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注目新刊:ビフォ『フューチャビリティ』、アル=カリーリ編『エイリアン』、ほか

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『フューチャビリティー ――不能の時代と可能性の地平』フランコ・ベラルディ(ビフォ)著、杉村昌昭訳、法政大学出版局、2019年8月、本体3,600円、四六判上製348頁、ISBN978-4-588-01101-6
『エイリアン――科学者たちが語る地球外生命』ジム・アル=カリーリ著、斉藤隆央訳、紀伊國屋書店、2019年8月、本体2,200円、四六判上製340頁、ISBN978-4-314-01170-9



★『フューチャビリティー』は『Futurability: The Age of Impotence and the Horizon of Possibility』(Verso, 2017)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。イタリア生まれの思想家フランコ・ベラルディ(Franco “Bifo” Berardi, 1949-)の単独著の訳書は、これまでに『プレカリアートの詩――記号資本主義の精神病理学』(櫻田和也訳、河出書房新社、2009年)、『NO FUTURE――イタリア・アウトノミア運動史』(廣瀬純/北川眞也訳、洛北出版、2010年)、『大量殺人の“ダークヒーロー”――なぜ若者は、銃乱射や自爆テロに走るのか?』(杉村昌昭訳、作品社、2017年)の3点が刊行されており、今回の新刊はそれらに続く4冊目です。日本語版への序文でビフォはこう書いています。「民主主義はメディア・ポピュリズムと金融貴族主義という恐るべき怪物的権力形態をつくりだした。/政治の無力は人々のあいだに、抽象化のとてつもない力や民主主義に対して復讐したいという欲望を生み出した。そのような状況から民主主義的なやり方で脱出することはできない。/世界の北側諸国の大半は奥深くて不可逆的な分裂の局面に入った。それはレイシズムやナショナリズムの新たな暴力形態を伴った内戦の出現である」(iii頁)。


★「この本は三つの概念とそのあいだの関係に焦点をあてたものである。すなわち、可能性、潜在力、顕在力(権力)の三つである。私の意図は、現在われわれに問われている難問を解くために、この三つの概念の形成と機能を近代哲学のなかで再構築することであった。集合的知性とオートメーションテクノロジーの発達は可能性を包含しているが、まだ現働化していない。それはなぜかというと、主体的力が欠如しているからであり、ポストモダン社会の生活形態や表現形態をますます特徴づけている不能〔インポテンツ〕のためである。この不能は、社会運動の敗北、労働の不安定化、デジタルコミュニケーション時代の人間の存在的孤独などによってもたらされた。そしてこの不能が、逆説的にも権力が権力として機能する条件をなしているのである」(iv-v頁)。


★「デジタルテクノロジーの潜在力と危険がこの本の中心テーマである。このテクノロジーによってもたらされる加速化を私はこの本のなかで不明瞭な対象として見据えている。加速主義と呼ばれる思想運動は、資本主義のダイナミズムの加速化はそれ自体としてポジティブな現象である、なぜならそれはパースペクティブの転覆をもたらすものだから、と主張している。しかし私はこの思想運動に完全には同調できない。加速化はある種の解放に向かうかもしれないが、われわれが必要とするパースペクティブの転覆をもたらすのは、ポジティブな潜在力の出現としての主体性にかかっているからである。/したがって、主体の力能、知識、連帯、発明精神といったものが、これまで隠され、抑圧され、歪められながらも存在し続けてきたエネルギーを解き放つことができるかどうかに、すべてはかかっているのである」(v-vi頁)。


★本論でビフォはこう書きます。「彼らの問いは、これが生きることか? というものだった。/いや、この意味のない行為の意味のない繰り返しは生きることではなかったし、生きることではないのだ。/労働の拒否はマスプロ教育の時代に成長して労働者になった世代の特殊な状況に基づいた倦怠と悲しみに対する宣戦布告であった。そこにあるのは、彼らの文化的欲求と実存的期待の爆発である」(220頁)。「来たるべき戦いは経済的パラダイムの認識論的・実践的ヘゲモニーから知識の自立をいかにして勝ち取るかということをめぐるものとなるだろう」(262頁)。本書は、ネットワーク化された高度情報化社会における労働者である「認知労働者〔コグニタリアート〕」たちの協働と共闘を呼びかけた熱いメッセージであると受け止めることができます。知識のイノベーション、発明、実行に関わるという「認知労働者〔コグニタリアート〕」には、デザイナーやエンジニアなどが数え上げられていますが、出版人や書店人もまたそうであると言えるでしょう。




★『エイリアン』はまもなく発売。『Aliens. Science Asks: Is There Anyone Out There?』(Profile Books, 2016)の全訳です。帯文より引くと、「天文学、宇宙物理学、生化学、遺伝学、神経科学、心理学・・・各分野の第一線に立つ20人が、地球外生命の定義、存在するための条件と可能性、その形態、探査方法を検討。現実として浮かび上がる新しい「エイリアン」の姿」。目次は下記の通りです。こんなにも盛沢山でたったの税別2,200円。素晴らしいです。


はじめに――みんなどこにいるんだ?|ジム・アル=カリーリ(理論物理学者)
第1章 われわれとエイリアン――ポストヒューマンはこの銀河全体に広まるのか?|マーティン・リース(宇宙論者)
第Ⅰ部 接近遭遇
第2章 招かれ(ざ)る訪問者――エイリアンが地球を訪れるとしたらなぜか|ルイス・ダートネル(宇宙生物学者)
第3章 空飛ぶ円盤――目撃と陰謀論をおおまかにたどる|ダラス・キャンベル(科学番組司会者)
第4章 地球上のエイリアン――タコの知性からエイリアンの意識について何を知りうるか|アニル・セス(認知神経科学者)
第5章 誘拐――地球外生命との接近遭遇の心理学|クリス・フレンチ(心理学者)
第Ⅱ部 どこで地球外生命を探したらいいか
第6章 ホーム・スウィート・ホーム――惑星をハビタブルなものにする条件は?|クリス・マッケイ(惑星科学者)
第7章 隣家の人――火星の生命を探る|モニカ・グレイディ(宇宙科学者)
第8章 もっと遠く――巨大ガス惑星の衛星は生命を育めるか?|ルイーザ・プレストン(宇宙生物学者)
第9章 怪物、獲物、友だち――SF小説のエイリアン|イアン・スチュアート(数学者)
第Ⅲ部 われわれの知る生命
第10章 ランダムさと複雑さ――生命の化学反応|アンドレア・セラ(無機合成化学者)
第11章 深海熱水孔の電気的な起源――生命は地球でどのように生まれたか|ニック・レーン(進化生化学者)
第12章 量子の飛躍――量子力学が(地球外)生命の秘密を握っているのか?|ジョンジョー・マクファデン(分子遺伝学者)
第13章 宇宙の必然――生命の発生はどのぐらい容易なのか?|ポール・C・W・デイヴィス(理論物理学者)
第14章 宇宙のなかの孤独――異星文明はありそうにない|マシュー・コッブ(進化生物学者)
第Ⅳ部 エイリアンを探す
第15章 それは銀幕の向こうからやってきた!――映画に見るエイリアン|アダム・ラザフォード(遺伝学者、著作家)
第16章 われわれは何を探しているのか?――地球外生命探査のあらまし|ナタリー・A・キャブロール(宇宙生物学者)
第17章 宇宙にだれかいるのか?――テクノロジーと、ドレイクの方程式と、地球外生命の探索|サラ・シーガー(惑星科学者、宇宙物理学者)
第18章 大気に期待――遠くの世界に生命のしるしを見つける|ジョヴァンナ・ティネッティ(宇宙物理学者)
第19章 次はどうなる?――地球外知的生命探査の未来|セス・ショスタク(天文学者)
訳者あとがき
インターネット
参考文献
アダム・ラザフォードの必見エイリアン映画リスト
索引
執筆者紹介





★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。


『薔薇色のアパリシオン――冨士原清一詩文集成』冨士原清一著、京谷裕彰編、共和国、2019年9月、本体6,000円、菊変型判上製296頁、ISBN978-4-907986-48-3
『神の書――イスラーム神秘主義と自分探しの旅』アッタール著、佐々木あや乃訳注、東洋文庫:平凡社、2019年8月、B6変判上製函入552頁、ISBN978-4-582-80896-4
『野の花づくし 季節の植物図鑑[秋・冬編+琉球・奄美 小笠原編]』木原浩著、平凡社、2019年8月、本体3,000円、AB判並製192頁、ISBN978-4-582-54259-2
『随筆 万葉集(一)万葉の女性と恋の歌』中西進編、作品社、2019年8月、本体1,800円、46判並製256頁、ISBN978-4-86182-764-8
『随筆 万葉集(二)万葉の旅、自然、心』中西進編、作品社、2019年8月、本体1,800円、46判並製272頁、ISBN978-4-86182-765-5
『随筆 万葉集(三)大伴家持と永遠なる万葉』中西進編、作品社、2019年8月、本体1,800円、46判並製256頁、ISBN978-4-86182-766-2
『現代思想2019年9月号 特集=倫理学の論点23』青土社、2019年8月、本体1,400円、A5判並製240頁、ISBN978-4-7917-1386-8
『ハイデガーと時間性の哲学――根源・派生・媒介』峰尾公也著、渓水社、2019年8月、本体4,200円、A5判上製296頁、ISBN978-4-86327-484-6



★『薔薇色のアパリシオン』は、詩人の冨士原清一(ふじわら・せいいち:1908-1944)さんの初めての全作品集。ピンクの表紙が鮮烈な印象を与える一書。666部限定で、66部がナンバリングありで版元直販、後の600部がナンバリングなしの市販用とのことです。2篇の追悼文(高橋新吉「冨士原清一のこと」、瀧口修造「冨士原清一に――地上のきみの守護天使より」)や、詳細な年譜や底本書誌情報が附録として収められています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。フィリップ・スーポーによるボードレール論より引きます。「適切に批評と言はれるものに関しては、哲学者達は私が次に言はんとすることを理解することを希望する。――正確であるためには、換言すればそのレエゾン・デエトルをもつためには、批判は偏頗的であり、熱情的であり、政治的であらなければならない。即ち排他的見界に於て、だがそれは地平線の極限を開く見界に於て、なされなければならない」(212頁)。


★『神の書』は東洋文庫896番。アッタールの名作『鳥の言葉――ペルシア神秘主義比喩物語詩』(黒柳恒男訳、東洋文庫、2012年5月、品切)の姉妹編(1387年)です。巻末の訳者解説によれば「本書は、イランで出版された最新のシャフィーイー・キャドキャニー教授校訂(テヘラン、2008年)より、冒頭の神・預言者・正統カリフへの称讃のみを除いた全訳である」。巻頭の序章のほか、全23章で260篇の逸話が収められています。父王が6人の王子の質問に答えるという体裁。「官能、名声、富、権力、超絶知などへの欲望を斥け、真理に至る神秘主義の道程へと導く、乞食から王侯まで多彩な人々の多様な物語」(帯文より)。「素寒貧になるというのは一つのしるしであることを知っているのか? 真の王とは素寒貧であることなのだぞ。すべて失うことができる人は誰でも真の王なのだ。なぜならごまかしは、突然訪れる不幸のように人生を台無しにするからだ」(397頁、第十八章第十話「導師アブー・サイードと博打打ちの話」より導師の言葉)。


★これに続けてアッタールはこう記します。「神秘主義の道を歩むすべての獅子は、愛の世界では狐である。心して歩め、注視せよ、賢くあれ。ここでは不幸が雨のように降ってくるのだから、気をつけよ。もし真実に到達するために身を捧げ、我を消して神と合一しようと決めたなら、そして愛しいお方のために命を差し出すために、障害である肉体という幕帳〔とばり〕を取り払い、それを自身から遠ざけようと決めたなら、この道においてあなたがすべて失わなければいけないのは明白である。さもなければ、あなたは不完全で信仰心を持たない者でありつづけるだろう。もしすべてを失うのなら、イーサーがしたように針一本すら取っておいてはいけない、わずか一本の針でも、持っていれば、その針こそがあなたにとっての障害となり、あなたは目標に到達できなくなるのだから」(397~398頁)。ゆっくりと隅々まで注意深く読むべき一書です。


★『野の花づくし――季節の植物図鑑[秋・冬編+琉球・奄美 小笠原編]』は、今年2月に発売された『野の花づくし――季節の植物図鑑[春・夏編]』に続く第2弾。美麗なカラー写真とエッセイでページをめくる楽しさのある、マイナスイオンに溢れた癒しの図鑑です。個人的に見入ってしまったのは、未草(ヒツジグサ、スイレン科スイレン属)や、下がり花(サガリバナ、サガリバナ科サガリバナ属)。前者は尾瀬ヶ原の、後者は西表島の、それぞれ水辺で撮影。見においでよ、と誘われている気がします。


★『随筆 万葉集』3巻本は、「日本の名随筆」第61~63巻(1987~1988年、作品社)の新装復刊。各巻の収録作品は書名のリンク先でご覧いただけます。第1巻22篇、第2巻25篇、第3巻22篇。「万葉集」の副読本として最適ではないかと思います。ちなみにこのエントリーを書いている8月25日現在、次の祝日は数週間後の「敬老の日」ですが、第2巻に収録された市村宏さんの「老いの歌」にはこんなくだりがあります。「敬老の日まであるわが国であるが、敬老とは公民館に老人を招いて万才をみせることではなく、老人の豊かな経験を社会のために役立てさせ、自己の存在価値を彼等自身に認識させることに外ならない。定年制などを作り、人為的な姨捨山を築きながら何が敬老であろう」(78頁)。ちなみに市村さんはこのエッセイにおいて山上憶良と大伴旅人の和歌を取り上げています。「山上憶良は、老境に入ってから貧・病・老と取り組んだ。沈痾自哀文でも貧窮問答歌でも、十分に老年者の鑑賞にたえうるのは、その身を以てした闘いの成果であったからである。〔…〕憶良は悟って退くのではなく、不自由な足を引きずりながら人生の戦いを止めようとしない」(77頁)。


★『現代思想2019年9月号 特集=倫理学の論点23』は2本の討議(岡本裕一朗+奥田太郎+福永真弓「ボーダーから問いかける倫理学」、池田喬+長門裕介「応用倫理学のメソドロジーを求めて」)のほか、17項目のトピック(環境、宇宙、食農、動物、ロボット、戦争、ビジネス、医療、生政治、生殖、世代間、高齢者、公衆衛生、ジェンダー/セクシュアリティ、美醜、共依存、サイバー・カルチャー)をめぐる諸論考と、3つのテーマ(フィクション、占い、ルポルタージュ)をめぐるエッセイが収められています。次号(10月号)の特集は「コンプライアンス社会(仮)」とのこと。興味深い特集が続きます。


★『ハイデガーと時間性の哲学』は、2018年に早稲田大学大学院文学研究科に提出された博士学位請求論文をもとに、部分的に加筆修正を施したもの。巻頭の序論「時間性の哲学――存在と時間の連関の解明」での説明によれば、「本書の課題は、ハイデガーの哲学を「時間性(Zeitlichkeit)」という主題への一貫した取り組みとして明らかにすることで、この哲学の根本問題を根源と派生の問題として浮き彫りにし、その問題の解決の糸口を媒介という概念を用いて提示することにある」(3頁)。第一部「ハイデガーの時間性の哲学」と、第二部「フランスの哲学者たちによる時間性の哲学との対決」の二部構成全六章で、第二部ではレヴィナス、リクール、デリダらのハイデガーとの対峙が論じられています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


★「時間性の哲学は、伝統的な時間論がそうするように、時間とは何かを問うことで、その本質を明らかにしようとしているというよりはむしろ、時間はいかに可能になっているのかと問うことで、その根源を明らかにしようとしている。そしてハイデガー以後に展開された時間に関するいくつかの哲学はまさに、彼の時間性の哲学との対決を通じて構築された」(同頁)。「本書では、はじめに、ハイデガーの時間性の哲学の概略を示すことで、そこに含まれた根本問題を根源と派生の問題として浮き彫りにし(第一部)、次いで、フランスの哲学者たちによるその問題の解決への取り組みを、特に媒介という概念を用いて明らかにすることを試みる(第二部)」(6頁)。


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