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備忘録(23)

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◆2016年2月26日22時現在。
死神はこのところたいてい金曜日にやってきます。15時過ぎから業界内外に衝撃を与えている例の件、だいたい一通り本日分の記事は配信され終わったでしょうか。少しずつまとめたいと思います。

「帝国データバンク」2月26日付の大型倒産速報「書籍・雑誌小売/「芳林堂書店」「コミックプラザ」を展開/株式会社芳林堂書店/破産手続き開始決定受ける/負債20億7500万円」に曰く「(株)芳林堂書店(資本金2000万円、豊島区西池袋3-23-10、代表齋藤聡一氏)は、2月26日に東京地裁へ自己破産を申請し、同日付で破産手続き開始決定を受けた」と。

今週月曜日に版元・書店各社にFAXされた太洋社の中間決算報告書を読んだ人々にとっては、ことさら驚くべき展開ではないものの、記事末尾の展開には眉をひそめた向きも少なくないようです。

また曰く「戦後、古本販売業を目的に個人創業され、1948年(昭和23年)3月に法人改組した書籍小売業者。71年にはJR池袋西口に芳林堂ビルを建設し、旗艦店となる池袋本店をオープン。その後も都内を中心に出店を進めて業容を拡大し、99年8月期には年売上高約70億5000万円をあげていた」。

池袋本店はリブロ池袋店の活躍以前ではまさに池袋の一番店で、新刊書店・古書店(古書高野)・喫茶店(栞)がひとつのビルに入居している、実に便利な本屋さんでした。90年代半ばまで人文書売場で黒色戦線社の刊行物をずらりと棚に並べていたのは都内では珍しかったですし、90年代後半には硬派路線から方向転換し1Fでサブカル棚にいち早く力を入れていました。

また曰く「しかしその後は、長引く出版不況と相次ぐ競合大型店の出店から売り上げの減少が続き、2003年12月に池袋本店を閉店、2004年1月には芳林堂ビルを売却した。以後も店舗のスクラップアンドビルドを進め、近年はエミオ狭山市店をオープン(2014年8月)させた一方、津田沼店(2014年5月)、センター北店(2015年4月)、汐留店、鷺ノ宮店(ともに2015年9月)を閉店。近時は、高田馬場店、コミック本専門店の「コミックプラザ」(豊島区西池袋)など都内4店舗、埼玉県5店舗、神奈川県1店舗の計10店舗の直営店展開となっていたが、2015年8月期の年売上高は約35億8700万円にダウン、厳しい資金繰りを強いられていた」。

池袋本店の閉店後は高田馬場店が基幹店でした。人文書版元にとっては、十数年前に退職された名物書店員の生天目美代子さんのことをどれほど懐かしく思い出すことでしょうか。「人文書に日々接していると、うつりゆく社会の様々な出来事の深層に目を凝らすようになる。地理的視野が広がり、歴史的認識が深まって色んなことが見えてくる、やりがいのある分野なのです」。生天目さんはどの営業マンにもそう教えて下さいました。新しい文化動向が出てくると訪問する営業マンに必ず矢継ぎ早に質問し、常に情報収集のアンテナを張っておられたのでした。

また曰く「負債は債権者約187名に対し約20億7500万円」。そのほとんどは太洋社という理解で良いと思います。ハードランディングを版元ももはや覚悟せざるをえません。

そして肝心の記事末尾。「なお、当社は商号を2月25日付で(株)芳林堂書店から(株)S企画に変更して自己破産を申し立てている(2月26日時点で商業登記簿上では商号変更されていない)ほか、(株)書泉(東京都千代田区)に事業譲渡することで合意。店舗の営業は継続している」。

なお、とまるでついでのように書かれていますが「商号変更して自己破産」&「事業譲渡」と。このあたりは「S企画」の2月26日付関係者各位宛文書「事業承継先のご連絡」を読まないと何が何やら分からないことになっています。この文書は取引先を中心に配布されていると見え、中身を見ていない版元も多いだろうと思われます。文書の概要については「新文化」2月26日付記事「芳林堂書店、負債20億円で破産」や「図書新聞」トップページに本日掲載された記事「芳林堂書店、書泉に書店9店と外商部門を事業譲渡――2月26日付で自己破産を申請。同日付で破産手続き開始決定受ける」をご覧ください。両記事とも同文書を参考にしているものと推測できます。

「新文化」に曰く「同社は高田馬場駅店やコミックプラザ店、みずほ台店など9店舗を運営しているが、書泉(東京・千代田区)へ書店事業を譲渡(譲渡日は2016年8月26日予定)することで合意している。外商部事業は新設の分割会社「株式会社芳林堂書店外商部」が事業継承する(新設分割、分割効力発生日は同年2月25日)。ただし、事業譲渡実行日までは、引き続き同社が店舗運営する」。

少しまだ分かりにくいでしょうか。「図書新聞」の説明を見てみます。曰く「芳林堂書店は、3月26日に9店舗の書店事業をアニメイトグループの書泉に譲渡する。外商部については、芳林堂書店が2月25日に会社分割で新設した「株式会社芳林堂書店外商部」の株式を2月26日に書泉に譲渡する。/これに伴い、同書店は2月26日に東京地裁に自己破産を申請し、同日で破産手続き開始決定を受けた。同書店は商号を「株式会社S企画」に変更して、清算手続きを進めていく。/〔・・・〕債権者集会は6月7日午後2時半から東京家庭・簡易裁判所合同庁舎5階で開く予定」。さらに曰く「同書店は2月5日の太洋社の自主廃業の表明を受けた後、第三者の支援を求めて、書店・外商部事業の維持・存続に向けて協議を進めてきた。その結果、書泉との間で従業員や店舗賃貸人等の関係者の同意が得られることを条件に事業承継することで合意に至った。/今後は、破産管財人の下、書店事業の譲渡と新設分割会社の株式譲渡が実行される予定だが、書店事業の譲渡日までは同書店が店舗運営にあたる。〔・・・〕」。

事業譲渡と破産手続きの一般的説明はたとえばこちらをご覧ください。「事業譲渡は,個別的な財産処分行為ですから,事業譲渡により譲渡する事業に関する債務であっても譲受会社に承継するには,当該債権者の承諾が必要です」。「破産手続は,事業の清算を目的とするわけですから,破産手続前後に事業譲渡をすることで当該事業は破産財団を構成し得なくなるため,債権者に与える影響は極めて大きいと言えます。当該事業を存続させることに社会的意義を見いだすことができて,事業の全部又は一部を換価する事が可能であり,事業譲渡の結果として譲渡会社の破産財団を増殖させるような場合に許容される方法だと考えられます。その意味で債権者らの理解が得られる様な形で慎重に進めていく必要があります」。

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◆2月26日23時現在。

「東京商工リサーチ」2月26日付速報「[東京] 書店経営/(株)芳林堂書店/~太洋社自主廃業の影響で初の倒産~」に曰く「取次の変更を模索していたが太洋社への未払い債務などの問題もあり難航し、2月初旬から新刊などが書店に入荷しない事態が発生して話題となっていた。/なお、当社は数日前に商号を(株)S企画に変更(登記は未登記)、書店運営については(株)書泉(千代田区)へ事業譲渡することで合意しているが、詳細日程については未定。/2月26日現在、太洋社の自主廃業に向けた動きに関連した書店の休業や閉鎖は10店舗、倒産は1社となっている」。

同速報には「太洋社の自主廃業に向けた動きに関連して店舗閉鎖や休業した書店」が一覧化されています。「愛書堂」のあとには「富山市・精文館書店」「長崎市・Books読書人」「北九州市・アミ書店」などがリストに挙がっています。今後もおそらくこのリストは長く伸びていかざるをえないのでしょう。

同速報を受けた内容の記事には「ねとらぼ」2月26日付記事「芳林堂書店が破産 「コミックプラザ」など運営――書店運営については書泉に事業譲渡することで合意。」(同記事のコメント欄付ヤフー版)や「毎日新聞」2月26日記事「芳林堂書店――破産手続き開始決定 負債20億」があります。記事に無関係のコメントが投稿されがちなのはヤフコメの宿命ではあります。先に紹介した「帝国データバンク」の速報はヤフーニュースにも掲載されており、多数のコメントが寄せられています。この速報を受けた記事には「ITmediaビジネスオンライン」2月26日付記事「芳林堂書店が破産申し立て――首都圏で書店を展開する芳林堂書店が破産。」(同記事のコメント欄付ヤフー版)や、「Excite Bit コネタ」2月26日付記事「芳林堂書店の破産にショック受ける人続々「学生時代お世話になった」」などがあります。

業界の内部情報のチェックには今なお、2chの一般書籍板のスレッド「太洋社がピンチ」が有効です。また、配信のタイミングを見計らっていたようにも思えるほど分厚い記事、「CNET Japan」での林智彦さんによる連載「電子書籍ビジネスの真相」の2月26日付最新記事「芳林堂も破産、書店閉店が止まらない日本――書店復活の米国との違いとは?」では、「書店数と総坪数の推移(2003~2014年)」「書店空白自治体(2014年:都道府県別空白自治体数/空白自治体率)」「書店が減っている(1日1店弱/書店がない自治体数の数/書店がない市)」「書店売上ランキング(2013年度)」「丸善CHIホールディングス業績推移(売上高/経常利益率)」「文教堂ホールディングス業績推移(売上高/経常利益率)」「TSUTAYA書籍・雑誌販売額と加盟店舗数の推移」などのデータ分析を積み上げ、書店業界の概要を説得的に説明されています。立地(駅前―郊外)を縦軸にし、業態(専業―兼業)を横軸にした書店分布図も興味深いです。同記事の後半では米国の書店事情も様々なデータとともに概説され、さらには日本と米国の書店利益率の違いについても切り込んでおられます。「日本における書籍販売のマージン分配」「米国における書籍販売のマージン分配」「日本の出版社の収益構造」「中小書店には売れる本が回ってこない」などのデータは必見です。同連載で3年前に3回にわたって解説された「書籍にまつわる都市伝説の真相――委託販売、再販制度は日本だけなのか」も今後を模索するうえで必読かと思います。

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◆2月27日午前0時現在。
「東京商工リサーチ」の「データを読む」欄の2月26日付記事「太洋社の自主廃業に連鎖した書店の倒産・休廃業調査」の結論部分に曰く「太洋社の自主廃業により休廃業を決めた書店の多くは地方に所在する。ネット通販や電子ブックの登場で書籍を購入する方法は以前より増えたものの、高年齢層を中心に従来通り「町の書店」で書籍を購入している人も少なくない。こうした状況において、地域に根差した書店の減少は文字・活字文化への接触機会を読者から奪うことに繋がりかねず、情報格差が進行する危険性も孕んでいる」と。

情報格差はネットや図書館で補える、と仰る方もおられるかもしれません。ネットと書籍の情報量は違うので、補える分野とそうでない分野が出てくるでしょう。また図書館とて新刊すべてを購入できるわけではありませんから、「読者が出会わない本」は書店の減少とともに必然的に増えることになるでしょう。ネット書店で出会える、とも言えますが、ネット書店ではモノとしての本が人に与える様々な感覚やアウラは味わえませんし、書架のあいだを逍遥することと、関連書をネットサーフィンすることは端的に別の経験だと言えるでしょう。

さらに曰く「休廃業を決めた書店は、その理由として「帳合変更に伴い書籍1冊あたりの利益率の低下」、「取次業者への保証金の差し入れによる資金負担」などをあげている。太洋社の後を引き継ぎ、地域の書店との取引を新たに開始しようとする取次業者が、地域書店に対して与信コストを踏まえた上での取引条件の提示や、保証金差し入れを要求することはやむを得ない面もある。しかし、これにより地域書店の淘汰が進み書店空白エリアが広がることは、再販制度が掲げた文字・活字文化の振興の理念を瓦解させてしまう。市場原理に伴い企業の新陳代謝が図られるのは避けられないが、急激な変動は利益を享受すべき読者に大きな不利益を与えかねず、業界全体で激変緩和に向けた取引方法の構築を模索すべき時期に来ている」。

この前段でも再販制が言及されており、議論の直接的対象になっているわけではないとしても、「激変緩和に向けた取引方法の構築」というテーマには当然、再販制の弾力的運用も含まれることでしょう。商取引の細部を見れば再販制のみを論じればいいのではないことは明らかなので、「再販制は悪」などという議論の単純化は賢明に避けねばなりません。

「ハフィントンポスト」2月26日付、安藤健二氏記名記事「芳林堂書店が倒産。太洋社廃業の影響で「町の本屋さん」が続々と閉店」は「帝国データバンク」や「東京商工リサーチ」の速報内容を受けての記事です。曰く「主力仕入先である書籍取次の太洋社が2月5日、自主廃業も想定して会社の全資産の精査などを進める方針を突如として発表した。芳林堂書店は、取次の変更を模索していたが太洋社への未払い債務などの問題もあり難航し、2月初旬から新刊などが書店に入荷しない事態になっていた。〔・・・〕東京商工リサーチによると、太洋社の今回の動きに関連して、芳林堂書店以外にも全国的に10の書店が閉鎖や休業に追い込まれることになった」。事実と相違する部分があるわけでないものの、この記事タイトルと内容では、芳林堂の未払いの累積が太洋社廃業の最大要因のひとつになっていることがあまり伝わらないかもしれません。事態はさらに悪くなり、今や芳林堂の自己破産によって太洋社は自主廃業すらかなわなくなる可能性が出てきているのです。太洋社の後ろには帳合書店さんもいれば版元もいます。芳林堂に対する出版業界の目は実際のところここしばらく厳しさを増していかざるをえないでしょう。そしてそのありうべき帰結として、書泉さんやその帳合取次さん(もちろん太洋社さんではありません)を囲む空気感にも変化は出てくるでしょう。同情と苛立ちは両立しうるものですから、それぞれの立場を理解しつつも内心は冷ややかでしょう。

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