訳者あとがきによれば本書は、エリック・アリエズとの共著『戦争と資本――統合された世界資本主義とグローバルな内戦』(原著2016年;杉村昌昭/信友建志訳、作品社、2019年8月)の続編となる革命論である『資本と戦争』が頓挫して、ラッツァラート独自の本書『資本はすべての人間を嫌悪する』となった、とのこと。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
★本書の冒頭にはこう書かれています。「われわれは文字通り「黙示録」の時代を生きている」(3頁)。「われわれはすでに、好むと好まざるとにかかわらず、ネオファシスト、セクシスト、レイシストによって引き起こされた政治的激変以後の時代に身を置いている」(同頁)。「権力はソフトな暴力を自動的に行使する非認証的装置のなかに組み込まれる」(4頁)。「われわれは法治国家と例外状態が混じり合って区別がつかなくなった時代を生きているのである」(4~5頁)。「黙示録の時代は、表向きは民主主義でありながら、経済的・社会的・制度的な「イノベーション」の背後に、つねに階級的憎悪や対立的暴力があることを明らかにする」(5頁)。
★「資本主義の新精神は大企業のなかでは決して具体化されなかった。大企業では、中国でも韓国でも日本でも、逆に自殺、屈辱、強制、抑鬱症、〈過労死〉(オーバーワークによる死亡)といった現象が増加した。企業や社会における当地の「実際の結果」は痛ましいものであり、本当はいかなる統治が行なわれていたかをわれわれに知らせてくれる。〔…〕資本による統治は資本主義の批判者たちには見えにくい道に踏み込んでいる〔…〕」(204~205頁)。「「人間は労働力しか持っていない。人間はそれを[…]所有した他の人間の奴隷になるしかない」」(205頁)。
★「イノベーションの波が起こるたびに、技術は「自由時間を増やす」とか、機械システムによる生産性向上は労働の必要性から人間を解放するとか言われてきた。ところが、こうした解放の約束は実現されないどころか、いたるところで逆の現象が起きた。なぜだろうか? それは簡単な話で、機械もまた従属から解放されなくてはならないからである。資本主義においては「機械は他の奴隷をつくるための奴隷である」とシモンドンが述べている。〔…〕機械が奴隷であるなら、機械は相対的な自律性と独立性を持っていて、機械が仕えその命令を受けるパロトン、つまり奴隷制度擁護論者がいる〔…〕。シモンドンはそれが何者かということを明らかにしていないが、ドゥルーズとガタリが補足的応答をしてくれている。「われわれはつねに、技術的機械ではなく社会機械の奴隷である」。〔…〕技術機械は戦争機械に従属しているのである。戦争機械が人間と機械の関係に形を与えるのであり、なぜなら戦争機械は機械と人間に先立つものだからである。資本主義形態においては、戦争機械は人間と機械を奴隷化し、人間を「可変資本」に、そして機械を「不変資本」に変えるのである」(157~158頁)。
★『リフレクションズ』は発売済。オーストラリアの心理療法士で、ナラティヴ・セラピーの創始者マイケル・ホワイト(Michael White, 1948-2008)の著書『Reflections on Narrative Practice: Essays & Interviews』(Dulwich Centre Publications, 2000)の全訳。「前半が論文5本、後半はインタビュー5本の2部構成で、90年代後半の仕事が網羅されている」(訳者あとがき)とのこと。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ナラティヴ・セラピーとポスト構造主義、家族療法、宗教やスピリチュアリティの関連性などに光が当てられています。なお、ガリレオ伝(『ガリレオ・ガリレイ』日暮雅通訳、偕成社、1994年)の著者は同姓同名の別人で、英国生まれのオーストラリアの作家(Michael White, 1959-2018)です。
★『マンガ版 マルチスピーシーズ人類学』は発売済。9月に発売された奥野克巳/近藤祉秋/N・ファイン編『モア・ザン・ヒューマン──マルチスピーシーズ人類学と環境人文学』に続く、シリーズ「人間を超える」の第2弾です。全8章で、マンガとその解説が収められています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書でマンガを担当されたMOSAさんは昨年、共編者の奥野さんとの共著で『マンガ人類学講義――ボルネオの森の民には、なぜ感謝も反省も所有もないのか』(日本実業出版社、2020年10月)を手掛けられています。また、奥野さんと寄稿者の近藤祉秋さんは本書とほぼ同時期に、「マルチスピーシーズ民族誌への招待状」と銘打った論文集、近藤祉秋/吉田真理子編『食う、食われる、食いあう――マルチスピーシーズ民族誌の思考』(青土社、2021年11月)を上梓されています。
★『夕暮れの走者』は発売済。評論家の渋谷直人(しぶや・なおと, 1926-)さんによる、1956年から2020年に至る各誌発表作、未発表原稿、書き下ろしなど、21編を収めた1冊。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。未発表原稿は「幻想の街で」(1956年)、「若き日の断章」(1962年)の2作。書き下ろしは「家さ 帰ろうよう――人生の終末期を迎えて」(2020年4月)の1作。そのほかは67年から97年までに発表されてきたものです。編集室水平線さんでは同氏の評論集『遠い声がする』を2017年に出版されています。
★『現代思想2021年11月号 特集=ルッキズムを考える』は発売済。巻頭の討議「外見に基づく差別とは何か――「ルッキズム」概念の再検討」(西倉実季+堀田義太郎)から西倉さんの説明を引くと、ルッキズムとは「一般的には「外見に基づく偏見や差別」と定義されることが多く」「学術研究においては比較的新しい概念で〔…〕2000年頃から使われるようになってき」た言葉。22本の論考が収録されています。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。今月末発売予定の次号(12月号)は大森荘蔵特集。寄稿者には錚々たる面々が並んでいます。