★まもなく発売(5月10日頃)となるちくま学芸文庫の5月新刊4点5冊は以下の通り。
『神社の古代史』岡田精司著、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,200円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-09913-6
『イタリア・ルネサンスの文化(上)』ヤーコプ・ブルクハルト著、新井靖一訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,500円、文庫判496頁、ISBN978-4-480-09914-3
『イタリア・ルネサンスの文化(下)』ヤーコプ・ブルクハルト著、新井靖一訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,500円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-09915-0
『増補 普通の人びと――ホロコーストと第101警察予備大隊』クリストファー・R・ブラウニング著、谷喬夫訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,600円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-09920-4
『アイデンティティが人を殺す』アミン・マアルーフ著、小野正嗣訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,100円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-09926-6
★『神社の古代史』は2011年に学生社から刊行された単行本『新編 神社の古代史』を文庫化したもの。もともとは83年から85年にかけて朝日カルチャーセンター大阪で行った講座「神社の歴史と文化」(全45回)が85年に『神社の古代史』として書籍化され、版元であった大阪書籍の出版事業撤退に伴い、改訂を加えた新版が学生社から刊行されていました。著者の岡田精司(おかだ・せいし:1929-)さんは日本史学者で、古代祭祀や古代史がご専門。文庫で読める著書は今回の新刊が初めてのものです。
★『イタリア・ルネサンスの文化』上下巻は、2007年に筑摩書房より刊行された単行本全1巻を文庫化に際し上下分冊としたもの。上巻には第二版序言と第1章から第3章まで、下巻には第4章から第6章までと付録(16世紀中頃のイタリア主要都市の人口(概数)、主要家家系図)が収められています。「ちくま学芸文庫版訳者後記」によれば、「訳文中の誤りなどを可能なかぎり訂正した」とのことです。なお、現在も入手可能な文庫で読める同書の既訳には、中公文庫版『イタリア・ルネサンスの文化』(上下巻、柴田治三郎訳、1974年)があります。また、ちくま学芸文庫ではこれまでにブルクハルトの著書を、いずれも新井靖一さんによるもので、1999年に『ギリシア文化史』全8巻、2009年に『世界史的考察』、2012年『ルーベンス回想』と10点刊行しています。いずれも現在は版元品切。今回の新刊はお早目の購読をお薦めします。
★『増補 普通の人びと』は『Ordinary Men: Reserve Police Battalion 101 and the Final Solution in Poland』(HarperCollins, 1992; Revised edition, Harper Perennial, 2017)の全訳。親本は筑摩書房より1997年に刊行。文庫化に際して2017年の原著改訂版から「あとがき」と「二五年のあとで」(資料写真を多数掲載)が追加で訳出され、人名索引が新たに付されています。「訳者あとがき」には「訳文を読みやすくするために貴重なアドヴァイスを〔編集部から〕いただいた」とあるので、既訳分も改訂されているとみていいかと思います。一般市民を中心に編成された第101警察予備大隊がいかにユダヤ人虐殺に関わったかを綿密に検証した、文庫ながらとても重い本です。
★『アイデンティティが人を殺す』は『Les Identités meurtrières』(Grasset, 1998)の文庫オリジナル訳書。「民族や宗教といった分断線に貫かれた、いわば境界線上の人々〔…〕彼らには果たすべき役割があります。さまざまな結びつきを作り出し、誤解を解消させる。理性に訴えかけ、怒りをなだめ、困難を取り除き、和解をもたらす……。彼らの使命は、さまざまな共同体、さまざまな文化のあいだを結ぶハイフン、通路、媒介者となることです。それゆえにこそ、彼らのジレンマが持つ意味は重いわけです。もしも彼らがそのうちに抱える数多くの帰属を受け入れることができないのなら、そしてたえずどの陣営を選ぶかを要求され、どの部族につくかを命じられるとしたら、そのときこそ私たちはこの世界の進み行きに不安を抱くべきなのです」(13~14頁)。マアルーフ(Amin Maalouf, 1949-)はレバノンに生まれ、フランスで活躍する作家。ちくま学芸文庫では『アラブが見た十字軍』(牟田口義郎/新川雅子訳、2001年2月)や『サマルカンド年代記――『ルバイヤート』秘本を求めて』(牟田口義郎訳、2001年12月、版元品切)がこれまでに刊行されています。
★続いて最近出会った新刊を列記します。
『流れといのち――万物の進化を支配するコンストラクタル法則』エイドリアン・ベジャン著、柴田裕之訳、木村繁男解説、紀伊國屋書店、2019年5月、本体2,200円、四六判上製404頁、ISBN978-4-314-01167-9
『もっと速く、もっときれいに――脱植民地化とフランス文化の再編成』クリスティン・ロス著、中村督/平田周訳、人文書院、2019年4月、本体3,500円、4-6判並製310頁、ISBN978-4-409-03102-5
『ウィニコットとの対話』カー・ブレット著、妙木浩之/津野千文訳、人文書院、2019年4月、本体4,000円、4-6判並製412頁、ISBN978-4-409-34054-7
『移民政策とは何か――日本の現実から考える』高谷幸編著、樋口直人/稲葉奈々子/奥貫妃文/榎井縁/五十嵐彰/永吉希久子/森千香子/佐藤成基/小井土彰宏著、人文書院、2019年4月、本体2,000円、4-6判並製256頁、ISBN978-4-409-24124-0
『現代思想2019年5月号 特集=教育は変わるのか――部活動問題・給特法・大学入学共通テスト』青土社、2019年4月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1381-3
★『流れといのち』はまもなく発売(5月10日取次搬入)。『The Physics of Life: The Evolution of Everything』(St, Martin's Press, 2016)の全訳。J・ペダー・ゼインとの共著『流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則』(柴田裕之訳、木村繁男解説、紀伊國屋書店、2013年;『Design in Nature: How the Constructal Law Governs Evolution in Biology, Physics, Technology, and Social Organization』Doubleday Books, 2012)に続く話題作です。熱力学者ベジャンが提唱する「コンストラクタル法則」とは、生物・無生物を問わず、すべてはよりよく流れるかたちに進化する、というもの。この法則によれば、「資本主義は自然に発生する」(104頁)ものであり、「テクノロジーの進化は、動物の進化や河川流域の深化、科学の進化と何ら変わりはしない」(33頁)と。あらゆる事象を物理的現象として見るその徹底ぶりは挑発的ですらありますが、ベジャンはアメリカでは昨年フランクリン・メダルを受賞しています。
★人文書院さんの最新刊より3点。いずれも取次搬入日は4月26日。『もっと速く、もっときれいに』は『Fast Cars, Clean Bodies: Decolonization and the Reordering of French Culture』(MIT Press, 1995)の全訳。ロスの単独著の訳書は『68年5月とその後――反乱の記憶・表象・現在』(箱田徹訳、航思社、2014年)に続く2冊目。「本書が68年5月という出来事の手前で考察を終えたのは、むしろそれに先立つ10年間で生じたフランスの近代化という出来事を考察――すなわち、フランスの近代化を出来事として考察――したかったからである」(序文、13頁)。
★『ウィニコットとの対話』は『Tea with Winnicott』(Karnac, 2016)の本文の全訳。原著にあった挿絵は省略されています。ウィニコット研究の第一人者が様々な文献や未公開資料を駆使してウィニコットとの仮想対話を試みたユニークな入門書。なお『ウィニコット著作集』(本巻全8巻、別巻2巻)は岩崎学術出版社より刊行。
★『移民政策とは何か』は先月(2019年4月)からスタートした外国人労働者受け入れ拡大のための新制度(入管法改正:出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律)を受けて様々なテーマから書かれた10本の論考を収めた論文集。ほぼ「緊急出版」と言っていいスピード感です。
★「現代思想」5月号は鉄板の大学特集から少し観点を拡張して教育もの。ブラック部活、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)、読解力、など問題の案件をめぐる論考が並んでいます。磯崎新さんの連載は今回の第二回からタイトル変更。「造物主義論 〈建築〉――あるいはデミウルゴスの“構築”」から端的に「デミウルゴス」に。次号(6月号)の特集は「加速主義――資本主義の疾走、未来への〈脱出〉」。木澤佐登志さんやニック・ランドの論考が載る予定ですが、ちょうど木澤さんの第二作『ニック・ランドと新反動主義――現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』(星海社新書)と同時期の発売ですね。
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『神社の古代史』岡田精司著、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,200円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-09913-6
『イタリア・ルネサンスの文化(上)』ヤーコプ・ブルクハルト著、新井靖一訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,500円、文庫判496頁、ISBN978-4-480-09914-3
『イタリア・ルネサンスの文化(下)』ヤーコプ・ブルクハルト著、新井靖一訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,500円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-09915-0
『増補 普通の人びと――ホロコーストと第101警察予備大隊』クリストファー・R・ブラウニング著、谷喬夫訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,600円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-09920-4
『アイデンティティが人を殺す』アミン・マアルーフ著、小野正嗣訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,100円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-09926-6
★『神社の古代史』は2011年に学生社から刊行された単行本『新編 神社の古代史』を文庫化したもの。もともとは83年から85年にかけて朝日カルチャーセンター大阪で行った講座「神社の歴史と文化」(全45回)が85年に『神社の古代史』として書籍化され、版元であった大阪書籍の出版事業撤退に伴い、改訂を加えた新版が学生社から刊行されていました。著者の岡田精司(おかだ・せいし:1929-)さんは日本史学者で、古代祭祀や古代史がご専門。文庫で読める著書は今回の新刊が初めてのものです。
★『イタリア・ルネサンスの文化』上下巻は、2007年に筑摩書房より刊行された単行本全1巻を文庫化に際し上下分冊としたもの。上巻には第二版序言と第1章から第3章まで、下巻には第4章から第6章までと付録(16世紀中頃のイタリア主要都市の人口(概数)、主要家家系図)が収められています。「ちくま学芸文庫版訳者後記」によれば、「訳文中の誤りなどを可能なかぎり訂正した」とのことです。なお、現在も入手可能な文庫で読める同書の既訳には、中公文庫版『イタリア・ルネサンスの文化』(上下巻、柴田治三郎訳、1974年)があります。また、ちくま学芸文庫ではこれまでにブルクハルトの著書を、いずれも新井靖一さんによるもので、1999年に『ギリシア文化史』全8巻、2009年に『世界史的考察』、2012年『ルーベンス回想』と10点刊行しています。いずれも現在は版元品切。今回の新刊はお早目の購読をお薦めします。
★『増補 普通の人びと』は『Ordinary Men: Reserve Police Battalion 101 and the Final Solution in Poland』(HarperCollins, 1992; Revised edition, Harper Perennial, 2017)の全訳。親本は筑摩書房より1997年に刊行。文庫化に際して2017年の原著改訂版から「あとがき」と「二五年のあとで」(資料写真を多数掲載)が追加で訳出され、人名索引が新たに付されています。「訳者あとがき」には「訳文を読みやすくするために貴重なアドヴァイスを〔編集部から〕いただいた」とあるので、既訳分も改訂されているとみていいかと思います。一般市民を中心に編成された第101警察予備大隊がいかにユダヤ人虐殺に関わったかを綿密に検証した、文庫ながらとても重い本です。
★『アイデンティティが人を殺す』は『Les Identités meurtrières』(Grasset, 1998)の文庫オリジナル訳書。「民族や宗教といった分断線に貫かれた、いわば境界線上の人々〔…〕彼らには果たすべき役割があります。さまざまな結びつきを作り出し、誤解を解消させる。理性に訴えかけ、怒りをなだめ、困難を取り除き、和解をもたらす……。彼らの使命は、さまざまな共同体、さまざまな文化のあいだを結ぶハイフン、通路、媒介者となることです。それゆえにこそ、彼らのジレンマが持つ意味は重いわけです。もしも彼らがそのうちに抱える数多くの帰属を受け入れることができないのなら、そしてたえずどの陣営を選ぶかを要求され、どの部族につくかを命じられるとしたら、そのときこそ私たちはこの世界の進み行きに不安を抱くべきなのです」(13~14頁)。マアルーフ(Amin Maalouf, 1949-)はレバノンに生まれ、フランスで活躍する作家。ちくま学芸文庫では『アラブが見た十字軍』(牟田口義郎/新川雅子訳、2001年2月)や『サマルカンド年代記――『ルバイヤート』秘本を求めて』(牟田口義郎訳、2001年12月、版元品切)がこれまでに刊行されています。
★続いて最近出会った新刊を列記します。
『流れといのち――万物の進化を支配するコンストラクタル法則』エイドリアン・ベジャン著、柴田裕之訳、木村繁男解説、紀伊國屋書店、2019年5月、本体2,200円、四六判上製404頁、ISBN978-4-314-01167-9
『もっと速く、もっときれいに――脱植民地化とフランス文化の再編成』クリスティン・ロス著、中村督/平田周訳、人文書院、2019年4月、本体3,500円、4-6判並製310頁、ISBN978-4-409-03102-5
『ウィニコットとの対話』カー・ブレット著、妙木浩之/津野千文訳、人文書院、2019年4月、本体4,000円、4-6判並製412頁、ISBN978-4-409-34054-7
『移民政策とは何か――日本の現実から考える』高谷幸編著、樋口直人/稲葉奈々子/奥貫妃文/榎井縁/五十嵐彰/永吉希久子/森千香子/佐藤成基/小井土彰宏著、人文書院、2019年4月、本体2,000円、4-6判並製256頁、ISBN978-4-409-24124-0
『現代思想2019年5月号 特集=教育は変わるのか――部活動問題・給特法・大学入学共通テスト』青土社、2019年4月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1381-3
★『流れといのち』はまもなく発売(5月10日取次搬入)。『The Physics of Life: The Evolution of Everything』(St, Martin's Press, 2016)の全訳。J・ペダー・ゼインとの共著『流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則』(柴田裕之訳、木村繁男解説、紀伊國屋書店、2013年;『Design in Nature: How the Constructal Law Governs Evolution in Biology, Physics, Technology, and Social Organization』Doubleday Books, 2012)に続く話題作です。熱力学者ベジャンが提唱する「コンストラクタル法則」とは、生物・無生物を問わず、すべてはよりよく流れるかたちに進化する、というもの。この法則によれば、「資本主義は自然に発生する」(104頁)ものであり、「テクノロジーの進化は、動物の進化や河川流域の深化、科学の進化と何ら変わりはしない」(33頁)と。あらゆる事象を物理的現象として見るその徹底ぶりは挑発的ですらありますが、ベジャンはアメリカでは昨年フランクリン・メダルを受賞しています。
★人文書院さんの最新刊より3点。いずれも取次搬入日は4月26日。『もっと速く、もっときれいに』は『Fast Cars, Clean Bodies: Decolonization and the Reordering of French Culture』(MIT Press, 1995)の全訳。ロスの単独著の訳書は『68年5月とその後――反乱の記憶・表象・現在』(箱田徹訳、航思社、2014年)に続く2冊目。「本書が68年5月という出来事の手前で考察を終えたのは、むしろそれに先立つ10年間で生じたフランスの近代化という出来事を考察――すなわち、フランスの近代化を出来事として考察――したかったからである」(序文、13頁)。
★『ウィニコットとの対話』は『Tea with Winnicott』(Karnac, 2016)の本文の全訳。原著にあった挿絵は省略されています。ウィニコット研究の第一人者が様々な文献や未公開資料を駆使してウィニコットとの仮想対話を試みたユニークな入門書。なお『ウィニコット著作集』(本巻全8巻、別巻2巻)は岩崎学術出版社より刊行。
★『移民政策とは何か』は先月(2019年4月)からスタートした外国人労働者受け入れ拡大のための新制度(入管法改正:出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律)を受けて様々なテーマから書かれた10本の論考を収めた論文集。ほぼ「緊急出版」と言っていいスピード感です。
★「現代思想」5月号は鉄板の大学特集から少し観点を拡張して教育もの。ブラック部活、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)、読解力、など問題の案件をめぐる論考が並んでいます。磯崎新さんの連載は今回の第二回からタイトル変更。「造物主義論 〈建築〉――あるいはデミウルゴスの“構築”」から端的に「デミウルゴス」に。次号(6月号)の特集は「加速主義――資本主義の疾走、未来への〈脱出〉」。木澤佐登志さんやニック・ランドの論考が載る予定ですが、ちょうど木澤さんの第二作『ニック・ランドと新反動主義――現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』(星海社新書)と同時期の発売ですね。
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