★まずまもなく発売となる新刊から列記します。
『都市の歴史』スピロ・コストフ著、東洋書林、2021年10月、本体6,000円、A5上製546頁(含カラー中口絵32頁)、ISBN978-4-88721-828-4
『つげ義春――「無能の人」考』正津勉著、作品社、2021年10月、本体2,200円、46判上製224頁、ISBN978-4-86182-870-0
『デンデケ・アンコール』芦原すなお著、作品社、2021年10月、本体2,700円、46判並製400頁、ISBN978-4-86182-868-3
★特記しておきたいのは、東洋書林さんの久しぶりの新刊『都市の歴史』。トルコ生まれの米国の建築史家スピロ・コストフ(Spiro Konstantine Kostof, 1936-1991)による最晩年作『The City Shaped: Urban Patterns and Meanings Through History』(初版1991年; 第二版、Thames & Hudson、1999年)の全訳です。以下に、帯文、隈研吾さんによる推薦文、目次詳細を転記します。
帯文:それは住まいする場か、それとも権力の集中点か? 流れゆく川、移ろいゆく空のように永遠に完結を見ず、静止することもない人間精神の具象である「都市(まち)」の形成史を、テマティックなアプローチに基づく連続した物語として捉えた、未来を紡ぐための大いなる「時の書」!!
隈研吾氏推薦文;本書で触れられているル・コルビュジエの「ロバの道」が示唆する有機性を、より深化させて今の東京にあてはめれば、しなやかな動きを受容する隙間的な空間、すなわち僕が提唱する「ネコの道」となるだろう──数百頁にも及ぶ肉厚で多層的な本書は、21世紀の町づくりの可塑性を考える際の、良質なスプリング・ボードにもなるだろう。古代から現代の世界都市が剛性と量塊感を獲得してゆくまでの歩みを活写した、壮大な「時の書」である。
目次:
序 INTRODUCTION
1 工芸品としての都市 ……6
はじめに 6/方法の分枝 15/時代とカテゴリー 30
2 歴史のなかの都市 ……34
都市のサイクル 34/都市の起源 37/早期の都市形態 43
3 都市とは何か? ……47
カラー口絵pl.1−Pl.8 ……17
Ⅰ「有機的」パターン “ORGANIC” PATTERNS
Ⅰ–1 計画された都市と計画されなかった都市 ……54
Ⅰ–2 共存と書き換え ……59
Ⅰ–3「有機的」パターンの発展 ……66
有機体としての都市 67/地勢の役割 70/土地分割 75/集住:シュノイキスモス 79/法と社会秩序 84
Ⅰ–4 直線と曲線:代替デザイン ……88
計画されたピクチャレスクの起源 94/田園都市というパラダイム 103/保護管理と歴史の教訓 114
Ⅰ–5 モダニズムと計画されたピクチャレスク ……124
カラー口絵pl.9−Pl.14 ……89
Ⅱ グリッド THE GRID
Ⅱ–1 はじめに ……132
直線プランニングの性質 134/グリッドと政治 138/「よりよき秩序」、あるいは慣例 142
Ⅱ–2 歴史の点検 ……145
古代世界におけるグリッド 146/中世のニュータウン 154/ルネサンス末期のヨーロッパ 158/アメリカへの渡来 162
Ⅱ–3 グリッドのレイアウト ……172
用地について 177/測量士と理論家 180/技巧家としての都市プランナー 184
Ⅱ–4 【都鄙/とひ】それぞれの座標システム ……191
農地グリッド 191/グリッド化された拡張部 197
Ⅱ–5 閉じられたグリッド:枠組、アクセント、そしてオープン・スペース ……201
市壁による枠組 201/街路のリズム 204/広場の配分 209/街区という組織体 215
Ⅱ–6 20世紀におけるグリッド ……225
カラー口絵pl.15−Pl.19 ……173
Ⅲ ダイアグラムとしての都市 THE CITY AS DIAGRAM
Ⅲ–1 円と多角形 ……234
アーコサンティとパルマノーヴァ 234/ユートピアと理想都市 240
Ⅲ–2 特化された環境 ……246
組織編成のデザイン 246/聖都 256
Ⅲ–3 政治的ダイアグラム ……261
直線システム 261/集中型システム 268/スフォルツィンダによる例示 280
Ⅲ–4 機能的ダイアグラム ……285
防衛の論理 285/交通と同心放射型都市 289
Ⅲ–5 世俗的/社会主義的ダイアグラム ……295
労働者、犯罪者、そして研究者の秩序空間 296/都市社会の改革 301/地球と宇宙空間 310
Ⅳ 大様式/グランド・マナー THE GRAND MANNER
Ⅳ–1 はじめに ……314
Ⅳ–2 歴史の点検 ……318
古代 320/ヨーロッパ・バロック 324/イタリア以外の大様式 326
Ⅳ–3 【大様式/グランド・マナー】におけるプランニング ……329
地勢 330/舞台としての大様式 336/大様式と造園デザイン 340/高所のデザイン 346
Ⅳ–4「バロック」の諸要素 ……349
直線路 349/「バロック」の対角線 352/三叉路と多叉路 358/大通りと大街路 366/均一性と連続する建物正面部 384/統一内の多様性 393/通景:ヴィスタ 396/ランドマークとなるもの、そしてモニュメント 401/儀式的空間としての主軸 409
Ⅳ–5 ポストモダン・バロック ……416
カラー口絵pl.20−Pl.30 ……369
Ⅴ 都会のスカイライン THE URBAN SKYLINE
Ⅴ–1 はじめに ……420
公私のスカイライン 422/肖像化されたスカイライン 427
Ⅴ–2 スカイラインの呼び物 ……435
聖別された高み 438/世俗的都市のランドマーク 448
Ⅴ–3 スカイラインのデザイン ……455
原理原則のあれこれ 465/色彩と光 480
Ⅴ–4 モダン・スカイライン ……482
「都市の冠」の鍛造 487/摩天楼都市 491/ガラスの塔 503/「そして彼らはこの町の建設をやめた」508
カラー口絵pl.31−Pl.39 ……457
あとがき xxx
図版出典 xxvii/参考文献 xxiii/原註 xiii/索引 iii
★コストフの編著書の既訳書には以下の2点があります。コストフ編『建築家――職能の歴史』(槇文彦監訳、日経マグロウヒル社、1981年)、コストフ著『建築全史――背景と意味』(鈴木博之訳、住まいの図書館出版局、1990年)。
★続いて、注目の発売済新刊および既刊を列記します。
『アクティブ・メジャーズ――情報戦争の百年秘史』トマス・リッド著、松浦俊輔訳、作品社、2021年10月、本体4,500円、46判上製560頁、ISBN978-4-86182-870-6
『映画の詩学――触発するシモーヌ・ヴェイユ』今村純子著、世界思想社、2021年9月、本体2,700円、4-6判上製308頁、ISBN978-4-7907-1758-4
『新版 ハングルの誕生――人間にとって文字とは何か』野間秀樹著、平凡社ライブラリー、2021年9月、本体1,600円、B6変型判並製462頁、ISBN978-4-582-76922-7
★特記したいのは、『アクティブ・メジャーズ』です。ドイツ生まれで現在ジョンズ・ホプキンス大学教授をつとめる戦争学者トマス・リッド(Thomas Rid, 1975-)による『Active Measures: The Secret History of Disinformation and Political Warfare』(Farrar, Straus and Giroux, 2020)の訳書です。帯文に曰く「私たちは、偽情報の時代に生きている――。情報攪乱、誘導、スパイ活動、ハッキング……現代世界の暗部でくりかえされてきた無数の積極工作〔アクティブ・メジャーズ〕。ポスト・トゥルース前史となる情報戦争の100年を描出する歴史ドキュメント」と。1921年から2017年までの歴史を6部構成で扱っています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻末解説「ソ連・ロシアの恐るべき積極工作〔アクティブ・メジャーズ〕」は、日本大学危機管理学部教授の小谷賢さんが寄せておられます。
★著者による巻頭の「はじめに」よりいくつか引きます。「偽情報が成功するには、「少なくとも一部は現実と合って」いなければならない〔…〕「あるいは少なくとも受け入れられている現実認識とは」」(9頁)。「私たちは偽情報の時代を生きている。私信が盗まれ、悪意でマスコミにリークされる。リベラル民主諸派間にある割れ目に楔を打ち込むために、ネット上で政治的情念が煽られる。加害者は疑惑の種を播き、表向きは悪意を否定するが、裏では密かに着々と手を打っている。/この近代的な偽情報の時代が始まったのは1920年代の初めで、かつてCIAが「戦略戦〔ポリティカル・ウォーフェア〕」と呼んだ技術と哲学は、およそ30年間隔の4つの大きな波で成長、変化した」(11頁)。
★「20世紀は、偽情報と、専門的で組織的な嘘の巨大な実験室となった。〔…〕しかし20世紀の偽情報工作のほとんどは、いくつかの大規模で成功した工作も含め、単純に忘れられている。21世紀の自由民主体制は、もはやこの過去を無視してはいられない。一つの産業をなすほどの冷戦時代の偽情報作戦による豊富で不穏な教訓を無視すると、20世紀半ばの誤りを繰り返すおそれがある。それはすでにデジタル時代の自由民主体制を弱体化しつつもある」(13頁)。「偽情報は単純にフェイク情報なのではない――少なくとも、必ずそうあるわけではない。隠密活動の歴史でも、最悪で効果的でもあった積極工作の中には、どこまでも正しい情報を出すように意図されたものもある。たとえば1960年、ソ連の諜報機関は、テネシー州からテキサス州におけるアフリカ系アメリカ人に対する、実際にあったリンチなどの残虐な人種差別的暴力行為を語るパンフレットを作った。そうしてKGBはこれの英語版とフランス語版を、フェイクのアフリカ系アメリカ人活動家集団の名をかたり、アフリカの10か国以上に配布した」(15頁)。
★これは現代人必読の書ではないか、というのが第一印象です。なお、本書の解説者の小谷さんが、朝日新聞の「じんぶん堂」サイトで紹介記事「「ポスト真実」前史を読み解く 米ソ(露)情報戦争の秘められた歴史」をお書きになっています。また、リッドさんの既訳書には『サイバネティクス全史――人類は思考するマシンに何を夢見たのか』(松浦俊輔訳、作品社、2017年)があります。