『ヴェネツィアの出版人』ハビエル・アスペイティア著、八重樫克彦/八重樫由貴子訳、作品社、2018年5月、本体2,800円、四六判上製370頁、ISBN978-4-86182-700-6
『はじめての沖縄』岸政彦著、新曜社、2018年5月、本体1,300円、四六判並製240頁、ISBN978-4-7885-1562-8
『東大闘争の語り──社会運動の予示と戦略』小杉亮子著、新曜社、2018年5月、本体3,900円、A5判上製480頁、ISBN978-4-7885-1574-1
『天皇陵と近代――地域の中の大友皇子伝説』宮間純一著、平凡社、2018年5月、本体1,000円、A5判並製92頁、ISBN978-4-582-36451-4
『熊野と神楽――聖地の根源的力を求めて』鈴木正崇著、平凡社、2018年5月、本体1,000円、A5判並製116頁、ISBN978-4-582-36452-1
『神代文字の思想――ホツマ文献を読み解く』吉田唯著、平凡社、2018年5月、本体1,000円、A5判並製100頁、ISBN978-4-582-36453-8
★『ヴェネツィアの出版人』はスペインの作家にして編集者であるハビエル・アスペイティア(Javier Azpeitia, 1961-)による小説『El impresor de Venecia』(Tusquets Editores, 2016)の訳書。「グーテンベルクによる活版印刷発明後のルネサンス期、イタリック体を創出し、持ち運び可能な小型の書籍を開発し、初めて書籍にノンブルを付与した改革者。さらに自ら選定したギリシャ文学の古典を刊行して印刷文化を牽引した出版人、アルド・マヌツィオの生涯」(帯文より)を描いた長篇小説です。
★序章「何年ものち」で描かれている、アルドの妻マリアと息子パオロとの対話(27~28頁)が印象的です。パオロはアルドの伝記を執筆すべく母に父親のことを尋ね、マリアはためらいつつ答えようとします。
「言っても差支えのないことだけを書く。何でも思いのままに書ける時代ではなかったのよ、パオロ。いずれあなたにも理解できると思うけど」
「書けないようなことって、父さんは何を考えていたの?〔・・・〕」
「思いを表現することはいつの時代にも危険を伴う行為だった。思考が制限されたのではなく、表現が制限されたのよ。〔・・・〕思想の表現が制限されたのは今に始まったことではない。だけどキリスト教が文化の中心になって以来、人々は思ったことを書かなくなった。何世紀にもわたって敷かれた規制によって、数多くの思想の生命力が弱められて現在に至っている。〔・・・〕」
「ほかに父さんが出版したかったけど、できなかった本は何?」
「何の変哲もない一冊の本。広範にわたる完璧な対話が綴られ、タイトルも著者も偽った上で、一般的でない言語に翻訳されて生き延びたものよ」
「誰にも読まれぬように隠されたってこと?」
「誰にも破壊されぬようによ」
★巻末の訳者あとがきでは、本書刊行当時の2016年に行われたインタヴューでアスペイティアが次のように語っていたことが紹介されています。「文芸復興のルネサンス期に深く浸る中、印刷・出版を取り巻く当時の状況と今の状況に相似点が多いことに少なからず驚かされた」と。また別の機会には次のように語ったと言います。「技術と生産性を重視する職人と商人が印刷事業の実権を握り、菓子のごとく本を作っては売っていた時代に、アルドは絶えず文学的意義から良書を出版する方法を模索し、常軌を逸した試みをいくつも打ち出した。アリストテレスの全集をはじめとする、ギリシャ文学の原典にこだわったのもその一つだし、みずから出版物の選定をし、校正をしていたことも当時としては革新的だった」。今また「菓子のごとく本を作っては売って」いる時代にあって、アスペイティアが本書に込めたメッセージを私たちはどう受け取るべきでしょうか。
★『はじめての沖縄』は「よりみちパン!セ」シリーズ復刊第一弾として刊行された6点の内の1冊。ほかの5点は同シリーズの理論社版(2004~2010年)やイースト・プレス版(2011~2014年)で刊行されたものの決定版や増補新版、改訂新版で、『はじめての沖縄』のみ新曜社版で初めて刊行されるもの。2015年から2017年にかけて各紙誌などで発表されてきたテキストを中心に再構成し、大幅な加筆修正を施したもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。なお本書の刊行を記念し、以下の通り催事が続々と行われる予定だそうです。
「境界線を抱いて」(お相手:温又柔さん)5月27日(日)18時~、青山ブックセンター本店
「マジョリティとはだれか」(お相手:信田さよ子さん)6月9日(土)14時~、八重洲ブックセンター本店
「ほんとうの沖縄、ふつうの沖縄」(お相手:新城和博さん)6月17日(日)14時もしくは15時~、ジュンク堂書店那覇店
「刊行記念トーク」6月30日(土)13時~、心斎橋・スタンダードブックストア
「はじめての大阪」(お相手:柴﨑友香さん)7月21日(土)17時~、梅田蔦屋書店
「欲望すること/されることのキモさについて」(お相手:川上未映子さん)8月3日(金)19時~、新宿・紀伊國屋ホール
★『東大闘争の語り』は、あとがきによれば「2016年1月に東北大学大学院文学研究科に提出した博士論文「1960年代学生運動の形成と展開――生活史にもとづく参加者の政治的志向性の分析」に大幅に加筆修正を加えたもの」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「1960年代学生運動と現在のあいだに存在する断絶を踏まえつつ、1960年代学生運動に参加した当事者の動機・問題意識と運動の論理にかんする内在的分析を行い、その歴史的意義を明らかにする」(17頁)とのことです。
★平凡社さんのブックレット〈書物をひらく〉の第11巻、第12巻、第13巻が同時配本。『天皇陵と近代』は、「伝承を発掘し、大友皇子の墓(弘文天皇陵)が自分たちの地域にあることを検証・主張して、それを認めさせることに奔走した人びとの営為を追跡し、その歴史的事情、また、それがもたらした効果を探り当てる」(カバーソデ紹介文)もの。『熊野と神楽』は「各地に伝播した熊野信仰が神楽を生成して地域的展開を遂げた諸相を考察し、精緻の根源的力とは何であったかを探求するもの」(はじめに)。『神代文字の思想』は「ホツマ文献を筆頭とした神代文字文研研究を思想史研究の土俵にあげ」(あとがき)、神代文字が生み出された背景を探るもの。
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『はじめての沖縄』岸政彦著、新曜社、2018年5月、本体1,300円、四六判並製240頁、ISBN978-4-7885-1562-8
『東大闘争の語り──社会運動の予示と戦略』小杉亮子著、新曜社、2018年5月、本体3,900円、A5判上製480頁、ISBN978-4-7885-1574-1
『天皇陵と近代――地域の中の大友皇子伝説』宮間純一著、平凡社、2018年5月、本体1,000円、A5判並製92頁、ISBN978-4-582-36451-4
『熊野と神楽――聖地の根源的力を求めて』鈴木正崇著、平凡社、2018年5月、本体1,000円、A5判並製116頁、ISBN978-4-582-36452-1
『神代文字の思想――ホツマ文献を読み解く』吉田唯著、平凡社、2018年5月、本体1,000円、A5判並製100頁、ISBN978-4-582-36453-8
★『ヴェネツィアの出版人』はスペインの作家にして編集者であるハビエル・アスペイティア(Javier Azpeitia, 1961-)による小説『El impresor de Venecia』(Tusquets Editores, 2016)の訳書。「グーテンベルクによる活版印刷発明後のルネサンス期、イタリック体を創出し、持ち運び可能な小型の書籍を開発し、初めて書籍にノンブルを付与した改革者。さらに自ら選定したギリシャ文学の古典を刊行して印刷文化を牽引した出版人、アルド・マヌツィオの生涯」(帯文より)を描いた長篇小説です。
★序章「何年ものち」で描かれている、アルドの妻マリアと息子パオロとの対話(27~28頁)が印象的です。パオロはアルドの伝記を執筆すべく母に父親のことを尋ね、マリアはためらいつつ答えようとします。
「言っても差支えのないことだけを書く。何でも思いのままに書ける時代ではなかったのよ、パオロ。いずれあなたにも理解できると思うけど」
「書けないようなことって、父さんは何を考えていたの?〔・・・〕」
「思いを表現することはいつの時代にも危険を伴う行為だった。思考が制限されたのではなく、表現が制限されたのよ。〔・・・〕思想の表現が制限されたのは今に始まったことではない。だけどキリスト教が文化の中心になって以来、人々は思ったことを書かなくなった。何世紀にもわたって敷かれた規制によって、数多くの思想の生命力が弱められて現在に至っている。〔・・・〕」
「ほかに父さんが出版したかったけど、できなかった本は何?」
「何の変哲もない一冊の本。広範にわたる完璧な対話が綴られ、タイトルも著者も偽った上で、一般的でない言語に翻訳されて生き延びたものよ」
「誰にも読まれぬように隠されたってこと?」
「誰にも破壊されぬようによ」
★巻末の訳者あとがきでは、本書刊行当時の2016年に行われたインタヴューでアスペイティアが次のように語っていたことが紹介されています。「文芸復興のルネサンス期に深く浸る中、印刷・出版を取り巻く当時の状況と今の状況に相似点が多いことに少なからず驚かされた」と。また別の機会には次のように語ったと言います。「技術と生産性を重視する職人と商人が印刷事業の実権を握り、菓子のごとく本を作っては売っていた時代に、アルドは絶えず文学的意義から良書を出版する方法を模索し、常軌を逸した試みをいくつも打ち出した。アリストテレスの全集をはじめとする、ギリシャ文学の原典にこだわったのもその一つだし、みずから出版物の選定をし、校正をしていたことも当時としては革新的だった」。今また「菓子のごとく本を作っては売って」いる時代にあって、アスペイティアが本書に込めたメッセージを私たちはどう受け取るべきでしょうか。
★『はじめての沖縄』は「よりみちパン!セ」シリーズ復刊第一弾として刊行された6点の内の1冊。ほかの5点は同シリーズの理論社版(2004~2010年)やイースト・プレス版(2011~2014年)で刊行されたものの決定版や増補新版、改訂新版で、『はじめての沖縄』のみ新曜社版で初めて刊行されるもの。2015年から2017年にかけて各紙誌などで発表されてきたテキストを中心に再構成し、大幅な加筆修正を施したもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。なお本書の刊行を記念し、以下の通り催事が続々と行われる予定だそうです。
「境界線を抱いて」(お相手:温又柔さん)5月27日(日)18時~、青山ブックセンター本店
「マジョリティとはだれか」(お相手:信田さよ子さん)6月9日(土)14時~、八重洲ブックセンター本店
「ほんとうの沖縄、ふつうの沖縄」(お相手:新城和博さん)6月17日(日)14時もしくは15時~、ジュンク堂書店那覇店
「刊行記念トーク」6月30日(土)13時~、心斎橋・スタンダードブックストア
「はじめての大阪」(お相手:柴﨑友香さん)7月21日(土)17時~、梅田蔦屋書店
「欲望すること/されることのキモさについて」(お相手:川上未映子さん)8月3日(金)19時~、新宿・紀伊國屋ホール
★『東大闘争の語り』は、あとがきによれば「2016年1月に東北大学大学院文学研究科に提出した博士論文「1960年代学生運動の形成と展開――生活史にもとづく参加者の政治的志向性の分析」に大幅に加筆修正を加えたもの」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「1960年代学生運動と現在のあいだに存在する断絶を踏まえつつ、1960年代学生運動に参加した当事者の動機・問題意識と運動の論理にかんする内在的分析を行い、その歴史的意義を明らかにする」(17頁)とのことです。
★平凡社さんのブックレット〈書物をひらく〉の第11巻、第12巻、第13巻が同時配本。『天皇陵と近代』は、「伝承を発掘し、大友皇子の墓(弘文天皇陵)が自分たちの地域にあることを検証・主張して、それを認めさせることに奔走した人びとの営為を追跡し、その歴史的事情、また、それがもたらした効果を探り当てる」(カバーソデ紹介文)もの。『熊野と神楽』は「各地に伝播した熊野信仰が神楽を生成して地域的展開を遂げた諸相を考察し、精緻の根源的力とは何であったかを探求するもの」(はじめに)。『神代文字の思想』は「ホツマ文献を筆頭とした神代文字文研研究を思想史研究の土俵にあげ」(あとがき)、神代文字が生み出された背景を探るもの。
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