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注目新刊:スヴェンセン『働くことの哲学』、ほか

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働くことの哲学
ラース・スヴェンセン著 小須田健訳
紀伊國屋書店 2016年4月 本体1,700円 46判並製264頁 ISBN978-4-314-01136-5

帯文より:働くなかで、私たちは世界に爪あとを残してゆく――「仕事は人生の意味そのものを与えてくれるか」「自己実現の神話を信じすぎることで、かえって仕事が災いになってはいないか」「給料の額と幸福感は比例するか」……ノルウェーの気鋭の哲学者が、現代に生きる私たちが幸福で満たされた生活を求める中で、「仕事」がどのような位置を占めるのかを探求する。

★まもなく発売(7日発売予定)。原書は、Work, Second edition, Routledge, 2016です。初版は2008年で、2016年に刊行されたのは増補改訂第二版とのことです。著者のラース・スヴェンセン(Lars Svendsen, 1960-)はノルウェーの哲学者。「工場の清掃助手、スポーツライターなどの職を経て、現在はベルゲン大学教授」(本書著者紹介より)でいらっしゃいます。既訳書に『退屈の小さな哲学』(鳥取絹子訳、集英社新書、2005年、現在品切;仏語版〔Petite philosophie de l'ennui, Fayard, 2003〕より訳出)があります。同書を「大変優れた書物」と評して自著に参照されていた國分功一郎さんが、今回の『働くことの哲学』に推薦文を寄せておられます。曰く「生きがい、意味、人生、実存。この本は暇と退屈に向き合うことを運命付けられた人間存在の諸問題に、〈働くこと〉という実に身近な観点から取り組んでいる。読者はここに、いかに生きるべきかという倫理的問いについての一つのヒントを手にするであろう」。

★目次は書名のリンク先をご覧ください。「第二版への序文」に曰く「第一版で、仕事の歴史やその定義と意義、仕事とレジャーの関係などについて書いたことのほとんどは、ちょっとした部分を改訂するだけでよかったが、飽食の時代における仕事や仕事の未来をあつかった後半のいくつかの章は、はるかに徹底的な改訂をしないわけにはゆかなくなった。さらに、仕事とグローバリゼーションを主題とした短いが新たな一章を書きたした」とのことです。それに続く「序」によれば、本書は仕事の「実存的な側面」つまり「どのような意味ないし意義をもつものであるのか」に焦点を当てています。また、最終章(第10章)「人生と仕事」ではこうも書いています。「私たちが生きる上で必要とすることは、けっして仕事だけに尽きはしない。仕事イコール人生ではないのだ」(234頁)。

★「完璧な幸福の状態――そもそもこれが、まったくの現実離れした理想だ――を達成しそこなうということそれ自体が、私たちを不幸にする。だから、私たちが自分の人生を幸せだと感じられないとしたら、ちょっと時間をかけて、問題はことによると仕事そのものにではなく、私たちが仕事に寄せる期待のうちにあるのではと考えてみるのもよいかもしれない。/だれにだって、仕事が退屈に感じられるときはある。問題は、私たちがこの退屈を受けいれそれとともに生きてゆけるかどうかだ」(235頁)。かくして本書の読者は彼の世界的ベストセラーである『退屈の小さな哲学』にも興味が湧いてくることでしょう。版元品切ですが、図書館に行けばたいていは所蔵しているかと。

★個人的には第5章「管理されること」における、現代人のビジネス観やリーダー観に対する痛烈な批判が特に興味深かったです。ビジネス書売場におつとめで、海外の自己啓発書のベストセラーに内心うんざりされている方は、それらの本が次々に言及される145頁以降にある種の「解毒作用」を感じられるのではないかと思います。

★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。

『錯乱の日本文学――建築/小説をめざして』石川義正著、航思社、 2016年3月、本体3,200円、46判上製344頁、ISBN978-4-906738-17-5
『ドイツ軍事史――その虚像と実像』大木毅著、作品社、2016年3月、本体2,800円、46判上製448頁、ISBN 978-4-86182-574-3
『黒い本』オルハン・パムク著、鈴木麻矢訳、藤原書店、2016年3月、本体3,600円、四六変上製592頁、ISBN978-4-86578-062-8

★『錯乱の日本文学』は4月1日取次搬入済。文芸評論家の石川義正(いしかわ・よしまさ:1966-)さんの初の単著となる本書は、「早稲田文学」での連載「小説空間のモダニティ」から4編「小島信夫の「家」」「大岡昇平の「東京タワー」」「大江健三郎の「塔」」「村上春樹の「システム」」を全面的に改稿し、2編の書き下ろし「イメージは無料ではない」「大江健三郎の「総力戦」」とともに収録。版元紹介文に曰く「文芸批評と建築・文化批評のハイブリッド」と。渡部直己さんは次のように推薦文を寄せておられます。「もはや「小説は芸術ではない」。ならば、「批評」はいま何処に居住すればよいのか?「記号」の錯乱形成を冴えやかに語りながら、石川義正が無慈悲なほど正確に指呼するのは、その吹きさらしの場所である。・・・おそらくは、すでに臨戦状態の!」。著者はあとがきにこう記しています。「今日、文学をめぐる言説が存在するためには、文学の外部の諸力について思考するよりほかないはずである。文学が文学であるためにはもはやほとんど文学であってはならないように、文芸批評が文芸批評であるためにはもはやほとんど文芸批評であってはならないのだ」(331頁)。航思社さんの本のほとんどすべてを手掛けるデザイナー前田晃伸さんの装丁はいつも通り素晴らしく、シンプルなカバー・帯と前衛的な表紙のコントラストが印象的です。

★『ドイツ軍事史』は発売済。シミュレーションゲーム専門誌「コマンドマガジン」(国際通信社)をはじめとする各種媒体に寄稿したものを私家版としてまとめた戦史エッセイ集からの選り抜きに、書き下ろしや発表済の学術論文などを加えて一冊としたもの。帯文に曰く「戦後70年を経て機密解除された文書、ドイツ連邦軍事文書館や当事者の私文書など貴重な一次史料から、プロイセン・ドイツの外交、戦略、作戦、戦術を検証。戦史の常識を疑い、“神話”を剥ぎ、歴史の実態に迫る」と。巻頭の「序に代えて」で著者はこう述懐しておられます。「日本におけるドイツ軍事史の理解は(「狭義の軍事史」と限定しておこう)、欧米のそれに比して、おおよそ20年、テーマによっては30年のタイムラグが生じているというのが、筆者の印象である。/本書に収録された文章の多くは、〔・・・〕こうした溝を少しでも埋められないかという動機から書かれた」と。著者の大木毅(おおき・たけし:1961-)さんは防衛省研究所や自衛隊幹部学校などでも教鞭を執っておっれるとのことです。

★『黒い本』は発売済。原書は『Kara Kitap』(1994年)です。著者4作目の長編小説で、最高傑作との呼び声が高い作品です。訳者あとがきでの紹介によれば「失踪した妻を探す男の絶望的な愛の彷徨を、イスラム神秘主義的説話を織り交ぜつつ描いた美しい作品」で、昨年にはトルコで出版記念25周年ヴァージョンが出版されたとのことです。さらに「難解な謎に満ちた本書が読み出た数年後に出版された「論説集」もいまだに版を重ねているほか、〔・・・〕あらゆる情報を網羅した『黒い本の秘密』なる完全読本まで登場している」とも。また、本書のどこかにあるという仕掛けについて、「英語版でも試みられたということなので、日本語版もジェラール〔主人公の従兄〕が得意とする「縦読み」やメッセージを忍ばせてみたが、いつの日か気づいてもらえるだろうか」と明かしておられます。縦組の本なので、その仕掛けに気づくためには本書に埋め込まれたジェラールによる新聞コラムを手がかりにするほかありません。


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