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注目新刊:斎藤幸平氏によるハート、ガブリエル、メイソンへのインタヴュー集『未来への大分岐』、ほか

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『未来への大分岐――資本主義の終わりか、人間の終焉か?』マイケル・ハート/マルクス・ガブリエル/ポール・メイソン著、斎藤幸平編、集英社新書、2019年8月、本体980円、新書判352頁、ISBN978-4-08-721088-0
『国家活動の限界』ヴィルヘルム・フォン・フンボルト著、西村稔編訳、京都大学学術出版会、2019年8月、本体5,800円、四六上製696頁、ISBN978-4-8140-0237-5



★『未来への大分岐』は、デビュー作である著書『大洪水の前に――マルクスと惑星の物質代謝』(堀之内出版、2019年4月)が話題の斎藤幸平さんによる、知的刺激に満ちたインタヴュー集。全面帯ではマルクス・ガブリエルの名前と写真が一番大きく掲げられていますが、インタヴューは、マイケル・ハート、マルクス・ガブリエル、ポール・メイソン、の順で掲載されています。斎藤さんは各氏の発言を尊重しつつ補足するとともに折々に鋭い質問を投げかけており、全体としてたいへん明快な内容になっています。「最悪の事態を避けるためには、資本主義そのものに挑まなければならない危機的段階にきているのではないか。それが本書の問題提起である」(「はじめに」より)。経済の危機、政治の危機、文化の危機、報道の危機、環境の危機、等々、様々な問題が地球規模で噴出している現在、本書の論点と主張には胸に響くものがあります。新書大賞の上位にランクインすることが予想されます。



★「現実が絶望的なものになり、残された時間がわずかになればなるほど、国家権力や最新技術を使い、上からの「効率的な」改革を求めたくなる。だが、この危機的な状況をつくっているのにもっとも積極的に荷担しているのが、国家権力であり、資本であり、最新技術である事実を忘れてはならない。/だとすれば、残された解放への道は、ポストキャピタリズムに向けた、人々の下からの集合的な力しかない。「社会運動・市民運動が大事」という左派の念仏が人々の心に届かなくなって久しい。けれども、大分岐の時代においてこそ、ニヒリズムを捨てて、民主的な決定を行う集団的能力を育む必要があるのである」(「おわりに」より)。ガブリエルも素晴らしいのですが、本書の眼目はむしろ、ハートとメイソンという異なるタイプのマルクス系左派と斎藤さんとのやりとりにあります。マルクスに対して食わず嫌いになっている読者にも薦めたい一冊です。


★『国家活動の限界』は、「近代社会思想コレクション」の第26弾。『Ideen zu einem Versuch, die Grenzen der Wirksamkeit des Staats zu bestimmen』(『国家活動の限界を確定する試みのための思想』1792年)の全訳を第一部とし、第二部には関連テクスト4篇「国家体制についての理念――新フランス憲法を契機にして」、「ゲンツ宛フンボルト書簡」2通、「フォルスター宛フンボルト書簡」を収めています。続く第三部は「官僚制・国家試験・大学」と題して、「高等試験委員会の組織に関する鑑定書」「ベルリン大学設立の提議」「宗教・公教育局報告」「ベルリンの高等学問施設の内面的および外面的編制について」の4篇を収録し、第四部「参考資料 ドイツ憲法論」では1813年の「ドイツ憲法論」のほか、7篇の関連テクストを併録しています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文ではヴィルヘルム・フォン・フンボルト(Friedrich Wilhelm Christian Karl Ferdinand Freiherr von Humboldt, 1767-1835)はこう紹介されています。「J.S.ミルが激賞した「教養」思想家、ベルリン大学創設に賭けた官僚、そして、ドイツ統一を目指した国政家」と。


★「人間の真の目的とは、自分の諸能力を最も均斉のとれた最高の形で一個の全体へと陶冶することにある。この陶冶のためには自由が第一の必須条件である。とはいえ、人間の諸能力が発展するためには、自由のほかにもなお、それと緊密に結びついているけれども、それとは別種のもの、すなわち状況の多様性が必要である。どれほど自由闊達で独立不羈の人であっても、画一的な状態に置かれると、みずからの陶冶を完成しにくくなる」(12頁)。「どんな人間を相手にするにせよ、一人の人間であるという権利を認めないような思想には、それだけですでにいささか人間性を貶めるようなところがある。何人も、もっと高い段階に進むことができないほど低い文化段階にいるわけではない」(92頁)。


★なおヴィルヘルム・フォン・フンボルトの著作の既訳書には80年代以降では、『言語と精神――カヴィ語研究序説』(亀山健吉訳、法政大学出版局、1984年)や、『人間形成と言語』(クレメンス・メンツェ編、クラウス・ルーメル/小笠原道雄/江島正子訳、以文社、1989年)、『双数について』(村岡晋一訳、新書館、2006年)などがあります。


★続いて、ちくま学芸文庫の8月新刊4点5冊を列記します。


『交易の世界史――シュメールから現代まで(上)』ウィリアム・バーンスタイン著、鬼澤忍 訳、ちくま学芸文庫、2019年8月、本体1,400円、文庫判384頁、ISBN978-4-480-09936-5
『交易の世界史――シュメールから現代まで(下)』ウィリアム・バーンスタイン著、鬼澤忍訳、ちくま学芸文庫、2019年8月、本体1,400円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-09937-2
『古代アテネ旅行ガイド―― 一日5ドラクマで行く』フィリップ・マティザック著、安原和見訳、ちくま学芸文庫、2019年8月、本体1,200円、文庫判256頁、ISBN978-4-480-09939-6
『賤民とは何か』喜田貞吉著、ちくま学芸文庫、2019年8月、本体1,100円、文庫判240頁、ISBN:978-4-480-09934-1
『現代語訳 藤氏家伝』沖森卓也/佐藤信/矢嶋泉訳、ちくま学芸文庫、2019年8月、本体950円、文庫判144頁、ISBN978-4-480-09944-0



★『交易の世界史』上下巻は、2010年に日本経済新聞出版社より刊行された『華麗なる交易――貿易は世界をどう変えたか』の改題分冊文庫化。原書は『A Splendid Exchange: How Trade Shaped the World』(Atlantic Books, 2008)です。グローバリゼーションの起源から現在まで、古代から現代までを通覧する歴史書。下巻に収められた訳者あとがきは日付の新しいものになっていますが、訳文の改変等についての特記はありません。


★『古代アテネ旅行ガイド』は、文庫オリジナル。昨夏に同文庫で刊行された『古代ローマ旅行ガイド―― 一日5デナリで行く』(安原和見訳)の姉妹編です。タイムマシンに乗った気分で古代アテネの風物と文化を堪能することができる一冊。「そうだ、ソクラテスに会いに行こう。競技会を観戦→喜劇で大笑い→饗宴でワイン」という帯文が愉快です。図版多数。



★『賤民とは何か』は、2008年に河出書房新社より刊行された単行本の文庫化。巻末特記によれば、「文庫化に祭司、漢字の表記を改め、ルビ、送り仮名を補った。文章は著者が存命でないことと、執筆時の時代状況の観点から、そのままとした」。巻末には塩見鮮一郎さんによる解説「喜田貞吉――頑固者の賤民研究」が付されています。著者の喜田貞吉(きだ・さだきち:1871-1939)は歴史学者。青空文庫で多数の著作を読めますが、紙媒体の文庫版では今年5月に河出文庫より『被差別部落とは何か』が発売されています。



★『現代語訳 藤氏家伝』は文庫オリジナル。鎌足とその息子の貞慧、不比等の長男・武智麻呂、という三人の藤原氏の事績を伝える家史(奈良時代後半成立)です。「律令国家の形成期を理解するための重要伝記」と帯文にあります。現代語訳と原文に加え、佐藤信さんによる「解説」が巻末に付されています。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『街灯りとしての本屋――11書店に聞く、お店のはじめ方・つづけ方』田中佳祐著、竹田信弥構成、雷鳥社、2019年7月、本体1,600円、A5判並製160頁、ISBN978-4-8441-3758-0
『マレーシア映画の母 ヤスミン・アフマドの世界──人とその作品、継承者たち』山本博之編著、英明企画編集、2019年7月、本体2,500円、A5判並製480頁、ISBN978-4-909151-21-6
『ねむらない樹 vol.3』書肆侃侃房、2019年8月、本体1,300円、A5判並製176頁、ISBN978-4-86385-370-6



★『街灯りとしての本屋』は11軒の素敵な書店を紹介する本。えほんやなずな(茨城・つくば)、クラリスブックス(東京・下北沢)、敷島書房(山梨・甲斐)、書肆スーベニア(東京・向島)、せんぱくBOOKBASE(千葉・松戸)、ひなた文庫(熊本・阿蘇)、双子のライオン堂(東京・赤坂)、Cat's Meow Books(東京・世田谷)、H.A.Bookstore(東京・蔵前)、Readin' Writin'(東京・田原町)、SUNNY BOY BOOKS(東京・学芸大学)。仲俣暁生さん、山本貴光さん、松井祐輔さん、田中圭祐さん(本書著者)、竹田信弥さん(本書構成)らによるコラムを併載。第二章「本屋の始め方」では「本屋を始めたい人のためのQ&A」や参考文献などが掲載されています。カラー写真多数。書店の間取り図もあり。編集後記によればすでに第2弾の企画もあるとのことです。


★『マレーシア映画の母 ヤスミン・アフマドの世界』は英明企画編集さんのシリーズ「混成アジア映画の海」の第1弾。マレーシアの映画監督ヤスミン・アフマド(Yasmin Ahmad, 1958-2009)の諸作品を様々な角度から読み解く論文集です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。編者の山本さんは巻頭の「はじめに」でこう書いています。「ヤスミン作品を観ると、混成的なアジア世界を舞台に瑞々しい感性を持つ若本たちが織り成す切ない物語に心が打たれる。〔…〕ヤスミンは、映画を通じて「もう一つのマレーシア」を美しく描くことで、現実のマレーシア社会における心の救済を物語に託した」。なお、渋谷のシアター・イメージフォーラムでは8月23日(金)まで没後10周年記念「ヤスミン・アフマド特集」が上映されています。


★『ねむらない樹 vol.3』は第一特集が「映画と短歌」、第二特集「短歌の言葉と出会ったとき」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。木下龍也さんと町屋良平さんの対談「映画だからできること 短歌と小説にしかできないこと」で、ホラー映画ばかり見るという木下さんは『ノーカントリー』が好きで20回は見ていると町屋さんに話しながら、殺し屋シガーの「不気味さがたまらない。ああいう歌人になりたいですね」と仰っています。町屋さんは「どういう歌人なんでしょうか(笑)」と返します。話の続きは14頁で読むことができます。


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