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注目新刊:仲正昌樹『フーコー〈性の歴史〉入門講義』作品社、ほか

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★まず最初に、まもなく発売となる書目3点から。

『ダーウィン、仏教、神――近代日本の進化論と宗教』クリントン・ゴダール著、碧海寿広訳、人文書院、2020年12月、本体4,500円、4-6判上製400頁、ISBN978-4-409-04114-7
『囚われし者たちの国──世界の刑務所に正義を訪ねて』バズ・ドライシンガー著、梶山あゆみ訳、紀伊國屋書店、2020年12月、本体2,100円、46判並製436頁、ISBN978-4-314-01179-2
『野の古典』安田登著、紀伊國屋書店、2020年12月、本体1,800円、46判並製400頁、ISBN978-4-314-01180-8

★『ダーウィン、仏教、神』は、東北大学国際文化研究科准教授で日本宗教史がご専門のクリントン・ゴダール(Gerard Rainier Clinton Godart, 1976-)さんの著書『Darwin, Dharma, and the Divine: Evolutionary Theory and Religion in Modern Japan』(University of Hawaii Press, 2017)の全訳。シカゴ大学に提出された博士論文の増補版とのことです。「本書は、進化論が日本の宗教にどのような影響をもたらしたのかのを明らかにする」(10頁)。「宗教と進化論の思想的な交点を見ていくことで、日本における政治的イデオロギーの発達に関する、批判的な再検討も可能になる」(13頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。進化論とキリスト教との対立を論じることが大半だったという従来の研究動向に新風を吹き込んだ労作です。

★『囚われし者たちの国』は、ニューヨーク市立大学ジョン・ジェイ刑事司法校の英語学部教授、バズ・ドライシンガー(Baz Dreisinger, 1976-)の著書『Incarceration Nations: A Journey to Justice in Prisons Around the World』(Other Press, 2016)の訳書。受刑者の高等教育と社会復帰支援に携わる著者が、アメリカ式の刑務所システムに疑問を抱き、ルワンダ、南アフリカ、ウガンダ、ジャマイカ、タイ、ブラジル、オーストラリア、シンガポール、ノルウェーなど、世界9か国の刑務所を巡った旅の記録。「塀の中で垣間見た人生を通して他者とこのうえなくつながっている感覚」(423頁)について述べた後でフランクルの『夜と霧』を引用するくだりが印象的です。謝辞に「世界一美しい言葉は何かと言えば、これしかない――「ありがとう」」(432頁)と書く彼女の万感が胸に迫ります。

★『野の古典』は紀伊國屋書店のPR月刊誌『scripta』での安田登さんの連載「野の古典」(2014年秋号~2020年夏号)に加筆修正したもの。帯文に曰く「『古事記』『万葉集』から『南総里見八犬伝』『武士道』まで、能楽界の奇才が縦横無尽に語る」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。俵万智さんは本書を次のように推薦されています。「古典は骨董品ではなく、日常使いの器なのだ。使ってナンボ。その使いかた、楽しみかた、味わいかたが、本書にはたっぷり盛られている」。前口上では原文を読むことの大切さ、特にからだを使って、音読したり、書写したり、節をつけて歌ったりすることの大切さが語られていて、実践したくなります。古典への距離がぐっと近くなる一冊。

★次に、最近では以下の新刊との出会いがありました。

『フーコー〈性の歴史〉入門講義』仲正昌樹著、作品社、2020年12月、本体2,000円、46判並製416頁、ISBN978-4-86182-837-9
『アナキスト本をよむ』栗原康著、新評論、2020年12月、本体2,200円、四六判上製312頁、ISBN978-4-7948-1167-7
『武漢脱出記――中国とフランス、二つのロックダウン』ビンタオ・チェン/ステファニー・トマ著、深田孝太朗訳、中央公論新社、2020年12月、本体1,600円、四六判並製224頁、ISBN978-4-12-005369-6
『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』青木耕平/加藤有佳織/佐々木楓/里内克巳/日野原慶/藤井光/矢倉喬士/吉田恭子著、書肆侃々房、2020年12月、本体1,800円、A5判並製376頁、ISBN978-4-86385-431-4
『沖縄返還と東アジア冷戦体制――琉球/沖縄の帰属・基地問題の変容』成田千尋著、人文書院、2020年12月、本体4,500円、4-6判上製378頁、ISBN978-4-409-52085-7
『バナナ・ビーチ・軍事基地――国際政治をジェンダーで読み解く』シンシア・エンロー著、望戸愛果訳、人文書院、2020年11月、本体5,800円、4-6判上製484頁、ISBN978-4-409-24134-9

★『フーコー〈性の歴史〉入門講義』は、フーコーの最晩年作『性の歴史』を、日本語訳が新潮社より発売されたばかりの第4巻『肉の告白』も含めて「徹底攻略」(帯文より)した読解本。元となる連続講義は2018年9月から2019年3月に行われたもので、「正確を期するべく大幅に手を入れた」とのことです。「業界の常識に囚われず、かつ、丹念に根気よくテクストを読む。それが私にとっての思想史研究の理想である。その最も卓越したモデルが「フーコー」である」と著者は巻頭の「はじめに」に記しています。最高のタイミングでの刊行となったのではないでしょうか。

★『アナキスト本をよむ』は政治学者の栗原康さんが17年間にわたり執筆してきた書評およびエッセイ47本をまとめたもの。書き下ろしも含まれています。「ところで、書評とはアナキズムである。アナキズムとは、なにものにも支配されないということだ。〔…〕これが正しいとおもっている自分の皮を脱ぎ捨てて、未知の自分になっていく、名状しがたいなにかになっていく。〔…〕大杉栄はこれを「自我の棄脱」とよんでいる。〔…〕わたしにとっては書評である」(2頁)。本書はその存在自体が「最高の本屋」です。

★『武漢脱出記』は、武漢に生まれパリで働くITコンサルタントのビンタオ・チェン(Bintao Chen, 1989-)氏による『Wuhan confidentiel: D'un confinement à un autre』(Flammarion, 2020)の訳書。武漢とパリの二つの都市でロックダウンを経験した著者による体験記。軽妙な語り口で二つの都市での日常が綴られています。著者の親世代にあたる、作家の方方(ファンファン, 1955-)さんが綴った『武漢日記――封鎖下60日の魂の記録』(河出書房新社、2020年9月)との併読がお薦めのようです。

★『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』は、8名のアメリカ文学研究者が2019年から2020年にかけて「web侃づめ」で現代のアメリカ文学をテーマにリレー連載したものに、多数の書き下ろし――BLM(ブラック・ライヴズ・マター)やノーベル賞詩人ルイーズ・グリュックについてなど――や、柴田元幸氏を招いた座談会「正しさの時代の文学はどうなるか?」を加え一冊としたもの。「文学からアメリカのいまが見えてくる。更新され続けるアメリカ文学の最前線」(帯文より)。墨色とピンクの二色刷の横組本文が鮮やかです。

★『沖縄返還と東アジア冷戦体制』は、成田千尋(なりた・ちひろ, 1987-)さんが2018年に京都大学大学院文学研究科に提出した博士論文に大幅に加筆修正を行なったもの。「〔沖縄に米軍基地が集中する〕大きな要因となった考えられる沖縄返還のありようについて、当時の日米関係や沖縄の人々の動向のみならず、沖縄返還に際して利害関係を有していたと考えられる韓国、中華民国の動向も踏まえ、実証的に明らかにすることを目的とし」(15頁)、1940年代から1970年代に至る「各年代の東アジアの国際関係の変化と、沖縄現地の動向も含めた沖縄返還交渉の推移の相関関係について考察する」(26頁)。

★『バナナ・ビーチ・軍事基地』は、米国の政治学者でクラーク大学教授のシンシア・エンロー(Cynthia Enloe, 1938-)の著書『Bananas, Beaches and Bases: Making Feminist Sense of International Politics』(2nd edition, University of California Press, 2014)の全訳。「国際政治についてのフェミニスト的理解の含意は、「個人的なことは国際的なこと」を反対方向に読むときより鋭く浮き彫りにされる。国際的なことは個人的なこと。これは互いに同盟を結ぶために、互いに張り合ったり互いに戦争をしたりするために、政府が必要とするものについてラディカルに新しく想像することを必要とする」(400~401頁)。原著の初版は1989年。フェミニストによる国際政治学の古典です。

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