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メモ(17)

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アマゾンの版元直取引宣言が取次を含む業界再編の強力なトリガーになるのではないかと「メモ(16)」で予想しました。トリガーとまで言わなくとも、対外的な大義とはなりうるわけです。アマゾンに対するヤマト運輸の対応のように。そして連鎖の始まりともなりえます。他の宅配業者が値上げや業態転換へと進んだように。「日販=大阪屋栗田=日教販=出版共同流通」というまとまりと「トーハン=中央社=協和出版」というまとまりがそれぞれ一体化へと向かう可能性は以前からあったわけですが、いよいよ統合が加速するかもしれず、その要となるのはまず、日販と大阪屋栗田の関係性ではないかと思われます(とはいえ、取次とその株主である大手版元は少なからず同床異夢の関係にあるように見えて複雑です)。「新文化」の過去記事に今後の業界再編に繋がるヒントが隠されているかもしれません。


2017年4月5日付記事「大阪屋栗田、服部達也氏が代表取締役副社長に」に曰く「4月1日、取締役会を行い、役員人事を決議した。服部取締役が代表取締役副社長執行役員に就いた。事業構造改革担当、マーケティング推進室、企画管理本部、リーディングスタイルを管掌する」。大阪屋栗田の筆頭株主が楽天なのは周知の通り。服部さんは楽天出身。



2017年4月19日付記事「大阪屋栗田、初のPB商品を販売」に曰く「4月下旬から、同社初のPB商品『DATE CHECK‐マスキングテープ』の販売を開始する。同社では「読書タイプ」と「日付タイプ」の2種類を用意。〔・・・〕同商品は同社と取引のある書店で展開する。参考希望小売価格は340円」。書籍ではなく文具だというのがミソ。昨今は書店さんでも文具売場を新設するお店が多いのは周知の通りです。日販やトーハンも文具は扱っていますし、かつて太洋社も2009年から輸入文具を扱っていたことがあり、好評だったと聞いたことがあります。



2017年4月25日付記事「トーハン、今秋から3種ポイントカードに対応」に曰く「楽天、NTTドコモ、ロイヤリティ マーケティングの3社と業務提携し、今秋から書店店頭で「楽天スーパーポイント」「dポイント」「Ponta」の各種カードに対応するサービスを開始する。来店者はいずれかのポイントカードを選択して、ポイント付与やポイントを使用することができる」と。それにしても、出版業界がポイントを実質的値引と批判をしていたのは今となっては昔の話、といった感が否めません。書協・出版再販研究委員会2004年3月11日見解「ポイントカードは値引き/ポイントカード制に関する「公取委の見解」等の経緯」、出版協2013年8月28日声明「ポイントカードによる値引き販売に反対します――読者、書店、取次店、出版社の皆様へ」。



同記事に続けて曰く「トーハンでは共通ポイント化にあたって、新POSレジを開発。その価格は従来のPOSと同額に抑えられているため、取引書店は追加負担なしで新POSに入れ替えて「共通ポイント機能」を導入することができる」と。楽天は先述の通り大阪屋栗田の筆頭株主であり、大阪屋栗田は日販との協力関係を深めている一方で、日販の対抗勢力であるトーハンともお付き合いをするということで、やや込み入った構図。日販はCCCとの連携が強いため、Tポイントとの競合を嫌ったかたちでしょうか。本件については私は版元営業マンのnishiyanさんの分析に同感です。


ちなみにアマゾンに対抗意識があるのは紀伊國屋書店だけではなく、CCCもおそらくはそうではないかと思われます。「東洋経済オンライン」2017年4月5日付、杉本りうこ記者記名記事「TSUTAYAが不振出版社を買い続ける狙い――徳間書店の買収で目指すは書店の「ユニクロ」」によれば「3月31日、東京都内のホテルで開かれたCCCの社員ミーティング。グループ傘下の多くの社員が一堂に会する恒例の年次会合の場で、増田氏は「SPA(製造小売業)をやらなければアマゾンには勝てない」と語ったという。〔・・・〕SPAとはユニクロのファーストリテイリングのように、小売業が川上の製造分野まで手がけ、オリジナル商品を開発する経営モデルだ。つまり増田氏はCCC系列の店舗で扱う商品・サービスを、自ら開発しようと考えているのだ。/徳間書店側も「自社から良質なコンテンツをCCCに提供し、出版やライツビジネスなどの事業を拡大する」(業務管理部)と東洋経済の取材に回答しており、今後はアニメなどエンタメ関連の雑誌・書籍や関連グッズを、グループ向けのオリジナル商材として開発するとみられる。/ネット通販のアマゾンが圧倒的な品ぞろえによるロングテールを強みとするのに対し、増田氏は「アマゾンにはない、ここにしかない」というオリジナル性で差別化を図ろうと考えているのだ」。徳間書店が、と考えるよりも、SPAそのものに注目すべきかと思われます。これは書店と出版社の未来が一体化や強い製販同盟へと行き着くかどうか、という問いへとつながります。少なくとも紀伊國屋書店や丸善のような、書店部門と出版部門を兼ね備えた会社の来し方を見る限り、それは簡単ではありません(しかし、今まではそうだったけれど、とも言えるのかもしれません)。「強度の経営統治」と「編集の自由」はしばしば相容れない価値観の尺度を持っているからです。平たく言えば、カネ儲けと文化創造は必ずしも一致しないのです。折り合いの付け方によって、出てくる結果は異なってきます。


いずれにせよ、ここでの私の解釈は表層を撫でたものに過ぎません。深層はいつだって、もっと複雑怪奇です。一見分かりやすいように感じても、事実は小説よりも奇なり、という展開が今後も待ち受けているのでしょう。


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「はてな匿名ダイアリー」2017年5月7日付エントリー「アマゾンの「バックオーダー発注」廃止は、正味戦争の宣戦布告である」は、同業者にはとても共感できる鋭い記事で、すでに多くの反響が寄せられています。特に次の点は版元営業マンであれば必ずぶち当たる疑問です。


「実際にこの十数年、定番書であっても同じアイテムの「バックオーダー発注」の短冊が数週間に一度、同じ日に何枚も「市川13,6,4、小田原9,5,2、堺20,7、鳥栖6,5,2」というようにまわってきて、その前後でアマゾンで品切になり、回復まで10日間というような事態が繰り返されてきた。/ベンダーセントラルを見ると、受注は多少の波はあれどコンスタントであり、アマゾン自身の「需要予測」もおおむね頷ける値になっている。しかし、発注だけがすさまじく間歇的なのだ。/最初は倉庫の入荷オペレーションのためかと考えていた。しかし、倉庫が各地に増えた現在では、各倉庫の発注時期をずらせば、品切を回避できるはず。アマゾンの優秀な人たちがそれに気づかないはずはないが、折に触れてその点は提案してきた。/「発注時期を倉庫毎にずらせませんか」「バックオーダーの発注を版元に直接送りませんか」/しかし、そのたびに返ってくる返事は「当社独自の計算にもとづき、在庫量・発注時期は最適なかたちでおこなわれています」「流通にご不満がある場合は、e託契約をご検討ください」だった」。


「複数の出版社でこの問題を訴えようにも「e託契約」も「パートナー契約」も、すべて明細は秘密保持契約(NDA)の向こう側にあり、その訴訟リスクが情報共有と連帯を阻む。今回、筆者が匿名で書かざるを得ないのもそのためだ」。


アマゾンはこの筆者を特定しようとするでしょうか。私はこの筆者にむしろ感謝したいですし、こうした問題提起が広く公的に議論されることを望みたいです。アマゾンは直取引先が増えていることをなんとかアピールしたいようですが、「メモ(16)」で書いた通り、それには限界があるというのが私の予想です。アマゾンと同じ土俵に乗る必要はない、と判断した出版社をアマゾンが説得することはほぼ不可能でしょう。あと、この際アマゾンに言っておきます。版元に電話を掛けてくるなら、掛けてくる人間にちゃんと部署名くらい与えてあげなさいよ。


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