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注目新刊:戦慄のオニール『数学破壊兵器』の訳書がインターシフトより、ほか

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『自然―HAPAX9』夜光社、2018年6月、本体1,100円、四六判変形156頁、ISBN978-4-906944-14-9
『サラム ひと』崔真碩著、民衆詩叢書1:夜光社、2018年6月、1,100円、四六判変形122頁、ISBN978-4-906944-15-6
『子午線:原理・形態・批評6』書肆子午線、2018年6月、本体2,400円、B5変形判324頁、ISBN978-4-908568-13-8
『チビクロ――松本圭二セレクション第9巻(エッセイ&批評)』松本圭二著、航思社、2018年6月、本体3,400円、四六判上製368頁、ISBN978-4-906738-33-5
『今宵はなんという夢見る夜――金子光晴と森三千代』柏倉康夫著、左右社、2018年6月、本体4,200円、四六判並製416頁、ISBN978-4-86528-201-6
『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール著、久保尚子訳、インターシフト発行、合同出版発売、本体1,850円、四六判並製336頁、ISBN978-4-7726-9560-2
『哲学者190人の死にかた』サイモン・クリッチリー著、杉本隆久/國領佳樹訳、河出書房新社、2018年6月、本体2,400円、46判奈美氏江376頁、ISBN978-4-309-24870-7
『周作人読書雑記3』周作人著、中島長文訳注、東洋文庫889:平凡社、2018年6月、本体3,300円、B6変判上製函入442頁、ISBN978-4-582-80889-6
『近世金沢の銀座商人――魚問屋、のこぎり商い、薬種業、そして銀座役』中野節子著、平凡社選書234:平凡社、2018年6月、本体2,800円、4-6判上製240頁、ISBN978-4-582-84234-0
『有職装束大全』八條忠基著、平凡社、2018年6月、本体6,800円、B5判上製320頁、ISBN978-4-582-12432-3



★夜光社さんの6月新刊2点。『HAPAX6』は「自然」がテーマ。高祖岩三郎さん、白石嘉治さん、森元斎さんらによる10篇のテクストを掲載。収録作の一覧は版元ウェブサイトでご覧いただけます。HAPAX bisによる「二月某日の疲れをもよおさせる議論」はあたかも同誌の編集会議や勉強会を覗くような印象があって非常に興味深いです。ダニエル・コルソン(Daniel Colson, 1944-)による『アナキズム哲学小辞典――プルードンからドゥルーズまで』(Petit lexique philosophique de l'anarchisme. De Proudhon à Deleuze, Le Livre de Poche / Librairie Générale Française, 2001)から、「外の力能」という項目が全訳されていますが、同辞典はいずれ夜光社さんから全訳が出るとのことです。


★『サラム ひと』は、夜光社さんの新シリーズ「民衆詩叢書」の第一弾。広島大学大学院総合科学研究科の准教授にして文学者の崔真碩(ちぇ・じんそく:1973-)さんが2015年から2016年にかけて各誌で発表してきた詩と散文9篇に加筆修正を施し、3篇の新作とともに一冊としたもの。行友太郎さんによる解説「崔真碩同志の思想」が巻末に付されています。書名にもなっている「サラム ひと」の「サラム」とは「朝鮮語で人の意」(18頁)。崔さんは「私がこの名前に込めているのは、朝鮮人と日本人の共生だ。朝鮮と日本は共に在る、運命共同体。共生のための名前。祈りとしての〈サラム ひと〉」(80頁)と書いています。


★なお、夜光社さんでは今月、『共犯者たち』上映シンポ実行委員会発行の『政治権力VSメディア――映画『共犯者たち』の世界』と、アジア女性資料センター発行の『女たちの21世紀 no.94 特集 生活から問う改憲と天皇制』も発売されるとのことです。どちらの概要も、ツバメ出版流通さんのウェブサイトで公開されているPDFにて確認することができます。


★『子午線:原理・形態・批評6』は、前号より約1年半ぶりの最新号。究極Q太郎さんへのロング・インタヴュー「政治性と主観性/運動することと詩を書くこと」、稲川方人さん、松本圭二さん、森本孝徳さんの三氏による連続討議「現代詩の「墓標」」の第一回となる「60年代詩」、さらに詩人にして校正者の安里미겔(あさと・ミゲル:1969-)さんによる作品三作、大杉重男さんら4氏による批評4篇、藤本哲明さんら3氏による詩3篇などが掲載されています。究極さんと安里さんの二人の磁場が強烈です。書店員の皆さんはご存知かと思いますが、『子午線』はツバメ出版流通さんで扱われています。


★『チビクロ』は航思社さんの「松本圭二セレクション」の最終回配本となる第9巻。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「詩/文学」「詩/映画」「映画/フィルム」の三章立てで、帯文に曰く「大岡信、稲川方人、岡田隆彦、絓秀実、渡部直己、イーストウッド、ヴェンダース、ゴダールを相手に、何をどのように論じたのか。著者30歳から書きつづってきたエッセイ&批評の集大成」と。付属する栞には、山本均「資本主義とオルタナティヴ」、坂口一直「松本圭二の思い出」、そして著者解題が掲載されています。どの巻もそうでしたが、栞の妙味には抗いがたいものがあります。


★柏倉康夫『今宵はなんという夢見る夜』は、詩人の金子光晴(1895-1975)さんと作家の森三千代(1901-1977)さんのそれぞれの作品を読み解くとともに、約4年間の海外放浪を含む、二人が過ごした日々を鮮やかに描いた評伝です。書名は森さんの『インドシナ詩集』所収の作品「星座」からの引用。著者の柏倉さんは「まえがき」でこう書いておられます。「彼ら二人の心のうちで繰り広げられた愛と嫉妬の劇は、金子光晴という希有の詩人の形成を解く鍵でもある」。「〔森の作品を〕合わせ鏡として参照することにより、金子の「自伝」が含む虚構の部分を照らしだすことができる」。


★オニール『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』はまもなく発売。『Weapons of Math Destruction: How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy』(Crown, 2016)の訳書です。数々の海外メディアで年間ベストブックに選ばれており、新井紀子さん(『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』)や、ユヴァル・ノア・ハラリさん(『サピエンス全史』)も絶賛されている問題作。版元ウェブサイトで目次と「はじめに」「解説」のPDFが公開されています。「はじめに」で著者は次のように述べています。少し長いですが、重要なので引用してご紹介します。


★「そう、ビックデータ経済の到来である。これにより、目覚ましい経済発展が見込まれた。コンピュータープログラムを使えば、ほんの1、2秒のあいだに数千件もの履歴書やローン申込書を処理し、分類し、有望な順に並べた候補者リストを作成することができる。時間の節約になるだけでなく、公正で客観的な資料としてリストを売ることもできる。偏見をもつ人間が大量の書類に目を通すのではなく、ただの機械が血の通わない数字を淡々と処理するのだから。2010年ごろには、人事部門での数学の存在感はこれまでになく高まり、大きな期待をもって迎え入れられた。/でも、私には弱点が見えていた。数学の力で動くアプリケーションがデータ経済を動かすといっても、そのアプリケーションは、人間の選択のうえに築き上げられている。そして人間は過ちを犯す生き物だ。モデルを作成する際、作り手は、最善の意図を込め、良かれと思って選択を重ねたかもしれない。それでもやはり、作り手の先入観、誤解、バイアス(偏見)はソフトウェアのコードに入り込むものだ。そうやって作られたソフトウェアシステムで、私たちの生活は管理されつつある。神々と同じで、こうした数理モデルは実体が見えにくい。どのような仕組みで動いているのかは、この分野の最高指導者に相当する人々――数学者やコンピューターサイエンティスト――にしかわからない。モデルによって審判が下されれば、たとえそれが誤りであろうと有害であろうと、私たちは抵抗することも抗議することもできない。しかも、そのような審判には、貧しい者や社会で虐げられている者を罰し、豊かな者をより豊かにするような傾向がある。/私は、そのような有害なモデルを「数学破壊兵器(Weapons of Math Destruction:WMD)」と呼ぶことにした」(8~9頁)。


★「本書で論じる数学破壊兵器の多くは〔…〕フィードバックがないまま〔誤りから学習することなく〕有害な分析を続けている。自分勝手に「事実」を規定し、その事実を利用して、自分の出した結果を正当化する。このようなたぐいのモデルは自己永続的であり、きわめて破壊的だ。そして、そのようなモデルが世間にはあふれている」(14~15頁)。「スコアによって現実が作られていくのだ」(15頁)。「AI・ビッグデータには、大勢の熱烈な支持者がいる。だが、私は違う。本書では、世間の流れに逆らい、数学破壊兵器によって生じた損害や数学破壊兵器によって延々と生み出される不正行為に注目し、鋭く切り込んでいく。大学への進学、お金の借り入れ、刑務所行きの判決、職探しや昇進など、人生の重要な瞬間に有害な影響を受けた人々の事例を数多く見ていくことになる。あらゆる生活領域で、独裁的に罰を振りかざす「秘密のモデル」による支配が進みつつあることに、あなたも気づくだろう。/それでは、AI・ビッグデータの暗黒面を覗いてみよう」(24~25頁)。怖いです。




★クリッチリー『哲学者190人の死にかた』は、2009年に河出書房新社さんが刊行した『哲学者たちの死に方』を一部改訂し、改題新装したもの。原書は『The Book of Dead Philosophers』(Granta Books, 2008)すなわち『死せる哲学者たちの書』。ギリシア・ローマの古典時代から、中世、ルネサンス、近世、近代、20世紀に至るまで数多くの哲学者や、中国古典、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、そして科学者や文学者を含む思想家を数多く取り上げており、ユニークな列伝となっています。


★平凡社さんの今月新刊より3点。『周作人読書雑記3』は全5巻のうちの第3巻。性・女性、子ども・童話、日本文学、西洋文学、言語、の分類で84篇を収録。童話では『アンデルセン童話集』『ワイルド童話集』『不思議の国のアリス』など、日本文学では小林一茶『おらが春』、中勘助『銀の匙』など、西洋文学では『イソップ寓話』や『クォ・ヴァディス』など。


★中野節子『近世金沢の銀座商人』は近世前期の金沢城下の商人・福久屋(石黒氏)について、90年代に発見された石黒家伝来の覚書や日記といった文書群を読み解き、商売やその成長、奉公人、交友関係、銀座役(銀の秤量・封包〔ふうづつみ〕・両替・為替を監督する町役人)としての立場、藩権力との関係、などを丹念に描出したもの。「藩が権力を維持したのは結局は経済の根幹を握っていた商人たちがいたからであった。〔…〕福久屋はいわばそれら商人の代表であった。しかし、商人たちは藩権力に近寄りすぎるとまま危機を招くことになる。その一つの例を福久屋の事例が物語っているのである」(234頁)。


★八條忠基『有職装束大全』は、奈良・平安時代以降、朝廷や公家社会、武家の儀式などで用いられ、こんにちでも皇室行事や神社の祭式などで着用されている衣装「有職装束(ゆうそくしょうぞく)」の数々を、カラー写真で着用例を紹介し、史料にもとづいて装束の歴史と種類、構成具、色彩と文様を解説したもの。特に、位階に応じた当色(とうじき)や、禁色(きんじき)と忌色(いみじき)、季節に応じた重ね色目(いろめ)や女房装束の襲色目(かさねいろめ)、織色目や文様などの美しい資料は、デザインの参考になり、興味深いです。


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