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注目新刊:ちくま学芸文庫8月新刊4点、ほか

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_a0018105_01515903.jpg
_a0018105_01523514.jpg★まずまもなく発売となる注目の文庫新刊および単行本新刊を列記します。


『近代日本思想選 九鬼修造』田中久文編、ちくま学芸文庫、2020年8月、本体1,700円、文庫判656頁、ISBN978-4-480-09982-2
『ありえないことが現実になるとき――賢明な破局論にむけて』ジャン=ピエール・デュピュイ著、桑田光平/本田貴久訳、ちくま学芸文庫、2020年8月、本体1,200円、文庫判1200円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-09999-0
『アレクサンドロス大王物語』伝カリステネス著、橋本隆夫訳、ちくま学芸文庫、2020年8月、本体1,500円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-09996-9
『新版 数学プレイ・マップ』森毅著、ちくま学芸文庫Math&Sicence、2020年8月、本体1,200円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-09998-3
『カフェ・シェヘラザード』アーノルド・ゼイブル著、菅野賢治訳、共和国、2020年8月、本体3,200円、四六変型判上製320頁、ISBN978-4-907986-72-8
『幼年期の現象学――ソルボンヌのメルロ=ポンティ』澤田哲生著、人文書院、2020年8月、本体4,500円、2020年8月、4-6判上製330頁、ISBN978-4-409-04112-3

『礼とは何か――日本の文化と歴史の鍵』桃崎有一郎著、人文書院、2020年8月、本体2,700円、2020年8月、4-6判上製320頁、ISBN978-4-409-52083-3



★ちくま学芸文庫の8月新刊は4点。新シリーズ「近代日本思想選」の新刊、田中久文編『九鬼修造』は、小林敏明編『西田幾多郎』に続く第二弾。「自伝的エッセイ」「九鬼哲学の出発点」「「いき」の哲学」「実存哲学の受容」「「偶然性」の哲学」「九鬼哲学の全体像」「日本文化論」「文芸論」の全8部構成に20篇を収録。九鬼をめぐる関連論考4篇と、解題、解説、年譜を配した一冊。デュピュイ『ありえないことが現実になるとき』は2012年の同社単行本の文庫化。原著は2002年刊。文庫化にあたり「誤訳や表記ミスをできるだけ訂正した」とのこと。デュピュイ(Jean-Pierre Dupuy, 1941-)の著書の文庫化は本書が初めて。もっと文庫が増えてもおかしくない、高名なフランスの哲学者ではあります。伝カリステネス『アレクサンドロス大王物語』は、国文社のシリーズ「叢書アレクサンドリア図書館」の一冊として2000年に刊行された単行本の文庫化。史実や事績を踏まえる一方で、巨人族や怪物たちが登場する奇譚要素も盛り込まれた伝説物語で、聖書についで読まれた本と言われるのも納得。後世に書かれたというラテン語の、アリストテレス宛てのアレクサンドロスの書簡も併載。文庫版解説「「アレクサンドロス伝説」のひろがり」は千葉大教授の澤田典子さんが寄稿。森毅『新版 数学プレイ・マップ』は、日本評論社より1983年に刊行された単行本に5篇の論考を追加して文庫化したもの。5篇というのは「微積分の七不思議」「微分積分」「極限のココロ」「数学としての算数」「数学の大いなる流れ――すべての〈文化〉はその〈数学〉をもっている」。巻末解説は元『数学セミナー』編集長の亀井哲治郎さんによる「一刀斎センセイはいきている」。


★ゼイブル『カフェ・シェヘラザード』は共和国のシリーズ「境界の文学」からの一冊。ナチスによるユダヤ人迫害のためにポーランドからオーストラリアに逃れてきた人々の物語です。原著は2001年刊。ゼイブル(Arnold Zable, 1947-)はニュージーランド出身のユダヤ人作家。本書が日本初の訳本です。


★人文書院の8月新刊から2点。澤田哲生『幼年期の現象学』は、メルロ=ポンティが発達心理学を批判的に摂取して1949年以降ソルボンヌ大学で行った講義の要所を、後期思想に照らして読み解くもの。著者の澤田哲生(さわだ・てつお、1979-)さんは富山大学人文学部准教授。単独著に『メルロ=ポンティと病理の現象学』(人文書院、2012年)があります。桃崎有一郎『礼とは何か』は、日本文化における「礼」思想の淵源を、古代中国思想史を遡って検証するもの。桃崎有一郎(ももさき・ゆういちろう、1978-)さんは高千穂大学商学部教授。直近の単独著に『京都を壊した天皇、護った武士――「一二〇〇年の都」の謎を解く』(NHK出版新書、2020年6月)があります。


★続いて、注目している新書と文庫の新刊をいくつか挙げます。


『コロナ後の世界』ジャレド・ダイアモンド/ポール・クルーグマン/リンダ・グラットン/マックス・テグマーク/スティーブン・ピンカー/スコット・ギャロウェイ著、大野和基編、文春新書、2020年7月、本体800円、新書判並製208頁、ISBN978-4-16-661271-0
『大分断――教育がもたらす新たな階級化社会』エマニュエル・トッド著、大野舞訳、PHP新書、2020年7月、本体900円、新書判並製108頁、ISBN978-4-569-84684-2

『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』庭田杏珠/渡邉英徳著、光文社新書、2020年7月、本体1,500円、新書判472頁、ISBN978-4-334-04481-7
『ミミズによる腐植土の形成』チャールズ・ダーウィン著、渡辺政隆訳、光文社古典新訳文庫、2020年7月、本体900円、文庫判並製326頁、ISBN978-4-334-75428-0



★『コロナ後の世界』は、村上陽一郎編『コロナ後の世界を生きる――私たちの提言』(岩波新書、2020年7月)、「Voice」編集部『変質する世界――ウィズコロナの経済と社会』(PHP新書、2020年7月)と並んでコロナ時代の世界を読み解くアンソロジー。中でも『コロナ後の世界』は海外の第一級の知性6人に、大野和基さんが緊急インタヴューを行なったもので、『文藝春秋』誌2020年2月号に掲載された記事に追加取材を掛けて一冊としています。一緒に読んでおきたいのはトッド『大分断』。2017年から2020年にかけて行なったトッド氏へのインタヴューと、同時期にフランスで発表された記事をまとめたものです。「高等教育が引き起こした社会の分断と格差」(9頁)が論じられています。トッドはコロナ以後の世界について「〔問題の本質は以前と比べて〕何も変わらないが、物事は加速し、悪化する」(8頁)と分析しているとのこと。切迫しつつある状況に流されないためにも、今読んでおきたい新刊です。


★『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』は、1941年から1946年の間に撮影された主に戦中の国内写真約350点を、AIと人力でカラー化し収録したもの。モノクロとは違う生々しさに眼が離せなくなります。『ミミズによる腐植土の形成』はダーウィンの逝去半年前の1881年に刊行された最後の著作の新訳。訳者解説によれば本書はかの大著『種の起源』よりも売れたのだとか。40年にわたる観察をもとに執筆されたライフワークです。既訳には、渡辺弘之翻訳『ミミズと土』(平凡社ライブラリー、1994年、版元品切)があり、こちらの訳書にはスティーヴン・J・グールドによる解説が併載されています。


★このほか最近出会いがあった新刊を列記します。


『中年の本棚』荻原魚雷著、紀伊國屋書店、2020年8月、本体1,700円、46判並製272頁、ISBN978-4-314-01175-4
『全著作〈森繁久彌コレクション〉第5巻 海――ロマン』森繁久彌著、藤原書店、2020年7月、本体2,800円、四六判上製488頁/口絵4頁+カラー口絵4頁、ISBN978-4-86578-275-2

『好奇心と日本人――多重構造社会の理論』鶴見和子著、藤原書店、2020年7月、本体2,400円、四六変上製272頁、ISBN978-4-86578-279-0

『赤ちゃんは知っている〈新版〉――認知科学のフロンティア』ジャック・メレール/エマニュエル・デュプー著、加藤晴久/増茂和男訳、藤原書店、2020年7月、本体3,300円、四六上製368頁、ISBN978-4-86578-278-3

『日本を開国させた男、松平忠固――近代日本の礎を築いた老中』関良基著、作品社、2020年6月、本体2,200円、46判上製270頁、ISBN978-4-86182-812-6



★荻原魚雷『中年の本棚』は紀伊國屋書店の季刊PR誌「スクリプタ」に2013年春号から2020年冬号まで連載されたものを加筆訂正し、書き下ろしの「昨日できなかったことが今日できるようになる」を足して一冊としたもの。書き下ろしでは星野博美さんの著書が取り上げられていますが、何か魔法のようなことが語られているわけではないながらも、人生訓として読むことができます。「中年を生き延びるために」という帯文が、多くの同世代に刺さりそうな予感がします。


★藤原書店さんの7月新刊は3点。『全著作〈森繁久彌コレクション〉第5巻 海――ロマン』は全5巻の最終回配本。日本一周航海記を含む、海をめぐるエッセイ群のほか、詩作品や俳句、書画、色紙などが収められ、巻末には「全仕事一覧」もまとめられています。鶴見和子『好奇心と日本人』は1972年に講談社現代新書の一冊として刊行されていたものの復刊。「日本人の好奇心」「好奇心の社会学」「好奇心のものさし」「多重構造社会と好奇心」「のぞき文化」「漂流の思想」の全6章。好奇心を「差別の構造を根底から突き破ってゆく原動力」(257頁)として見る鶴見さんの観点をどう鍛え直すかが、現代人に問われているのではないでしょうか。巻頭には芳賀徹さんによる講演録「鶴見和子『好奇心と日本人』に寄せて」が置かれています。メレール/デュプー『赤ちゃんは知っている〈新版〉』は1990年に刊行された原著『人間に生まれる』の訳書(初版1997年12月、藤原セレクション版2003年12月)の新版。巻頭に共訳者の加藤晴久さんによる「新版によせて」と題した文章が足されています。加藤さんによれば、かのスタニスラス・ドゥアンヌをはじめ、フランスの現役の認知科学者の半数以上はメレールの弟子筋なのだとか。


★関良基『日本を開国させた男、松平忠固』は帯文に曰く「“開国”を断行したのは、井伊直弼ではない」、「その歴史的真相と実像を初めて明らかにする」と。歴史学者の岩下哲典さんや、数々の受賞歴があるジャーナリスト佐々木実さんらが推薦文を寄せており、書名のリンク先で読むことができます。前著『赤松小三郎ともう一つの明治維新――テロに葬られた立憲主義の夢』(作品社、2016年)に続く「幕末維新の真実」第2弾とのこと。著者の関良基(せき・よしき、1969-)さんは拓殖大学教授。農学博士でいらっしゃいます。


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