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注目新刊:エリュール『アナキズムとキリスト教』新教出版社

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『アナキズムとキリスト教』ジャック・エリュール著、新教出版社編集部訳、新教出版社、2021年9月、本体2,500円、四六判上製220頁、ISBN978-4-400-40755-3


★『アナキズムとキリスト教』は、フランスの社会思想家ジャック・エリュール(Jacques Ellul, 1912-1994)の晩年作『Anarchie et Christianisme』(Atelier de Création Libertaire, 1988 ; La Table Ronde, 1998 [Nouvelle édition, 2018])を歴史神学者のジェフリー・ブロミリー(Geoffrey W. Bromiley, 1915–2009)が英訳した版『Anarchy and Christianity』(Eerdmans, 1991 ; réédition, Wipf & Stock, 2011)から訳出したもの。底本は2011年版。新教出版社編集部による巻末解説「ジャック・エリュール、信仰のアナーキー」によれば、90年代にさる大学教授が翻訳した原稿を新教出版社編集部が見直して出版。帯文に曰く「信仰とアナキズムの出会うべき地点を開示する。主人の軛を砕く解放の神、支配の根拠を切り崩すイエス、政治権力を退ける預言書や黙示録など、キリスト教に内在するアナーキーなポテンシャルを覚醒させる」と。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。


★巻頭には、ジャック・エリュール国際学会会長でキリスト教神学者、倫理学者のデイヴィッド・W・ギル(David W. Gill, 1946-;本訳書では「デヴィッド・W・ジル」と表記)による「英語版への序文」が訳されています。エリュールの著作が翻訳されるのは日本では伊藤晃訳『現代人は何を信ずべきか――「技術環境」時代と進行』(春秋社、1989年)以来で、30数年ぶりです。70年代にはすぐ書房より著作集も刊行されていたものの、未完結。しかしながらエリュールは、ジョルジュ・フリードマン(Georges Philippe Friedmann, 1902-1977)や、ポール・ヴィリリオ(Paul Virilio, 1932-2018)、ベルナール・スティグレール(Bernard Stiegler, 1952-2020)らと並び、フランスにおける鋭利な技術社会批判を展開した思想家として、今なおキーパーソンの一人であることに変わりありません。


★エリュールはこう述べます。「真の問題は、ある者が他の者を支配する権力を持つという点にある。不幸なことに、先に述べた通り、これを真に防げるとは思わない。しかし、それに対して戦うことはできる。社会の主流とは違った仕方で組織化することができる。単に権力の乱用だけではなく、権力そのものを糾弾することもできる。このように語り、またそのことを望むのはアナーキーだけなのだ。/したがって私は、アナキストの運動を促進して拡大することがいままで以上に必要だと考えている。一般に考えられているのとは逆に、この運動の主張はこれまで以上に広範に耳目を集めうる。〔…〕国家や官僚の権力が増殖すればするほど、個人を、つまりは人間性を擁護する唯一にして最後の防衛手段として、アナーキーを肯定することが必要となってくるのだ。アナーキーには、辛辣さと勇敢さが取り戻されねばならない。そうすれば、明るい将来が眼前に開ける。このようなわけで、私はアナーキーな立場を取る」(53~54頁)。


★「今日、いかなる体制のもとであれ国家によって個人が圧殺されているという事態に直面している私たちは、この巨獣〔ベヒモス〕に異議を唱えねばならないし、それゆえ聖書を別の方法で読む必要がある。後に見るように、聖書のテクストのなかには権威を認めるように思える箇所があるのもたしかに事実だ。他方、聖書は概してアナーキーを指し示す傾向があり、権威に好意的なテキストは例外的だと思われるのだ。そのことを以下では述べていきたい」(98頁)。周知の通り近年からここ最近まで、アナキズムにかんする新刊は増えていますし、読まれてもいます。人文書売場がない本屋さんでも、アナキズム関連書をまとめた棚があれば、注目されるのではないかと思います。


★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。


『部屋をめぐる旅 他二篇』グザヴィエ・ド・メーストル著、加藤一輝訳、幻戯書房、2021年9月、本体2,900円、四六変形判ソフト上製296頁、ISBN978-4-86488-231-6
『修繕屋マルゴ 他二篇』フジュレ・ド・モンブロン著、福井寧訳、幻戯書房、2021年9月、本体3,200円、四六変形判ソフト上製320頁、ISBN978-4-86488-232-3 

『感覚のエデン――岡崎乾二郎批評選集 vol.1』岡﨑乾二郎著、亜紀書房、2021年9月、本体3,600円、A5判上製488頁、ISBN978-4-7505-1711-7

『モア・ザン・ヒューマン──マルチスピーシーズ人類学と環境人文学』奥野克巳/近藤祉秋/N・ファイン編、以文社、2021年9月、本体3,200円、A5判並製320頁、ISBN 978-4-7531-0364-5

『フェイクとの闘い――暗号学者が見た大戦からコロナ禍まで』辻井重男著、コトニ社、2021年10月、本体2,500円、四六判上製320頁、ISBN978-4-910108-06-3



★幻戯書房さんの好評シリーズ「ルリユール叢書」第17回配本は、24点目と25点目の2冊同時発売。『部屋をめぐる旅 他二篇』は、フランスとイタリアにまたがる領地を有したサルデーニャ王国に生まれた軍人であり作家のド・メーストル(Xavier de Maistre, 1763–1852)の代表作随筆『部屋をめぐる旅』に、その続編『部屋をめぐる夜の遠征』、さらに小説「アオスタ市の癩病者」と、批評家サント゠ブーヴによる「グザヴィエ・ド・メーストル伯爵略伝」を収録。表題作『部屋をめぐる旅』は帯文に曰く「フランス革命の只中、18世紀末のトリノで、世界周游の向こうを張って42日間の室内旅行を敢行、蟄居文学の嚆矢となった」と。26歳の折に決闘騒ぎで自宅謹慎となった際に書かれたもので、32歳になった1795年に匿名出版されました。


★本書の出だしはこうです。「新しい道を開き、さまざまな発見を盛り込んだ本を手に、予期せぬ彗星が空に煌めくように、ふいに学者の世界に現われるのは、何と光栄なことだろう!/いや、もう自分の本を秘めておくのはやめよう。これがそうだ、諸君、読んでくれ。わたしは部屋をめぐる42日間の旅を企画し、実行した。興味深い観察記録をつけ、道中いつも楽しく感じていたから、それを公刊したくなったのだ。役に立つという確信が、わたしを決意させた。数多の不幸なひとたちに、憂鬱に打ち克つ確かな力や、のしかかる苦難の慰めを提供できると思うと、言いようのない満足感を覚える。自分の部屋を旅することで得られる楽しみは、他人の飽くなき嫉妬を受けないし、境遇にも左右されない」(9頁)。


★旧訳には永井順訳「わが部屋をめぐる旅」「わが部屋をめぐる夜の旅」(『部屋をめぐつての随想』所収、白水社、1940年)があります。加藤一輝(かとう・かずき, 1990-)さんによる新訳は、1866年にガルニエから出版された全集を底本とし、2015年に翻訳同人誌として発表されたものの改訳版です。加藤さんは同誌で『グザヴィエ・ド・メーストル伯爵全集』(上下巻、Cato Triptyque、文庫判195/187頁、2017~2018年)を上梓されており、この上巻に「部屋をめぐる旅」と「部屋をめぐる夜の遠征」が収録されているので、今回は二度目の改訳にして三度目の発表となります。コロナ禍に図らずも再注目を浴びるであろう古典的名作の復活です。


★『修繕屋マルゴ 他二篇』は、18世紀フランスのリベルタン作家フジュレ・ド・モンブロン(Louis-Charles Fougeret de Monbron, 1706–1760)の作品3篇を収録。帯文によれば「エロティックな妖精物語『深紅のソファー』〔1741年〕と遊女の成り上がりの物語『修繕屋マルゴ』〔1750年〕、奔放不羈な旅人の紀行文学『コスモポリット(世界市民)』〔1750年〕を収録」と。小説2作はかつてフランス国立図書館の禁書保管庫「地獄〔ランフェール〕」に収蔵されていたもの。訳者の福井寧さんは同じく「地獄」に登録されていたネルシア『フェリシア、私の愚行録』の翻訳を同じく「ルリユール叢書」から2019年6月に上梓されています。


★『感覚のエデン』は、新シリーズ「岡﨑乾二郎批評選集」(全2巻予定)の第1巻。帯文に曰く「稀代の批評家・造形作家による美術史の解体=再構築。デビュー以来紡いできた膨大な批評文を精選した、その思想の精髄。シリーズ第1弾」とのこと。「捲土重来――再開する時間」「天体は抵抗する――確率論的抵抗」「感覚のエデン――約束としての了解可能性」「経験のインフラストラクチャー」の4部構成で、主に2000年頃から現在までの20年間に執筆されたという29篇が収められています。初出は各テクスト末に明記されており、編集部による注記や著者からの短い聞き書きが添えられています。収録作品の明細は書名のリンク先でご覧いただけます。美しい装丁は、著者自身と中山雄一朗さんによるもの。


★『モア・ザン・ヒューマン』は、人文学の新たな可能性を探るという新シリーズ「人間を超える」の第1弾。「人間と動物、一から多への視点」「人間的なるものを超えた人類学の未来」「モア・ザン・ヒューマンの人類学から文学、哲学へ」の3部構成で9本のインタヴューと総論となる3本の鼎談、共編者の奥野克巳さんによる序論などが収められています。インタヴュイーはラディカ・ゴヴィンドラジャン、アレックス・ブランシェット、ジョン・ナイト、ナターシャ・ファイン、エドゥアルド・コーン、アナンド・パンディアン、石倉敏明、結城正美、清水高志、の9氏。シリーズ続刊予定には『マンガ版マルチスピーシーズ人類学』や、ゴヴィンドラジャン『アニマル・インティマシーズ』が挙がっています。


★『フェイクとの闘い』はまもなく発売。取引代行のトランスビューより9月28日から出荷開始とのこと。情報通信システムと暗号理論がご専門の辻井重男(つじい・じげお, 1933-)さんによる書き下ろしで、自伝的回想録と、サイバーセキュリティをめぐる論考、戦中知識人の戦争協力と現実認識に対する分析、疑似対話篇、資料編などで構成されています。巻頭の但し書きには「本書は、中央大学研究開発機構ユニット「新常態環境下の情報セキュリティに関する総合的研究」の発展に向けて記述したものである」とあります。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。コトニ社さんでは初めての上製本です。

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