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注目新刊:クラストル『国家をもたぬよう社会は努めてきた』洛北出版、ほか

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『国家をもたぬよう社会は努めてきた――クラストルは語る』ピエール・クラストル著、酒井隆史訳、洛北出版、2021年10月、本体2,600円、四六判並製272頁、ISBN978-4-903127-32-3


★洛北出版さんの昨年9月以来となる最新刊『国家をもたぬよう社会は努めてきた』は、フランスの人類学者ピエール・クラストル(Pierre Clastres, 1934-1977)に対する『反-神話』誌によるインタヴュー本『Entretien avec l'Anti-mythes』(Sens & Tonka, 1974)の訳書です。序文「ピエール・クラストルの声」はフランスの政治哲学者ミゲル・アバンスール(Miguel Abensour, 1939-2017)によるもの。そして本編であるクラストルへのインタヴューに倍する分量で、訳者の酒井隆史さんが解題「断絶のパッション――ピエール・クラストルとその「事後効果〔アフター・エフェクツ〕」を寄せておられます。書名のリンク先で本書のためし読みが可能です。


★版元紹介文に曰く「クラストルへのインタビューを通じて、彼の著作が人文社会科学全般にもたらした強烈なインパクトを紹介〔…〕。クラストルの人類学を知りたい人に、うってつけの入門書」。また、帯文には「政治は、国家以前にも存在するのであって、国家は政治のとりうる形態のひとつにすぎない」とあります。この主張こそ、クラストルの主著『国家に抗する社会』(水声社、1989年)から学ぶことのできるものです。インタヴューにおいてクラストルは自身の研究対象が未開社会であることに言明しつつ、次のように語ります。「未開社会とはなんでしょうか? それは国家のない社会です」(27頁)。


★「未開社会に国家がないとしたら、その社会が国家を拒絶する社会であり、国家に抗する社会だから〔…〕。未開社会における国家の不在は、欠如の反映なのではありません。〔…〕なぜ国家が不在なのか。それはまさしく、その社会が広い意味での国家、すなわち権力関係というミニマルなかたちで規定されるような国家の拒絶の結果なのです」(28頁)。「西洋社会においてはすべて、国家機械はますます国家としてふるまう傾向があり、たえずその統制の手を伸ばそうと欲しています。つまり、それはますます権威主義的になり、少なくともしばらくのあいだ、多数派の強力な同意をえています」(98頁)。


★「国家機械は、一種のファシズムに行き着きつつあります。ファシスト政党のようなものではありません。内面化されたファシズムです」(99頁)。「現在にあるこのような社会は、権力とそのストッパーからなるみごとな連携なしには、その機能に大いに障害をもつことになるでしょう。ストッパーはそれ自体、〔…〕権力の濫用にまで発展することもあります。それらを分けることはできないのです。つまりそれらはおなじ社会のうみだした二つの形成体であり、そこには実際、深い構造的共謀が存在するのです」(100頁)。日本において私たちは与党にせよ野党にせよ既成政党に政治を任せて安閑としていられるでしょうか。そうではないことをクラストルは教えてくれる気がします。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『人間狩り――狩猟権力の歴史と哲学』グレゴワール・シャマユー著、平田周/吉澤英樹/中山俊訳、明石書店、2021年9月、本体2,400円、4-6判並製272頁、ISBN978-4-7503-5232-9
『黒人と白人の世界史――「人種」はいかにつくられてきたか』オレリア・ミシェル著、児玉しおり訳、中村隆之解説、明石書店、2021年10月、本体2,700円、4-6判上製376頁、ISBN978-4-7503-5230-5

『哲学JAM[白版]――現代社会をときほぐす』仲正昌樹著、共和国、2021年10月、本体2,200円、四六変型判上製280頁、ISBN978-4-907986-80-3

『文藝 2021年冬季号』河出書房新社、2021年10月、本体1,350円、A5判並製536頁、ISBN978-4-309-98037-9



★『人間狩り』は、2018年8月刊『ドローンの哲学』、2018年9月刊『人体実験の哲学』(いずれも明石書店)に続く、フランスの哲学者グレゴワール・シャマユー(Grégoire Chamayou, 1976-)の訳書第3弾。『Les Chasses à l'homme』(La Fabrique, 2010)の訳書。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者は序論でこう書いています。「人間狩りの歴史を書くことは、支配者たちの暴力に関する長きにわたる歴史の一節を書くということである。それは支配関係の確立と再生産に不可欠である捕食技術論をめぐる歴史を書くことなのだ」(8頁)。


★シャマユーはこう続けます。「本書では、人間狩りを隠喩として理解してはならない。人間狩りは、人間存在が狩りというかたちで突如引きずり出され、追い回され、捕まえられ、殺されるという具体的に過去に起こった出来事を指し示す。それは規則的に実施され、またしばしば大規模に実施されるものである。その最初の形態は、古代ギリシアで理論化され、その後、近世以降、環大西洋資本主義の発展に応じて驚くべき飛躍を遂げた」(「序論」同頁)。「ギリシアのポリス〔都市国家〕は、物質的生活において奴隷の労働に依拠しており、ゆえにさらに遡れば奴隷の獲得に依拠している」(第1章「二足歩行の牡牛狩り」13頁)。


★「主要な問題は、狩る者と狩られる者が異なる種に属していないことにある。捕食者と被食者の区別は、自然本性のうちに書き込まれていない以上、狩る者と狩られる者との関係が、それぞれの立場の反転から逃れているわけでもない。ときには被食者が結集して、狩る者となる番が来る。権力の歴史はこうした反転に向けた闘いの歴史でもあるのだ」(「序論」10頁)。「重要なのは、捕食関係を逆転することではなく、それらを破壊することなのだ」(第6章「狩る者と狩られる者の弁証法」108頁)。


★「人間狩りは、不安を利用した統治技術である。強制的に移動させたり狩りだしたりする可能性をちらつかせながら、人間を監視するのだ」(第12章「不法者狩り」197頁)。これは日本でもすでに無縁の技法とは言えないでしょう。「問題は次の点にある。近代警察が継承する狩猟権力は、〔…〕現在その権力を正当化している司法の枠組みの外で非常に大きく発達したものなのだ。〔…〕警察は法を絶えず参照することで公式に自らを説明するにもかかわらず、実践ではたいてい法に対して目をつむっているのである」(第8章「警察による狩り」126~127頁)。


★『黒人と白人の世界史』はまもなく発売。『Un monde en nègre et blanc : Enquête historique sur l'ordre racial』(Seuil, 2020)の全訳。著者のオレリア・ミシェル(Aurélia Michel, 1975-)はパリ大学(統合前はパリ第七大学ディドロ校)准教授で歴史家。ご専門は黒人奴隷貿易と奴隷制の影響を受けた南北アメリカの文化圏、ブラック・アメリカです。本書が初めての訳書になります。「奴隷制と帝国」「ニグロの時代」「白人の支配」の三部構成。第Ⅰ部で古代から16世紀までの前史を扱い、第Ⅱ部と第Ⅲ部で1620年から1950年までの奴隷制と人種制度の各段階が論じられます。


★なお、明石書店さんの新刊2点の刊行を記念し、ブックフェア用小冊子「「人種」から見る世界と歴史」が制作されています。「奴隷制を考える」「近代資本主義システム」「黒人の声」「自伝・評伝」「世界の中の人種主義」「人種と科学」「哲学・思想」「人種をめぐる言説」「人類学・民族学」「アメリカ」「日本」の全11分野にわけて65冊の書誌情報に、中村隆之さんによる紹介文が添えられています。


★『哲学JAM[白版]』は金沢市の書店「石引パブリック」での全11回の連続講義を収めた全3巻の完結篇。既刊は、2020年12月の『赤版』と、2021年4月の『青版』。今回の『白版』では、エロス、宗教、戦争、資本主義をテーマとした4講義分を、質疑応答を含め収録。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。巻末にブックガイド付き。カヴァーや表紙に白いインクで刷られた装画は、田内万里夫さんによるもの。カヴァーの用紙も白色の紙なので、目を凝らすと細やかな文様を確認できます。白い紙に白いインク。ひたすらに美しいです。


★『文藝 2021年冬季号』の特集は「聞き書き、だからこそ」。対談が2本、高橋源一郎×斎藤真理子「聞書には、闘いのすべてがある――森崎和江・石牟礼道子・藤本和子」、いとうせいこう×岸政彦「聞き手の責任をまっとうする」、インタヴュー1本、「抵抗するために「聞く」、アレクシエーヴィチのいま」(聞き手:沼野恭子)、論考2本、岸政彦「聞くという経験」、梯久美子「声は消える」、など。特別企画の「声を書きとる。――聞き書きブックガイド20:戦争・災害・差別・公害・コロナ」では、齋藤直子、瀬尾夏美、寺尾紗穂、朴沙羅の4氏による選書および紹介。版元は別ですが、岸政彦さん編の新刊『東京の生活史』(筑摩書房、2021年9月)でコーナーやフェアを検討している書店さんにとって参考になる特集だと思います。

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