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注目新刊:ルリユール叢書最新刊、レオパルディ『断想集』、アルフィエーリ『フィリッポ/サウル』、ほか

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★不要不急の外出を控える、となると、電車を利用して行くような本屋さんには行きづらくなります。加えてネット書店がパンク気味のため、新刊を入手するのに少し時間がかかるようになっています。図書館も開いていません。仕方ないことですが、この状況が面倒臭くなって紙の本から遠ざかるのか、それとも(それでも)諦めずに本を探し続けるか、というような分かれ道すら生じつつあるのかもしれません。


『新版 アリストテレス全集 11 動物の発生について』今井正浩/濱岡剛訳、岩波書店、2020年3月、本体5,600円、A5判上製函入388頁、ISBN978-4-00-092781-9
『ホメロス外典/叙事詩逸文集』中務哲郎訳、西洋古典叢書:京都大学学術出版会、2020年3月、本体4,200円、四六変上製492頁、ISBN978-4-8140-0226-9

『プラトン『ティマイオス』註解』カルキディウス著、土屋睦廣訳、西洋古典叢書:京都大学学術出版会、2019年11月、本体4,500円、四六変上製496頁、ISBN978-4-8140-0224-5

『自由論』J・S・ミル著、関口正司訳、岩波文庫、2020年3月、本体840円、文庫判302頁、ISBN978-4-00-390002-4

『公正としての正義 再説』ジョン・ロールズ著、エリン・ケリー編、田中成明/亀本洋/平井亮輔訳、岩波現代文庫、2020年3月、本体1,820円、A6判並製516頁、ISBN978-4-00-600418-7

『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』ジェレミー・マーサー著、市川恵里訳、河出文庫、2020年4月、本体1,200円、文庫判384頁、ISBN978-4-309-46714-6

『フランス怪談集』日影丈吉編、河出文庫、2020年4月、本体1,100円、文庫判480頁、ISBN978-4-309-46715-3



★『動物の発生について』は『新版 アリストテレス全集』の第11巻で、本巻全20巻中の第19回配本。旧版では第9巻『動物運動論/動物進行論/動物発生論』(島崎三郎訳、1969年6月)に収録されていました。新版第11巻に付属する「月報19」では、大塚淳「現代の科学哲学からみたアリストテレス」と、佐藤恵子「ヘッケルのアリストテレス観」が収載されています。同月報の「編集部より」によれば、次回配本は今秋予定、本巻完結となる第14巻『形而上学』とのこと。また、第1巻『カテゴリー論/命題論』(2013年)は第2刷が遠からずできあがるようで、正誤表が同月報に記載されています。訂正は9箇所。第2刷を買うべきか迷うところです。


★『ホメロス外典/叙事詩逸文集』は、第一部「ホメロス外典」、第二部「ホメロス伝」(偽ヘロドトス)、第三部「叙事詩逸文集」の3部構成。収録作品は書名のリンク先でご確認いただけます。第1刷の正誤表もすでにPDFで公開されています。西洋古典叢書ではホメロスの代表作『イリアス』『オデュッセイア』はまだ訳されていませんが、他社の既訳書がありますから、外典の出版が先になったことはたいへんありがたいことです。付属の「月報144」では佐野好則「叙事詩圏とトロイア遺跡と木馬の策略と」と、連載「西洋古典雑録集(18)サッフォー写本の発見」(國方栄二)が掲載されています。


★『プラトン『ティマイオス』註解』は忙しさに紛れて購入できていなかったことに先日気づきました。カルキディウスはプラトンの宇宙論である『ティマイオス』のラテン語訳と註解を手掛けており、生没年や出身ははっきりとは確定されていませんが、その功績によって古代ギリシアと中世を結ぶ懸け橋となった重要人物です。帯文に曰く「異教哲学とキリスト教思想を仲介した註解書」と。「西洋古典叢書」シリーズでもっとも待望していた書目のひとつです。2部全13章の目次詳細は書名のリンク先でご確認下さい。底本はヴァスジンクによる校訂版の第2版(E・J・ブリル、1975年)。原著(校訂版序文、ラテン語訳ティマイオス、註解、各種索引)の寸法の大きさに比べると訳書(注解)はずいぶんコンパクトに見えます。


★岩波文庫と岩波現代文庫の先月新刊からは、ミル『自由論』と、ロールズ『公正としての正義 再説』。『自由論』は、1971年の塩尻公明・木村健康訳以来の新訳です。旧訳は2018年4月までに65刷を数えていました。新訳が出たので旧訳は順次店頭から消える運命。文庫本は酸化しやすいので、旧訳をすでにお持ちの方もこの機会に最終刷も購入されることをお勧めします。個人の自由を論じたこの古典は読み継がれるに値いする名著です。光文社古典新訳文庫のような比較的に新しい文庫レーベルでもすでに二度にわたり新訳が出ていることは周知の通り(山岡洋一訳、2006年;斎藤悦則訳、2012年;山岡訳はその後、日経BPクラシックスの1冊として2011年に再刊)。


★ミルはこう書いています。「私が示そうとしているのは、人間の知性の現状では、意見の多様性を通じてしか真理のあらゆる側面が公平に扱われる可能性はない、という事実の普遍性である。ある問題について世間が一致した意見を持っているように見えるのに、その例外となっている人々がいるとしよう。そういうときはいつでも、たとえ世間の側が正しくても、おそらくは、反対意見を持つ人々の語ることには耳を傾ける価値のある何かがあり、彼らが沈黙すれば、真理から何かが失われるのである」(第二章「思想と討論の自由」より、109~110頁)。民主主義が問われているこんにち、胸に沁みる言葉です。


★『公正としての正義 再説』は2004年に岩波書店から刊行された単行本の文庫化。文庫化にあたり、「訳文を改訂し、「訳者解説」を新たに付した」と巻末特記にあります。「本書は、包括的教説の一種としての『正義論』における「公正としての正義」が、「包括的リベラリズム」から「政治的リベラリズム」への転回を経て、どう変わり、またどう変わっていないのかを解説しようとするものである」(亀本洋氏による訳者解説より、461頁)。ロールズの著作が文庫になるのは本書が初めて。今月にはサミュエル・フリーマン編『ロールズ政治哲学史講義』2巻本も岩波現代文庫で発売になっています。発注済ですが、コロナの影響で一度キャンセル、再発注したのが届くのをのんびり待っているところです。


★ロールズはこう言います。「たしかなことだが、われわれは、人々が自分の善を実現するために、自分の諸々の自由と機会を気に欠けることを期待するし、また実際、そうであってほしいと思う。人々がもしそうしなければ、われわれは、それを彼らの自尊心の欠如と性格の弱さの現れと考える」(169頁)。「宗教的・道徳的な深刻な対立というものが、正義の主観的環境を特徴づけるものである。そうした対立に関わる人々はたしかに、一般的に自己利益的というわけではなく、むしろ、自分は、みずからの正統で根本的な利益を保証する基本的な諸権利と諸自由を守っているのだと考えている。しかも、そうした対立は、きわめて扱いにくいものになりうるし、また、深刻な分裂をもたらすようなものになりうる。社会的・経済的対立に比べると、そうなる頻度が高い」(170頁)。


★河出文庫の4月新刊から2点。『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』は2010年刊の単行本からのスイッチ。原著は2005年刊。文庫版訳者あとがきによれば「文庫化にあたり、訳文の一部を手直しした」とのことです。「故ジョージ・ホイットマンが店主であった時代のシェイクスピア・アンド・カンパニーを鮮やかに描き出した貴重なドキュメントとして本書がもつ大きな価値と、若さのきらめきを結晶化したような、青春小説風の普遍的な魅力とおもしろさは、いまもなお色あせることはない」(文庫版訳者あとがきより、379頁)。「うれしいことに、シェイクスピア・アンド・カンパニーは、物書き(とその志望者)向けの「流れ者ホテル」としての機能を含む店の伝統の多くを守りつつ、新たな要素をうまく取り入れ、現在も同じ場所で営業している」(同、380頁)。コロナ禍により書店が困難な状況にある今だからこそ味読したい一冊です。


★『フランス怪談集』は1989年刊の文庫を新装復刊したもの。収録作品は以下の通り。初版当時新訳として収録されたものには※印を付しておきます。すべて編者の日影さんによる新訳。


魔法の手|ネルヴァル;入沢康夫訳
死霊の恋|ゴーティエ;田辺貞之助訳
イールのヴィーナス|メリメ;杉捷夫訳
深紅のカーテン|ドールヴィイ;秋山和夫訳
木乃伊〔ミイラ〕つくる女|シュオッブ;日影丈吉訳※
水いろの目|グウルモン;堀口大學訳
聖母の保証|フランス;日影丈吉訳※
或る精神異常者|ルヴェル;田中早苗訳
死の鍵|グリーン;日影丈吉訳※
壁をぬける男|エーメ;山崎庸一郎訳
死の劇場|マンディアルグ;澁澤龍彦訳
代書人|ゲルドロード;酒井三喜訳
編者あとがき フランス怪奇小説瞥見|日影丈吉


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『アルフィエーリ悲劇選 フィリッポ サウル』ヴィットーリオ・アルフィエーリ著、菅野類訳、幻戯書房、2020年4月、本体3,600円、四六変形ソフト上製324頁、ISBN978-4-86488-195-1
『断想集』ジャコモ・レオパルディ著、國司航佑訳、幻戯書房、2020年4月、本体2,900円、四六変形ソフト上製232頁、ISBN978-4-86488-196-8

『五・一五事件――海軍青年将校たちの「昭和維新」』小山俊樹著、中公新書、2020年4月、本体900円、新書判304頁、ISBN978-4-12-102587-6

『Banksy's Bristol:Home Sweet Home fourth edition』スティーヴ・ライト/リチャード・ジョーンズ著、鈴木沓子訳、毛利嘉孝/小倉利丸監修、作品社、2020年3月、本体2,800円、B5判並製158頁、ISBN978-4-86182-798-3



★幻戯書房さんの「ルリユール叢書」の今月新刊は2点。18世紀イタリアの劇作家アルフィエーリ(Vittorio Alfieri, 1749-1803)による悲劇作品2編を収録した『アルフィエーリ悲劇選 フィリッポ サウル』と、19世紀イタリアの詩人で哲学者のレオパルディ(Giacomo Leopardi, 1798–1837)の死後出版となる哲学的散文集『断想集』(1845年)です。いずれも原典からの本邦初訳(『断想集』は100年近く前に英訳版からの重訳あり)。前者には附論として、アルフィエーリを評した2篇、デ・サンクティス『イタリア文学の歴史』の抄訳と、クローチェ『詩と詩にあらざるもの』の抄訳が併載されています。後者の附録は夏目漱石『虞美人草』からの抜粋です。


★レオパルディの『断想集』から4つの印象的な断片を引用します。現代人の胸にも刺さるものがあるのではないかと思います。


【3】現代の経済に関する知恵は、書物の判型の小型化の流れから推し量ることができる。小型版においては、紙の消費が少ないかわりに視力の消耗は無限に大きいものとなる。書物に使用される紙の節約のことを擁護するにしても、同時にたくさん印刷して何も読まないというのが現代の習慣だと付言しなければならない。丸文字は過ぎ去りし時代の欧州において一般的に使用されていた字体であるが、これはもはや使用されなくなり、代わりに長文字が使用され、加えて紙に光沢が施されるようになった。これらは、見る分には美しいが、それ以上に読書の際に目に負担がかかる。しかし、読まれるためではなく見られるために本が印刷される現代にあって、こうした事柄はたいへん理にかなっているとも言える。


【11】他のことについて言わないまでも、芸術と学問に関して述べておきたい。すべてを作り直せるとうぬぼれている時代が続いているが、これは何も作ることができない時代だからである。


【59】これまで幾度も指摘されてきたことだが、諸国家において、確固たる美徳が減退していくにつれて、見かけ上の美徳は拡大していくものだ。私には、文学にも同様の運命が待っているように思われる。我々の時代になって、文体の美徳はその実践はおろかその記憶まで失われてきているが、それとは対照的に印刷技術が洗練されてきているではないか。今日、一日しか必要とされない新聞やその他の政治の戯言は、過去に出版されたいかなる古典作品よりも洗練された印刷技術を用いて刊行されている。しかし、文章術については、もはや知られていないし、その名が呼ばれることすらほとんどない。私が考えるに、優れた人間は皆、現代の書物を開き読んだとき、あれほどおぞましい言葉と大部分において無意味な思想とを表現するために、これほど洗練された紙と文字が用いられていることに哀れみを感じるだろう。


【89】人間とあまり関わらない者が人間嫌いであることは稀である。真の人間嫌いは、孤独の中ではなく人混みの中にいる。[以下略]


★『五・一五事件』は、1932年(昭和7年)5月15日に、海軍青年将校たちが内閣総理大臣犬養毅を殺害するなどした事件をめぐり、6年弱の長期にわたって史料を読み解き真相を探った力作。あとがきの文言を借りると、本書はまず事件当日の様子を描き(第1章)、続いて「どのように事件は起きたのか(第2章・第3章)」「なぜ政党政治はほろびたか(第4章)」「どうして被告たちは減刑されたのか(第5章)」「釈放された被告たちはその後どうしたのか(第6章)」を解説しています。著者の小山俊樹(こやま・としき:1976-)さんは帝京大学文学部史学科教授。ご専門は基本近現代史です。


★『Banksy's Bristol:Home Sweet Home fourth edition』は、2014年に刊行された訳書の新版。原著初版は2007年にTangent Booksより刊行。その後、版を重ね、2016年に原著第4版が発行。「バンクシー本人の発言、友人・仲間たちの証言+消失した初期作から代表作・最新作まで176作品+作品解説+年表を収録」(帯文より)。バンクシーの活動と作品を知るうえで欠くことのできない基本図書です。訳注は別刷栞4頁にまとまっています。なお旧版に付属していた付録冊子が版元ウェブサイトで無料公開されています。毛利嘉孝、鈴木沓子、飯島直樹、小倉利丸、の4氏による解説が読めます。



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