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注目新刊:エーディト・シュタイン『有限存在と永遠存在』水声社、ほか

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『有限存在と永遠存在――存在の意味への登攀の試み』エーディト・シュタイン著、道躰章弘訳、水声社、2019年3月、本体8,000円、A5判上製602頁、ISBN978-4-8010-0420-7
『新装版 ライプニッツ著作集 第I期[6]宗教哲学[弁神論]上』G・W・ライプニッツ著、佐々木能章訳、工作舎、2019年3月(初版1990年1月)、本体8,200円、A5判上製352頁+手稿8頁、ISBN978-4-87502-505-4 
『新装版 ライプニッツ著作集 第I期[7]宗教哲学[弁神論]下』G・W・ライプニッツ著、佐々木能章訳、工作舎、2019年3月(初版1991年5月)、本体8,200円、A5判上製336頁+手稿8頁、ISBN978-4-87502-506-1
『精神分析学入門』フロイト著、懸田克躬訳、中公文庫、2019年3月、本体1,500円、文庫判768頁、ISBN978-4-12-206720-2



★『有限存在と永遠存在』は、ブレスラウ(旧ドイツ帝国、現ポーランド)生まれ、フッサールに学んだユダヤ人哲学者で、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所のガス室で亡くなった修道女のエーディト・シュタイン(Edith Stein, 1891-1942)の主著『Endliches und ewiges Sein: Versuch eines Aufstiegs zum Sinn des Seins』(Nauwelaerts / Herder, 1950)の全訳。執筆されたのは1935年から36年にかけての時期ですが、当時の発禁処分により死後刊行となったものです。底本はヘルダー社の新版全集11巻および12巻の合本版(2013年版、初版は2006年)とのことです。主要目次は書名のリンク先をご覧ください。訳者後記の言葉を借りると本書は、現象学を用いつつ「神を意識する哲学を構築し」「全存在の知解性の根源たる「第一存在」の意味へ」と向かうことにより「有限と無限なる両原理を総合」しようとしたもの。訳者の道躰さんによるシュタインの訳書は『国家研究』(水声社、1997年)に続く2点目です。


★シュタインは『有限存在と永遠存在』の第1章「緒論――存在の問題」でこう書いています。「神は己れの叡智が良しとする範囲内で、己れの叡智に相応しい方法で、人間精神に己れを伝達する。範囲を拡げるか否かは神の意志次第である。人間の思考方法に適合した形で、つまり漸進的認識に合わせ、概念的・断定的把握に即して啓示を与える、人間を自然的思考方法から引き上げ、それとは似ても似つかぬ認識方法へと拉し去り、一目ですべてを把捉する神の視点に据える、いずれも神の裁量である。真理探究としての哲学の到達点とは他でもない、神的叡智である。神をも全被造物をも把握せしめる単一の視点である。被造の精神が(無論自力によらずして)到達し得る極致とは、神のお蔭で神との合一を現出する「至福の視点」である。神の恵与せる視点である。被造の精神は神の生命と共生し、かくて神的認識に参入するのである。地上に生を営む間は、神秘的視覚心像が、上記の至高の目的を達成するための最重要な手掛かりとなる。が、かかる至福の恩寵に頼らぬ予備段階もある。真の生きた信仰がそれである」(43~44頁)。


★偶然ではありますが、シュタインの『有限存在と永遠存在』が初訳されたのとほぼ同時期にライプニッツの『弁神論』上下巻が再刊されたのは読書界にとっては良い贈物です。この二作を並行して読むことは、西欧哲学の深淵を読者に覗かせるものとなるでしょう。


★『新装版 ライプニッツ著作集 第I期[6/7]宗教哲学[弁神論]上下』は、新装復刊の第4回配本。『弁神論(Essais de Théodicée)』は1710年にアムステルダムで刊行。本論の副題にある通り、「神の正義、人間の自由、悪の起源について」を主題として書かれており、フランスの同時代人ピエール・ベール(Pierre Bayle, 1647-1706)による大著『歴史批評辞典』や『田舎人の問いへの答え』(野沢協個人訳『ピエール・ベール著作集』第3~5巻、第7~8巻参照)への批判的検討を試みています。


★ライプニッツは序文と本論の間に置かれた「信仰と理性の一致についての緒論」でこう述べています。「理性が何らかの命題を破壊するなら、理性はその反対の命題を打ち建てるのである。反対しあう二つの名大を理性が同時に破壊しているように思えるときには、理性が進めるところまでわれわれが付いて行くなた、理性はわれわれに何か深いものを約束してくれる。ただしこのときには論争的な精神によって付いて行くのではなく、真理を求め洞見せんとする熱い願いをもって付いて行くのである。こうすれば必ず望外の成果を収めることになろう」(112頁)。


★さらにこうも書いています。「啓示的信仰に対する反論が現われたときには、神の栄光を保持し高めようという意図の下で、柔順にして情熱的な精神をもってすれば反論を突き返すことが十分にできる。そして神の正義に対する反論を巧みに一蹴できたなら、神の偉大さについて改めて驚嘆し、神の善意に心魅かれることであろう。これら神の正義、偉大さ、善意は、われわれには見えないが十分に確実な真の理性によって精神が高まるに応じて、それまで視覚によって欺かれていた見かけの理性という雲を突き抜けて行くようだ」(113頁)。


★「神の善意と正義とを論証的に確信しているならば、われわれの目に映じる偏狭な世界での冷酷さや不公正という現象は、無視できるのである。これまでわれわれを照らしていたのは自然の光と恩寵の光であったが、それに栄光の光を付け加えることはなかった。地上にはみかけの不公正があるが、われわれはそこに神の正義の真理が隠されていることを信じているし、知ってもいる。しかし正義という太陽がその真相を露わにするときには、われわれはその正義を目にすることであろう」(113~114頁)。


★『精神分析学入門』は中公文庫プレミアム「知の回廊」シリーズの最新刊。旧版は1973年刊。巻末の編集付記によれば、旧版29刷(2014年10月)を底本とし、中公クラシックス版『精神分析学入門』全2巻を参照したとのことで、新たに柄谷行人さんによるエッセイ「フロイトについて」(759~764頁)が追加されています。


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★また最近では次の新刊との出会いがありました。


『イタリアン・セオリーの現在』ロベルト・テッロージ著、柱本元彦訳、平凡社、2019年3月、本体4,200円、4-6判上製464頁、ISBN978-4-582-70347-4
『大清律・刑律――伝統中国の法的思考(2)』谷井俊仁/谷井陽子訳解、東洋文庫(894):平凡社、2019年3月、B6変判上製函入376頁、ISBN978-4-582-80894-0

『〈後期〉ハイデガー入門講義』仲正昌樹著、作品社、2019年3月、本体2,000円、46判並製400頁、ISBN978-4-86182-739-6
『黒人小屋通り』ジョゼフ・ゾベル著、松井裕史訳、作品社、2019年3月、本体2,600円、四六判上製296頁、ISBN978-4-86182-729-7



★まずは平凡社さんの3月新刊より2点。『イタリアン・セオリーの現在』はイタリアでキュレーターとして活躍し、現在はイタリアと日本の各大学で教鞭を執るロベルト・テッロージ(Roberto Terrosi, 1965-)さんによる2015年の書き下ろし作『Filosofia italiana contemporanea: Un'introduzione critica』の訳書。テッロージさんはイタリアの美学者マリオ・ペルニオーラ(Mario Perniola, 1941-2018)の弟子で、本書が初めての訳書となります。目次は以下に転記しておきます。


はじめに
序説
第一部 イタリアン・セオリー
 前史 1960・70年代のイタリア極左運動――イタリアのポストモダンとイタリアン・セオリーの文化的土壌
 イタリア・セオリー――鍵概念
 生政治
  ネグリの生政治
  アガンベンの生政治
  エスポジトの生政治
  生政治に関する結論
 共同体とコモン
  アガンベンの共同体
  エスポジトの共同体
  マルチチュードとしての共同体
  共同体に関する結論
 政治神学
  シュミット・リヴァイヴァル
  基本的概念
  討論
 身体の政治学とイタリアン・セオリーの背景
  剥き出しの生とペルソナ
  ネグリ工房
  ナポリの状況
インテルメッツォⅠ
 1990年代のテクノロジーの思想と哲学的人間学
  サイバーパンク
  ポストヒューマン
  哲学的人間学の再発見
第二部 イタリアのポストモダン
 イタリアのポストモダン誕生時の社会と文化
  ニーチェ・ルネサンス
  ヴァッティモとハイデガー主義
  主観なき主観主義
  資本主義の再編
  ポストモダンのベル・エポック
  弱い思考
  ラディカル・シック
  イタリアのメディア、そして記号学の短い黄金時代
  シミュラクル
  雑誌『アルファベータ』
  イタリアのポストモダンとアメリカのモストモダン
  ヴェルディリョーネ――八方美人的知識人から犯罪的知識人へ
 ポストモダンのテーマ
  美学
  解釈学
  ハイデガーの影響
  ニヒリズム
  古典文化への回帰
 ポストモダンの哲学者たちと神学文化
  教会とカトリック神学の状況
  カッチャーリの展開
  ヴァッティモとペルニオーラ
 フェミニズムの思想
 複雑系の科学認識論
インテルメッツォⅡ
 地方とメディア
  エンツォ・メランドリ
  ロベルト・ディオニジ
  「セヴェリーノ」のケース
  ウンベルト・ガリンベルディ
  アウトサイダー――マンリオ・ズガランブロの場合
第三部 アカデミズムの哲学
 イタリアのアカデミズムの状況
 現象学のハイデガー
  ミラノの現象学派
  受動的綜合
  神経現象学と鏡ニューロン
 イタリアの分析哲学
  新実在論
 科学史と認識論
 古代哲学
 アカデミズムの政治哲学
  マルクス主義
  超保守主義と秘教主義
  右翼思想
あとがき
引照・参考文献一覧
人名索引


★「第一部はいわゆるイタリアン・セオリーを扱う。つまり政治的または政治神学的な背景をもったあれらの哲学、アメリカをはじめ英語圏の国々で思いがけない流行現象を巻き起こした思想がテーマである。第二部はイタリアン・セオリーに先行するポストモダンの哲学、そして第三部はアカデミズムの哲学の特徴と主な潮流について述べる。さらにテクノロジーの思想に関する記述を追加した。これはとりわけ1990年代のイタリアに展開したものだが、ポストモダンやイタリアン・セオリーのような世界的影響力はもたなかった」(「はじめに」9頁)。


★イタリア現代思想の入門書には、岡田温司さんの二つの著書、『イタリア現代思想への招待』(講談社選書メチエ、2008年)、『イタリアン・セオリー』(中公叢書、2014年)などがありましたが、テッロージさんの新刊は新たな定番として認知されていくのではないでしょうか。本書の刊行は日本におけるイタリア現代思想の受容を新たなレベルに引き上げるものだと感じます。


★『大清律・刑律2』は全2巻の第2巻。中国清代の法典『大清律』巻18~28の「刑律」の本文と原註(いわゆる小註)の全訳。沈之奇『大清律輯註』での注釈に基づく解説を付しています。第2巻は、受贓篇、詐欺篇、犯姦篇、雑犯篇、捕亡篇、断獄篇を収録。巻末には訳註、改訂箇所一覧(雍正律、乾隆律)、参考文献、あとがき、索引が配されています。次回配本は2019年6月、『泰山』とのことです。


★次に作品社さんの3月新刊より2点。『〈後期〉ハイデガー入門講義』は2017年4月から11月にかけて読書人スタジオで行われた全7回の連続講義に加筆修正したもの。『形而上学入門』と『「ヒューマニズム」について』の読解を通じ、『存在と時間』以後の転回(ケーレ)を経た後期ハイデガーを解説しています。本書の冒頭で仲正さんはこう書いています。「近現代の哲学史の標準的教科書を書く場合〔…〕ハイデガーを省くことは困難だろう。ハイデガーを消せば、少なくとも、サルトル、メルロ=ポンティ、レヴィナス、アーレント、ハーバマス、デリダも消さざるを得なくなる。最近、天才哲学者として人気が出ているマルクス・ガブリエルを新たに書き加えるのも困難になるだろう」(1頁)。『ハイデガー哲学入門――『存在と時間』を読む』(講談社現代新書、2015年)に続く成果です。


★『黒人小屋通り』はフランス領マルチニック島(マルティニーク島とも)生まれの小説家ジョゼフ・ゾベル(joseph Zobel, 1915-2006)の自伝的小説『La Rue Cases-Nègres』(Éditions Présence Africaine, 1950)の訳書。1920年代から30年代前半のマルチニック島での植民地社会が少年の視点で描かれており、カリブ海文学の古典として高名。別刷付録として「マルチニック島詳細図」と「マルチニック島周辺地図」が付されています。同作品は1983年に映画化され日本でも1985年に『マルチニックの少年』として公開されていましたが、原作の日本語訳は初めてです。


★さらに次の書目との出会いもありました。年度末の忙しさから詳しくは言及できないのですが、書誌情報を列記します。


『全ロック史』西崎憲著、人文書院、2019年2月、本体3,800円、A5判並製512頁、ISBN978-4-409-10041-7
『皇室財産の政治史――明治二〇年代の御料地「処分」と宮中・府中』池田さなえ著、人文書院、2019年3月、本体6,800円、A5判上製444頁、ISBN978-4-409-52076-5
『長崎の痕』大石芳野写真、藤原書店、2019年3月、本体4,200円、四六倍判変型並製288頁、ISBN978-4-86578-219-6
『象徴でなかった天皇――明治史にみる統治と戦争の論理』岩井忠熊/広岩近広著、藤原書店、2019年3月、本体3,300円、四六並製304頁、ISBN978-4-86578-217-2
『兜太 TOTA vol.2〈特集〉現役大往生』藤原書店、2019年3月、本体1,800円、A5並製192頁、ISBN978-4-86578-216-5
『現実のクリストファー・ロビン――瀬戸夏子ノート2009-2017』瀬戸夏子著、書肆子午線、2019年3月、本体2,700円、四六判並製筒函入416頁、ISBN978-4-908568-20-6
『現代思想2019年4月号 特集=新移民時代――入管法改正・技能実習生・外国人差別』青土社、2019年3月、本体1,400円、A5判並製238頁、ISBN978-4-7917-1379-0



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