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注目新刊:ちくま学芸文庫7月新刊5点、ほか

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★まず最初に、まもなく発売となるちくま学芸文庫の7月新刊5点をご紹介します。


『大元帥 昭和天皇』山田朗著、ちくま学芸文庫、2020年7月、本体1,500円、文庫判464頁、ISBN978-4-480-09971-6
『記号論講義――日常生活批判のためのレッスン』石田英敬著、ちくま学芸文庫、2020年7月、本体1,700円、文庫判640頁、ISBN978-4-480-09989-1
『資本主義と奴隷制』エリック・ウィリアムズ著、中山毅訳、ちくま学芸文庫、2020年7月、本体1,700円、文庫判512頁、ISBN978-4-480-09992-1
『叙任権闘争』オーギュスタン・フリシュ著、野口洋二訳、ちくま学芸文庫、2020年7月、本体1,300円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-09993-8
『ノーベル賞で読む現代経済学』トーマス・カリアー著、小坂恵理訳、ちくま学芸文庫、2020年7月、本体1,800円、文庫判656頁、ISBN978-4-480-09997-6
『数理のめがね』坪井忠二著、ちくま学芸文庫、2020年7月、本体1,200円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-09995-2


★『大元帥 昭和天皇』は、1994年に新日本出版社より刊行された単行本の文庫化。「〔天皇の戦争責任に対する否定論に〕具体的な史実の提示によって答え、天皇の戦争責任を考えるための確かな素材を提供しようとするもの」(まえがきより、12頁)。「ちくま学芸文庫版あとがき」によれば、「文庫化するにあたり、新日本出版社版の第14刷を定本として、あらためて誤記・誤植を修正した」とのことです。巻末解説は志學館大学教授の茶谷誠一さんによるもの。「今後も昭和天皇の戦争指導について研究する際、本書は必読の書として読み継がれていくことになるであろう」と評価されておられます。戦争への天皇の具体的関わりを赤裸々に検証した本書のインパクトは今なお、様々なことを読者に考えさせるよすがとなるでしょう。


★『記号論講義』は、2003年に東京大学出版会より刊行された『記号の知/メディアの知――日常生活批判のためのレッスン』を文庫化したもの。文庫化にあたり、巻末に「文庫版のための自著解説」が追加されています。「本書は、大きく言えば、メディアを対象とした記号論の書といえます。メディア記号論という分野の本だと言ってもまちがいではない」(600頁)。「今回「記号論講義」と改題したのは、記号論という学問をもういちど21世紀の学問としてきちんと位置づけ直す本としてあらためて広く世に問いたいと考えたからです」(同)。「メディアと知の転換の見取り図をもとに、記号論や記号学と呼ばれた記号の知が20世紀をとおしてどのような知のインターフェイスを作りだしていったのか、その問題系を11章にわたって追い、レッスン形式で人間の意味世界の変容を理解するための方法を説いたもの」(604~605頁)。


★『資本主義と奴隷制』は、凡例によれば「1978年に理論社から刊行された新装版『資本主義と奴隷制――ニグロ史とイギリス経済史』を底本とし、川北稔氏監修のもと訳語を一部改めた」とのことです。川北さんは巻末解説「「周辺」から世界の歴史を見る」を寄せられています。『Capitalism & Slavery』(The University of North Carolina Press, 1944)の全訳で、底本には1961年版が使用されています。カヴァー裏紹介文の文言を借りると「奴隷貿易と奴隷制プランテーションによって蓄積された資本こそが、産業革命をもたらしたことを突き止め」た、現代の古典です。本書の新訳には『資本主義と奴隷制――経済史から見た黒人奴隷制の発生と崩壊』(山本伸監訳、明石書店、2004年)がありますが、川北さんは「原著の真意が伝わりにくいところもあるので、このたび、手軽に読めるかたちで、中山訳を上梓することになった」と説明されています。


★『叙任権闘争』は、『La querelle des investitures』(Montaigne, 1946)の全訳で、1972年に創文社から初版が刊行され、さらに改訂版が1980年に上梓された単行本の文庫化。書名ともなっている叙任権闘争とは、11世紀後半から12世紀初頭にかけて、聖職者の任命方法をめぐり、教会と王侯貴族との間で起きた争いのこと。「ちくま学芸文庫版訳者あとがき」には「本訳書刊行以降に刊行された主な資料集と参考文献」が追記されています。著者のフリシュ(Augustin Fliche, 1884-1951)はフランスの歴史家で専門は中世史と教会史。著書の日本語訳は本書が唯一のものとなります。


★『ノーベル賞で読む現代経済学』は、『Intellectual Capital: Forty Years of the Nobel Prize in Economics』(Cambridge University Press, 2010)の全訳で、2014年に筑摩書房の「筑摩選書」の新刊として出版された『ノーベル経済学賞の40年――20世紀経済思想史入門』上下巻の改題合本文庫化。1969年から2009年にかけて受賞した64名が紹介されています。経済学者の瀧澤弘和さんが担当された文庫版解説では、2010年から2019年までの受賞者について「簡単に補足」されています。ビジネスマン必携の1冊として広く薦めたい教養書です。


★『数理のめがね』は、1968年に岩波書店から刊行された単行本の文庫化。著者の坪井忠二(つぼい・ちゅうじ:1902-1982)さんは地震学者で地球物理学者。すでにお亡くなりになっているため、旧版からの本文改訂はないようです。解説も特になし。巻頭のはしがきによれば「日常身辺のことをその〔数理という〕めがねを通してみたらどんなことになるか」をめぐって『数学セミナー』に連載されたエッセイをまとめたもの。続篇が1976年に日本評論社から刊行されていますが、こちらはまだ文庫化されていません。


★続いて人文書院さんの6~7月の新刊より3点について。


『感染症社会――アフターコロナの生政治』美馬達哉著、人文書院、2020年7月、本体2,000円、4-6判並製256頁、ISBN9784409041130
『マンガ・スタディーズ』吉村和真/ジャクリーヌ・ベルント編、人文書院、2020年6月、本体1,900円、4-6判並製220頁、ISBN978-4-409-00113-4

『グノーシスの宗教――異邦の神の福音とキリスト教の端緒 増補版』ハンス・ヨナス著、秋山さと子/入江良平訳、人文書院、2020年6月、本体7,500円、A5判上製510頁、ISBN978-4-409-03111-7



★『感染症社会』は帯文の文言を借りると「医師であり注目の医療社会学者でもある著者が、COVID-19に関する医学的知見と発生以来の経緯、そして社会学的分析をふまえ、事態を総合的に捉える迫真の論考」。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。「本書は、人間対ウイルスという二項対立の短絡的な考え方を相対化し、社会現象としてのパンデミックとコロナウイルスの存在との隙間にあるさまざまなコンスティテューションの軋みに耳を澄ませて、思考を積み重ねることを目指している」(11頁)。本書の刊行にあたっての著者コメントと第一章の一部が無料で公開されています。


★『マンガ・スタディーズ』は「ブックガイドシリーズ基本の30冊」の約5年ぶりとなる13冊目の新刊。第1部「マンガ/史」、第2部「表現/読者」、第3部「産業/メディア」、第4部「ジェンダー/セクシュアリティ」、第5部「日本/世界」の5部構成で30冊が紹介されています。目次詳細は書名のリンク先でご確認下さい。編者の吉村さん曰く「アカデミズムの枠組みに揺さぶりをかけるようなマンガ研究の問いかけを感じ取っていただきたい」(はじめに、10頁)。


★『グノーシスの宗教 増補版』は、1986年に刊行された訳書(底本は1964年に刊行された第2版)に、英語版第3版(2001年)への序文を訳出して加えた増補版。この序文は注と併せて21頁あり、入江さんによる「増補版への訳者あとがき」では「新しい序文でヨナスは「何が彼をグノーシス主義に導いたのか」という問いに答える形で、心の赴くままに語っていて、興味深い」と評されています。旧版本文には手を入れていないとのことです。著者のハンス・ヨナス(Hans Jonas, 1903-1993)はドイツの哲学者。主著の『責任という原理――科学技術文明のための倫理学の試み』(加藤尚武監訳、東信堂、2000年;新装版、2010年)が有名ですが、グノーシス研究においても本書『グノーシスの宗教』によって広く知られています。


★最後に河出書房新社さんの6~7月の新刊より3点について。


『文藝 2020年秋季号』河出書房新社、2020年7月、本体1,350円、A5判並製504頁、ISBN978-4-309-98013-3
『古井由吉――文学の奇蹟』河出書房新社編集部編、河出書房新社、2020年6月、本体2,200円、A5判並製288頁、ISBN978-4-309-02897-2

『日本小説批評の起源』渡部直己著、河出書房新社、2020年6月、本体3,400円、46判上製290頁、ISBN978-4-309-02888-0



★『文藝 2020年秋季号』は特集「覚醒するシスターフッド」「非常時の日常 23人の2020年4月-5月」「世界の作家は新型コロナ禍をどう捉えたか」の3本立て。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。リニューアル後の『文藝』は文芸書と人文社会書を近づけてくれる試みに満ちていて、毎号意欲的です。特に今号の第一特集「覚醒するシスターフッド」はフェミニズムの棚でも扱われてほしいところです。また、第二特集と第三特集は、このところ他誌でも取り上げられてきた、コロナ関連のコンテンツにさらなる幅と奥行きを与えてくれます。『現代思想2020年5月号:感染/パンデミック――新型コロナウイルスから考える』『ele-king臨時増刊号:コロナが変えた世界』『思想としての〈新型コロナウイルス禍〉』、さらに『現代思想』では7月末発売の8月号が特集「コロナと暮らし」、8月下旬発売の9月臨時増刊号が総特集「〈危機〉の時代を生きるためのブックガイド」という予定なので、人文書売場においても「新型コロナ」もしくは「ウイルスと人類」をめぐっては継続的なコーナーを作っておいた方が良いと思われます。


★『古井由吉』は2月18日に逝去された作家の古井由吉さんをめぐるアンソロジー。再録ではない今回初掲載のコンテンツとしては、古井睿子さんへのインタヴュー「夫・古井由吉の最後の日々」、松浦寿輝さんと堀江敏幸さんの対談「禍々しき静まりの反復」、石川義正さんの論考「時間の感染」、片岡大右さんの論考「古井由吉の風景のための序説」、築地正明さんの論考「反復する「永遠の今」」など。築地さんは「古井由吉全著作解題」も担当されています。


★『日本小説批評の起源』は、月刊誌「新潮」2019年10月号に掲載された「話芸と書法――『水滸伝』から読む十九世紀日本文学(前編)」に端を発し、書き下ろしを加えて一冊としたもの。「ここで問われようとするのは、まさしく「批評」の即物的な起源、あるいは、即物性そのものが起源となるような場の生動にほかならぬ〔…〕。/その場所に向け、一種考古学的な測鉛をおろすこと。――それが、本書がみずからに与えた大きな課題となる」(序文、10頁)。


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