★ここ最近で出会った新刊を列記いたします。インフルエンザに罹患中でして皆様もどうぞご自愛ください。
『敗走と捕虜のサルトル――戯曲『バリオナ』「敗走・捕虜日記」「マチューの日記」』ジャン=ポール・サルトル著、石崎晴己編訳解説、藤原書店、2018年1月、本体3,600円、四六判上製360頁、ISBN978-4-86578-160-1
『知の総合をめざして――歴史学者シャルチエとの対話』ピエール・ブルデュー著、加藤晴久/倉方健作編訳解説、藤原書店、2018年1月、本体3,600円、四六判上製246頁、ISBN978-4-86578-157-1
『金時鐘コレクション(Ⅱ)幻の詩集、復元にむけて:詩集『日本風土記』『日本風土記 Ⅱ』金時鐘著、宇野田尚哉/浅見洋子解説、浅見洋子解題、藤原書店、2018年1月、本体2,800円、四六変判上製400頁、ISBN978-4-86578-148-9
『室伏鴻集成』室伏鴻著、河出書房新社、2018年1月、本体6,000円、46変形判上製456頁、ISBN978-4-309-27913-8
『周作人読書雑記1』周作人著、中島長文訳注、東洋文庫(平凡社)、2018年1月、本体3,300円、B6変判上製函入448頁、ISBN978-4-582-80886-5
『収容所のプルースト』ジョゼフ・チャプスキ著、岩津航訳、共和国、2018年1月、本体2,500円、四六変型判上製228頁、ISBN978-4-907986-42-1
『デカルトの憂鬱――マイナスの感情を確実に乗り越える方法』津崎良典著、扶桑社、2018年1月、本体1,600円、四六判並製373+iv頁、ISBN978-4-594-07894-2
『現代思想2018年2月号 特集=保守とリベラル:ねじれる対立軸』青土社、2018年1月、本体1,400円、A5判並製232頁、ISBN978-4-7917-1358-5
★藤原書店さんの今月新刊より3点。まず『敗走と捕虜のサルトル』は、帯文の文言を借りると、捕虜収容所内で執筆され上演されたという実質的処女戯曲『バリオナ――苦しみと希望の劇』と、敗走・捕虜生活を日記の体裁で記述した「敗走・捕虜日記」「マチューの日記」の、いずれも初訳となる3編を収録した日本語版オリジナル編集の1冊。石崎さんは長篇解説「『バリオナ』論」で「その基本的コンセプトからして、その二年半後に上演された、職業的劇作家としての処女戯曲『蠅』にそのままつながる重要な作品である。ということは、サルトルの劇作活動の全体をある程度定義する作品ということにもなろう」(149頁)と記しておられます。
★『知の総合をめざして』も日本語版オリジナル編集本で、第Ⅰ部「社会学者と歴史学者」がブルデューとシャルチエの対談(原著2010年刊)の全訳で、第Ⅱ部「社会学のための弁明」に収められているのが、ブルデューの「講義についての講義」(コレージュ・ド・フランス就任講義、1982年4月)、「社会学の擁護」(CNRS:国立科学研究センター・ゴールドメダル受賞講演、1993年12月)、「参与的客観化」(英王立人類学研究所・ハクスレー記念メダル受賞講演、2000年12月)の3編。今月藤原書店さんから刊行されているブルデューの新刊にはもう一冊あります。ブルデュー/パスロン/ド=サン=マルタン『教師と学生のコミュニケーション 〈新版〉』(安田尚訳)で、新版にあたり大幅改訳が施され、苅谷剛彦さんが序文をお書きになっておられるとのことです。
★『金時鐘コレクション』は全12巻予定。金時鐘(きむ・しじょん:1929-)さんの初めての著作集ではないでしょうか。第1回配本が詩集2点を収録した第2巻です。『日本風土記』は1957年刊の第二詩集。『日本風土記Ⅱ』は第三詩集として刊行されるはずだった幻の散逸詩集を復元したもの。巻末には金さんによる「立ち消えになった『日本風土記Ⅱ』のいきさつについて――あとがきにかえて」と、インタビュー「至純な歳月を生きて――『日本風土記』から『日本風土記Ⅱ』のころ」が収められています。月報あり。
★このほか藤原書店さんの1月新刊には、チャールズ・A・ビーアド『「戦争責任」はどこにあるのか――アメリカ外交政策の検証 1924-40』(開米潤/丸茂恭子訳)があります。帯文に曰く「大好評を博した『ルーズベルトの責任』(全2巻)の姉妹版」で、初訳とのことです。
★『室伏鴻集成』は、舞踏家の室伏鴻(むろぶし・こう:1847-2015)さんのテクストを集成したもの。巻頭に土方巽(ひじかた・たつみ:1928-1986)さんによる「木乃伊の舞踏――室伏鴻」が置かれ、続いて室伏さんによる1970年代、80年代、90年代、00年代、10年代の諸テクストと、2014年と2015年の日記、細川周平さんによるインタヴューと山崎広太さんによるインタヴューが各1篇収められています。編者は中原蒼二さん、鈴木創士さん、渡辺喜美子さんの三氏。付属する栞では、麿赤兒さん、笠井叡さん、石井達朗さん、鴻英良さん、宇野邦一さん、丹生谷貴志さん、細川周平さん、安藤礼二さんが寄稿されています。
★『周作人読書雑記1』は全5巻予定の第1巻。周作人(Zhou Zuoren, 1885-1967)は魯迅の弟。帯文に曰く「古代から現代まで、中国、日本、ヨーロッパの書物を縦横に読み抜いた記録を集成。中国で最重要の知日家の書斎を読む」と。第1巻では、わたしの雑学、読書論、禁書、書誌、科挙、歴史・地理、神話伝説・宗教、の7部門に合計107篇を収録。1951年に、字典編纂について「営業本位の書店のやれる事ではない」(186頁)ときっぱり書いていることにある種の感慨を覚えます。東洋文庫次回配本は2月、柳本芸『漢京識略――近世末ソウルの街案内』と、エドゥアール・シャヴァンヌ『古代中国の社――土地神信仰成立史』が予告されています。
★『収容所のプルースト』は共和国さんのシリーズ「境界の文学」の一冊。著者のジョゼフ・チャプスキ(Józef Czapski, 1896-1993)はポーランドの画家。ソ連の捕虜収容所に連行された彼は、零下40度の極寒と厳しい監視下で、1940年から1941年にかけての冬にプルースト『失われた時を求めて』をめぐる連続講義を行ったといいます。その口述筆記をもとに、解放後の1944年にフランス語で作成したタイプ原稿が本書の元になっています。1943年に日刊紙に一部が掲載され、全文のポーランド語訳が1948年に「クルトゥーラ」誌に掲載。フランス語の全文が単行本『Proust contre la déchéance〔堕落に抗するプルースト〕』として刊行されたのは1987年で、今回の日本語初訳本では2012年に再刊された版を使用しているとのことです。収容所での講義の折の苛烈な記憶については1944年に書かれた著者による序文に書かれており、胸打たれます。
★『デカルトの憂鬱』は筑波大学人文社会系准教授の津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さんの初めての単独著。帯文には「外山滋比古氏激賞」とあり、「いわば“外交的なコミュ障”だったデカルトは「初志貫徹」と「臨機応変」を両立せよ! と説く――本書は、私たちに降りかかる様々なマイナスの状況といかに対峙すべきか、「デカルトは〇〇する」という身近な切り口から解き明かしていく。〔・・・〕毎日の生活で困ったこと、立ち止まって考えてみたいことがあったら、本書の出番!」とも謳われています。帯文だけでなく著者略歴に至るまで編集者の強力な「推し」が溢れており、それに負けることなく著者の工夫が随所に光っています。広く読まれていく予感がします。
★『現代思想2018年2月号 特集=保守とリベラル:ねじれる対立軸』は、二つの討議、宇野重規×大澤真幸「転倒する保守とリベラル――その空虚さをいかに超えるか」、荻上チキ×立岩真也×岸政彦「事実への信仰――ディティールで現実に介入する」を始め、論壇への鋭い眼差しを感じさせる特集号。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。3月号の特集は「ロジスティクスの思想」とのこと。これも期待大です。
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