『ウィトゲンシュタイン家の人びと――闘う家族』アレグザンダー・ウォー著、塩原通緒 訳、中公文庫、2021年4月、本体1,500円、文庫判608頁、ISBN978-4-12-207053-0
『宗教と日本人――葬式仏教からスピリチュアル文化まで』岡本亮輔著、中公新書、2021年4月、本体820円、新書判240頁、ISBN978-4-12-102639-2
『模倣の罠――自由主義の没落』イワン・クラステフ/スティーヴン・ホームズ著、立石洋子訳、中央公論新社、2021年4月、本体3,400円、四六判上製336頁、ISBN978-4-12-005430-3
★中央公論新社さんの4月発売より3点。『ウィトゲンシュタイン家の人びと』はまもなく発売。2010年に同社より刊行された単行本の文庫化で、文庫版訳者あとがきと、金原瑞人さんによる解説が新たに付されています。前者によれば「文庫化にあたっては、単行本の出版時に気づきそこねた誤りをできるかぎり修正しました」とのことです。原著は『The House of Wittgenstein: A Family at War』(Bloomsbury Publishing/Doubleday, 2008)。帯文に曰く「天才哲学者と片腕のピアニストを生んだ一族の、不屈の百年」と。哲学者ルートウィヒについての評伝は各種存在しますが、一家に焦点を当てた本書は特に興味深いです。八人兄弟のうち、四男でピアニストのパウルと、五男で哲学者のルートウィヒが主役。著者のアレグザンダー・ウォー(Alexander Waugh, 1963-)はかの作家イーヴリン・ウォーの孫。
★『宗教と日本人』は発売済。まえがきに曰く「宗教を心や内面の問題に限定せず、信仰・実践・所属の三要素に分解し、教団や教会としてまとまらない、個人を中心とする現象に注目する」と。第4章「スピリチュアル文化の興隆」の第2節「精神世界――書店が作った宗教文化」で周到にも言及されている、書店発信の「精神世界棚」の話は業界人以外はあまり知らないかもしれませんが、戦後出版史の重大な一頁です。
★『模倣の罠』は発売済。『The Light that Failed: A Reckoning』(Penguin, 2019)の訳書。訳者解説によれば「本書の課題は、冷戦の終わりによって唯一の聖典になったと思われた自由主義が支持を失いつつあるのはなせかという問いを考察すること」。すでに世界19か国で翻訳されているとのことです。著者の一人イワン・クラステフ(Ivan Krastev, 1965-)はブルガリア出身の政治学者で、既訳書に『アフター・ヨーロッパ――ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか』(庄司克宏監訳、岩波書店、2018年)、『コロナ・ショックは世界をどう変えるか――政治・経済・社会を襲う危機』 (山田文訳、中央公論新社、2020年)があります。『模倣の民』の刊行を記念して、中央ヨーロッパ大学ウィーン・キャンパスにて2020年1月8日に行われたパネル・ディスカッションの様子を収めた動画を以下に貼り付けておきます。マイケル・イグナティエフが司会を務めています。
『リベラル国家と宗教――世俗主義と翻訳について』タラル・アサド著、茢田真司訳、人文書院、2021年4月、本体3,200円、4-6判上製270頁、ISBN978-4-409-42024-9
『陰陽五行と日本の民俗 新版』吉野裕子著、人文書院、2021年4月、本体2,600円、4-6判上製297頁、ISBN978-4-409-54085-5
『身体と環境をめぐる世界史――生政治からみた「幸せ」になるためのせめぎ合いと技法』服部伸編、人文書院、2021年2月、本体7,500円、A5判上製420頁、ISBN978-4-409-51087-2
★人文書院さんのここ最近の新刊から3点。『リベラル国家と宗教』はまもなく発売。26日取次搬入と聞いています。『Secular Translations: Nation-State, Modern Self, and Calculative Reason』(Columbia University Press, 2018)の全訳。序論に曰く「2017年4月にコロンビア大学で行ったルース・ベネディクト講義に若干の加筆をしたもの」。「世俗的平等と宗教的言語」「翻訳と感覚ある身体」「仮面・安全・数の言語」の3章立て。「本書という公開の思索によって私が前進させようとしているのは、世俗主義は、リベラルな民主主義国家が支持しているとされる平等と自由に関する抽象的な原理であるだけではなく、類似性や重複のない完全なる対立物を構築する――感じ方、考え方、話し方といった―― 一連の感性にも関わっていると考えられるという認識である」(9頁)。
★『陰陽五行と日本の民俗 新版』もまもなく発売。20日取次搬入とのことです。1983年に同社から刊行された他行本の再刊で、新組新装版を端的に新版と呼んでいるのだと思われます。著者は2008年に逝去されており、新たに加わった文章は特にありません。帯文に曰く「暮らしの隅々に息づく中国古代の哲理をさまざまな民俗や歳時習俗をとりあげ、あざやかに論証した労作」と。
★『身体と環境をめぐる世界史』は発売済。あとがきによれば「同志社大学人文科学研究所第19期部門研究会(2016~2018年度)第5研究「生きるための環境をめぐるマニュアルの社会史」の研究活動の成果である」とのこと。帯文に曰く「弱い立場の人間は国家から守られているのか、それとも監視され管理をゆだねコントロールされているのか? 身体をめぐって個人と国家がせめぎあってきた歴史を考える」と。「身体と環境への介入」「介入に抗する人びと」「マニュアルから見える介入と抵抗の技法」の3部構成で16本の論文と編者による序論とあとがきを収録。詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。ちなみに第17期の研究成果は『「マニュアル」の社会史』(人文書院、2014年)として刊行されています。
『惑星都市理論』平田周/仙波希望編、以文社、2021年4月、本体3,800円、A5判上製カバー装456頁、ISBN978-4-7531-0361-4
『世界思想 48号 2021春』世界思想社編集部編、世界思想社、2021年4月、非売品、A5判並製112頁
『舞台芸術(24)言葉と音楽――〈日本語〉を超えて』京都芸術大学/舞台芸術研究センター編、角川文化振興財団発行、KADOKAWA発売、2021年4月、本体1,500円、B5判並製188頁、ISBN978-4-04-876511-4
★『惑星都市理論』はまもなく発売。惑星規模に広がる都市化を考察するプラネタリー・アーバニゼーション研究をめぐる13篇の論考を収録。「スケール/ヒンターランド」「インフラストラクチャー/ロジスティクス」「ポストコロニアル都市理論/関係論的転回」「抽象空間/都市への権利/自然の生産」の4部構成。詳細は書名のリンク先をご覧ください。「政治経済的なグローバル化によって、私たちの日常生活を幾重にも取り囲む都市、国家、世界、あるいは地球という質も規模も異なる空間のスケールとその「布置(constellation)」にもたらされたスケール横断的な諸々の変化に結びつきや見通しを与え、想像力をかき立てるような理論的枠組みは存在するのだろうか。一本の活路を、プラネタリー・アーバニゼーション研究に見出し、それを媒介として複数の道筋を示すこと、これが本書の試みである」(「序」10頁)。
★『世界思想 48号 2021春』の特集は「共生」。「思想と実践」「ジェンダーと多様性」「距離と関係」の3部構成で19篇を収録。詳細は誌名のリンク先をご覧ください。海外からは、レベッカ・ソルニットさんの「トランス女性はシス女性の脅威ではありません。脅威なのは彼女たちを排除し、のけ者扱いする私たちのほうです。」(ハーン小路恭子訳)が掲載されています。ソルニットさんはこう書いています、「トランス女性はシスジェンダー女性〔出生時の身体的性別と性自認とが一致している女性〕に対する脅威ではない。そしてフェミニズムが人権擁護のサブカテゴリーである以上、万人の人権、とりわけ他の女性たちの人権を擁護できない者には、悪いけどフェミニストである資格はない」(45頁)。
★『舞台芸術(24)言葉と音楽』は京都造形芸術大学が京都芸術大学へと改称してから初めての号。「言葉と音楽」と銘打たれた特集頁では、観世銕之丞(聞き手:天野文雄)、いとうせいこう(聞き手:塚原悠也)、佐々木敦(聞き手:森山直人)、宮城能鳳(聞き手:田口章子)、の4氏へのインタビューを筆頭に、座談会1本、論考3本(藤田康城、大谷能生、森山直人)を収録。リンク先にある目次詳細に記載されている「(前の世紀の)00-10年代の演劇とウタについて」は大谷さんの論考で、「一演劇的な「声」をめぐる考察」とある森山直人さんの論考の題名は正しくは「日本語で「歌うこと」、「話すこと」――演劇的な「声」をめぐる考察」です(2021年4月18日現在)。