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注目新刊:ビショップ『人口地獄』フィルムアート社、ほか

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『人工地獄――現代アートと観客の政治学』クレア・ビショップ著、大森俊克訳、フィルムアート社、2016年5月、本体4,200円、A5判上製536頁、ISBN978-4-8459-1575-0
『ラスト・ライティングス』ルートウィヒ・ウィトゲンシュタイン著、古田徹也訳、講談社、2016年5月、本体2,700円、四六判上製512頁、ISBN978-4-06-218696-4
『世界妖怪図鑑 復刻版』佐藤有文編著、復刊ドットコム、2016年5月、本体4,400円、B6判上製208頁、ISBN978-4-8354-5356-9

★『人工地獄』はまもなく発売。原書は、Artificial Hells: Participatory Art and the Politics of Spectatorship (Verso, 2012)です。クレア・ビショップ(Claire Bishop, 1971-)はアメリカの美術史家で、現在、ニューヨーク市立大学大学院センターで現代美術を担当する教授を務めておられます。著書が翻訳されるのは今回が初めて。日本で翻訳されてきた同分野の先達で言えば、クレメント・グリーンバーグやロザリンド・クラウスといった美術批評家以後で、もっとも注目すべきキーパーソンの一人がビショップです。

★本書では現代における「参加型アート」の系譜が辿られます。「参加型アート」というのは、ビショップによれば次のようなものです。「「アトリエ制作以後」の実践の拡張された領域〔・・・〕ソーシャリー・エンゲージド・アート、コミュニティ型アート、実験的コミュニティ、対話型アート、浜辺のアート〔・・・制度外部で社会的な交流を目指す芸術〕、介入主義的アート、〔・・・〕協働型アート、コンテクスチュアル・アート、そして(直近では)ソーシャル・プラクティス〔・・・〕。芸術が、たえずその環境に対応するものである限り、いったい社会的関与ではない芸術など、存在するのだろうか。〔・・・〕本書では、演劇やパフォーマンスという手立てによって、人々の存在が芸術的な媒体と素材の中心的要素となる、そうしたものとして参加を定義し、これを核に据える」(12頁)。

★「訳者あとがき」で本書はこう紹介されています。「芸術と社会の関係を主題として、20世紀の美術や演劇、社会運動を今日の状況へと架橋する試みとなっている」と。こうした越境的試みによるものか、ガタリ、ドゥボール、フレイレ、ランシエールといった社会思想家たちにたびたび言及しているのも、興味深いところです。日本においても近年、参加型アートには注目が集まっており、関連書が増えてきているのは周知の通りです。本書ではアジア圏の芸術運動は扱われていませんが、「本書の目的の一つは、協働的な作者性やスペクタクル性の興亡を論じるにあたっての、より細やかな差異をはらんだ(そして率直な)批評の語り口を生み出すこと〔であり〕、「悪しき」単独の作者性と「善き」集団的な作者性という、誤った双極性〔は糾弾されねばならない〕」との姿勢は、傾聴に値すると思われます。

★帯文にも引かれていますが、本書の結論にはこう書かれています。「私たちは芸術を、世界と部分的に重なる実験的な鋭意の形式としてとらえる必要がある。その形式が持つ否定という属性は、政治的構想の支えとなりうる(ただし、それを構築し実現するという責任に縛られることはない)。そして私たちにとってより根本的に必要なのは、〔・・・〕――芸術の想像力の大胆さと結びついた(そしてときにそれを凌ぐ)果敢さを有する――思考の越境的な侵犯作用によって、既存の制度=慣例を漸進的に変えていくことを、支持するということだ」(431-432頁)。

★このあとには次のように続きます。「参加型アートは人々を媒体として活用することで、つねに二重の存在論的な立場をとってきた。それは世界における出来事であると同時に、世界から一定の距離をとる。だからこそ参加型アートは、二つの次元から――参加者と観客に向けて――日常の議論で抑圧されている矛盾を伝達する能力、そして世界と私たちの関係性をあらたに構想するための可能性を拡げる、倒錯的で乖乱的な、そして享楽的な経験をもたらす能力を有している。〔・・・〕参加型アートは、特権化された政治的媒体でもなければ、スペクタクル社会に対する都合のよい解決法でもない。〔・・・それは〕民主主義そのものと同じように不確かで不安定なものなのだ。参加型アートと民主主義はどちらも、予め道理が与えられているものではない。この二つは、あらゆる具体的な文脈で持続的に実践=上演され、そして試されていかねばならない」(432頁)。

★訳者の大森俊克(おおもり・としかつ:1975-)さんのご専門は美術批評、現代美術史。単著に『コンテンポラリー・ファインアート――同時代としての美術』(美術出版社、2014年)があります。


★『ラスト・ライティングス』は発売済。Last Writings on the Philosophy of Psychology, Vol. I, II (edited by G. H. von Wright and H. Nyman, Blackwell, 1982-1992)の合本全訳です。ウィトゲンシュタインは先月、『ウィトゲンシュタイン『秘密の日記』――第一次世界大戦と『論理哲学論考』』(丸山空大訳、春秋社、2016年4月)が刊行されたばかりなので、二か月連続で新刊が出るというのは珍しい話です。帯文はこうです。「ウィトゲンシュタイン最晩年の思考、待望の本邦初訳! 他人が「痛みを感じている」ことと「痛い振りをしている」こと――言語、心、知覚、意味、数学など終生を貫くテーマが凝縮された注目の遺稿集! 詳細な訳註と用語解説を付す。珠玉の哲学が、ここにある!」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★訳者解説によれば、本書は「1949年頃までに執筆されたノートを基にした第一巻と、彼の死の直前、51年春までに執筆されたノートを基にした第二巻からなる。〔・・・〕第一巻は、『哲学探究』第二部の最終草稿ないしは予備的考察として位置づけるのが適当である。〔・・・また〕『心理学の哲学』全二巻は、本巻の予備的考察としての性格が色濃〔い。・・・さらに〕第二巻は、文字通り最晩年のウィトゲンシュタインの手稿を含んでおり、同時期の遺稿集としてすでに公刊されている『確実性の問題』および『色彩について』と密接な関係にある」。念のためこれらの関連書の書誌情報を挙げておきます。

『色彩について』中村昇・瀬嶋貞徳訳、新書館、1997年9月、品切
『哲学探究』丘沢静也訳、岩波書店、2013年8月
『ウィトゲンシュタイン全集 8 哲学探究』藤本隆志訳、大修館書店、1976年7月
『ウィトゲンシュタイン全集 9 確実性の問題・断片』黒田亘・菅豊彦訳、大修館書店、1975年6月
『ウィトゲンシュタイン全集 補巻1 心理学の哲学1』佐藤徹郎訳、大修館書店、1985年4月
『ウィトゲンシュタイン全集 補巻2 心理学の哲学2』野家啓一訳、大修館書店、1988年12月

★『色彩について』はしばらく品切になっており、そろそろ文庫化してほしいところ。ちくま学芸文庫、講談社学術文庫、岩波文庫、平凡社ライブラリーなどにそれぞれウィトゲンシュタインを文庫化した実績がありますが、どこかがやってくださるといいなと思います。『ラスト・ライティングス』も最初から文庫で出してもらって一向に構わない気がするものの、遺稿という性質上、『ウィトゲンシュタイン哲学宗教日記』(イルゼ・ゾマヴィラ編、鬼界彰夫訳、講談社、2005年)の時と同様にまずは単行本で様子見ということでしょうか。まとまった論考というよりかは相互に関連している思索の断片の集積である『ラスト・ライティングス』について、訳者は次のように解説しています。

★「本書においてウィトゲンシュタインは、心や言語などをめぐる膨大な現象を相手に、その謎を解き明かそうと、まさに手探りで歩を進めている。そこには、諸現象を一定の解釈の方向性に導こうという目算も余裕も見られない。「私はまだ、大量の現象を乗り越えられていない」(LW1, 590;本書160頁)という記述は、彼の素直な心境を吐露していると言えるだろう。/彼は、哲学者の仕事を「たくさんのもつれ糸を解くこと」(LW1,756;本書201頁)に喩えている。〔・・・〕本書でウィトゲンシュタインが行っているのは、スマートな論証などではなく、複雑なもつれ糸との粘り強い格闘に他ならない」(489頁)。ウィトゲンシュタインの思索の跡をたどる知的刺激に満ちた読書が堪能できるのではないでしょうか。


★『世界妖怪図鑑 復刻版』は発売済。復刊ドットコムによる「ジャガーバックス」復刊シリーズの第3弾です。これまでに小隅黎監修の2冊、『宇宙怪物(ベム)図鑑 復刻版』(2015年8月)、『宇宙戦争大図鑑 復刻版』(2016年1月)が発売されています。今回の『世界妖怪図鑑』は「ジャガーバックス」でも屈指の人気商品であり、児童書にもかかわらず古書価格は数万円を下りません。初版の1973年当時の定価は430円、その後の重版で650円になったとはいえ、古書価高騰にせよ、今回の復刻版にせよ、決してお手頃な値段とは言えません。しかし『世界妖怪図鑑』の中身を見れば、この本が今なお強烈なインパクトを持っていることは一目瞭然かと思います。石原豪人、柳柊二、好美のぼる、斉藤和明らによるイラストはいずれも素晴らしいですし、古典籍から現代映画までを渉猟した図像と情報の数々は、子供向けだからといって内容を薄めたりしないという作り手の熱意を感じるもので、こんにちの類書に比しても抜群に新鮮です。復刻版の購入は書影を模したピンバッジ。伝説の一書を入手できるこの機会を見逃す手はありません。なお、今後の復刊候補には姉妹編である佐藤有文編著『日本妖怪図鑑』が挙がっています。『世界妖怪図鑑』と同様に人気のある書目なので、ぜひ復刊されてほしいです。

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★このほか、最近では以下の書目との出会いがありました。

『出版状況クロニクルIV――2012年1月~2015年12月』小田光雄著、論創社、2016年5月、本体3,000円、四六判並製714頁、ISBN978-4-8460-1528-2
『テロルの伝説――桐山襲烈伝』陣野俊史著、河出書房新社、2016年5月、本体2,900円、46判上製464頁、ISBN978-4-309-02469-1
『仙人と妄想デートする――看護の現象学と自由の哲学』村上靖彦著、人文書院、2016年5月、本体2,300円、4-6判並製244頁、ISBN978-4-409-94009-9
『近現代イギリス移民の歴史――寛容と排除に揺れた200年の歩み』パナイー・パニコス著、浜井祐三子・溝上宏美訳、人文書院、2016年5月、本体6,800円、4-6判上製512頁、ISBN978-4-409-51073-5

★『出版状況クロニクルIV』はまもなく発売。『出版状況クロニクル〔2007年8月~2009年3月〕』(論創社、2009年5月、ISBN978-4-8460-0861-1)、『出版状況クロニクルⅡ――2009年4月~2010年3月』(論創社、2010年7月、ISBN978-4-8460-0875-8)、『出版状況クロニクルⅢ――2010年3月~2011年12月』(論創社、2012年3月、ISBN978-4-8460-1131-4)に続く第四弾。帯文にも引かれていますが、「まえがき」に曰く「本クロニクルは1890年前後に立ち上がった出版社・取次・書店という近代流通システムに基づく出版業界の歴史、それらの関係と構造をふまえ、戦後における再販制の導入、1980年代以降の書店の郊外店出店ラッシュ、複合店の台頭、新古本産業の出現、公共図書館の隆盛、アマゾンの上陸、電子書籍の動向なども包括的にたどっている。そしてまたリアルタイムでの広義の出版史であることを意図している」と。既刊に比して扱っている年月も頁数も倍以上のヴォリュームです。「あとがき」には「このような出版状況下〔近代出版流通システムが崩壊の危機〕ゆえに近年自著の上梓を慎んできたこともあって、今回の一冊は4年分の大部なものとなってしまった」と明かされています。大阪屋の救済や栗田の破綻の背景はこの一冊でたどることができます。

★『テロルの伝説』はまもなく発売。帯文に曰く「80年代、桐山襲〔きりやま・かさね:1949-1992〕という作家がいた。その孤独な闘いの軌跡を時代の記憶とともに甦らせた渾身の巨編。桐山襲・単行本未収録作品「プレゼンテ」収録」と。帯文にはさらに、いとうせいこうさん、青来有一さん、中島京子さん、星野智幸さんらの推薦文が掲出されています。著者の陣野さんは第一章の冒頭近くでこう述べておられます。「作家の肉声は作品を介してのみ聴き取り得るのだ、という主張にも一理ある。だが、今回、私はそうした立場を採らない。理由は、桐山襲という作家の残した作品が、その重要性とは無関係に、忘れられようとしていることに強い反発を覚えるからである。作品さえあればいいという立場は、個々の作品がだんだん言及されなくなり、人々の記憶から消えてしまう傾向に抵抗することができない。作品はただ消え去るのみ、といった諦念に強く抗いたいのだ」(12-13頁)。陣野さんは作家自身が整理した資料集を閲覧し、感慨をこう綴っておられます。「膨大なコピーに同梱されていた大学ノートには、デビューした83年から亡くなる92年までの間に発表した文章のタイトルが記されている。〔・・・〕桐山の意図は明白だった。誰かが自分の死後に訪ねてくるかもしれない。そのためにこそ自分の足跡を整理しておかねばならない。資料はそう語っていた」(14頁)。本書は作家を回想するためだけに書かれたのではなく、まだ見ぬその後継者に向けて書かれたのだということは、本書の結語やあとがきに明らかであるように思われます。

★河出書房新社さんでは来月、カンタン・メイヤスー『有限性の後で』(人文書院、2016年1月)に続く思弁的実在論の新刊、スティーブン・シャヴィロ(Steven Shaviro, 1954-)による『モノたちの宇宙――思弁的実在論とは何か』(上野俊哉訳、河出書房新社、6月22日発売予定、本体2,800円、ISBN978-4-309-24765-6;原著 The Universe of Things: On Speculative Realism, University of Minnesota Press, 2014)が刊行される予定です。版元紹介文に曰く「現代思想を塗り替える思弁的実在論をホワイトヘッドを媒介に論じる名著。メイヤスー、ハーマンらを横断しながら哲学の新しい地平の上に「新しい唯物論」を拓く」。また、来月にはメイヤスー『有限性の後で』の出版記念シンポジウムが東大駒場キャンパスで以下の通り行われるとのことです。

◎究極的な理由がないこの世界を言祝ぐ――メイヤスー『有限性の後で』出版記念イベント

日時:2016年6月18日(土)15:00-17:30
場所:東京大学駒場キャンパス アドミニストレーション棟3階 学際交流ホール
料金:入場無料│事前登録不要
使用言語:日本語
主催:東京大学大学院総合文化研究科附属共生のための国際哲学研究センター(UTCP)上廣共生哲学寄付研究部門 L1プロジェクト「東西哲学の対話的実践」

プログラム:
第1部 非理由律と偶然性 15:00-16:30
登壇者:千葉雅也(立命館大学)・大橋完太郎(神戸大学)・星野太(金沢美術工芸大学)・中島隆博(UTCP)

第2部 物理学と哲学の突端 16:30-17:30
登壇者:千葉雅也(立命館大学)・大橋完太郎(神戸大学)・星野太(金沢美術工芸大学)・野村泰紀(UCバークレー教授・東京大学Kavli IPMU客員上級科学研究員)・中島隆博(UTCP)


★『仙人と妄想デートする』は発売済。主に2010年代に各媒体で発表してきた諸論考に書き下ろし数編を加えて一冊としたもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文はこうです。「看護師の語りがひらく、新たな自由への扉。医療の世界には技術、法、倫理の制約がある。しかし、それら外からの規範とは別に、看護師や家族、患者の間には、個々の状況に応じた自発的な実践のプラットフォームがうまれ、病のなか、苦しみのなかで、かすかな創造性を獲得する。それは自由と楽しさの別名でもある。重度の精神病、ALS、人工中絶など存在の極限に向き合う看護師の語りの分析が、哲学に新たなステージを切り拓く」。前著『摘便とお花見――看護の語りの現象学』(医学書院、2013年)もそうでしたが、ユニークな書名からは想像しにくい非常にアクチュアルな問題系を哲学の領野にもたらしてくださっています。巻末の参考文献は書店員さん必見です。分野横断的なブックフェアやコーナーづくりのヒントになります。

★『近現代イギリス移民の歴史』はまもなく発売。原書は、An Immigration History of Britain: Multicultural Racism since 1800 (Pearson-Longman, 2010)です。著者のPanikos Panayiさんは、イギリスのド・モンフォート大学ヨーロッパ史教授。イギリス入移民史がご専門。本書が邦訳書第一作です。帯文を引きますと「移民をめぐる人種主義と多文化主義。近接するヨーロッパの国々から、そしてかつての植民地から…。時に迫害をのがれ、時に豊かな暮らしを求めて…。様々な出自、様々な文化や宗教の移民や難民は、どう社会から排斥され統合されていったのか。200年にわたるイギリスへの移民とその子孫の歴史を詳細にたどりながら、移民経験の複雑さと矛盾とを長期的視点からよみとく」。巻頭の「日本語版への序文」で著者はこう本書を要約しています。「移住とその原因、統合の必然性、移民のアイデンティティの複雑さ、人種主義そして、単純にもっとも新しい集団、あるいはもっとも「脅威を及ぼす集団」にその対象が移っていく外国人嫌悪の堅牢さ、そして多文化主義の発展といった〔五つの〕テーマに焦点を絞って、包括的にアプローチしている」と。目次は書名のリンク先をご覧ください。近年ますます移民問題が重要性を帯びているこの国の過去・現在・未来を考える上で、本書が明かすイギリス史は有益な示唆を与えてくれると思われます。


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