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注目新刊:ちくま学芸文庫2020年3月新刊4点、ほか

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『大名庭園――江戸の饗宴』白幡洋三郎著、ちくま学芸文庫、2020年3月、本体1,300円、文庫判 320頁、ISBN978-4-480-09968-6
『類似と思考 改訂版』鈴木宏昭著、ちくま学芸文庫、2020年3月、本体1,200円、文庫判304頁、ISBN978-4-480-09969-3
『戦後日本漢字史』阿辻哲次著、ちくま学芸文庫、2020年3月、本体1,200円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-09972-3
『はじめてのオペレーションズ・リサーチ』齊藤芳正著、ちくま学芸文庫、2020年3月、本体1,100円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-09975-4


★ちくま学芸文庫のまもなく発売となる3月新刊は4点。『大名庭園』は1997年4月、講談社選書メチエの1冊として刊行されたものの文庫化。新しいあとがきはありませんが、尼﨑博正さんによる解説が加えられています。「『大名庭園』がはじめて世に出た時、庭園史研究の世界に衝撃が走った」と尼﨑さんは書かれています。庭園を、造形のみから評価するのではなく、遊びと儀式の空間であり、生きた総合芸術として論じた研究姿勢について、「庭園史の常識をさらりとくつがえし、日本庭園の本質を鮮明にしたことに大きな意味がある」と評価されています。著者の白幡洋三郎(しらはた・ようざぶろう:1949-)さんは国際日本文化研究センター名誉教授。ご専門は比較文化論、産業技術史です。


★『類似と思考 改訂版』は1996年12月に共立出版より刊行された単行本に大幅な改訂を施して文庫化したもの。巻頭の「はじめに」の末尾で文庫化について触れられており、「書き下ろしとまで言うのは気が引けるが、全面的な書き直しを行なった」とお書きになっています。本書は「思考は規則、ルールに基づいたものではない」、「類似は思考を含めた認知全般を底支えしている」、「類似に基づく思考=類推は、三項関係で成立する」という3点の主張を行うもの。著者の鈴木宏昭(すずき・ひろあき:1958-)さんは青山学院大学教授。ご専門は認知科学です。


★『戦後日本漢字史』は、2010年11月に新潮選書の1冊として刊行されたものの文庫化。帯文に曰く「受難と模索の歴史――それはGHQの漢字廃止案から始まった」。新たに付された「文庫版あとがき」は再刊をめぐる謝辞ではなく、一点シンニョウと二点シンニョウの混在状況について言及したもので、補論に近いです。旧版への加筆修正があったかどうかについては特記がありませんが、巻末の「戦後日本漢字史・年表」が更新されていないので、加筆なしということかと想像します。著者の阿辻哲次(あつじ・てつじ:1951-)さんは京都大学名誉教授。ご専門は漢字文化史。


★『はじめてのオペレーションズ・リサーチ』は2002年5月に講談社ブルーバックスの1冊として刊行された『はじめてのOR』の改題文庫化。内容の一部が改められ、巻末に「文庫化に際してのあとがき」が加えられています。オペレーションズ・リサーチは日本語で言えば「作戦研究」であり、軍事的な問題解決や改善のための方法を追究するもの。「ORとはなんだろう」「実際にORを使ってみよう」「ORのあゆみ」の3章立て。著者の齊藤芳正(さいとう・よしまさ:1948-)さんは陸上自衛隊の研究員や教官を務められ、ORの実務及び教育に長年携わられたとのことです。


★筑摩書房さんは今年2020年、創業80周年とのこと。特設サイトでは、ちくま学芸文庫さんの今後刊行予定の新企画として、「近代日本思想選(仮)」シリーズが予告されています。


『邂逅――クンデラ文学・芸術論集』ミラン・クンデラ著、西永良成訳、河出文庫、2020年3月、本体1,400円、文庫判256頁、ISBN978-4-309-46712-2
『ドイツ怪談集』種村季弘編、河出文庫、2020年3月、文庫判336頁、ISBN978-4-309-46713-9
『超限戦――21世紀の「新しい戦争」』喬良/王湘穂著、坂井臣之助監修、劉琦訳、角川新書、2020年1月、本体1,200円、新書判328頁、ISBN978-4-04-082240-2



★河出文庫さんの発売済3月新刊より2点。『邂逅』は2012年1月に同社より刊行された単行本『出会い』の改題文庫化。原著は『Un rencontre』(Gallimard, 2009)。エピグラフに曰く「わたしの考察と回想との邂逅。わたしの古くからの(実存的および美的)主題と古くからの愛の対象(ラブレー、ヤナーチェク、フェリーニ、マラパルテ……)との邂逅」。「文庫版のための追記」によれば「訳文を全面的に見直し、旧稿の表現の不適切、不親切なところをかなり改めた。さらに注に、2012年以後の新たな情報をいくから加えることができた」とのことです。


★最終部(第九部)「原-小説『皮膚』」では、イタリアの作家クルツィオ・マラパルテ(Curzio Malaparte, 1898-1957)の代表作のひとつ『皮膚』(La pelle, Aria d'Italia, 1949)が論及されています。「『皮膚』の筋立ての時間は短いが、ここには人間のかぎりなく長い歴史がつねに見られる。〔…〕超現代的な戦争の残酷さが、もっとも古めかしい残酷さの後景のまえで演じられるのだ。実に根本的に変わった世界が同時に、悲しくも変わりえないもの、変わりなく人間的なものを見せてくれるのである」(227頁)。「終わりつつある戦時は、根底的であるとともに平凡な、忘却されるがまた永遠の真実を教えてくれる。永遠の真実とは、生者にたいして、死者は圧倒的な数的優位にあるという真実である。〔…〕みずからの優位を確信した死者たちは、わたしたちが生きているこの時間の小島のことを、新しいヨーロッパのこの微小な時間のことを嘲笑い、その無意味さ、その移ろいやすさをそっくりわたしたちに教えてくれるのである」(228頁)。『皮膚』は『皮』(岩村行雄訳、村山書店、1958年)としてかつて翻訳されたことがありますが、現在は入手しにくい部類の古書です。


★『ドイツ怪談集』は1998年12月に河出文庫の1冊として刊行された同名書目を新装復刊したもの。クライスト、ホフマン、ティーク、ケルナー、ホーフマンスタール、エーヴェルス、シュトローブル、シェッファー、ヤーン、パニッツァ、カシュニッツ、ホーラー、等の作品、合計16篇を収録。既訳書から採ったものが大半ですが、種村さんによる新訳も4篇あります。ハウフ「幽霊船の話」、ヘーベル「奇妙な幽霊物語」、マイリンク「こおろぎ遊び」、マイヤー「ものいう髑髏」です。寒い時期に読む怪談もまた格別な趣があります。ヤーンの庭男の正体って何だろう。


★周知の通り、河出文庫では類書として、種村さん編纂による『日本怪談集』2点(「奇妙な場所」「取り憑く霊」)のほか、鼓直編『ラテンアメリカ怪談集』、荒俣宏編『アメリカ怪談集』、由良君美編『イギリス怪談集』、中野美代子/武田雅哉編『中国怪談集』、沼野充義編『ロシア怪談集』などがあります。日影丈吉編『フランス怪談集』も来月新装復刊されるようです。


★『超限戦』は2001年12月に共同通信社より刊行されていた単行本の新書化。巻末特記によれば一部加筆修正した、とありますが、新たに加えられたテクストはないようです。旧版の古書価格が一時高騰したことがあってか、新書版が1月に発売されるや、翌月にはたちまち4版を迎えています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。


★1999年1月17日付の序文にはこう書かれています。「人々が軍事的暴力を抑制して紛争を解決しようとし、またそうした流れを歓迎しているときに、戦争は他の領域では新たな生命を得て、他国あるいは他人をコントロールしようとする者の手中に落ちて、強大な威力を持つ道具と化してしまった。例えばジョージ・ソロスらが東南アジアの金融に与えた攻撃、ウサマ・ビンラディンがアメリカ大使館に対して行った恐るべき攻撃(1998年)、オウム真理教信者が東京の地下鉄で撒いた毒ガス、モーリス・ジュニアらによるインターネットの攪乱は、その破壊力では戦争に見劣りしない。間違いなく準戦争、類似戦争、第二種戦争が誕生したのである。/それにいかなる名前をつけようと、われわれは以前よりも楽観的にはなれない。楽観できるはずがないのだ。正真正銘の戦争の役割が小さくなったとはいえ、それは戦争の終焉を意味しているわけではない。〔…〕戦争の構造は完全に解体されたわけではなく、より複雑で広く、より隠蔽された微妙な形で新たに人類社会に侵入してきたのである」(12~13頁)。


★「現代技術と市場経済体制によって変わりつつある戦争は、戦争らしくない戦争のスタイルで展開されるだろう。言い換えれば、軍事的暴力が相対的に減少する一方で、政治的暴力、経済的暴力、技術的暴力が増大していくに違いない。しかし、いかなる形の暴力であれ、戦争は戦争である。「武力的手段を用いて自分の意志を敵に強制的に受け入れさせる」ものではなくなって、代わりに「武力と非武力、軍事と非軍事、殺傷と非殺傷を含むすべての手段を用いて、自分の利益を敵に強制的に受け入れさせる」ものになったとしても、戦争の原理にしたがうことに変わりはない。/変化したのは戦争の方式である。いったい何が変化をもたらしたのか。またどんな変化が起こり、われわれはどこへ向かい、そしてこうした変化にどう対応していけばよいのか。これこそ本書で明らかにしたいテーマであり、またわれわれが本書を執筆しようとする動機なのである」(14頁)。


★また、第七章「すべてはただ一つに帰する――超限の組み合わせ」ではこうも書かれています。「目的達成のためなら手段を選ばない。〔…〕制限を加えず、あらゆる可能な手段を採用して目的を達成することは、戦争にも該当する。この思想は〔…〕最も明確な「超限思想」の起源だろう」(252頁)。「今日または明日の戦争に勝ち、勝利を手にしたいならば、把握しているすべての戦争資源、すなわち戦争を行う手段を組み合わせなければならない。〔…〕すべての限界を超え、かつ勝利の法則の要求に合わせて戦争を組み合わせること〔…〕。こうして、われわれは一つの完璧な概念、一つの全く新しい戦法の名称を得た。すなわち「〔…〕超限組み合わせ戦」である」(254頁)。本文では続いて超国家的組み合わせ、超領域的組み合わせ、超手段的組み合わせ、超段階的組み合わせ、この四つが説明されています。帯文には「「ハイブリッド戦」はこの1冊から始まった」と謳われています。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『教皇たちのローマ――ルネサンスとバロックの美術と社会』石鍋真澄著、平凡社、2020年3月、本体2,800円、4-6判上製372頁、ISBN978-4-582-65210-9
『エレンの日記』エレン・フライス著、林央子訳、アダチプレス、2020年2月、本体2,400円、A5判仮フランス装208ページ(カラー16ページ)、ISBN978-4-908251-12-2
『最古の世界地図を読む――『混一疆理歴代国都之図』から見る陸と海』村岡倫編、濱下武志/濱下武志/中村和之/岡田至弘/渡邊久著、法藏館、2020年3月、本体3,200円、A5判並製302頁、ISBN978-4-8318-6385-0



★『教皇たちのローマ』は「マルティヌス五世(1417-31)からアレクサンデル七世(1655-67)までの32代の教皇による、250年間の歴史ドラマの概要を示しながら、主に16世紀と17世紀のローマにおける美術と社会、パトロンと美術家について語ろうとするものである」(序、12頁)。著者の石鍋真澄(いしなべ・ますみ:1949-)さんは成城大学教授で、ご専門は西洋美術史。編集担当は先月急逝した松井純さん。仕掛中の企画が多数あったでしょうから、この先も松井さんの担当書籍が刊行されていくものと思われます。


★『エレンの日記』は「エレン・フライスが2001年から2005年にかけて雑誌『流行通信』に連載していた「Elein's Diary」を1冊にまとめたもの」(林央子「イントロダクション」より)。ファッションカルチャー誌の名編集者として活躍していた彼女の日常と心境が多数の写真とともに率直な言葉で綴られています。エレン・フライス(Elein Fleiss, 1968-)はフランス生まれ。国際哲学コレージュに聴講しに行ったり、哲学者で俳優のメディ・ベラ〔べラージ〕・カセム(Mehdi Belhaj Kacem, 1973-)と交流があったりします。


★『最古の世界地図を読む』は、李氏朝鮮で作成された現存する世界最古の世界地図のひとつである「混一疆理歴代国都之図」(こんいつきょうりれきだいこくとのず:龍谷大学蔵)を詳細に分析した論文集。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭に「混一図」がカラーで掲載されています。そこに描かれた日本は、九州が上で東北が下の、特異な姿をしており、興味をそそります。

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