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注目新刊:『現代思想の転換2017』『コミュニズムの争異』『政治の理論』、ほか

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『現代思想の転換2017――知のエッジをめぐる五つの対話』篠原雅武編、人文書院、2017年1月、本体1,800円、4-6判並製208頁、ISBN978-4-409-04109-3
『コミュニズムの争異――ネグリとバディウ』アルベルト・トスカーノ著、長原豊訳、航思社、2017年1月、本体3,200円、46判上製308頁、ISBN978-4-906738-21-2
『フレイマー・フレイムド』トリン・T・ミンハ著、小林富久子+矢口裕子+村尾静二訳、水声社、2016年12月、水声社、本体4,000円、四六判上製407頁、ISBN978-4-8010-0206-7
『十九世紀フランス哲学』フェリックス・ラヴェッソン著、杉山直樹+村松正隆訳、知射水書館、2017年1月、本体6,500円、菊判上製440頁、ISBN978-4-86285-247-2

★『現代思想の転換2017』は人文書院のウェブサイト上で連載された4本の対談「いま、人文学の本を書くとは」に新たな1本を加えて1冊としたもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。編者の篠原さんは中村隆之さん(中村さんは「不透明なものを訳す」という追記も寄稿しておられます)、小泉義之さん、藤原辰史さん、千葉雅也さんと対談し、さらにティモシー・モートンさんにもインタヴューしています。モートンさんへのインタヴューは篠原さんが先月上梓した『複数性のエコロジー』(以文社、2016年12月)にも別のものが付録として掲載されており、すでに目にした方もいらっしゃるかと思います。『現代思想の転換2017』に収められた諸篇は篠原さんが「歴史学、哲学、文学という、人文学の基礎にかかわる人たちに、研もので、究をおこなううえでのモチベーションを、新年を、率直に聞きたいと考え」て行ったものだ、と巻頭の「はじめに」には書かれています。また、巻末の「インタヴューを終えて」ではこう書かれています。「私は、このインタヴューをする前、現在は、先行き不透明で暗い時代だと考えていた。「唯ぼんやりした不安」に強く苛まれていた。終えてみた今の気分を率直にいうと、不安はわずかに薄れてきて、新しいことが始まっている、もっと楽に構えていいと思えるようになってきた。〔・・・〕いま始まりつつあるのは、喪失と崩壊を本当に埋め合わせようとする機運ではないか。〔・・・〕私はこのインタヴューをつうじて、新しい思想、新しい人文学が、すでに始まっていることを感じ取ったということだけはいっておきたい」。

★『コミュニズムの争異』はまもなく発売。日本オリジナル編集の論文集で、帯文によれば、自らの師であるネグリとバディウの理論をめぐる批判的入門書とのことです。今回が初訳となるトスカーノ(Alberto Toscano, 1977-)はロンドン大学コールドスミス校で社会学を講じており、バディウやネグリ、アリエズらの著書の英訳のほか、『生産の劇場』『ファナティシズム』などの自著があり、マルクス主義の新たな再生を模索する「歴史的唯物論」誌の編集委員を務めています。『コミュニズムの争異』にはネグリ論が3編、バディウ論が4編おさめられています。目次明細は近く版元サイトで公開されるものと思われます。書き下ろしの序文「係争のもとにあるさまざまなコミュニズム」でトスカーノが綴った次の言葉が印象的です。「僕らの手近にはやや妥協的な別種のコミュニズム哲学があったことも確かだ。古典的なマルクス主義的展望の数知れない反復は言うまでもないが、アガンベン、ナンシー、デリダの哲学がそうである。けれども、当時、コミュニズムの釈明なき肯定を哲学の必要性の等しく「純真な」強調に、より精確には、(単に)歴史的に積み上がった思想の身体-遺体としての哲学ではなく一箇の能動的実践としての哲学の必要性の強調に、結びつけていた思想家は、ネグリとバディウだけだったのである」(8~9頁)。

★『フレイマー・フレイムド』は叢書「人類学の転回」の第6弾。『Framer Framed』(Routledge, 1992)の全訳です。ヴェトナム出身でアメリカで活躍する思想家・映像作家であるトリン・ミンハ(Trinh T. Minh-ha, 1952-)の4つ目の訳書。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。映像作品三作(「ルアッサンブラージュ」1982年、「ありのままの場所――生きることは円い」1985年、「姓はヴェト、名はナム」1989年)の台本や、インタヴュー9本を収録しています。既訳書と異なり、映像作家としてのトリンに焦点を当てた本で、待望久しかった刊行です。原書とは判型こそ違いますが、多数掲載されていた図版は訳書でもすべて収められているようです。共訳者の小林富久子さんはこれまでもトリンの著書の翻訳に携わってこられており、『月が赤く満ちる時』の上梓から数えて20年以上貢献されています。本書の翻訳を思い立ったのは原著刊行より間もない頃と言いますから、四半世紀以上の献身と言うべきでしょう。

★『十九世紀フランス哲学』は発売済。『La Philosophie en France au XIXe siècle』(Hachette, 1867)の全訳です。ラヴェッソン(Félix Ravaisson, 1813-1900)の単独の訳書は実に『習慣論』野田又夫訳、岩波文庫、1938年;原著『De l'habitude』1838年)以来のもので、約80年ぶりの刊行に驚きを禁じえません。ラヴェッソンがベルクソンに影響を与えていることは良く知られているはずですが、19世紀ヨーロッパの思想家で日本人が思い浮かべるのはヘーゲル、マルクス、ディルタイ、ニーチェなどドイツの巨星たちであり、フランスの思想家たちについてはあまり多くを知らなかったと思われます。本書はその欠落を埋めてくれるものであり、人物小事典ともなっている巻末の人名索引を含め、特筆すべき労作と呼ぶべき成果です。内容紹介や目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

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★このほか以下の新刊との出会いがありました。特に稲葉振一郎さんの『政治の理論』は先述の『現代思想の転換2017』や『コミュニズムの争異』との対比において非常に示唆的です。稲葉さんの前作『宇宙倫理学入門』や篠原さんの『複数性のエコロジー』などの既刊書と合わせて、人文知を問い直し活気づける必読書となっています。

『日本批評大全』渡部直己著、河出書房新社、2017年1月、本体7,000円、46判上製644頁、ISBN978-4-309-02534-6
『青年の主張――まなざしのメディア史』佐藤卓己著、河出ブックス、2017年1月、本体1,800円、B6判並製440頁、ISBN:978-4-309-62500-3
『政治の理論――リベラルな共和主義のために』稲葉振一郎著、中公叢書、2017年1月、本体1,700円、四六判並製320頁、ISBN978-4-12-004935-4
『解離の舞台――症状構造と治療』柴山雅俊著、金剛出版、2017年1月、本体4,200円、A5判上製320頁、ISBN978-4-7724-1531-6
『短歌で読む哲学史』山口拓夢著、田畑書店、2017年1月、本体1,300円、A5判並製136頁、ISBN978-4-8038-0340-2

★河出書房新社さんの新刊2点は発売済。渡部直己『日本批評大全』は、上田秋成『雨月物語』序や本居宣長『源氏物語玉の小櫛』から、蓮實重彦『夏目漱石論』、柄谷行人『日本近代文学の起源』まで、近現代日本の約百年間の批評70作を渡部さんによる解題を付して収録ないし抄録したアンソロジーです。全8頁の投込小冊子には、本書のサポートを担った大澤聡さんと渡辺さんの対談「近代批評の記念碑のために」が収められています。「「批評」はいま明らかに死にかけている。すでに心肺停止に陥っているといって過言ではない」(638頁)と渡辺さんは後記に本書編纂の動機を明かしておられます。

★2009年10月に創刊された河出ブックスが8年目にして100点目に到達したとのことです。佐藤卓己『青年の主張』はその記念すべき100番で、NHKが毎年の「成人の日」に放送してきた番組「NHK青年の主張全国コンクール」(ラジオ中継は1956年より;テレビ放送は1960~1989年;1990~2004年は「NHK青春メッセージ」と改題)をめぐる初めての総括的研究です。章立ては以下の通り。序章「《青年の主張》の集合的記憶」、第一章「ラジオから響く「小さな幸せ」――1950年代」、第二章「ブラウン管に映る弁論大会――1960年代」、第三章「「らしさ」の揺らぎと再構築――1970年代」、第四章「笑いの時代の「正しさ」――1980年代」、第五章「《青年の主張》のレガシー――1990年以降」。

★稲葉振一郎『政治の理論』は昨年末に刊行された『宇宙倫理学入門』に続く稲葉さんの新著。「すべてが「資本」として流動化していく世界の中で、確固とした(アレント的な意味での)公共世界と私有財産を、資本主義といかに折り合いをつけつつ構築し維持していくか」(298頁)を基本課題とする「リベラルな共和主義」を論じたもの。もともとは入門書として新書で刊行するはずが膨らんだものだそうで、以下の十章から成ります。第一章「政治権力はどのように経験されるか」、第二章「アレントの両義性」、第三章「フーコーにとっての政治・権力・統治」、第四章「自由とは何を意味するのか」、第五章「市場と参加者のアイデンティティ」、第六章「信用取引に潜在する破壊性」、第七章「「市民」の普遍化」、第八章「リベラルな共和主義と宗教」、第九章「リベラルな共和主義の可能性」、第十章「政治の場」。巻末のあとがきには〈ドゥルーズ=ガタリ左派〉への批判が素描されており、興味深いです。

★柴山雅俊『解離の舞台』は帯文に曰く「解離性障害を理解・支援するための比類なき決定書」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「解離性障害では、解離性の意識変容(空間的変容)が基盤にあって、そこからさまざまな解離症状が発展していく。誤解を恐れずに表現すれば、解離とは現実と夢(空想)の接近の諸相である」(22頁)。「夢と現実が織りなす意識変容の夢幻空間が「解離の舞台」である。それは解離の病理であるとともに、解離から回復するための重要な契機となるように思われる」(23頁)。付録として「解離の主観的体験チェックリスト」が巻末に掲載されています。本来の用途ではありませんが、自己診断の手掛かりになるかもしれません。

★山口拓夢『短歌で読む哲学史』は、昨秋に休眠状態から脱し新たな出発を開始した田畑書店さんが放つ「田畑ブックレット」の創刊第一弾です。著者の山口拓夢(やまぐち・たくむ:1966-)さんはかの山口昌男さんのご子息で、本書が初の単独著となります。ギリシア哲学に始まり、イエス・キリストと教父哲学、中世神学、ルネッサンスの哲学、近世哲学、近現代哲学、構造主義以降までの西洋哲学史を概括する入門書となっており、特徴をなすのは哲学者の思想的核心を短歌で表現している点です。たとえばハイデガーはこう詠まれています。「ものごとを立ち現せる「在る」というはたらきに目をじっと凝らそう」。なるほど覚えやすいかもしれませんね。目次や内容詳細については書名のリンク先をご覧ください。

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