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注目新刊:『ゲンロン11』『ポストトゥルース』『ママ、最後の抱擁』『もっと!』ほか

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★まもなく発売となる新刊4点をまず列記します。


『ゲンロン11』ゲンロン、2020年9月、本体2,500円、A5判並製424頁、ISBN978-4-907188-38-2
『ポストトゥルース――現代社会の基本問題』リー・マッキンタイア著、大橋完太郎監訳、居村匠/大﨑智史/西橋卓也訳、2020年9月、本体2,400円、4-6判並製270頁、ISBN978-4-409-03110-0
『ママ、最後の抱擁』フランス・ドゥ・ヴァール著、柴田裕之訳、紀伊國屋書店、2020年10月、本体2,400円、46判上製408頁、ISBN978-4-314-01178-5

『もっと!――愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』ダニエル・Z・リーバーマン/マイケル・E・ロング著、インターシフト発行、合同出版発売、2020年10月、本体2,100円、四六判並製344頁、ISBN978-4-7726-9570-1



★『ゲンロン11』は、10周年を迎えたゲンロンの顔となる季刊誌(年3回発行)の第2期第2弾。巻頭には東浩紀さんによる論考「悪の愚かさについて2、あるいは原発事故と中動態の記憶」と、プラープダー・ユンさんによるSF小説「ベースメント・ムーン」の冒頭部が掲出されています。小特集は「「線の芸術」と現実」では、漫画家3氏(安彦良和、大井昌和、山本直樹)を迎えた3つの座談会が並びます。また本号では、多彩な書き手が「旅」を綴る新コーナー「ゲンロンの目」がスタートし、柳美里、大山顕、巻上公一、小川哲、の4氏が寄稿。コロナ禍で困難が生じている観光のリアルを見つめ続ける「ゲンロン」誌の姿勢に感銘を覚えます。このほか、目次詳細は誌名のリンク作をご覧ください。なお、書店での販売開始となる9月23日(水)いっぱいまでにゲンロンショップで第11号を予約した方には、東浩紀さんの直筆サインを付けて(為書きもOK)、国内送料無料で発送されるとのことです。





★『ポストトゥルース』は『Post-Truth』(MIT Press, 2018)の訳書。「公共の意見を形成する際に、客観的な事実よりも感情や個人的な信念に訴える方が影響力のある状況を、説明ないし表すもの」(20頁、オックスフォード大学出版辞典部門による定義)としてのポストトゥルースを考察した、ベストセラーの邦訳。現代社会を蝕むフェイク・ニュースやオルタナティブ・ファクトととともに、現実を乗っ取ろうとする政治的危険の際たるものであるそのしくみに、鋭く多面的に迫っています。日本でも政治、官庁、企業、マスメディアによる、印象操作や情報操作が横行しつつあるこんにち、現代人必須のリテラシーの書として広く読まれるべき本です。著者のリー・マッキンタイア(Lee McIntyre, 1962-)は米国の科学哲学者。訳書は本書が初めてのもの。





★『ママ、最後の抱擁』は『Mama's Last Hug: Animal Emotions and What They Tell Us about Ourselves』(Norton, 2019)の全訳。『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(原著:2016年;松沢哲郎監訳、柴田裕之訳、紀伊國屋書店、2017年)の姉妹編で、動物の認知を分析した同書に対し、今回の新刊では動物の情動を扱っています。人間だけでなくすべての動物に感情や情動が存在することを指摘した本書は、米国でベストセラーとなり、22か国で翻訳されているそうです。書名は、40年にわたる「親友」同士だった、アルファメス(コロニー内の最上位のメス)のチンパンジー「ママ」と著者の恩師との、生前最後の挨拶を表したもの。その様子は第一章に詳しく書かれており、読者の胸を揺さぶらずにはおかないでしょう。動画も残されています。





★『もっと!』は『The Molecule of More: How a Single Chemical in Your Brain Drives Love, Sex, and Creativity ― and Will Determine the Fate of the Human Race』(BenBella Books, 2018)の訳書。「私たちを熱愛・冒険・創造・成功に駆り立て、人類の運命をも握る」(帯文より)、神経伝達物質「ドーパミン」の働きをめぐる、たいへん興味深い脳科学読本です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ドーパミンは哺乳類、爬虫類、鳥類、魚類の脳内に例外なく見られるものの、ヒト以上に大量に持つ生物は存在しないとのこと。ドーパミンはヒトの欲望を刺激し、けっして満足させず、創造へも破壊へも導きます。第5章「政治」では、保守とリベラルの脳の違いが論及されていて、人文系の読者にも遡及するのではないかと思います。




★続いて最近出会った新刊について列記します。


『スポーツ人類学――グローバリゼーションと身体』ニコ・ベズニエ/スーザン・ブロウネル/トーマス・F・カーター著、川島浩平/石井昌幸/窪田暁/松岡秀明訳、共和国、2020年9月、本体4,500円、菊変型判並製476頁、ISBN978-4-907986-65-0
『「維新」的近代の幻想――日本近代150年の歴史を読み直す』子安宣邦著、作品社、本体2,700円、46判上製304頁、ISBN978-4-86182-823-2

『現代思想2020年10月臨時増刊号 総特集=ブラック・ライヴズ・マター』青土社、2020年9月、本体1,700円、A5判並製326頁、ISBN978-4-7917-1402-5

『恋する少年十字軍』早助よう子著、河出書房新社、2020年9月、本体1,700円、46変形判248頁、ISBN978-4-309-02907-8



★『スポーツ人類学』は『The Anthropology of Sport: Bodies, Borders, Biopolitics』(University of California Press, 2017)の訳書。原書副題は「身体、境界、生政治」です。古代から現代まで、ローカルからグローバルまで、植民地主義/帝国主義、健康/環境、階級/人種、ジェンダー/セクシュアリティ、メガイベント/メディアイベント、国民/ナショナリズム、世界システム/国際関係、等々とスポーツとの関わりが、民族誌的に分析されています。オランダ、米国、英国の人類学者であり、競技の現場に関わってきた3氏が、5大陸すべてを対象に数十年の歳月をかけて研究した成果をまとめた、基礎文献であり概説書です。


★『「維新」的近代の幻想』は、巻末のあとがきによれば、2018年4月から2020年2月まで東京と大阪で行われた子安さんの思想史講座「明治維新の近代」での講義をもとにした一冊。「私の「日本近代の読み直し」とは「王政復古」的近代国家日本の制度論的な批判的読み直しです」(292頁)。「維新的近代150年」のこんにち、石田梅岩(いしだ・ばいがん、1685-1744)、横井小楠(よこい・しょうなん、1809-1869)、鈴木雅之(すずき・まさゆき、1837-1871)、中江兆民(なかえ・ちょうみん、1847-1901)、津田左右吉(つだ・そうきち、1873-1961)、尾崎秀実(おざき・ ほつみ、1901-1944)、戦没学徒らとの思想的血脈に希望を見いだす試み。


★『現代思想2020年10月臨時増刊号』は総特集「ブラック・ライヴズ・マター」。酒井直樹×西谷修×新田啓子の3氏による討議「人間解放の連続体としてのBLM」に始まり、アンジェラ・デイヴィス、酒井隆史、大山エンリコイサム、丹生谷貴志、をはじめとする各氏の寄稿、そして、ジュディス・バトラーやジェイミー・スミスへのインタヴューなど充実した内容です。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。巻末には有光道生さんによる年表「ブラック・ライヴズ・マター運動から語り直す第二次世界大戦後の米国史」が配されています。


★『恋する少年十字軍』は作家の早助よう子(はやすけ・ようこ、1982-)さんの小説7篇「少女神曰く、「家の中には何かある」」「恋する少年十字軍」「犬猛る」「ポイントカード」「帰巣本能」「非行少女モニカ」「二つの幸運」を収録。2019年の私家版短編集『ジョン』に続く単行本第二弾です。柴田元幸さんと岸本佐知子さんが推薦文を書いておられます。早助さんの不思議な作品世界の人気については、某版元の編集者Wさんが書いた「期待の小説家・早助よう子『ジョン』の、ささやかでたしかな達成――私家版で出版した初の作品集が話題に」に明らかです。


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