★点数が多いため、今回も2回に分けてご紹介します。
『中世思想原典集成 精選6 大学の世紀2』上智大学中世思想研究所編訳監修、平凡社ライブラリー、2019年9月、本体2,400円、B6変型判664頁、ISBN978-4-582-76887-9
『われら』ザミャーチン著、松下隆志訳、光文社古典新訳文庫、2019年9月、本体1,060円、文庫判392頁、ISBN:978-4334-75409-9
『西洋占星術史――科学と魔術のあいだ』中山茂著、講談社学術文庫、2019年9月、本体920円、A6判208頁、ISBN978-4-06-517132-5
『平治物語 全訳注』谷口耕一/小番達訳、講談社学術文庫、2019年9月、本体2,030円、A6判656頁、ISBN978-4-06-517181-3
『後拾遺和歌集』久保田淳/平田喜信校注、岩波文庫、2019年9月、本体1,680円、文庫判752頁、ISBN978-4-00-300299-5
『伊藤野枝集』森まゆみ編、岩波文庫、2019年9月、本体1,130円、文庫判448頁、ISBN978-4-00-381281-5
『臨済録』柳田聖山訳、中公文庫、2019年9月、文庫判264頁、本体720円、ISBN978-4-12-206783-7
『ポー傑作集――江戸川乱歩名義訳』エドガー・アラン・ポー著、渡辺温/渡辺啓助訳、中公文庫、2019年9月、本体1,200円、文庫判480頁、ISBN978-4-12-206784-4
『ジャンヌ・ダルク』ジュール・ミシュレ著、森井真/田代葆訳、中公文庫、2019年9月、本体1,000円、文庫判320頁、ISBN978-4-12-206785-1
『古事記の研究』折口信夫著、中公文庫、2019年9月、本体1,000円、文庫判352頁、ISBN978-4-12-206778-3
★平凡社ライブラリーの9月新刊は1点。『中世思想原典集成 精選6 大学の世紀2』は精選版全7巻の第6回配本。親本の第13巻「盛期スコラ学」、第14巻「トマス・アクィナス」、第18巻「後期スコラ学」より10篇を選び、佐藤直子さんによる巻頭解説と、赤江雄一さんによる巻末エッセイ「スコラ学と中世の説教」が加えられています。収録作品は以下の通り。
ディオニュシウス神秘神学註解(アルベルトゥス・マグヌス|須藤和夫訳)
聖書の勧めとその区分(トマス・アクィナス|竹島幸一訳)
聖書の勧め(トマス・アクィナス|竹島幸一訳)
知性の単一性について――アヴェロエス主義者たちに対する論駁(トマス・アクィナス|水田英実訳)
最高善について(シュトラスブルクのウルリヒ|須藤和夫/渡部菊郎訳)
一二七〇年の非難宣言(エティエンヌ・タンピエ|八木雄二/矢玉俊彦訳)
一二七七年の禁令(エティエンヌ・タンピエ|八木雄二/矢玉俊彦訳)
哲学者たちの誤謬(アエギディウス・ロマヌス|箕輪秀二訳)
第一原理についての論考(ヨハネス・ドゥンス・スコトゥス|小川量子訳)
未来の偶然事に関する神の予定と予知についての論考(ウィリアム・オッカム|清水哲郎訳)
★光文社古典新訳文庫の9月新刊より1点。光文社古典新訳文庫でのロシア文学の新訳にはドストエフスキーやトルストイ、チェーホフ等々が刊行されていますが、ザミャーチンの翻訳は今回の『われら』で初めて。帯文に曰く「ディストピアSFの先駆け、待望の新訳」。「ザミャーチンが「私のもっとも滑稽でもっとも真剣な作品」(「自伝」、1922年)と述べる『われら』は、創作にもっとも勢いがあった1920~21年にかけて書かれた。作家が存命中に完成させた唯一の長編にして最高傑作である」(訳者解説より)。底本は1988年刊のクニーガ社版作品集。さらに、「妻リュドミーラによる校正が加えられた唯一現存する『われら』のタイプライター原稿(2011年刊)を参照しつつ、訳者の判断で適宜修正を加えた」とのことです。現在も入手可能な、文庫で読める既訳には、川端香男里訳『われら』(岩波文庫、1992年)、小笠原豊樹訳『われら』(集英社文庫、2018年)があります。川端訳は1975年に講談社文庫でも刊行されたことがあります。岩波文庫版はその改訂版です。
★講談社学術文庫の9月新刊より2点。『西洋占星術史』は、1992年に講談社現代新書の一冊として刊行された『西洋占星術――科学と魔術のあいだ』の改題文庫化。鏡リュウジさんによる巻末解説が加えられています。科学史家の中山茂(なかやま・しげる:1928-2014)さんの著書で講談社学術文庫にて文庫化されているのは本書のほかにこれまで、『近世日本の科学思想』(1993年、品切;『日本人の科学観』〔創元新書、1977年〕増補改題)、『天の科学史』(2011年;『天の科学史』〔朝日選書、1984年〕改訂)、『パラダイムと科学革命の歴史』(2013年;『歴史としての学問』〔中央公論社、1974年〕増補改題)があります。
★『平治物語 全訳注』は講談社学術文庫オリジナルの新訳。「敗れゆく源氏の悲哀と再興の予兆を描いた物語を、伝本の中でも個性豊かな登場人物と起伏に富んだストーリーで知られる四類本から現代語訳した決定版」(カバー裏紹介文より)。本文、現代語訳、語釈、校訂注、解説で構成。補注と地図、谷口耕一さんによる解説「四類本系統の『平治物語』について」は巻末にまとめられています。「『平治物語』は平治の乱を題材にした物語である。〔…〕この物語は、おおまかにいって三部構成になっている。前半では合戦までの経緯、中心部は合戦の様子、後半では戦後処理と後日譚が描かれる。そしてそのような歴史的流れのなかに、笑話や哀話などのエピソードがちりばめられ、全体として、非常におもしろい物語となっている」(解説より)。現在も入手可能な、文庫で読める『平治物語』には、日下力訳注『平治物語 現代語訳付き』(角川ソフィア文庫、2016年)があります。
★岩波書店9月新刊より2点。『後拾遺和歌集』は岩波文庫では1940年刊の西下経一校訂版以来の新版。「新日本古典文学大系」シリーズで1994年刊に刊行された第8巻に所収の『後拾遺和歌集』に基づき、「注などを改変して文庫化した」もの。注は、現代語による大意、出典、語釈、参考事項の順で記されています。講談社学術文庫より刊行されていた藤本一恵訳注本全4巻は品切のため、文庫本で読める『後拾遺和歌集』は今回の岩波文庫版のみとなります。
★『伊藤野枝集』は、創作、評論・随筆・書簡、大杉栄との往復書簡、の三部構成で編まれたもの。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。底本は、堀切利高/井手文子編『定本 伊藤野枝全集』(全4巻、學藝書林、2000年)、堀切利高編著『野枝さんをさがして』(學藝書林、2013年)、大杉栄研究会編『大杉栄書簡集』(海燕書房、1974年)などを使用。巻末には編者による解説「嵐の中で夢を見た人――伊藤野枝小伝」と、「伊藤野枝略年譜」を収めています。今月の岩波文庫新刊5点のうち、本書のみが帯が掛かっていて、瀬戸内寂聴さんの推薦文が掲げられています。曰く「恋と革命の天才先駆者、伊藤野枝の若き命をかけた切実華麗な名文のすべて!」。
★中公文庫の9月新刊より4点。『臨済録』は2004年の中公クラシックス版から文庫へのスイッチ。さらに遡ると柳田訳は『世界の名著』続編第3巻(1974年)に収められていたものです。かの有名な「仏に逢うては仏を殺し、祖に逢うては祖を殺し、羅漢に逢うては羅漢を殺し、父母に逢うては父母を殺し、親眷に逢うては親眷を殺して、始めて解脱することを得ん。物に拘せられず、透脱自在なり」は「四七」の一節(読み下し154頁;原文162頁:逢佛殺佛、逢祖殺祖、逢羅漢殺羅漢、逢父母殺父母、逢親眷殺親眷、始得解脱、不与物拘、透脱自在)。現代語訳を前段を含めて引いてみます。「仲間よ、君たちが堅気を望むなら、けっして世間の誘いに引っかかってはならぬ。内でも外でも、出会ったら、すぐに斬ってすてよ。仏に出会ったら、仏を斬りすて、祖師に出会ったら祖師を切りすて、羅漢に出会ったら羅漢を斬りすて、父母に出会ったら父母を斬りすて、親族に出会ったら、親族を斬りすてて、君ははじめて解放される。物に拘束せられることなく、思いのままに斬りぬけるのだ」(170~171頁)。カバー裏紹介文では「既成概念に縛られず、あえて斬り捨てて自由を得よ」と説明されています。
★『ポー傑作集』はカバー裏紹介文に曰く「本書は刊行当時「江戸川乱歩訳」で発売され、後日、全集から削除された幻のベストセラーである。実際の訳者は27歳で事故死した作家・渡辺温、共訳はその兄でミステリ作家となった渡辺啓助である」と。目次は以下の通り。
序文
黄金虫(渡辺温訳)
モルグ街の殺人(渡辺温訳)
マリイ・ロオジェ事件の謎(渡辺温訳)
窃まれた手紙(渡辺啓助訳)
メヱルストロウム(渡辺啓助訳)
壜の中に見出された手記(渡辺温訳)
長方形の箱(渡辺温訳)
早過ぎた埋葬(渡辺啓助訳)
陥穽と振子(渡辺啓助訳)
赤き死の仮面(渡辺温訳)
黒猫譚(渡辺啓助訳)
跛蛙(渡辺啓助訳)
物言ふ心臓(渡辺温訳)
アッシャア館の崩壊(渡辺啓助訳)
ウィリアム・ウィルスン(渡辺温訳)
附録
渡辺温(江戸川乱歩著)
春寒(谷崎潤一郎著)
温と啓助と鴉(渡辺東著)
解説(浜田雄介著)
★底本は『世界大衆文学全集(30)ポー、ホフマン』(改造社、1929年)。附録の「渡辺温」は『探偵小説三十年』(岩谷書店、1954年)、「春寒」は『谷崎潤一郎全集(22)』(愛読愛蔵版、中央公論社、1983年)が底本。渡辺さんのエッセイと浜田さんの解説は書き下ろしです。
★『ジャンヌ・ダルク』は中公文庫プレミアム「知の回廊」の最新弾。1987年刊の中公文庫の改版。文庫版の親本は1983年刊の中央公論社の単行本。改版にあたり、巻末に佐藤賢一さんによる解説が付されています。佐藤さんはこう書いておられます。「ジャンヌ・ダルクについて書かれた本は、それでもすでに五百冊を超えていたというが、史料も満足に整わない段階で、どれだけ史実に基づけたのかは疑わしい。ミシュレの『ジャンヌ・ダルク』こそは正統な歴史として書かれた、最初のジャンヌ・ダルクなのだ。著者は信頼に足る歴史家、十九世紀フランスを代表する大歴史家なのだ」(304~305頁)。
★『古事記の研究』は中公文庫プレミアム「日本再見」の最新弾。「昭和九年と十年に長野県下伊那郡教育会で行われた三つの講義「古事記の研究」(一・二)と「万葉人の生活」を収める。「古事記研究の初歩」と著者自身が呼ぶ一般向けの入門講義を初めて文庫化する」(カバー裏紹介文より)。三浦佑之さんによる巻末解説が付されています。「折口信夫が古事記という作品そのものに向き合うことは、あまり多くないのではないか。その点で本書は貴重な一冊だと思う」。「本書で論じられている古事記は、戦前に凡百が講じたであろう古事記とは一線を画しているというのもまた明らかである。本書に収められた講演のなかで、折口信夫がこだわるのは音声によることばの問題であって、歴史書としての古事記の文字表記にはほとんどこだわっていない。〔…〕折口にとって、そこに残されている神話や歌謡の表現こそがだいじであったというのは、かれの古代研究の方法をみれば説明するまでもなかろう」。
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