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備忘録(29)

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◆2016年6月1日17時現在。
「新文化」2016年6月1日付記事「トーハン、八重洲BCの株式49%取得。山﨑厚男氏が社長に」に曰く、「トーハンは5月31日、取締役会を行い、鹿島建設グループから八重洲ブックセンターの株式49%を取得することを決議し、同日に株式譲渡契約書と株式間協定書を締結した。〔・・・〕八重洲BCの代表取締役社長には7月1日付でトーハン元社長の山﨑厚男氏が、取締役会長には八重洲ブックセンター社長の吉野裕二氏が就く」と。

2012年12月におけるブックファーストの子会社化と違い、100%の株式取得ではないにせよ、驚きを隠せない業界人も多いようです。旗艦店である東京駅前の八重洲ブックセンター本店は日販とトーハンのダブル帳合でしたが、今後はトーハン一本になるわけです。このところトーハンは、リブロ池袋本店(日販帳合)閉店後に出店した三省堂書店池袋店のメイン帳合をつとめていますし、ジュンク堂書店池袋本店(元・大阪屋帳合)のメイン帳合になったりして、攻勢を強めています。帳合戦争の次の一手がまさか八重洲ブックセンターになるとは、というのが業界人の驚きとなったわけです。

トーハンの6月1日付ニュースリリース「株式会社八重洲ブックセンターの株式譲受に関するお知らせ」にはこうきっぱり書かれています。「今後、八重洲ブックセンターにおいては、代表取締役をトーハンより派遣し運営していくこととなりましたのでお知らせいたします」。49%(トーハン)対51%(鹿島G)という株主構成比を微妙と見るべきか絶妙と見るべきか、様々に分析できるでしょう。

なお、「日本経済新聞」2015年4月15日付記事「進化する「オフィス街」 大手町、連鎖型都市再生の全貌 東京大改造マップ2020(2)」では、日経アーキテクチュア+日経ビジネス+日経コンストラクションの共同編集によるムック『東京大改造マップ2020 最新版』(日経BP社、2015年4月)の内容の一部が、次のように紹介されています。

「93万m2の超大規模開発・・・一方、その隣の東京駅前の八重洲エリアでは超大規模開発の動きがある。八重洲1丁目東地区(地図D-3)、2丁目北地区(地図D-3~D-4)、2丁目中地区(地図C-4~D-4)で再開発が計画されており、3地区を合わせた総延べ面積は約93万m2。高さ200mを超える超高層ビルを複数建設する予定で、五輪後に完成する見込み。/各地区の地下には東京駅と直結する八重洲バスターミナルも計画している。東京都が進めているBRT(バス高速輸送システム)構想(地図C-3~C-4)では、湾岸部から東京駅に向かうルートも検討しており、実現すれば、このバスターミナルが使われる可能性が高い」。

ここで言う「地図」の拡大版を見ると、八重洲ブックセンターは「八重洲2丁目中地区再開発」の中に入っています。この再開発計画についてはまとめ記事「東京・八重洲で大規模再開発が決定!3地区で複合ビル、地下にバスターミナルも!」をご覧ください。このまとめで引用されている「建設通信新聞」2014年12月15日付記事「3地区総延べ94万㎡/都市機構が地下バスターミナル/八重洲地区開発」によれば、「八重洲ブックセンター、常陽銀行などのある八重洲2-4~7の約2haが施行対象地。再開発ビルは、延べ約38万㎡を想定している。事業協力者として、三井不動産と鹿島が参画している。事業期間は16-22年度を予定している」と。もうすでに2016年ですが、すぐに再開発工事に取り掛かるというわけではないようです。むろん、オリンピックに照準が当てられていることは確かでしょう。まとめ記事にも書いてありますが、東京都都市整備局の「(八重洲地区)整備計画」によれば、再開発地区の地下には八重洲バスターミナルという大規模な施設ができあがることになっています。

2004年9月、東京駅丸の内口ではオアゾがオープンし、丸善丸の内本店(日販帳合)が進出して以来、東京駅の反対側に位置し長らく「駅前の覇者」であった八重洲ブックセンター本店には様々な苦労があったことと推察できます。しかし、あと数年で「東京駅前戦争」に新展開が生まれることになるのかもしれません。60歳以上の業界人の方なら鮮烈に思い出せることかと思いますが、八重洲ブックセンター本店は1978年9月のオープン当時、業界外の企業である鹿島建設が仕掛けてきた最大の「黒船」でした。当時の鹿島建設社長である鹿島守之助さんが従来の書店に飽き足らず、どんな本でも買える巨大な書店を作ったのです。あれから約40年。1000坪を超える書店が次々と誕生し、ネット通販のアマゾンこそが「黒船」と呼ばれてきた昨今、元祖「黒船」である八重洲ブックセンターが再開発でどう生まれ変わるのか、目が離せません。

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◆6月1日18時現在。
小田光雄さんの「出版状況クロニクル97(2016年5月1日~5月31日)」が公開されました。今回も盛りだくさんの内容です。来たるべき八重洲BCの「新本店」については、「八重洲ブックセンター本店も建替えのため一時閉店予定とされているが、実質的に縮小となるのではないだろうか」と分析されています。その背景として業界全体の「下げ止まることのない出版物売上の落ちこみは、大型店の維持が困難であることを露呈させ始めている」と。

また、先月オープンした「枚方T-SITE」については、次のように述べられています。「この「T-SITE」は代官山、湘南に続いて3店目になるけれど、コアとなる蔦屋書店などは赤字と見られ、レンタルのTSUTAYA事業にしても、かつてのような収益を上げることはありえない。/それゆえにCCCの「T-SITE」事業は、蔦屋書店とTSUTAYAのブランドを延命させ、それらのフランチャイズシステムを維持するためのものであり、これで打ち止めになるように思われる。/日販にしてもMPDにしても、これ以上はCCCと併走できなくなっているだろうし、それにまだ打つ手が残されているのだろうか」と。

創業の地に凱旋した枚方T-SITEは書店の複合化の極点とも言えますが、小田さんの言う通り内実は「大型不動産プロジェクト」と言うべきであり、脱書店であるというべきかと思われます。これ以上のプロジェクトや理念がCCCにあるのかどうかということに注目が集まっています。書店にせよ取次にせよ版元にせよ、複合化や電子化が進む中で脱書店、脱出版の方向性が生まれるのは必然的ではありますが、一方でいわゆる「小商い」や「独立系」の潮流があってこちらでも従来のメインプレイヤーと良くも悪くも断絶した新しい書店や版元が生まれ続けています。分裂するリアリティの中で時代はどこに向っていくのでしょうか。

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◆6月2日16時現在。
「新文化」2016年6月1日付記事「日販、減収減益の連結決算」によれば、日販の第68期(2015年4月1日~2016年3月31日)決算が「連結売上高は6398億9300万円(前年比3.2%減)。雑誌販売が低迷して全体を押し下げた。〔・・・〕連結対象子会社は25社。あゆみBooksやOKCなどが加わった」。「単体の売上高は5136億3800万円(同4.6%減)、〔・・・〕で減収増益。「書籍」売上げは2475億9700万円(同0.5%増)、「雑誌」は2434億5400万円(同9.9%減)。書籍が雑誌を上回ったのは36期以来32年ぶり」と。OKCとは大阪屋栗田の注文品を扱う物流拠点です。

「共同通信」2016年6月1日付記事「書籍の売上高、雑誌上回る――日販、32年ぶり」には日販の説明が紹介されています。「同社によると、お笑い芸人の又吉直樹さんの芥川賞受賞作「火花」など、文芸の話題作が多かった書籍の売上高は2476億円で、対前年度比では微増。雑誌は女性ファッション誌などの不振が影響して売上高は2435億円、対前年度比9・9%減と大きく落ち込んだ。/同社幹部は、最近も店頭での書籍売り上げが堅調なことから「書籍(の下落)は底を打った感がある」としており、長年「雑高書低」と言われてきた出版界の変動を示す結果となった」と。

さらに「日本経済新聞」2016年6月1日付記事「雑誌売り上げが書籍を下回る 日販16年3月期、32年ぶり」ではより詳しく、「女性向けファッション誌が11.8%減の大幅な落ち込みとなった雑誌は全体でも15年3月期比9.9%減の2434億円だった。お笑い芸人の又吉直樹さんの芥川賞受賞作「火花」など話題作が相次いだ書籍は0.5%増の2475億円だった。/雑誌の返品率は40.9%となり、書籍の30.7%を上回った。なかでもコンビニの雑誌の返品率が51.2%と高く、記者会見した日販の加藤哲朗専務は「この1年でコンビニで雑誌が売れなくなった」と話した。/コミックの売上高は3.9%減。「NARUTO」や「黒子のバスケ」といった人気作品が完結したことが響いた。〔・・・〕17年3月期の見通しは「書籍は前期並みとなりそうだが、雑誌の減少は避けられない」(酒井和彦常務)。文具などの取り扱いを増やし、落ち込みを補う」。

また「NHKニュース」2016年6月2日付記事「雑誌売り上げ 32年ぶりに書籍下回る」では、「日販によりますと、雑誌の売り上げが書籍を下回るのはおよそ32年ぶりだということです。国内の出版は全体として落ち込みが激しく、中でも雑誌についてはインターネットやスマートフォンの普及などの影響から発行部数や売り上げの減少が続いていました。/日販は「雑誌が置かれた状況は引き続き厳しく、大幅な回復は見込めない。一方で、書籍の売り上げは安定してきていて、ヒット作に恵まれれば、さらに伸びる可能性がある」と分析しています」。

「Fashionsnap.com News」2016年6月2日付記事「女性ファッション誌の不振が影響、雑誌の売上が約32年ぶりに書籍を下回る」では、「売上が落ち込んでいる雑誌のなかでも女性ファッション誌が対前年11.8%減、ティーンズ誌が対前年7.7%減となり、業績に大きな影響を与えている。主な背景として、2015年度は休刊が相次ぎ、創刊数91点に対して休刊数は177点。販売部数の減少も大きな要因として挙げられている。コンビニエンスストアでの雑誌売上実績は対前年12.8%減で、返品率は51.2%。日販は雑誌の売上減少を阻止するため、出版社とチェーンが連動した限定プライベートブランド商品の開発などに取り組む計画だという」。

このほか、関連記事に以下のものがあります。
「毎日新聞」2016年6月2日付記事「書籍売り上げ、雑誌超え 「火花」話題など 15年度32年ぶり」
「J-CASTニュース」2016年6月2日付記事「雑誌売り上げ、書籍売り上げを下回る――日版が昨年度決算を発表」

以上をまとめますと、
1)日販は連結でも単体でも昨年度は減収増益。
2)雑誌の売上がついに書籍を下回り始めた。
3)特にファッション誌の売上が落ち込んでいる。
4)コンビニで雑誌が売れていない。半分以上は返品。
5)雑誌の不調はインターネットやスマホの普及の影響なのか。
6)雑誌は創刊より休刊する方が多かった。
7)雑誌は販売部数だけではなくそもそも発行部数も減っている。
8)雑誌売上がさらに落ち込みそうなので文具など新商材を拡充する。
9)版元と小売で連携して雑誌のPB商品も開発する。
10)書籍はヒット作があれば現状を維持できる(あわよくば微増)かも。
11)コミック人気作の完結終了は厳しい。

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◆6月2日19時現在。
「文化通信」6月2日付記事「MPD、買切のオリジナルレーベル刊行開始へ」に曰く「MPDは6月1日、2016年度BOOK方針発表会を開き、6月下旬に出版社と連携した買切、書店マージン40%の独自レーベルの刊行を開始することなどを発表した。/奥村景二社長は昨年度実績として、…〔以下有料〕」云々と。

周知の通り、MPDは2006年に日販(51%)とCCC(49%)が設立した合弁会社で、「CD・DVD・BOOK・ゲームなどのエンターテイメント商材をTSUTAYAや書店、エンタテイメント店、ホームセンター、スーパーマーケット、ドラッグストア、ネットショップ等へ供給する販売物流会社」であり、事業内容は「書籍・雑誌・音楽・映像・ゲームソフト等の卸販売」「エンタテインメント関連商材の卸販売」「中古品(音楽・映像・ゲームソフト等)の売買」「レーベル事業」です。事業の中にはオリジナル商品の開発も含まれていて(レーベル事業でしょうか)、MPD出版として絵本を刊行していたりもします。

また、CCCは2014年12月1日に「CCCメディアハウス」を立ち上げ、阪急コミュニケーションズの出版事業を引き継いでいます(系譜としては、ブリタニカ→TBSブリタニカ→阪急コミュニケーションズ→CCCメディアハウス)。今回の記事が言う「出版社」というのがMPD出版のことなのか、傘下のCCCメディアハウスのことなのか、他社版元のことなのかは分かりませんが、普通に考えると他社版元との連携を強めるのでしょう。CCCに限らず、いわゆる「製販同盟」はますます進むのでしょう。

なお、「新文化」6月1日付記事「MPD、減収減益の決算」によれば、「売上げシェア約52%の「BOOK」の伸び悩みが響き、売上高は前年比1.6%減の1894億5800万円となり、1900億円割れと厳しい結果となった。運賃改善や物流拠点の配置見直しなど販管費の圧縮に努めたものの、経常利益は7億2900万円(前年比28.1%減)となった」と。さらに「部門別の売上高は次の通り。「BOOK」989億39000万円(前年比1.7%減)、「AVセル」308億7700万円(同8.7%減)、「GAME」165億5400万円(同8.9%減)、「RENTAL」239億5200万円(同6.5%減)、「その他」191億4500万円(同33.9%増) 」とも発表されており、書籍雑誌以上にほかの事業も厳しい様子です。

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