★最近出会った新刊を列記します。
『岡﨑乾二郎 視覚のカイソウ』岡﨑乾二郎/林道郎/岡田温司/中井悠/松浦寿夫/千葉真智子著、ナナロク社、2020年3月、本体6,000円、A4変形上製405頁、ISBN978-4-904292-93-8
『杉本博司 瑠璃の浄土』京都市京セラ美術館編、平凡社、2020年4月、本体3,182円、B4判上製240頁、ISBN978-4-582-20719-4
『約束の地、アンダルシア――スペインの歴史・風土・芸術を旅する』濱田滋郎著、高瀬友孝写真、アルテス・パブリッシング、2020年4月、本体2,800円、A5判並製256頁(カラー112頁)、ISBN978-4-86559-221-4
『世界思想 第47号 2020春 特集:科学技術の倫理』世界思想社編集部編、世界思想社、2020年4月、A5判並製96頁
『アンドレ・バザン研究 第4号』堀潤之/伊津野知多/角井誠編、アンドレ・バザン研究会、2020年3月、A5判116頁、ISSN2432-9002
★『岡﨑乾二郎 視覚のカイソウ』は、2019年11月から2020年2月まで豊田市美術館で開催された同名展覧会を記念して製作された大型カタログ。「初期作品から最新作までを網羅した決定版。絵画、彫刻、建築、批評と縦横無尽に活動する、造形作家・岡﨑乾二郎の全貌」(シュリンクに貼られたシールに記載された文言)。圧倒的な大冊が強烈な存在感を放ちます。キャプションやテクストはすべて英文併記。Book1と別冊のBook2に分かれており、Book1の目次は下段に転記します。Book2は凡例に曰く「全絵画および一部の彫刻・タイルの作品タイトルを収載した」。タイトルと言ってもそれはほとんど文章です。岡﨑さんはほとんど変幻自在とも思える様々な作品を制作されてきましたが、一冊の書物として通しで見ると、執拗な探求にも似た何かしらの一貫性のようなものすら感じます。このカタログを見るまでほとんど気づかずにいたことです。
ごあいさつ|豊田市美術館
まえがき/あとがき(誰かに教わったこと)|岡﨑乾二郎
Part 1:作品
Chapter 1:かたちの単独性――〈あかさかみつけ〉とその周辺
1:かたがみのかたち
2:たてもののきもち
3:裂きおこし
4:よせ裂れ
5:ポンチ絵
6:解体構築
Chapter 2:プレートテクトニクスセオリー
1:初期絵画
2:彫刻
Chapter 3:反省的形式――知覚、現象の生起、想起/転回
1:連作のレリーフ
2:ディプティック、トリプティック
3:ドローイング
Chapter 4:部分と全体
1:ゼロサムネール
2:焼成練土
3:釉彩タイル
4:建築
5:パネル絵画
6:ブロックタイル
Part 2:エッセイ
複数世界/どこにもない場所――マイナー・アーツから考える|千葉真智子
岡﨑乾二郎という「謎」|岡田温司
造形作家としての岡﨑乾二郎|林道郎
訳者解題|中井悠
四つの四重奏|松浦寿夫
Part 3:ドキュメント
Chapter 1:マルチプルアクティビティ――多数の活動の広がりとその編み目
1:灰塚アースワークプロジェクト
2:生産の場としての学校――四谷アート・ステュディウム
3:キュレーション――アトピックサイト
4:C系列の美術館
5:Bulbous Plants
6:ブランカッチ礼拝堂壁画分析
7:ダンス
8:描画の内的過程を伝達するT.T.T.bot
Chapter 2:年表
Chapter 3:文献目録
1:文献目録(作家による)
2:文献目録(作家について)
Appendix:作品リスト
★『杉本博司 瑠璃の浄土』は、京都市京セラ美術館(旧:京都市美術館)のリニューアル開館記念展の公式図録。新型コロナウイルス感染予防と拡散防止のため、新館の東山キューブで3月21日に開幕するはずだった展示は4月4日に延期され、さらに11日(土)に再延期されています。会期は6月14日まで。挨拶文によれば「杉本の京都での美術館における初の本格的な企画となる本展では、新たに制作された京都蓮華王院本堂(通称、三十三間堂)中尊の大判写真を含む「仏の海」や、世界初公開となる大判カラー作品「OPTICKS」シリーズといった写真作品の大規模な展示を試みます。また、「京都」「浄土」「瑠璃ー硝子」にまつわる様々な作品や考古遺物に加え、屋外の日本庭園には《硝子の茶室 聞鳥庵〔モンドリアン〕》も設置され、写真を起点に宗教的、科学的、芸術的探求心が交差しつつ発展する杉本の創造活動の現在について改めて考えるとともに、長きにわたり浄土を希求してきた日本人の心の在り様を見つめ直します」と。美しい写真の数々に心奪われる思いがします。収録テクストは、杉本さんによる「「浄土」―「再生」」、三木あき子さんによる「「瑠璃の浄土」考―― 一切法は因縁生なり」、清水穣さんによる「空即是色――杉本博司の現在」、磯崎新・浅田彰・杉本博司の三氏による対談「文明の軸線」、そして青木淳さんによるインタヴュー「杉本博司経歴聞き取り調書」が収められています。
★『約束の地、アンダルシア』は、巻頭の著者による「刊行によせて」によれば、フラメンコ専門の月刊誌『パセオフラメンコ』に1999年4月から2001年8月まで連載された文章に基づいているとのこと。「この著作は、私の観るスペイン、アンダルシア、そしてフラメンコを含む人びとのアルテについて、思うところ、感じるところを、ひとまず充分に書き記す機会となった」(3頁)とあります。第1部「歴史――大航海時代まで」、第2部「スペイン統一後の文化」、第3部「ヒターノとフラメンコ」の三部構成で全27話から成ります。高瀬友孝さんによるカラー写真を多数収録。アンダルシア地図、スペイン氏年表、参考文献一覧のほか、美術史家の川瀬佑介さんによる「解説」が付されています。帯にはギタリストの村治佳織さんの推薦文が掲載されており、書名のリンク先でもご確認いただけます。
★『世界思想 第47号 2020春 特集:科学技術の倫理』は、「科学者の倫理」「歴史と想像力」「来たるべき世界」の三部構成で18本のテクストを収録。目次は誌名のリンク先でご確認いただけます。真っ先に目を惹いたのは若林恵さんの「さよなら現金。さよなら民主主義」。信用スコアの出現をめぐって曰く「ポスト近代的なテクノロジーを、近代的な管理システムとして用いた先に、村落共同体の相互監視システムのようなやり方で運営される中世的な社会が出来する、というわけのわからない状況が、おそらくわたしたちがこれから迎え入れようとしている未来だ。〔…〕「人を信用する代わりにお金を信用する」という、あっと驚くような店頭を通じてつくりあげられたいまの社会の先に、どんな社会がいったい待っていて、そこでわたしたちは、いったいこんどはなにを信用して生きていくことになるのだろうか。/もう一回「人」に戻るなんてことはあるのだろうか」(64頁)。若林さんの寄稿は第三部「来たるべき世界」の一篇ですが、同部ではこのほか、宇宙進出時代の倫理を問うた橳島次郎さんの「楽園前夜または「中間世代」を生きる――文明論としての科学技術の倫理」、人工培養脳をめぐる澤井努さんの「体外で作製される脳は意識を持つのか――ヒト脳オルガノイド研究の倫理」など、人文関係者も銘記しておきたい議論です。毎回驚きますが、『世界思想』は無料の冊子。大型書店の店頭などで配布されています。
★『アンドレ・バザン研究 第4号』ではバザンのテクスト3本と、ダドリー・アンドルー、角井誠、谷昌親、の各氏のテクストを収録。目次と、堀潤之さんによる巻頭言「『バザン全集』からの再出発――第四号イントロダクション」、伊津野知多さんによる「編集後記」は、誌名のリンク先でご覧いただけます。堀さん曰く「バザン自身がある程度まで構想したはずの『映画とは何か』四巻の構成という括りすらいったん解体するこの『全集』〔André Bazin, Écrits complets, édition établie par Hervé Joubert-Laurencin, Éditions Macula, 2018〕という装置は、そのささやかな偶像破壊的身振りによって、先入観なしにバザンを読むことへと読者を改めて誘っているのだ。/本号に収められているのは、各執筆者がおそらくはその誘いにも乗って、それぞれの仕方で、新しいバザン読解を模索した試みの成果である」と。なお『映画とは何か』は上下巻で新訳が岩波文庫より2015年に刊行されていることは周知の通りです。
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