Quantcast
Channel: URGT-B(ウラゲツブログ)
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1277

メモ(16)

$
0
0
故桑原武夫先生のご遺族が京都市に寄贈した蔵書1万421冊を一昨年、市右京中央図書館副館長だった女性職員(57歳、生涯学習部部長から課長補佐へ降任)が廃棄していた件の無残さは言うまでもありません(毎日新聞、京都新聞その1、その2、読売新聞、日本経済新聞、朝日新聞)。おそらく蔵書家の多くはそもそも以前から図書館への寄贈に懐疑的だったはずですが、それを念押しする一例となってしまいました。


目下、出版業界をざわつかせているのは、「7月1日問題」です。版元営業の「記述師文庫堂」さんのツイートや、ひつじ書房のM社長のfacebookでの投稿をご参照ください。アマゾンから日販に日々飛んでいるバックオーダー(既刊書補充発注)の終了予定が6月30日なのです。この件については留意すべきことがドミノ式に増えていくため、まとめるのがしんどいのですが、しいてまとめると以下のようになります。


1)日販※がロングテールの在庫を抱えるのは現実的に無理では。
 ※納期短縮を懸命に推進してきたウェブブックセンターへのさらなる負担増大はリスキー。
 ※取次最大手と言えども王子RCのほかに巨大物流倉庫を一社単独で新設することは想像できない。
2)大阪屋栗田※がバックオーダーを支えきるのも無理では。
 ※現在でも日販で調達できない分の発注は大阪屋栗田に飛んでいる。
 ※アマゾン通達のQ&Aでは大阪屋栗田経由ではなく版元直取引の検討をと促している。
3)版元すべて※がアマゾンと一挙的に直取引になる可能性は低いのでは。
 ※継続的な出版活動をしているいわゆる「アクティブ」状態にあると思われる約2000社が想定される。
 ※そのほとんどは零細企業。ヤマトや佐川が運賃値上げするのに、アマゾンの各拠点への分散小口納品などできません。
4)トーハン※がバックオーダーを引き受ける可能性も低いのではないか。
 ※大阪屋や日販がさんざんアマゾンに振り回されるのを見てきたわけで。
 ※現在でもコミックと雑誌の、アマゾンへの調達を担当。


アマゾンもずいぶんとスレスレなカードを切ったものだ、というのが営業マンたちが囁き合っている本音です。また、本件はロングテールを維持するためのキックバック要求や、運賃上昇に伴う取引条件の改定、などが今後アジェンダ化する可能性と必然的に隣り合わせになっています。栗田や太洋社に続いてここでも問題なのは物流という足腰がすっかり弱くなっている現状です。ようするに今回のアマゾン通達は出版業界をなぎ払うかもしれない嵐がすぐそこまで近づいていることを意味しているわけです。


+++


ようやく「文化通信」の記事が出ました。「アマゾンジャパン、日販非在庫品の取り寄せ発注を終了へ」(2017年4月28日付)に曰く「アマゾンジャパンは4月28日、日本出版販売(日販)が非在庫書籍を出版社から取り寄せる「日販バックオーダー発注」を6月30日で終了することを、出版社に通知した。これにより、一時的に売上機会減少のリスクがあるとしながら、出版社に対して同社との直接取引による商品供給を検討するよう求めている」。


「記述師文庫堂」さんが指摘している通り、在庫ステータス11番(在庫あり)以外の引当率が低いのは当たり前なのです。それを日販のせいにするのは無理があります。たとえば22番(重版中)や32番(版元品切)、33番(品切重版未定)はそもそも版元に商品がないのですから、版元と直取引したって引当率が上がるはずはありません。大取次にガチで無茶振りをするような会社を相手に、どの出版社が喜んで直取引をするというのでしょうか。最大手の講談社に対してすら電子書籍の取り扱いで酷い仕打ちをしているのが周知の事実なのに。一時的な売上機会減少のリスクどころではなく、ロングテール喪失の危険すらあるのに。


アマゾンがここまで直取引を推してくるのは、ここ数年来の相次ぐ取次危機にたいするリスクヘッジの側面もあるとはいえ、実際にアマゾンが目論んでいるほどには直取引が増えていないという現実の裏返しなのかもしれません。いきなり流通の蛇口を締めるようなことをするのではなく、「北風と太陽」の寓話を思い出してほしいところです。


+++

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1277

Trending Articles