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備忘録(25)

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◆2016年3月4日11時現在。
「日刊ゲンダイ」3月4日付記事「老舗「芳林堂書店」倒産の裏に出版界の壮絶“引き抜き合戦”」(コメント欄付ヤフーニュース版はこちら)に曰く、「倒産の引き金を引いたのが書籍取次の「太洋社」だ。芳林堂は太洋社から本と雑誌を仕入れていたが、太洋社は2月上旬に自主廃業を決めた。そこで芳林堂は大手取次への帳合変更を模索したが、引き受け手が見つからなかったといわれる。要するに太洋社の廃業に伴う“連鎖倒産”だ。芳林堂に問い合わせたところ「コメントは差し控えたい」とのこと」。太洋社さんがさきに自主廃業を発表したためにどうしてもネット上では「芳林堂倒産は太洋社が原因」という趣旨の理解のされ方が多く、その後押しをいくつかのマスメディアがしてしまったことは事実でしょう。そのために、業界関係者や事情通がその都度「実際はその逆で、太洋社廃業は芳林堂が原因」と告知してきました。にもかかわず、相変わらず上記のような報道になってしまうのは、単なる誤解とも言える反面、別の視点から言えば二社とも当然それぞれに問題があるとも分析できるため、かもしれません。「日刊ゲンダイ」さんの場合はそういう裏や行間があるのかどうかはよく分かりませんが。

たとえば、帝国データバンクの藤森徹さんは「日本経済新聞」3月2日付記事「芳林堂書店、倒産の教訓 もたれ合いが共倒れを生む」(会員限定記事なので非会員は冒頭しか読めません)において、リスク分散ができない「もたれ合い」とその帰結としての「共倒れの危険」について分析されています。これは業界人にとっては痛い話で、例えばフリー歴16年目のビジネス書編集者でありライターでいらっしゃる方がこうツイートされています。「1社との取引の割合が大きすぎると怖いのはフリーも同じ。「企業間取引ではシェア拡大が大きな課題となる。しかし、リスク分散のないシェア拡大は企業にとって両刃の剣となり、双方の危機に直結する」 / “芳林堂書店、倒産の教訓 もたれ合い…”」と。フリーの社外スタッフへの外注に依存している版元にとってはこの警告は笑い飛ばせるものではまったくありません。また、取次一手扱いの版元や、取次一社としか付き合いのない書店にとっても同様です。関係強化ともたれ合いは表裏一体です。藤森さんの結論を借りれば「もたれ合いと関係強化。そのバランス感覚が失われたとき、企業の倒産リスクは高まる」わけですが、リスク分散というのは取引開始前に分散先についてあらかじめ吟味することが必要ですから、現代社会のスピード感の中では分散は容易ではありません。関係強化による信頼感の深まりは当然重要でもありますし、難しいです。ただ、お互いにとって「しんどい」と感じられ始めたら、見直しが当然必要ではあるでしょう。例えば日販とアマゾンの関係が昨今気になるところではあります。

さて「日刊ゲンダイ」記事に戻ると、後半にはこんなくだりがあります。「もともと本屋は薄利多売のビジネスだ。単行本と雑誌の利益率はわずか20~24%。しかも本を並べる作業などのために人件費がかかる。一種の“不況産業”なのだ。「図書新聞」事業企画室室長の諸山誠氏が解説する。/「本屋が一軒もない“無書店地帯”が問題になるほど、全国的に本屋が減っています。飲食店情報などがPCやスマホで読めるようになったことのほかに、週刊誌や月刊誌を支えていた団塊世代のリタイアも大きい。毎週雑誌を買いに立ち寄り、ついでに単行本を買っていた人が遠ざかっているのです。出版業界の市場規模はまだ下げ止まったとはいえません」」。諸山さんが仰っている「出版業界の市場規模はまだ下げ止まったとはいえない」というのは現在の出版界の大勢が抱いているリアルな感覚ではないかと思います。

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◆3月4日正午現在。
おさらい。「東京商工リサーチ」3月2日付速報「[東京] 出版物取次/(株)太洋社/取次事業停止へ~取次事業を停止へ、書籍新刊の最終搬入日は3月4日~」は、3月1日付の取引出版社向け「ご報告とお願い」文書の内容のまとめ。曰く「書面には、「事業の廃止等を決定された書店を除くと、8割を超える書店の帳合変更が決まり、2月中に当社に対する買掛金の支払を含めた帳合変更に伴う決済もほぼ完了した。残る書店についても、引き続き帳合変更の交渉を行っているが、取引書店の財務状況その他の事情もあり、これまでのようなスピード感での進捗は望めない状況」の旨が記載されている」。先日も書きましたが、まだ帳合変更ができていない2割というのがどれくらいの書店数で、実際その中で廃業を検討されている書店さんがどれくらいあるのか、またすでに太洋社が把握している限りでどれくらいの帳合書店が廃業したのかは、はっきりとは分かりません。

さらに曰く「また、「当社がこれまで営んできた取次事業を停止したうえで、当社事業に伴う債権債務を確定すべき時期に至ったと判断した」として、書籍新刊は3月4日、雑誌新刊は首都圏基準で3月7日発売までを最終搬入日に設定したいとしている。なお、一部書店に対しては、預り信認金(保証金)と売掛金の相殺に関する念書の提出を求めている。今後、こうした動きは加速するとみられ、帳合変更が済んでいない書店への影響が広がる可能性がある」。暗い霧が濃くなるなかでいつまでも版元が商品供給を続けられるとは思えませんからこう判断したのでしょうが、前回も今回も出荷する版元にとっては急ブレーキの観が否めません。自主廃業直前に常備入替があった版元が激怒するのはやむをえませんし、2月に通常通りの委託配本をした版元にとっては委託する意味があったのかどうか、やりきれない思いがあるだろうことも想像に難くありません。しかしどこかで締め切らなければならないわけです。

同じく「東京商工リサーチ」3月4日付速報「[埼玉] 書店運営/竹島書店戸ヶ崎店/店舗閉鎖へ~太洋社の自主廃業の影響で3月6日に店舗を閉鎖予定~」に曰く、「竹島書店戸ヶ崎店(三郷市戸ヶ崎3-556-2、事業主:国井修氏)は3月6日、運営する唯一の書店「竹島書店戸ヶ崎店」を閉店する。/平成18年1月より(株)タケシマ(越谷市)のフランチャイズ店として書店を営んでいた。26年に独立したが、屋号はそのまま引き継いだ。書籍のほかトレーディングカードなども取り扱い、地元住民を中心に固定客を抱えていた。〔・・・太洋社自主廃業準備公表〕以降は一部商品の仕入が困難となり売上高が落ち込み、他の取次業者と帳合変更の交渉も進めた。しかし、条件面で折り合いがつかなかったことや運営を続けても業況の改善は見込めないと判断したことから、帳合を変更せず閉店を決断した。/太洋社の自主廃業に向けた動きに関連した書店の休業や閉鎖は16店舗、倒産は1社となっている(判明分)」と。

この業界では、版元にせよ取次にせよ書店にせよ、プライドを持てるような幸福な歯車であることはもはや困難なのでしょうか。こうした時に大事なのは「むやみに希望すること」ではなくおそらくは「正しく絶望すること」だろうと思われます。絶望的な状況に近づきつつはあるものの、「危機」だと騒いでじたばたしても前には進めません。たいていの業界人は状況を実感しつつも淡々と仕事をこなし、歯を食いしばりつつ明日への可能性を模索していることでしょう。例えば「伊野尾書店WEBかわら版」3月2日付エントリー「やるべきことは仕事でしょうよ」にはこうあります。「やっぱり松井やイチローはいいことを言う。/コントロールできないことに関心を持たない。/本当、そのとおりなんだと思います。/自分は、自分のできることをやるしかない。/他人の成績を気にしてる暇があったら、そのあいだにバットを振った方がいい。/練習環境とか、自分の体力が以前と変わっていったとしても、その都度それに対応して。/ほら、イチローがよく言うじゃないですか。/「アジャスト(=対応)することが大事」って。/対応しながら、そのとき出せる最大のパフォーマンスを目指して。/もしかしたら僕らは「バトル・ロワイヤル」の参加者じゃなくて、「世の中」という球団と契約しているプロ野球選手みたいなものかもしれなくて。/周りがどうなろうとも、「君はそろそろ」と言われるまでは、やれることをやるしかない」。

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