フランシス・ベーコン 感覚の論理学
ジル・ドゥルーズ著 宇野邦一訳
河出書房新社 2016年2月 本体3,000円 46判上製256頁 ISBN978-4-309-24749-6
帯文より:「ベーコンはいつも器官なき身体を、身体の強度的現実を描いてきた」。ドゥルーズ唯一の絵画論にして最も重要な芸術論、新訳。「器官なき身体」の画家ベーコンの図像に迫りながら「ダイアグラム」と「力」においてドゥルーズの核心を開示する名著。
目次:
刊行者の序
はじめに
1 円、舞台
2 古典絵画と具象との関係についての注釈
3 闘技
4 身体、肉そして精神、動物になること
5 要約的注釈:ベーコンのそれぞれの時間と様相
6 絵画と感覚
7 ヒステリー
8 力を描くこと
9 カップルと三枚組みの絵
10 注釈:三枚組みの絵とは何か
11 絵画、描く前……
12 図表〔ダイアグラム〕
13 アナロジー
14 それぞれの画家が自分なりの方法で絵画史を要約する
15 ベーコンの横断
16 色彩についての注釈
17 目と手
注
訳者解説〈図像〉の哲学とは何か
ベーコン作品リスト
★まもなく発売(2月22日取次搬入)。原書は、Francis Bacon - Logique de la sensation (Seuil, 2002)です。訳者解説での説明をお借りすると、「同書は初めにÉditions de la Différenceより1981年10月に、ドゥルーズのテクストとベーコンの画集の二冊を合わせたかたちで刊行され、日本では法政大学出版局から、これを一冊におさめた訳書『感覚の論理――画家フランシス・ベーコン論』(山縣煕訳)が2004年9月に刊行された。本書『フランシス・ベーコン 感覚の論理学』は、のちに図版を簡略にし、判型も縮小して一冊にまとめたSeuil社の新版を翻訳したものだが、テクスト自体は、初版では段落ごとに入っていた空白がなくなっていること以外に移動は見あたらない」。
★さらに宇野さんは本作をこうも解説しておられます。「ベーコンの表現の中心を、ドゥルーズは〈図像〉(Figure)と命名した。そして〈図像〉は、〈表象〉ではなく〈感覚〉に統合されるという。〈感覚〉は〈神経〉でありそこを行き交う〈波動〉である。『アンチ・オイディプス』から『千のプラトー』を通じて発見し、鍛錬し、多様化してきた「器官なき身体」の概念を、ドゥルーズは、この本の6-7章で、またたくまに彼の絵画論の中核に導入している。「図像」とは、絵画における「器官なき身体」だというのである。しかし単に「器官なき身体」が絵画論に適用されたのではない。ここで「器官なき身体」はさらに多様化され、新しい次元に踏み込んでいる」(234頁)。
★ドゥルーズ自身の言葉によればこうです。「器官なき身体は、器官に対立するというより、有機体と呼ばれる諸器官のあの組織作用に対立するのだ。それは強度の内包的身体である。それはひとつの波動に貫かれ、この波動は身体の中にその振幅の変化にしたがって、もろもろの水準や閾を刻みこむのである。だから身体は器官をもたないが、閾や水準をもっている。したがって感覚は質的であったり、質を備えたりするのではなく、強度的現実をもつだけで、この現実は感覚の中の表象的与件を貴兄するのではなく、むしろ同質異形的な変化を規定するのである。感覚は波動である」。「身体はまるごと生きているが、非有機的である。だから感覚は、有機体を貫いて身体に達するときには過剰で痙攣的な様相を呈し、有機的な活動の限度を逸脱するのである。全肉体において、感覚はじかに神経の波動や生命的感動に向けられる。多くの点でベーコンにはアルトーと共通点があると思われる。〈図像〉とは、まさに器官なき身体である、器官なき身体とは肉体であり神経である。波動がそれを横断し、その中に諸水準を刻み込む。感覚とは、波動と、身体に働きかける〈諸力〉との出会いのようなものである。「情動的体操」であり、叫び-息なのだ。感覚がこのように身体と結ばれると、感覚はもはや表象的であることをやめ、現実的になる」。「ベーコンはいつも器官なき身体を、身体の強度的現実を描いてきた」(「7 ヒステリー」より、64-66頁)。
★本の中ほどにはベーコンの三枚組み作品6点と絵画1点がカラーで収録されています。やはりベーコンの絵はモノクロよりかはカラーの方が断然印象が違います。
★なお、ベーコンの全画集全5巻が今年(2016年)の4月28日にThe Estate of Francis Baconより刊行される模様です。未公開だった100枚以上の絵画を含む、ファン垂涎の決定版です。『FRANCIS BACON: CATALOGUE RAISONNÉ』(5 vols, Ed. by Mark Harrison, Contrib. by Rebecca Daniels & Krzysztof Cieszkowski, London: The Estate of Francis Bacon, 2016. 24,5 x 31 cm, a total of 1584 pages with 900 coloured illustrations, cloth cover in cloth slipcase)。財団のニュースでは値段が書かれていませんが、ケルンの名門版元Walther Königの書店部門からもらった案内では1400ユーロでした。昨今のレートでは約17万5千円でしょうか。買えそうにないです。関連ニュースはこちら。ご参考までに5巻本の概要をケーニヒ書店から以下に転記しておきます。
Volume I-III, 400 pages each - Catalogue Raisonné:
- more than 500 paintings are included indicating the title, year, technique, size, provenance, single and group exhibitions, completed by a comprehensive commentary
- each painting is reproduced in colour, often supplemented by close-ups
- the Catalogue Raisonné covers more than 100 paintings which are reproduced here for the first time
- the new work will cover 60 % more paintings than the Catalogue Raisonné by Rothenstein/Alley published in 1964
- Editor Martin Harrison, the pre-eminent expert on Francis Bacon's work alongside research assistant Rebecca Daniels will meet every requirement the reader demands of a scientific reference work
Volume IV and V with 192 pages each will cover:
- a comprehensive introduction to the edition
- an illustrated chronology, indices and a "user's guide"
- a catalogue of Bacon's sketches
- an illustrated bibliography, compiled by Krzysztof Cieszkowski
Due to the extenisve and knowledgeable commentaries to the works which are completely reproduced here for the first time and the extremely interesting material published in Volume IV and V mostly for the first time this comprehensive edition is a reference source for the reception of the work of Francis Bacon.
★また、河出書房新社さんでは3月末に『アルトー後期集成(II)』(宇野邦一・鈴木創士監修、管啓次郎・大原宣久訳、河出書房新社、2016年3月、本体4,000円、46判上製400頁、ISBN978-4-309-70532-3)がついに刊行されるようです。版元紹介文に曰く「世界にも類のない後期アルト-の集成、ついに完結。最後の著書として構想された『手先と責苦』をはじめて全訳。極限の思考と身体がうみだした至高にして残酷なる言葉」。同集成は第I巻が2007年3月刊、第III巻が同年6月刊でした。実に9年ぶりの続巻にして完結編となります。
★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。
『1493――世界を変えた大陸間の「交換」』チャールズ・C・マン著、布施由紀子訳、紀伊國屋書店、2016年2月、本体3,600円、46判上製816頁、ISBN978-4-314-01135-8
『日本の海岸線をゆく――日本人と海の文化』日本写真家協会編、平凡社、2016年2月、本体3,200円、B5変判並製204頁、ISBN978-4-582-27822-4
『ライプニッツの情報物理学――実体と現象をコードでつなぐ』内井惣七著、中公叢書、2016年2月、本体2,000円、四六判並製272頁、ISBN978-4-12-004766-4
『エドゥアール・グリッサン――〈全-世界〉のヴィジョン』中村隆之著、岩波書店、2016年2月、本体2,200円、四六判並製248頁、ISBN978-4-00-029183-5
『映画の胎動――1910年代の比較映画史』小川佐和子著、人文書院、2016年2月、本体6,800円、A5判上製366頁、ISBN978-4-409-10035-6
★『1493』はまもなく発売(25日頃)。原書は、1493: Uncovering the New World Columbus Created (Knopf, 2011)です。同著者による『1491――先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』(原著2005年;布施由紀子訳、NHK出版、2007年)の姉妹編であり、「タイム」誌の2011年度ベスト・ノンフィクション部門第1位を獲得したほか、米国主要各紙で高い評価を得たベストセラーです。帯文はこうです。「この世界のありようは欲望の帰結だ。グローバル化はここから本格的にはじまった。銀、病原菌、タバコ、じゃがいも、ミミズ、ゴムノキ、そして人間――コロンブスのアメリカ大陸到着後、これらが世界を行き交いはじめた。敏腕ジャーナリストが、膨大な文献と綿密な取材をもとに、激動の世界をいきいきと描き出した圧巻のノンフィクション」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。同じくリンク先では巻頭の「まえがき」を立ち読みできます。著者はサイエンスライターでもあり、共著書に『素粒子物理学をつくった人々』(上下巻、ハヤカワ文庫、2009年)などがあります。
★『日本の海岸線をゆく』はまもなく発売(26日頃)。公益社団法人「日本写真家協会」さんの創立65周年記念出版とのことです。帯文に曰く「海岸線からみえる日本人の文化。祭、漁、市場、舟屋、工場・・・そして震災からの復興を目指す被災地の光景。123人による197点の写真を収録した珠玉の海岸線写真集」。巻頭には椎名誠さんによるエッセイ「凍結の海、炎熱の海――いくつもの波をこえて」(2-5頁)が掲載されています。この国が東西南北を海に囲まれた島国であることを改めて自覚させてくれる作品集です。同名の記念写真展が池袋・東京芸術劇場(5階、ギャラリー1・ギャラリー2)で3月1日~13日、京都市美術館(本館2階)で6月14日~19日まで開催されます。来春(2017年4~6月)には横浜・日本新聞博物館でも予定されているとのことです。
★『ライプニッツの情報物理学』は発売済。『モナドロジー』をはじめとするライプニッツ哲学をこんにちの情報理論の記念碑的先駆けとして読み解き再評価する、非常に興味深い本です。3部19章78節構成で、まえがきでの著者自身の説明によれば、第1部「力学の基礎は情報の形而上学」ではライプニッツにおける力学と形而上学の関係を掘り下げ、著者による情報論的解釈が披露されます。第2部「空間と時間の起源」と第3部「慣性と重力、ライプニッツ的構想の一つの形」はライプニッツの時空論を再構成する試みで、第2部では著者の前著『空間の謎・時間の謎――宇宙の始まりに迫る物理学と哲学』(中公新書、2006年)で論じられた時空の問題がライプニッツの形而上学と動力学ではどうなるかを分析し、第3部ではライプニッツ力学の可能性と射程が論じられています。現代に甦るライプニッツの鮮やかな思索の数々は知的刺激に満ちたもので、本書は人文書売場だけでなく理工書売場に並べられても動きがあるのではないかと予想できます。
★『エドゥアール・グリッサン』は発売済。『フランス語圏カリブ海文学小史――ネグリチュードからクレオール性まで』(風響社、2012年)、『カリブ-世界論――植民地主義に抗う複数の場所と歴史』(人文書院、2013年)に続く、中村隆之(なかむら・たかゆき:1975-)さんの第三作です。帯文に曰く「〈魂〉の脱植民地化を目指して。収奪されたカリブ海の島・民の視点から歴史を編み直した作家の壮大な思想に迫る」と。「開かれた船の旅」「〈一〉に抗する複数の土地」「歴史物語の森へ」「消滅したアコマ、潜勢するリゾーム」「カオスの海原へ」の5章立てで、フランス領マルティニック出身の作家グリッサン(1928-2011)の作品と生きざまを年代順に跡付け、彼の世界観を読み解いています。これまでにグリッサンの訳書には『〈関係〉の詩学』『全-世界論』『レザルド川』『多様なるものの詩学序説』『フォークナー、ミシシッピ』などがあり、今後も続々と刊行されるようですが、グリッサン論の出版は日本では本書が初めてで、画期的な成果です。書名のリンク先で第一章の冒頭部分を立ち読みできます。
★『映画の胎動』は発売済。小川佐和子(おがわ・さわこ:1985-)さんは京都大学人文科学研究所の助教で、単独著の出版は本書が初めてで、博士学位論文「1910年代の比較映画史研究――初期映画から古典的映画への移行期における映画形式の形成と展開」を再構成し、大幅に加筆修正を施したもの、とのことです。目次詳細は書名のリンク先からご覧ください。帯文に曰く「映画史のベル・エポック。フランス、イタリア、ロシア、ドイツ、アメリカ、日本の膨大な数のフィルムをたどり、映画揺籃期を映し出す」と。「あとがき」には研究の苦労がこう綴られています。「10年間に時代を絞ったものの、この時代の映画史全体の様相をとらえるためには特定の国や地域にとどまらず主要な映画産業国を対象とした越境的な視点を持つ必要があった。〔・・・〕そもそもこの時期の映画作品自体の現存が少なく(日本映画に関してはほとんど残っていない)、もしくは復元が終わっておらず、DVD等で容易に観ることは困難であった。そのためヨーロッパ各国の映画アーカイヴ調査を重ね、〔・・・〕海外の映画祭へも毎年欠かさず参加するようにした」(328頁)。
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注目新刊:ドゥルーズのベーコン論新訳、ほか
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