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注目新刊:『広告 Vol.414 特集:著作』博報堂、ほか

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★今月はすでに書いた通り、創文社や既刊書をそれなりの額購入したため新刊はほぼ買っていません。しかしそれでもこの1冊はチェックしておかないと、という雑誌が出ました。博報堂の『広告』リニューアル第2弾です。


『広告 Vol.414 特集:著作』博報堂、2020年3月、オリジナル版税込2,000円、コピー版税込200円


★周知の通り昨年7月に税込1円で発売されたリニューアル創刊号『広告 Vol.413 特集:価値』は、その価格と話題性のためか投機的に購入されることが多かったようで、グズグズしているうちにあっという間に品切。アマゾン・マーケットプレイスでは2000円以上の値段がついていましたが、古書価は今なお下降することなく、中古品が4000円から、新品は6000円台後半というありさまです。メルカリではもっと値段が低いようですがもはや出品自体はほとんどなし。掲載されている記事はすべてオンラインで無料公開されているので、リニューアル創刊号『広告 Vol.413 特集:価値』の紙媒体の価値はそのコンテンツではなくモノとしての存在感にあるわけです。実際、「価値」号を高値でもいいから買おうかと迷っている自分がいます。現物に触れてみたいのです。


★造本については否定的な評価もあったようですが、これはリニューアル第2弾である『広告 Vol.414 特集:著作』を見ても明らかなように、このぞんざいさ自体が設計されたものです。私が買ったのはオリジナル版。断ち落されて天地のほつれがそのままになっている白いクロスの表紙に「これってハンコだよな?」と思わせる朱い文字が捺されています。背はわざと本体と貼り合わせておらずたわんでおり、本文には女性誌を思わせる薄くて重い紙が用いられています。要するに社内プレゼン用に手作りしたパイロット版のような出来映えです。この無造作加減が個人的にはたまらなく愛おしい。


★今回はさらに“セルフ海賊版”だというコピー版200円も併売されていて、このコピー版の方が今回もやや投機的に購入されているようです。コピー版の現物を目にしたことはありませんが、「あ~あ、またやりやがったな」というのが第一印象です。もちろん否定的な感想ではなく、よくやるなあ、という称讃と嫉妬と発見が入り混じった思いです。


★読んでいる内に壊れてしまいそうなはかなさがあるオリジナル版ですが、内容面も前号同様に興味深いです。私個人は真っ先に「振動する著作」に目を通しました。建築家の大野友資(おおの・ゆうすけ:1983-)さんによるものです。「可能性の収束に対する、振動。ものづくりの過程で他者を介入させると、必然的にアウトプットに振動が起きる。決して新しい技術と手法というわけではなく、古今東西で見られるつくり方だと思うけれど、それを振動という状態、状況としてあらためて捉え直すと、ものづくりのヒントがたくさん転がっている」(121頁)。


★「異なる可能性の残像が、揺れて、ぶれて、振動しながらも幾重にも重なっていく。そのときにデザインの対象としているのは、物体ではなく、状態だ。時々刻々と柔らかく振動しながら形を変えているようでいて、少しの刺激で形がカチッと固定されてしまうような、危うさや不可避さ、曖昧さをはらんだつくり方に、つくり手としてどうしようもなく強く惹かれている」(127頁)。私がこうした論点に関心を持つのは、ハンス・イェニー(Hans Jenny, 1904-1972)の『波動学(Kymatik / Cymatics)――波動現象と振動の研究』(vol.1, 1967; vol.2, 1972;合本英訳版、2001年)が常に念頭にあるからですが、形態学や音響学の分野の話ではなく「著作」を主題にした特集号で建築家が書いたエッセイのなかで「振動」をめぐる議論を目にしたのは、とても新鮮でした。


★『広告』誌の特集では「価値」「著作」と来て次号では「流通」を扱うそうです。この流れ、センスが良いだけでなく、本質的でもあります。次号では造本や販売形態でどんな仕掛けがなされるのか、非常に楽しみです。


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★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。


『誰にも言わないと言ったけれど――黒人神学と私』ジェイムズ・H・コーン著、榎本空訳、新教出版社、2020年3月、本体3,000円、四六判上製280頁、ISBN978-4-400-32357-0
『現代思想2020年4月号 特集=迷走する教育――大学入学共通テスト・新学習指導要領・変形労働時間制』青土社、2020年3月、本体1,500円、A5判並製238頁、ISBN978-4-7917-1396-7

『三島由紀夫1970』河出書房新社編集部編、KAWADEムック(文藝別冊)、2020年3月、本体1,300円、A5判並製192頁、ISBN978-4-309-98005-8



★3点のうち、『誰にも言わないと言ったけれど』は、アメリカの神学者コーン(James Hal Cone, 1938–2018) の遺著『Said I Wasn't Gonna Tell Nobody: The Making of a Black Theologian』(Orbis Books, 2018)の訳書です。帯文に曰く「過酷な人種差別の経験、黒人神学者としての使命と苦難、キング牧師やマルコムX、ジェイムズ・ボールドウィンら先人への思いまで、その人生のすべてを明かす最期の書」。序文は黒人神学者コーネル・ウェスト(Cornel Ronald West, 1953-)が寄せたもの。目次詳細は書名のリンク先でご覧ください。コーンは「はじめに」でこう書いています。「奴隷の時代から今日に至るまで、自叙伝はアフリカ系アメリカ人がアメリカに対して語りかける際に選び取った手段であるようだ。自分自身のことというよりは、黒人神学のことを、そしてそれがどのように私を見出し、私に声を与えたのかを書き残しておく必要があるのではないかと感じている。黒人神学をめぐる私の物語を、私がいま知っている限りできるだけ誠実に、熱を込めて語ってみよう」(20頁)。


★さらに次の各社新刊との出会いもありました。複数冊列記しますが、言及は1点に絞ります。


『新訳 哲学の貧困』カール・マルクス著、的場昭弘編訳著、作品社、2020年3月、本体4,500円、46判上製480頁、ISBN978-4-86182-804-1
『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』ジェスミン・ウォード著、石川由美子訳、青木耕平附録解説、作品社、2020年3月、本体2,600円、46判上製228頁、ISBN978-4-86182-803-4



★作品社さんの3月新刊より2点。特に注目したいのは的場さんによるマルクス新訳本です。的場さんは近年、作品社よりマルクスの新訳を2冊上梓されています。『新訳 共産党宣言』(2010年、新装版2018年)、そして「ユダヤ人問題に寄せて」と「ヘーゲル法哲学批判序説」を新訳して関連資料を充実させた『新訳 初期マルクス』(2013年)です。さらには一昨年に『カール・マルクス入門』も上梓されました。今回の『新訳 哲学の貧困』は「マルクスvsプルードンではなく、マルクスとプルードンという視点から、新しいマルクスの読みを提示する」(帯文より)もので、訳者解説、付録、文献目録、年表はプルードンの紹介に力点が置かれています。こうなるとマルクスの本書執筆のきっかけとなったプルードンの『貧困の哲学』の新訳もそのうち的場さん訳で読めるようになるのだろうかと想像したりするわけですが、周知の通り同書は近年、平凡社ライブラリーで全2巻本の初訳本が斉藤悦則さん訳で2014年に発売されています。また、来月刊行のマルクス新訳書には、丘沢静也さんによる『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』 が講談社学術文庫より発売予定です。


『脱ぎ去りの思考――バタイユにおける思考のエロティシズム』横田祐美子著、人文書院、2020年3月、本体4,500円、4-6判上製300頁、ISBN978-4-409-03108-7
『イスラエル政治研究序説――建国期の閣議議事録 1948年』森まり子著、人文書院、2020年3月、本体12,000円、A5判上製528頁、ISBN978-4-409-51084-1

『校歌の誕生』須田珠生著、人文書院、2020年3月、本体4,000円、4-6判上製222頁、ISBN978-4-409-52082-6

『広島 復興の戦後史――廃墟からの「声」と都市』西井麻里奈著、人文書院、2020年4月、本体4,500円、4-6判上製380頁、ISBN978-4-409-24129-5



★上記は人文書院さんの3月新刊1点と近刊3点です。『脱ぎ去りの思考』は2018年に立命館大学大学院分学研究科に提出され、2019年に博士号(文学)が授与された博士論文をもとにした一冊。「本書は20世紀のフランスを代表する思想家のひとりであるジョルジュ・バタイユ(1897-1962)の思想を、思考のエロティシズムという観点から論じるものである。それはバタイユにおける知(savoir)や思考(pensée)の問題を、性愛としてのエロティシズムにではなく、哲学的なエロティシズムに、すなわち「知を愛し求める」というエロスの運動に結びつけることで、彼の思想を古代ギリシャから連綿とつづく哲学の営みのうちに位置づけようとする試みである」(9頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。今月は本書のほか、井岡詩子『ジョルジュ・バタイユにおける芸術と「幼年期」』(月曜社)が発売となっており、来月には石川学『理性という狂気――G・バタイユから現代世界の倫理へ』(慶應義塾大学出版会)が刊行されます。日本におけるバタイユ研究の層の厚さを感じます。


『世界像の大転換――リアリティを超える「リアリティ」』北沢方邦著、藤原書店、2020年3月、本体3,000円、四六判上製304頁、ISBN978-4-86578-267-7
『中国人が読み解く 歎異抄〈中国語訳付〉』張鑫鳳編、藤原書店、2020年3月、本体2,800円、四六判上製200頁、ISBN978-4-86578-258-5

『生き続ける水俣病――漁村の社会学・医学的実証研究』井上ゆかり著、藤原書店、本体3,600円、A5判上製352頁、ISBN978-4-86578-265-3

『高橋和巳論――宗教と文学の格闘的契り』清眞人著、藤原書店、本体6,200円、A5判上製576頁、ISBN978-4-86578-263-9

『兜太 Vol.4:龍太と兜太――戦後俳句の総括』藤原書店、本体1,800円、A5判並製208頁、ISBN978-4-86578-262-2


★藤原書店さんの3月新刊は4点。『世界像の大転換』は北沢方邦(きたざわ・まさくに:1929-)さんの詩集『目に見えない世界のきざし』(洪水企画、2010年)以来となる単独著。「今私は、齢九〇を越え、二度に亙る脳梗塞を体験した。最早残り少ない時間で本書が最後の本になるかもしれない。〔…〕私は、この本を自分の知の集大成の書として書き上げた。過去幾多の本を出版してきたが、本書で、これらのことすべての繋がりが明確になったと思う」(あとがき、288~289頁)。「この文明の根本的転換のためにはなにが必要か。それはリアリティ概念の、さらにはそれにもとづく世界像そのものの大転換であり、宇宙や大自然の隠されたリアリティへの畏敬の念をとりもどすことである。人類はそれによってのみ生き残ることができるのであり、それによってのみ文明の転換という大事業をなしとげることができるのだ」(29頁)。目次詳細は書名のリンク先でご覧ください。巻末には著書一覧と略年譜が掲出されています。


『心眼 柳家権太楼』柳家権太楼落語、大森克己写真、九龍ジョー寄稿、平凡社、2020年3月、本体3,900円、A4判並製116頁、ISBN978-4-582-65410-3
『『無門関』の出世双六――帰化した禅の聖典』ディディエ・ダヴァン著、平凡社、2020年3月、本体1,000円、A5判並製104頁、ISBN978-4-582-36463-7

『時空を翔ける中将姫――説話の近世的変容』日沖敦子著、平凡社、2020年3月、本体1,000円、A5判並製128頁、ISBN978-4-582-36462-0
『死してこそ成し遂げる――食料問題を追い続けた獣医学研究者が語り、遺し、託したこと』束村博子編、前多敬一郎ほか著、平凡社、2020年3月、本体3,500円、4-6判上製508頁、ISBN978-4-582-83838-1



★『心眼 柳家権太楼』は古典落語の名作「心眼」を柳家権太楼(やなぎや・ごんたろう:1947-)さんが演じたものを、写真家の大森克己(おおもり・かつみ:1963-)さんが撮影したユニークな写真集。巻末には、口演の書き起こしに加え、権太楼師匠へのインタヴュー「落語家にとっては損な噺。それでもあえて聞いてくれ。」、九龍ジョーさんによる解説「私たちはなにを見ているのか」、そして大森さんによる「あとがき」が配され、それぞれには英訳が付されています。大森さんが師匠の「心眼」を初めて見たのは2015年。その2年後に師匠に依頼し、撮影が実現します。「一落語ファンであった自分だが、この日の『心眼』に接するまで落語を写真に撮ろうと思ったことは一度もなかった。〔…〕その『心眼』はボクの身体に強度の高い何かを置き去りにし、でもそれにとらわれていると落語を楽しめないし、生きて行くこと自体が面倒になるような気がした」(112頁)。

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